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第15話 犯人を予想する夜
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ルーラス様の無実が証明できないため、私とルーラス様が王妃陛下の部屋にいる間、見張りがつけられることになりました。
特にやましいことはありませんので、それを承諾しますと、王妃陛下が横になっておられるベッドの横に、メイドが安楽椅子を二つ用意してくれました。
王妃陛下が目覚めるまで待っている間は見張りもいますので、込み入った話は出来ません。
ただ、ひたすら無言で待つ時間でした。
小一時間後に王妃陛下が意識を取り戻され、王太子殿下が無事だったことを、ルーラス様が伝えました。
王妃陛下は私に何度もお礼を言ってくださったあと、嫌疑をかけられているルーラス様を心配されます。
「モリナが取り乱す気持ちはわかるけれど、何の証拠もないのに、そんなことを言うだなんて酷すぎるわ」
「モリナ様がそう言いたくなる気持ちはわからなくはありません。ただ、母上、これだけは言えます。俺はリド兄さんやラディ兄さんのことを一度も疎ましいだなんて思ったことはありません」
「わかっているわ。あなた達三人は幼い頃から本当に仲が良かったもの。ラディは嫉妬深い子だけれど、あなたのことが大事で信じているから自分の付き人や護衛にしているということもね」
「俺もラディ兄さんのことを信じていますし、大事です」
その言葉を聞いた王妃陛下はルーラス様の手に自分の手を重ねて首を縦に振ります。
「わかっているわ。ラディはモリナのことを本当に愛していて、あなたに嫉妬する気持ちはあったと思うわ。でも、最近のあなたはリルーリアに夢中だものね。ラディは余計に安心したんじゃないかしら」
「……リルは俺の恩人でもありますから」
「そうよね。リルーリア、何度も言うけれど、ラディを助けてくれて本当にありがとう」
王妃陛下はゆっくりと身を起こされて、私の手を握ってくださいました。
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるのがわかり、役に立てて本当に嬉しく感じました。
ただその分、無効化の魔法が使えるということをお伝えできないのが心苦しいです。
王妃陛下はルーラス様や第二王子殿下を苦しめるような魔法をかけるような方だとは思えません。
そして、まだ知り合ったばかりではありますが、私を裏切るような方だとも思えません。
すべてをお伝えしたい気持ちになりましたが、油断は禁物です。
「当然のことをしただけでございます」
手を握り返して微笑むと、王妃陛下の目尻に溜まっていた涙が頬に流れたのでした。
*****
その日の夜、子供のルーラス様とベッドに横になって、今日の話を改めてすることになりました。
「今日は本当にありがとう」
「こちらこそ、誤魔化してくださりありがとうございました。素直に無効化の魔法のことを話さないといけないかもしれないと思っておりましたので助かりました」
「知っている人間は少ないほうがいいだろ」
「そうですわよね。自分の命を守ることにも繋がります」
頷いてから眉を寄せて反省の気持ちを口にします。
「失敗してしまったなと思うのは、自分に対して無意識に無効化の魔法をかけてしまったことです」
「……毒じゃない可能性もあるのか」
「そうなのですよ。自分の命を守るために防衛本能が働いてしまって、違う魔法でも無意識に無効化しているかもしれません」
「……もう、起きてしまったことはしょうがない。悪意ある相手にバレたかもしれないという前提で考えよう」
「申し訳ございません」
「謝ることじゃない」
パジャマ姿のルーラス様は起き上がって、小さな手で私の頭を撫でてくれました。
「自分の命を守ることなんて当たり前だ」
「自分の命を守るために、自分の命を危険にさらしてしまった気もするのです」
「魔法陣のことはリルは心配しなくていいんだから、そこまで怖がらなくてもいいだろ」
「そうです! そちらは今日は何もなかったのでしょうか?」
王太子殿下の一件以外は特に何か変わったことがあったようには思えませんでした。
ということは、魔法陣は使われていないということになるのでしょうか。
あと、他にも気になることがあります。
「あの、ルーラス様」
「ん?」
「王太子殿下の件が落ち着いてから、ちょっと試していただきたいことがあるのです」
「何だ?」
「現在、多くの方には、えっちなほうの初夜を迎えられていないと思われていると思うのです。まあ、実際に迎えることはできていないのですが!」
自分で言っておいて恥ずかしくなったので、声を大きくして言うと、ルーラス様は白い頬を赤く染めました。
