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25 何を言ってるんですか? それはこちらの台詞ですわ
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結局、ドーウッド伯爵はさすがに3回目は嫌だったらしく、ボロボロと涙を流しながら、私に謝ってくれて、他の人間に対しても、もう二度とあんな事は言わないと約束してくれた。
トルマリア公爵閣下に言わせれば、まだ序の口のお仕置きだったらしい。
スペシャルルームも酷い場合は、心が壊れてしまう可能性があるらしいから、段階的に様子を見ていくんだそうだ。
一体、どんな事をされてるんだろう…。
その日は、ロゼッタ様とお茶をする事が出来ず、明日の朝食後にゆっくりお話をして、午後から家に帰る事にしたのだった。
その朝食の席で、ロゼッタ様から聞いたのだけれど、そのついでと言っては言い方が悪いかもしれないけれど、奥様への待遇をもっと考える様にとも話をしておいてくれたらしく、公爵閣下が「近い内に、ちゃんと実行できているか、確認しに、誰かを送ろう」と言うと、ドーウッド伯爵は何度も首を縦に振って、待遇を改善する事を誓ったらしい。
ミゲルに関しても、今後、勝手な事をさせない様にも約束してくれたので、しばらくは彼の顔を見なくて済みそうだった。
しばらくは、というのは、ミゲルの事だから、そんな言いつけなど、時が経ったら忘れてしまいそうな気がしたからだ。
ただ、それまでにミゲルに良いお相手が見つかってくれれば、社交場くらいで会う事はあるかもしれないけれど、鬱陶しさはマシだろうから、心から見つかってほしいと祈る。
ちなみに侯爵家での変装事件は、警察に連れて行かれて、保釈金を払って出してもらっていて、そのお金が結構な額だっただから、ドーウッド伯爵は私に文句を言いたくてしょうがなかったみたいだけど、結局は、違う話で私に謝らざるを得なくなった感じだった。
ミゲルもこの国では成人だから、いつまでも親の庇護を受けているのもどうかと思うけど、彼のお兄さんが伯爵家を継いだら、彼は放り出されてしまう様なので、ミゲルなりに焦っての行動だったらしい。
今回の件で、お兄さんは、すごく怒っていて、私の家にも謝りに来てくれた。
お兄さんはまともそうだし、真面目なところはお母さん似みたいで、父親がいないところで、こっそり助けているらしい。
なぜ、こっそりなのかというと、ドーウッド伯爵夫人は、自分がドーウッド伯爵がやらなければいけない仕事を全てやっている事にしないと、彼に捨てられてしまうと怯えている。
おとなしい性格の人らしく、自分は無価値だと思い込んでいるらしい。
少なくとも、仕事が出来ているんだから、無価値ではないと思うんだけど…。
もちろん、仕事が出来なくても、人にはそれぞれ得意分野もあるだろうし、無価値な人なんていないと思うんだけどな。
ただ、そういう精神状態の人に、その事をわかってもらうのは難しい。
だから、お兄さんは、彼女の存在価値を奪わない様に、こっそり手伝っているみたい。
これからは、ドーウッド伯爵も優しくするだろうけれど。
トルマリア邸から家までの帰りの馬車で、この何日かの事を考えている内に、いつの間にか私は眠ってしまっていた。
それから数日後、私の元にお茶会の招待状が届いた。
その差出人の名前に見覚えがあった。
差出人の名は、オミナ・ビスカス伯爵令嬢だった。
ミゲファンのナンバー3だ。
という事は、このお茶会にはナンバー1とナンバー2も、このお茶会に来るんだろうなぁ。
どうしようかなぁ。
面倒くさいな。
うん、お断りしよう。
たぶん、仲良くしようと思って、誘ってくれているんじゃなさそうだし。
ルキアはよく、お茶会や夜会の招待をお断りしていたから、メアリーに頼んで、今回もお断りのお手紙を送る様にお願いした。
そして、数日後。
今度は、違う名前の人から招待状が届いた。
名前を見ると、ミゲファンのナンバー2の名前だった。
もちろん、これも丁重にお断りした。
この流れだとナンバー1からも来るかな?
