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21 家族ではありません③

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「貴族っていうから、仕事は何でもできるのかと思ったのに、接客態度はひどいな」
「元貴族に接客を求めても無駄だろ。いつもしてもらってた立場なんだから」
「してもらってたことを思い出せば真似できるだろう」

 聞こえるように大きな声で話す客に、お父様は顔を真っ赤にして何か言い返そうとした。
 でも、それを指導係が止める。

「接客態度が問題だと言われているんですから、直せば良いだけです」
「どうして、この私が平民に愛想をふりまかなければならないんだ! もう嫌だ! 私はこんな店辞めてやる!」

 人目があるにもかかわらず、お父様は大きな声で叫んだ。
 店内が静まり返ったので、お父様に話しかける。

「では、二度とわたしの目の前に現れないでくださいね」
「……い、いや、その。とにかく、リウ、話を聞いてくれないか」
「この店で一緒に働く人たちに認められたら、話を伺うと言いましたわよね。話すことがないようでしたら、どうぞお辞めください。代わりはすぐに見つかりますので」
「ぐぬぅ!」

 お父様は変な声を上げはしたものの、大人しく仕事に戻った。

 文句を言わずに働くとは思っていなかったから、見に来ておいて良かったわ。

「あなたのお父様、話には聞いていたけど、本当に平民が嫌いなのね」
「自分たちも平民なんだから、嫌いというのも今となってはおかしいんだけどね」
「そういえばそうね」

 苦笑して答えると、ピノはお父様に視線を移して笑った。

 どうせ、カフェに来るのならと断られることを承知でピノとノノンに声を掛けてみた。
 すると、二人共に仕事が休みの日だったので店で待ち合わせることになったのだ。

「……リウが公爵夫人になるとわかったら、職場にいる……、貴族の人たちは……、急に優しくなったわ」
「うちもそうよ! 希望の仕事に就かせてあげるから、リウを紹介してほしいってうるさいのよ」

 ノノンとピノが勤めている職場の貴族は、今までは平民と仲良くしているわたしのことを変人扱いして馬鹿にしていた。
 でも、わたしが公爵夫人となった途端に態度を変えた。
 
 何とかしてわたしとお近づきになろうと必須らしい。

「迷惑をかけてごめんね。あまりにもしつこいなら言ってね。手を打つようにするから」
「迷惑なんかじゃないから気にしないで。反応を楽しんでいるから大丈夫よ」
「楽しんでいるって、どういうこと?」

 ピノに聞き返すと、彼女は満面の笑みを浮かべて答える。

「うちの上司は私が少しでも嫌そうな顔をするとびくびくするのよ。今まで嫌な思いをさせられてきたから、そういう姿を見て楽しんでるの」
「少しは働きやすくなりそう?」
「ええ。貴族は皆、私には何も言えなくなっているから、こんなことを言ってはなんだけど、職場では私がトップみたいなものね」
「それなら良いけど」

 平民と一緒に働いている貴族の態度がピノの職場だけでなく、ノノンの職場など色々な所で環境が改善されていると聞いて嬉しく思った。

「あの……、これ、私たちからの……、結婚祝いです」
 
 話が途切れたところで、ノノンが大きな黒い袋を手渡してきた。

「ありがとう。開けてみても良い?」

 二人が頷いたのを確認して中身を見てみると、プレゼントが四角いシルバートレイだということがわかった。

「これ、すごく人気のものよね!?」
「そうよ」
「……そうです」

 見た目は普通のメイドが持っているシルバートレイだけど、実際は違う。
 これはか弱いメイドの味方として改良されたもので、武器であり防具でもある。

 元々は家族に暴力をふるわれていた人が、自分の身を守るためにシルバートレイをで防御したり応戦していたんだそうだ。

 普通のシルバートレイを改良したものが、プレゼントされたティアトレイだ。
 ティアは人の名前の一部をとったものだと聞いている。
 平民にも買えるような値段に設定はされているけれど、決して安いものではない。
 それにこれは隣国でしか売っていない上に大人気商品で、入荷待ちになっているお店が多いと聞く。

「も、もらって良いの?」
「ファーシバル公爵邸で必要はないかと思うけれど、あなたには必要なものじゃないかと思ったの」
「……喜んでもらえたら、嬉しいです」
「喜ぶ! 喜ぶわ! 本当にありがとう!」

 ティアトレイを抱きしめて言った時、お父様が話しかけてきた。

「リウ様、もう良いでしょうか。私は本当に頑張りました。ですから、あなたの住んでいるお屋敷に住まわせて」
「良いわけ無いでしょう。まだまだお仕事を頑張ってください」

 冷たく答えると、我慢できなくなったのか、お父様が怒り始める。

「くそっ! 下手に出ていたら調子に乗りやがって!」

 騎士がお父様を止めに入ろうとするのを止めて、ティアトレイを右手に持つ。
 そして、お父様に尋ねた。

「怒っているんですか?」
「当たり前だろう! こんなにも私が下手に出てやっているのに! この親不孝者めが!」

 掴みかかろうとしてきたお父様の頬を、容赦なくシルバートレイの角で殴った。

 軽くて使いやすいわ!

「い、いだっ、痛いぃ! なんてことをするんだっ! もういいっ! お前なんて知らん!」
「知らなくて結構です。もう、家族じゃありませんので」

 見下ろして告げると、お父様は一瞬にして発言を後悔したのか、今にも泣き出しそうになった。






お読みいただきありがとうございます。
終わりが見えてまいりましたので、長編から短編に変更いたしました。
元家族、元婚約者とミンステッド家へのざまぁなどを書いて終わりになります。
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