「そ、それはしょうがないだろ」
「なぜ、夜だけルーラス様が子供になるのか、その理由を調べたいのです。ですので、初夜を迎えたとわざと噂が流れるようにしていただけませんか?」
「えっ!?」
ルーラス様は慌てた顔で聞き返してこられました。
夫婦の形も色々あるとは思いますが、初夜を迎えるのは別におかしくないことです。
「俺が子供になることを知ってる奴らは不思議に思うんじゃないか?」
「ルーラス様が夜に子供になることを知っておられるのは、この屋敷の一部の使用人と一部の家族なのだと思います。その人達には逆に噂を流す手伝いをしてもらいましょう。ルーラス様がかけられた魔法を知らない人間なら、初夜を迎えたと知れば、喜ばしく感じる方が多いのではないでしょうか」
「反応を見ろってことか」
「はい。ルーラス様に初夜を迎えさせたくない、もしくは子作りさせたくないという理由であれば食いついてこられるかもしれません」
「わかった。ちょっと話をしてみる」
ルーラス様は恥ずかしそうにされておられますが、納得してくださったようでした。
「あと、俺も一つ言ってもいいかな」
「何でしょうか?」
「毒の魔法をかけたのは、ジオラ夫人だと思ってる」
「やはり、怪しいですわよね」
ジオラ夫人はあの時、毒の魔法をかけたあと、王太子殿下が死んでしまわれる前に解除するつもりだったのかもしれません。
なぜ、そんなことをされたのか。
それは、あの場にバフュー様を呼ばなかったことを責めるつもりだったからではないでしょうか。
バフュー様が解毒魔法を使えるから、あの場にバフュー様がいれば、王太子殿下が命の危険にさらされることはなかったと言うつもりだったのかもしれません。
人に毒の魔法をかける人が一番悪いのだと思いますが、そういう方は、そっちに対する論点はずらそうとしますからね。
「とにかく、明日は取り調べだ」
「はい! 頑張りましょう!」
「リルは頑張らなくていい。事情は聞かれるだろうけどな」
「では、ルーラス様が無実だという証拠をつかむために、私は身の安全を確保しつつ、情報を集めようと思います!」
あと、お城の中をルーラス様と歩いてる時に、レイド様から聞いたという話を教えてくださったのですが、メイド達の何人かが良くない魔法をかけられていると教えてくれました。
ですので、さりげなく解除してまわろうと思います。
※第一話の前に登場人物と関係性というページを作りました。
まだ途中ですので、あまり書けておりませんが、気になる方はぜひ。
特にやましいことはありませんので、それを承諾しますと、王妃陛下が横になっておられるベッドの横に、メイドが安楽椅子を二つ用意してくれました。
王妃陛下が目覚めるまで待っている間は見張りもいますので、込み入った話は出来ません。
ただ、ひたすら無言で待つ時間でした。
小一時間後に王妃陛下が意識を取り戻され、王太子殿下が無事だったことを、ルーラス様が伝えました。
王妃陛下は私に何度もお礼を言ってくださったあと、嫌疑をかけられているルーラス様を心配されます。
「モリナが取り乱す気持ちはわかるけれど、何の証拠もないのに、そんなことを言うだなんて酷すぎるわ」
「モリナ様がそう言いたくなる気持ちはわからなくはありません。ただ、母上、これだけは言えます。俺はリド兄さんやラディ兄さんのことを一度も疎ましいだなんて思ったことはありません」
「わかっているわ。あなた達三人は幼い頃から本当に仲が良かったもの。ラディは嫉妬深い子だけれど、あなたのことが大事で信じているから自分の付き人や護衛にしているということもね」
「俺もラディ兄さんのことを信じていますし、大事です」
その言葉を聞いた王妃陛下はルーラス様の手に自分の手を重ねて首を縦に振ります。
「わかっているわ。ラディはモリナのことを本当に愛していて、あなたに嫉妬する気持ちはあったと思うわ。でも、最近のあなたはリルーリアに夢中だものね。ラディは余計に安心したんじゃないかしら」
「……リルは俺の恩人でもありますから」
「そうよね。リルーリア、何度も言うけれど、ラディを助けてくれて本当にありがとう」
王妃陛下はゆっくりと身を起こされて、私の手を握ってくださいました。
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるのがわかり、役に立てて本当に嬉しく感じました。
ただその分、無効化の魔法が使えるということをお伝えできないのが心苦しいです。
王妃陛下はルーラス様や第二王子殿下を苦しめるような魔法をかけるような方だとは思えません。
そして、まだ知り合ったばかりではありますが、私を裏切るような方だとも思えません。
すべてをお伝えしたい気持ちになりましたが、油断は禁物です。