と、半ば、面白半分に考えていたら、数日後、やはり、ナンバー1から招待状が送られてきた。
別にこの数字は会員ナンバーであり、貴族の爵位は関係ないので、このままでは、次はナンバー4から送られてくるかもしれない…。
何より、ナンバー1は侯爵令嬢だし、これは断りにくい。
この人がミゲルを愛人にしてくれたらいいのに、と思ったけど、この国、男性の愛人は認められてるけど、女性は認められてないんだよなあ。
でも、この国では侯爵家ってすごく偉いみたいだし、それくらいの融通はきかないのかな。
そういえば、ロゼッタ様がミゲルに爵位をって言ってくれていたけど、あれはどうなったのかな。
かといって、こちらから、そんな事を聞くわけにもいかないし。
お父様から教えてもらった伯爵家での仕事の一部である、領民からの意見書の確認という仕事の休憩時間に、そんな事を考えていると、メイドのメアリーがやって来て言う。
「お客様がお見えです」
「…私に?」
「はい。ププルス侯爵令嬢の使いの方だそうです」
ププルス侯爵令嬢というのは、ミゲファンのナンバー1の侯爵令嬢だ。
「ちなみに、いらっしゃっている方はププルス侯爵令嬢の侍女の方でエイル子爵令嬢です」
「エイル家…」
ルキアの記憶をたどると、今まで関わりのない令嬢だったけれど、ミゲファンのメンバーでもある事はわかった。
とにかく、侯爵家の使いなら、あまり待たせてもいけないだろうし、応接室まで向かうと、部屋に私が入ったにも関わらず、座っているソファーから立ち上がりもせずに、エイル子爵令嬢はぶすっとした表情で細い目を私に向けただけだった。
「お待たせして申し訳ございませんでした」
「本当ですわ」
あら。
突然、押しかけてきておいて、その態度はなくない?
と思ったけど、口にするのを我慢する。
茶色の髪をシニヨンにした、とても細身のエイル子爵令嬢はメガネをくいと手で上に押し上げてから、向かいに座る私に向かって、挨拶もなしに言った。
「お茶会の招待状に対してのお返事を伺いに参りました。出席という事でよろしいですね?」
「…どういう事です?」
「断る事など、ありえないからです。ミゲル様をあんなに辛い目に合わせたあなたを、ミゲル様ファンクラブの私達が許すわけにはいきません」
「はあ…。それ、お茶会と関係ありますの? というか、ミゲル様ファンクラブに何の権限があるんですの?」
「権限?」
「私を許す、許さないを、あなた達に決められる筋合いありますの? 大体、何に対して許すわけにはいかないと言ってらっしゃるの?」
「ミゲル様を悲しませたじゃないですか!」
ミゲルを悲しませた…。
いや、そんな事言ったら、ルキアなんてもっと辛い思いをしてるんだけど…。
「あの、私は初夜の晩に、彼から酷い言葉を浴びせられて、死を考えるくらいだったのですが、それについてはどう思われますの?」
「それについては当然です。あなたは無価値の人間ですから」
無価値の人間か。
ドーウッド伯爵夫人は、こんな事を言われ続けて、自分に自信がなくなったんだろうなぁ。
「ちょっと、聞いていらっしゃいますの!?」
「聞いてます。少し考え事をしておりましたの。申し訳ございません。それから、無価値の人間だと言われましたが、私、あなたにとって無価値の人間であっても何も困りません」
「…は?」
「聞こえなかった様ですので、もう一度言わせていただきます。あなたにとって私は無価値かもしれませんが、何も困りません。どちらかというと、それが何か? です」
「な、何を言ってるんですか!」
「それはこちらの台詞ですわ。あなたにとって無価値なだけで、私の事を必要としてくださる人はいますから、そんな事をわざわざ言われても、不快な気持ちしか無いですし、普通の方なら、こんな事を言ったら、相手が不快になったりショックを受けたりすると思うはずです。こんな事を言ったら失礼かもしれませんが、あなたはもしかして、思いやりをお持ちでない?」
