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20 家族ではありません②

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 わたしがレイ様と結婚し、ネイロス家の戸籍から抜けたことを報告すると、両陛下はお兄様を王城まで呼び寄せた。

 その時はお父様が拘置所にいたので、お兄様を代理にしたのだ。

 そこで、ネイロス家の伯爵位を剥奪すると言われたお兄様は、両陛下に泣きつこうとしたらしい。

 もちろん、そんなことが許されるはずもなく、お兄様は城から追い出された。

 それから3日後にはお父様たちが釈放され、お兄たちと合流した。
 4人はファーシバル公爵家の門のすぐ近くで「リウ様と話をさせてください」と毎日、叫び続けている。
 住む場所もないので野宿をしていた。

 公爵邸の近くに民家はないので、門番だけが迷惑を被っていた。

 ネイロス家の領地は新しい領主が決まるまでは国が管轄することになり、領民には迷惑をかけていた。
 それなのに、家族は自分のことしか考えていない。

「一部の税率は領主によってある程度は決められるから、国が管轄しているほうが安い場合が多い。領民にデメリットばかりじゃない」
「ありがとうございます。領民にメリットがあるのなら良かったです」

 お礼を言うと、レイ様は微笑んでくれたけれど、すぐに表情を険しくする。

「リウの家族だが、どう処分するか迷ってる」
「しょ、処分ですか。あの、バラバラにするとかですか」
「バラバラ? ああ、バラバラに別れるってことか?」
「……分かれる。そんな簡単にバラバラにできるものなんですか」
「……できるだろ」

 レイ様はけろりとした顔で言っているけれど、そんな簡単にできるものじゃないでしょう!?

「あの、レイ様、死体ってそんなに簡単にバラバラにできるものなんですか」
「は? 死体?」

 珍しく大きな声で聞き返してきたと思ったら、レイ様は急に笑い始めた。

「レイ様!? どうして笑うんですか!」
「処分っていうのは殺すことじゃない。罰を与えるというほうだよ」
「……そ、そうですね。どうして、そんなに酷いことを考えてしまったんでしょう」

 両手で頬を押さえて言うと、レイ様が苦笑する。

「それだけ嫌な思いをしてきたということだろう」
「でも、普通はバラバラ殺人なんて考えるでしょうか」
「考えないな」
「ですよね!?」

 別に殺したいほど憎んでいるわけじゃないのに、処分と聞いて、かなり物騒なことを思い浮かべてしまった。

「一つ考えていることがあるんだ」
「……何でしょうか」
「君の家族は多くの貴族と同じで、平民を嫌っているよな」
「はい。別に何かされたとかそういうわけでもないのに、皆が嫌っているからという理由で嫌っているようです」
「彼らはもう平民だから、平民が店長の店で働いてもらうというのはどうだ?」

 店に出資をしているのは貴族だけど、経営するのは平民だから店長は平民ばかりだ。
 そのことをレイ様は言っているんだと思う。
 
 小売店か何かに働かせるつもりなのかしら。

「お父様たちにできる仕事なんてありますか?」
「できる、できないじゃなくてやってもらえば良いだろう。そうだ。ミンステッド伯爵家の店なんかどうだ?」
「そういえば、平民向けのお店なのに息子が馬鹿なことを言っていましたね」

 カフェでの出来事を思い出して眉根を寄せると、レイ様は頷く。

「ミンステッド家は何店舗かに出資しているはずだ。馬鹿息子のようだから、他の店にも偉そうに文句を言いにいっているだろうし、店の人たちも鬱憤は溜まっているだろう」
「でも、素直にお父様たちがお店で働くでしょうか」
「それが問題ではあるけど、自分たちが平民を無条件で馬鹿にしていたことを反省するには良いと思うんだ」
「それはわかります。でも、やっぱり素直に言うことを聞くとは思えないんです」

 お父様たちのことだもの。
 なんだかんだワガママを言って、店の人を困らせたり、お店のお金を盗もうとするんじゃないかしら。

 自分の親をこんなふうに思うなんて色々な意味で最悪だわ。

 その時、閃いたことがあった。

「家族はわたしと話をしたがっていました。わたしと話をしたければ店で働くように言ってみましょうか」
「そこまでする必要はあるか?」
「わたしが何かの理由で平民と働くことになったとしても、嫌な気分にはなりませんし勉強になって良いと思うんです。でも、平民を嫌っている家族が平民の下で働くとなると、かなりの屈辱だと思います。今まで馬鹿にしてきた人たちができるものを自分たちができないのですから悔しい思いをするでしょう」

 貴族や平民と言っている時点で良くないのかもしれない。
 でも、区別であって差別をしているつもりはない。

 日頃の貴族への鬱憤を元貴族で晴らしてもらったら良いかもと思ったけれど、お店の人に嫌がられたら諦めることにすると決めた。


*****



 次の日、以前、追い出された店に行くと、店内にはほとんど人がいなかった。

 出てきてくれた店長に迷惑をかけたお詫びに、お金とお菓子を渡すと、今の店の状況を教えてくれた。

「ヘンゼデッド様が来た日から、貴族にも平民にも悪い噂が流れてしまったんです」
「貴族にも?」
「はい。平民を優遇するような悪い店だと、ヘンゼデット様が言いふらしたんです。別に優遇していたわけではありません」
「店に人が来なくなったら損をするのはミンステッド家ですわよね。売上のいくらかはお金が入るはずですから。それなのに客を遠ざける噂を流したんでしょうか」
「自分たちの利益を無しにしてでも、平民を優遇する店を潰したいようです」

 なんて、最低な人たちなの!
 お店の人は悪くないのに! 
 ここ最近、社交場に顔を出していなかったから、そんなことになっているなんて知らなかった。

「お店の資金面はこちらが援助します。そのかわりお願いがあります。面倒を見てほしい人がいるんです」

 相手が誰だか知った店長は不思議そうな顔をする。

「家族を働かせるんですか?」
「もう家族ではありませんから」

 笑顔で答えると、店長は困惑した様子ではあったけれど了承してくれた。

「い、いらっしゃいませぇ」

 そして、次の日から、まずはお父様が働くことになった。
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