「当然のことをしただけでございます」
手を握り返して微笑むと、王妃陛下の目尻に溜まっていた涙が頬に流れたのでした。
*****
その日の夜、子供のルーラス様とベッドに横になって、今日の話を改めてすることになりました。
「今日は本当にありがとう」
「こちらこそ、誤魔化してくださりありがとうございました。素直に無効化の魔法のことを話さないといけないかもしれないと思っておりましたので助かりました」
「知っている人間は少ないほうがいいだろ」
「そうですわよね。自分の命を守ることにも繋がります」
頷いてから眉を寄せて反省の気持ちを口にします。
「失敗してしまったなと思うのは、自分に対して無意識に無効化の魔法をかけてしまったことです」
「……毒じゃない可能性もあるのか」
「そうなのですよ。自分の命を守るために防衛本能が働いてしまって、違う魔法でも無意識に無効化しているかもしれません」
「……もう、起きてしまったことはしょうがない。悪意ある相手にバレたかもしれないという前提で考えよう」
「申し訳ございません」
「謝ることじゃない」
パジャマ姿のルーラス様は起き上がって、小さな手で私の頭を撫でてくれました。
「自分の命を守ることなんて当たり前だ」
「自分の命を守るために、自分の命を危険にさらしてしまった気もするのです」
「魔法陣のことはリルは心配しなくていいんだから、そこまで怖がらなくてもいいだろ」
「そうです! そちらは今日は何もなかったのでしょうか?」
王太子殿下の一件以外は特に何か変わったことがあったようには思えませんでした。
ということは、魔法陣は使われていないということになるのでしょうか。
あと、他にも気になることがあります。
「あの、ルーラス様」
「ん?」
「王太子殿下の件が落ち着いてから、ちょっと試していただきたいことがあるのです」
「何だ?」
「現在、多くの方には、えっちなほうの初夜を迎えられていないと思われていると思うのです。まあ、実際に迎えることはできていないのですが!」
自分で言っておいて恥ずかしくなったので、声を大きくして言うと、ルーラス様は白い頬を赤く染めました。
「そ、それはしょうがないだろ」
「なぜ、夜だけルーラス様が子供になるのか、その理由を調べたいのです。ですので、初夜を迎えたとわざと噂が流れるようにしていただけませんか?」
「えっ!?」
ルーラス様は慌てた顔で聞き返してこられました。
夫婦の形も色々あるとは思いますが、初夜を迎えるのは別におかしくないことです。
「俺が子供になることを知ってる奴らは不思議に思うんじゃないか?」
「ルーラス様が夜に子供になることを知っておられるのは、この屋敷の一部の使用人と一部の家族なのだと思います。その人達には逆に噂を流す手伝いをしてもらいましょう。ルーラス様がかけられた魔法を知らない人間なら、初夜を迎えたと知れば、喜ばしく感じる方が多いのではないでしょうか」
「反応を見ろってことか」
「はい。ルーラス様に初夜を迎えさせたくない、もしくは子作りさせたくないという理由であれば食いついてこられるかもしれません」
「わかった。ちょっと話をしてみる」
ルーラス様は恥ずかしそうにされておられますが、納得してくださったようでした。
「あと、俺も一つ言ってもいいかな」
「何でしょうか?」
「毒の魔法をかけたのは、ジオラ夫人だと思ってる」
「やはり、怪しいですわよね」
ジオラ夫人はあの時、毒の魔法をかけたあと、王太子殿下が死んでしまわれる前に解除するつもりだったのかもしれません。
なぜ、そんなことをされたのか。
それは、あの場にバフュー様を呼ばなかったことを責めるつもりだったからではないでしょうか。
バフュー様が解毒魔法を使えるから、あの場にバフュー様がいれば、王太子殿下が命の危険にさらされることはなかったと言うつもりだったのかもしれません。
人に毒の魔法をかける人が一番悪いのだと思いますが、そういう方は、そっちに対する論点はずらそうとしますからね。
「とにかく、明日は取り調べだ」
「はい! 頑張りましょう!」
「リルは頑張らなくていい。事情は聞かれるだろうけどな」
「では、ルーラス様が無実だという証拠をつかむために、私は身の安全を確保しつつ、情報を集めようと思います!」
あと、お城の中をルーラス様と歩いてる時に、レイド様から聞いたという話を教えてくださったのですが、メイド達の何人かが良くない魔法をかけられていると教えてくれました。
ですので、さりげなく解除してまわろうと思います。
※第一話の前に登場人物と関係性というページを作りました。
まだ途中ですので、あまり書けておりませんが、気になる方はぜひ。
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