私が聞き返すと、エイル子爵令嬢は顔を真っ赤にして、怒りの表情を浮かべた。
私が言うな。
という話かもしれないけれど、私は自分から、絶対にこんな事を言わないし、言われたら嫌な気持ちになるという事を知ってもらいたくて言ってるだけなんだけど、伝わらないんだろうなぁ…。
トルマリア公爵閣下に言わせれば、まだ序の口のお仕置きだったらしい。
スペシャルルームも酷い場合は、心が壊れてしまう可能性があるらしいから、段階的に様子を見ていくんだそうだ。
一体、どんな事をされてるんだろう…。
その日は、ロゼッタ様とお茶をする事が出来ず、明日の朝食後にゆっくりお話をして、午後から家に帰る事にしたのだった。
その朝食の席で、ロゼッタ様から聞いたのだけれど、そのついでと言っては言い方が悪いかもしれないけれど、奥様への待遇をもっと考える様にとも話をしておいてくれたらしく、公爵閣下が「近い内に、ちゃんと実行できているか、確認しに、誰かを送ろう」と言うと、ドーウッド伯爵は何度も首を縦に振って、待遇を改善する事を誓ったらしい。
ミゲルに関しても、今後、勝手な事をさせない様にも約束してくれたので、しばらくは彼の顔を見なくて済みそうだった。
しばらくは、というのは、ミゲルの事だから、そんな言いつけなど、時が経ったら忘れてしまいそうな気がしたからだ。
ただ、それまでにミゲルに良いお相手が見つかってくれれば、社交場くらいで会う事はあるかもしれないけれど、鬱陶しさはマシだろうから、心から見つかってほしいと祈る。
ちなみに侯爵家での変装事件は、警察に連れて行かれて、保釈金を払って出してもらっていて、そのお金が結構な額だっただから、ドーウッド伯爵は私に文句を言いたくてしょうがなかったみたいだけど、結局は、違う話で私に謝らざるを得なくなった感じだった。
ミゲルもこの国では成人だから、いつまでも親の庇護を受けているのもどうかと思うけど、彼のお兄さんが伯爵家を継いだら、彼は放り出されてしまう様なので、ミゲルなりに焦っての行動だったらしい。
今回の件で、お兄さんは、すごく怒っていて、私の家にも謝りに来てくれた。
お兄さんはまともそうだし、真面目なところはお母さん似みたいで、父親がいないところで、こっそり助けているらしい。
なぜ、こっそりなのかというと、ドーウッド伯爵夫人は、自分がドーウッド伯爵がやらなければいけない仕事を全てやっている事にしないと、彼に捨てられてしまうと怯えている。
おとなしい性格の人らしく、自分は無価値だと思い込んでいるらしい。
少なくとも、仕事が出来ているんだから、無価値ではないと思うんだけど…。
もちろん、仕事が出来なくても、人にはそれぞれ得意分野もあるだろうし、無価値な人なんていないと思うんだけどな。
ただ、そういう精神状態の人に、その事をわかってもらうのは難しい。
だから、お兄さんは、彼女の存在価値を奪わない様に、こっそり手伝っているみたい。
これからは、ドーウッド伯爵も優しくするだろうけれど。
トルマリア邸から家までの帰りの馬車で、この何日かの事を考えている内に、いつの間にか私は眠ってしまっていた。
それから数日後、私の元にお茶会の招待状が届いた。
その差出人の名前に見覚えがあった。
差出人の名は、オミナ・ビスカス伯爵令嬢だった。
ミゲファンのナンバー3だ。
という事は、このお茶会にはナンバー1とナンバー2も、このお茶会に来るんだろうなぁ。
どうしようかなぁ。
面倒くさいな。
うん、お断りしよう。
たぶん、仲良くしようと思って、誘ってくれているんじゃなさそうだし。
ルキアはよく、お茶会や夜会の招待をお断りしていたから、メアリーに頼んで、今回もお断りのお手紙を送る様にお願いした。
そして、数日後。
今度は、違う名前の人から招待状が届いた。
名前を見ると、ミゲファンのナンバー2の名前だった。
もちろん、これも丁重にお断りした。
この流れだとナンバー1からも来るかな?
