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12 行き場を失った者たち
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コーミナ先生が言うには、両陛下にもこの話は報告されていて、すでに了承を得ているとのことだった。
ファーシバル邸の使用人には、公にされるまでは口外しないという念書にサインした者にだけ、次の公爵が誰になるのか知らされることになった。
数は少なかったけれど、サインをしなかった人たちは、自らの意思でファーシバル邸を出ていった。
そして、残った使用人たち全員が念書にサインをした。
お父様が跡を継ぐと思い込んでいた使用人たちだったけれど、レイ様が次期公爵になると知って、とても喜んだ。
そして、レイ様が公爵になるということは、将来の公爵夫人はわたしになるので、そのことも喜んでくれた。
「レイ様とリウ様のように平民を侮蔑しない貴族はそう多くはおられません。このことを知れば、多くの領民が喜ぶことでしょう」
メイド長が目に涙を浮かべて言った。
彼女は男爵夫人だが、元々は平民だったそうだ。
レイ様が公爵になるとわかり、仕事をしている時の使用人たちの表情が明るくなった。
わたしと同じようにみんなも伯父様の死を悲しみ、これからどうなるのかという不安でいっぱいだったのだと気が付いて、わたしはまだまだ人のことを見れていないのだと実感した。
まるで、自分が 悲劇のヒロインだと勘違いしていたみたいで恥ずかしい。
これからは気持ちを入れ替えて頑張りましょう。
伯父様はわたしに笑顔でいてほしいと願ってくれたんだから。
コーミナ先生に今日のお礼を述べたあと、残っている手続きのことで改めて話をする約束をして別れた。
レイ様が公爵の爵位を受け継ぐという書類にはサインし終えたので、あとはわたしが土地建物などを相続するための書類をコーミナ先生に揃えてもらうことになったからだ。
コーミナ先生を見送ったあと、レイ様に尋ねる。
「これからどうしましょう。予定通り、レイ様のご実家に行って挨拶だけでもしたほうが良いですよね」
「そうだな。かなり驚くだろうけど、悪い話ではないし祝福してくれると思う」
「……あの、レイ様」
「どうした」
「巻き込んでしまって申し訳ございません。伯父様の考えではフサス様が公爵になる予定でしたのに」
レイ様は自分が公爵になるだなんて夢にも思っていなかったと思う。
わたしの婚約者になったせいで、大役を任せることになってしまった。
お姉様とフサス様が決めたことだったとしても、わたしはあの時、レイ様が婚約者になって喜んだのは確かだもの。
こんなことになるなら、あの時、駄目だと言ったほうが良かったのかしら。
あからさまに落ち込んでいたからか、レイ様は苦笑する。
「彼が公爵になったら領民が可哀想だ。彼より僕のほうがマシだろう」
「マシどころか、領民は喜ぶと思います」
フサス様は悪人ではないけれど、性格は悪い。
そんな人が公爵になるよりも、性格が悪くないレイ様が公爵になるほうが領民には良いはずだ。
「気になるのは血筋のことだな。血の繋がりのない僕が公爵になることを領民は認めてくれるだろうか」
「わたしが妻になることが前提にありますから、血の繋がりのことは何も言われないかと思います。それに両陛下や他の公爵家が認めていますから文句は言えないでしょう」
「公爵家のお二人は遺言書の内容を知っているだろうし、証人になってくれたということは認めてくれているということだよな」
レイ様は頷いてから問いかけてくる。
「そういえば、リウはテングット子爵令息と結婚したかったのか?」
「それはないです! あの人は悪い意味で少年の心を持ったまま大きくなった人ですから。まだ、見た目が子供なら許せても、大人の外見であれは苛立ちしかないです。政略結婚だったから結婚するしかないと諦めていただけです!」
結婚するならレイ様のほうが良いです!