と、半ば、面白半分に考えていたら、数日後、やはり、ナンバー1から招待状が送られてきた。
別にこの数字は会員ナンバーであり、貴族の爵位は関係ないので、このままでは、次はナンバー4から送られてくるかもしれない…。
何より、ナンバー1は侯爵令嬢だし、これは断りにくい。
この人がミゲルを愛人にしてくれたらいいのに、と思ったけど、この国、男性の愛人は認められてるけど、女性は認められてないんだよなあ。
でも、この国では侯爵家ってすごく偉いみたいだし、それくらいの融通はきかないのかな。
そういえば、ロゼッタ様がミゲルに爵位をって言ってくれていたけど、あれはどうなったのかな。
かといって、こちらから、そんな事を聞くわけにもいかないし。
お父様から教えてもらった伯爵家での仕事の一部である、領民からの意見書の確認という仕事の休憩時間に、そんな事を考えていると、メイドのメアリーがやって来て言う。
「お客様がお見えです」
「…私に?」
「はい。ププルス侯爵令嬢の使いの方だそうです」
ププルス侯爵令嬢というのは、ミゲファンのナンバー1の侯爵令嬢だ。
「ちなみに、いらっしゃっている方はププルス侯爵令嬢の侍女の方でエイル子爵令嬢です」
「エイル家…」
ルキアの記憶をたどると、今まで関わりのない令嬢だったけれど、ミゲファンのメンバーでもある事はわかった。
とにかく、侯爵家の使いなら、あまり待たせてもいけないだろうし、応接室まで向かうと、部屋に私が入ったにも関わらず、座っているソファーから立ち上がりもせずに、エイル子爵令嬢はぶすっとした表情で細い目を私に向けただけだった。
「お待たせして申し訳ございませんでした」
「本当ですわ」
あら。
突然、押しかけてきておいて、その態度はなくない?
と思ったけど、口にするのを我慢する。
茶色の髪をシニヨンにした、とても細身のエイル子爵令嬢はメガネをくいと手で上に押し上げてから、向かいに座る私に向かって、挨拶もなしに言った。
「お茶会の招待状に対してのお返事を伺いに参りました。出席という事でよろしいですね?」
「…どういう事です?」
「断る事など、ありえないからです。ミゲル様をあんなに辛い目に合わせたあなたを、ミゲル様ファンクラブの私達が許すわけにはいきません」
「はあ…。それ、お茶会と関係ありますの? というか、ミゲル様ファンクラブに何の権限があるんですの?」
「権限?」
「私を許す、許さないを、あなた達に決められる筋合いありますの? 大体、何に対して許すわけにはいかないと言ってらっしゃるの?」
「ミゲル様を悲しませたじゃないですか!」
ミゲルを悲しませた…。
いや、そんな事言ったら、ルキアなんてもっと辛い思いをしてるんだけど…。
「あの、私は初夜の晩に、彼から酷い言葉を浴びせられて、死を考えるくらいだったのですが、それについてはどう思われますの?」
「それについては当然です。あなたは無価値の人間ですから」
無価値の人間か。
ドーウッド伯爵夫人は、こんな事を言われ続けて、自分に自信がなくなったんだろうなぁ。
「ちょっと、聞いていらっしゃいますの!?」
「聞いてます。少し考え事をしておりましたの。申し訳ございません。それから、無価値の人間だと言われましたが、私、あなたにとって無価値の人間であっても何も困りません」
「…は?」
「聞こえなかった様ですので、もう一度言わせていただきます。あなたにとって私は無価値かもしれませんが、何も困りません。どちらかというと、それが何か? です」
「な、何を言ってるんですか!」
「それはこちらの台詞ですわ。あなたにとって無価値なだけで、私の事を必要としてくださる人はいますから、そんな事をわざわざ言われても、不快な気持ちしか無いですし、普通の方なら、こんな事を言ったら、相手が不快になったりショックを受けたりすると思うはずです。こんな事を言ったら失礼かもしれませんが、あなたはもしかして、思いやりをお持ちでない?」
私が聞き返すと、エイル子爵令嬢は顔を真っ赤にして、怒りの表情を浮かべた。
私が言うな。
という話かもしれないけれど、私は自分から、絶対にこんな事を言わないし、言われたら嫌な気持ちになるという事を知ってもらいたくて言ってるだけなんだけど、伝わらないんだろうなぁ…。
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