と挙手して言いたくなったけどやめておいた。
レイ様にはただでさえ子供扱いされているから、そんなことをしたら余計に幼稚だと思われてしまいそうだからだ。
フサス様のような大きな子供にはなりたくない。
そう思ったところで、フサス様から吐かれた暴言を思い出して腹が立ってきて眉根を寄せた。
すると、よっぽどわたしの顔が不細工になっていたのか、レイ様が噴き出した。
******
馬車で半日以上かかるレイ様の実家に行き、ご両親に挨拶をして、すぐにわたしたちはファーシバル公爵邸に戻った。
溜まっていた仕事があることと、相続でやらなければならないこともまだまだあったからだ。
空が赤く染まり始めた頃に、ファーシバル公爵邸に帰ってきた。
公爵邸の門の前で馬車が停まり、御者が門兵に何やら話しかけている。
いつもならすぐに門が開いて動き出すはずなのに動かないので不思議に思っていると、レイ様が窓から外を覗いた。
そして、眉毛を寄せて呟く。
「最悪だ」
「どうかされましたか?」
気になって、わたしも外を見てみた。
「最悪だわ」
レイ様と同じ言葉がわたしの口からもこぼれてしまった。
門の前には数十人のネイロス家の使用人が座り込んでいた。
住む家や働く場所がなくなったので、ファーシバル公爵邸で面倒を見てほしいと訴えている。
わたしに嫌なことをしてきた使用人たちしかいないのだから、よくもそんなことを言えるものだと腸が煮えくり返る思いだった。
そんなわたしの気持ちを汲んでくれたのか、レイ様が御者に命令する。
「警察を呼んでくれ。明らかな迷惑行為だ。今の彼らには警察を買収する金はないから排除してくれるはずだ」
「承知しました」
御者は頷くと、門兵に「警察を呼んでくれ」と叫んだ。
すると、執事だった男の叫ぶ声が聞こえてくる。
「お待ちください! ネイロス伯爵からは公爵邸で働けると約束していただいていたんです!」
お父様が勝手にした約束を有効にしようだなんておかしいわ。
少し考えればわかるでしょうに。
今の今まで、門兵たちが警察を呼べなかったのは、ネイロス家の使用人たちだったから、わたしに配慮してくれてのことだった。
「ここまで予想できなかったのは、わたしのミスです。申し訳ございません」
頭を下げると、レイ様は苦笑する。
「僕だって予想できていなかったからお互い様だ。これからは気を引き締めないとな。釈放の条件は二度とファーシバル公爵邸に近づかないようにする、にでもしようか」
「お願いします」
頷いてから、話を続ける。
「わたしの家族が今、ここにいないということは、あの家に転がり込んだのでしょう。素直に路頭に迷うとは思えません」
「……考えられるのはテングット子爵家か」
「お父様はまだ伯爵ですし、お姉様との婚約も有効です。フサス様はまだファーシバル公爵家の次の当主はお父様だと思い込んでいるはずですし、フサス子爵夫妻は良い方たちです。疑問には思うでしょうけれど、困っている人を見捨てるような人たちではありませんから受け入れているでしょう」
お父様たちのことだから、手続きに時間がかかっていると言って誤魔化しているんでしょうね。
次期公爵がレイ様だと発表された時、テングット子爵家は、お父様たちをどう扱うのかしら。
気が付くと馬車が動き出したので外を見てみると、先程まで座り込んでいた使用人たちがファーシバル公爵邸から走り去って行く姿が見えた。
ファーシバル邸の使用人には、公にされるまでは口外しないという念書にサインした者にだけ、次の公爵が誰になるのか知らされることになった。
数は少なかったけれど、サインをしなかった人たちは、自らの意思でファーシバル邸を出ていった。
そして、残った使用人たち全員が念書にサインをした。
お父様が跡を継ぐと思い込んでいた使用人たちだったけれど、レイ様が次期公爵になると知って、とても喜んだ。
そして、レイ様が公爵になるということは、将来の公爵夫人はわたしになるので、そのことも喜んでくれた。
「レイ様とリウ様のように平民を侮蔑しない貴族はそう多くはおられません。このことを知れば、多くの領民が喜ぶことでしょう」
メイド長が目に涙を浮かべて言った。
彼女は男爵夫人だが、元々は平民だったそうだ。
レイ様が公爵になるとわかり、仕事をしている時の使用人たちの表情が明るくなった。
わたしと同じようにみんなも伯父様の死を悲しみ、これからどうなるのかという不安でいっぱいだったのだと気が付いて、わたしはまだまだ人のことを見れていないのだと実感した。
まるで、自分が 悲劇のヒロインだと勘違いしていたみたいで恥ずかしい。
これからは気持ちを入れ替えて頑張りましょう。
伯父様はわたしに笑顔でいてほしいと願ってくれたんだから。
コーミナ先生に今日のお礼を述べたあと、残っている手続きのことで改めて話をする約束をして別れた。
レイ様が公爵の爵位を受け継ぐという書類にはサインし終えたので、あとはわたしが土地建物などを相続するための書類をコーミナ先生に揃えてもらうことになったからだ。
コーミナ先生を見送ったあと、レイ様に尋ねる。
「これからどうしましょう。予定通り、レイ様のご実家に行って挨拶だけでもしたほうが良いですよね」
「そうだな。かなり驚くだろうけど、悪い話ではないし祝福してくれると思う」
「……あの、レイ様」
「どうした」
「巻き込んでしまって申し訳ございません。伯父様の考えではフサス様が公爵になる予定でしたのに」
レイ様は自分が公爵になるだなんて夢にも思っていなかったと思う。
わたしの婚約者になったせいで、大役を任せることになってしまった。
お姉様とフサス様が決めたことだったとしても、わたしはあの時、レイ様が婚約者になって喜んだのは確かだもの。
こんなことになるなら、あの時、駄目だと言ったほうが良かったのかしら。
あからさまに落ち込んでいたからか、レイ様は苦笑する。
「彼が公爵になったら領民が可哀想だ。彼より僕のほうがマシだろう」
「マシどころか、領民は喜ぶと思います」
フサス様は悪人ではないけれど、性格は悪い。
そんな人が公爵になるよりも、性格が悪くないレイ様が公爵になるほうが領民には良いはずだ。
「気になるのは血筋のことだな。血の繋がりのない僕が公爵になることを領民は認めてくれるだろうか」
「わたしが妻になることが前提にありますから、血の繋がりのことは何も言われないかと思います。それに両陛下や他の公爵家が認めていますから文句は言えないでしょう」
「公爵家のお二人は遺言書の内容を知っているだろうし、証人になってくれたということは認めてくれているということだよな」
レイ様は頷いてから問いかけてくる。
「そういえば、リウはテングット子爵令息と結婚したかったのか?」
「それはないです! あの人は悪い意味で少年の心を持ったまま大きくなった人ですから。まだ、見た目が子供なら許せても、大人の外見であれは苛立ちしかないです。政略結婚だったから結婚するしかないと諦めていただけです!」
結婚するならレイ様のほうが良いです!
と挙手して言いたくなったけどやめておいた。
レイ様にはただでさえ子供扱いされているから、そんなことをしたら余計に幼稚だと思われてしまいそうだからだ。
フサス様のような大きな子供にはなりたくない。
そう思ったところで、フサス様から吐かれた暴言を思い出して腹が立ってきて眉根を寄せた。
すると、よっぽどわたしの顔が不細工になっていたのか、レイ様が噴き出した。
******
馬車で半日以上かかるレイ様の実家に行き、ご両親に挨拶をして、すぐにわたしたちはファーシバル公爵邸に戻った。
溜まっていた仕事があることと、相続でやらなければならないこともまだまだあったからだ。
空が赤く染まり始めた頃に、ファーシバル公爵邸に帰ってきた。
公爵邸の門の前で馬車が停まり、御者が門兵に何やら話しかけている。
いつもならすぐに門が開いて動き出すはずなのに動かないので不思議に思っていると、レイ様が窓から外を覗いた。
そして、眉毛を寄せて呟く。
「最悪だ」
「どうかされましたか?」
気になって、わたしも外を見てみた。
「最悪だわ」
レイ様と同じ言葉がわたしの口からもこぼれてしまった。
門の前には数十人のネイロス家の使用人が座り込んでいた。
住む家や働く場所がなくなったので、ファーシバル公爵邸で面倒を見てほしいと訴えている。
わたしに嫌なことをしてきた使用人たちしかいないのだから、よくもそんなことを言えるものだと腸が煮えくり返る思いだった。
そんなわたしの気持ちを汲んでくれたのか、レイ様が御者に命令する。
「警察を呼んでくれ。明らかな迷惑行為だ。今の彼らには警察を買収する金はないから排除してくれるはずだ」
「承知しました」
御者は頷くと、門兵に「警察を呼んでくれ」と叫んだ。
すると、執事だった男の叫ぶ声が聞こえてくる。
「お待ちください! ネイロス伯爵からは公爵邸で働けると約束していただいていたんです!」
お父様が勝手にした約束を有効にしようだなんておかしいわ。
少し考えればわかるでしょうに。
今の今まで、門兵たちが警察を呼べなかったのは、ネイロス家の使用人たちだったから、わたしに配慮してくれてのことだった。
「ここまで予想できなかったのは、わたしのミスです。申し訳ございません」
頭を下げると、レイ様は苦笑する。
「僕だって予想できていなかったからお互い様だ。これからは気を引き締めないとな。釈放の条件は二度とファーシバル公爵邸に近づかないようにする、にでもしようか」
「お願いします」
頷いてから、話を続ける。
「わたしの家族が今、ここにいないということは、あの家に転がり込んだのでしょう。素直に路頭に迷うとは思えません」
「……考えられるのはテングット子爵家か」
「お父様はまだ伯爵ですし、お姉様との婚約も有効です。フサス様はまだファーシバル公爵家の次の当主はお父様だと思い込んでいるはずですし、フサス子爵夫妻は良い方たちです。疑問には思うでしょうけれど、困っている人を見捨てるような人たちではありませんから受け入れているでしょう」
お父様たちのことだから、手続きに時間がかかっていると言って誤魔化しているんでしょうね。
次期公爵がレイ様だと発表された時、テングット子爵家は、お父様たちをどう扱うのかしら。
気が付くと馬車が動き出したので外を見てみると、先程まで座り込んでいた使用人たちがファーシバル公爵邸から走り去って行く姿が見えた。
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