許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ

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13 平民と貴族

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 役所などに提出する書類が揃い、手続きを終えて、次期公爵が発表される前日の午後、わたしは学生時代の友人たちとカフェで話をしていた。

 ファーシバル公爵邸に来てもらおうとしたら、身分差がありすぎて恐れ多くて行けないと断られてしまった。

 低位貴族でも公爵家を雲の上の存在だと感じる人も多いから、平民の友人たちにしてみれば余計になのだろうと理解して諦めた。

 レイ様を紹介したかったのにできなくなったのは残念だ。
 
 ……そういえば、婚約者が代わったことを伝えられていなかった。
 まずは、その話をしないといけないわ。

 話が途切れたら、レイ様の話をしようと思っているの、先に話題を変えられてしまう。

「昔よりも高価そうなドレスを着ているけれど、中身は変わっていなくて嬉しいわ」

 学生時代からの親友のピノは、瞳の色と同じ青色の長い髪をポニーテールにした美人だ。
 人当たりも良いので、今は役所の案内係として働いている。

 役所の内勤の仕事がしたくても、職員は貴族ばかりで、平民は役所に来た人を案内する仕事しかさせてくれないと嘆いている。

 その仕事が嫌だというわけでもないけれど、やりたかった仕事ではないらしい。

 ピノは職場で言われたことを思い出したのか怒り始めた。

「平民だから情報を漏らすだなんて決めつけられてるのよ。そんなわけないじゃない。大体、人様の情報を握って悪さをするのは貴族のほうじゃないの!」
「……貴族の不正は平民の間で噂になっているのに……、新聞などで取り上げられないのは貴族が……、手を回している……からだと思います」

 学生時代に伯父様が助けてくれた彼女、ノノンは、今ではわたしとも仲の良い友人だ。
 親友と言えないのは、彼女がどう思っているかわからないから。
 勝手に親友だなんて言って嫌がられたらショックだもの。

 ダークブラウンの胸辺りまである髪を二つに分けて三つ編みにしているノノンは、目が悪いから大きな丸い眼鏡をかけている。
 大人しい性格だということと、あの時、貴族に嫌な思いをさせられたため、わたしや伯父様以外の貴族を信用していないと言っていた。

 貴族にも良い人がいることは理解しているそうだけど、自分の目で確認しなければ信じられないんだそうだ。

 その気持ちはわかるので、ぜひ、レイ様にも会ってみて、彼のことを好きになってもらえたら嬉しいと思った。

 もちろん、好きというのは恋愛感情ではなく!
 友人が恋のライバルだなんてどうしたら良いかわからないもの!

「……リウさんは相変わらずですね」

 ノノンが静かに笑うので問いかける。

「え、どういうこと? 何も言ってないと思うんだけど」
「……顔に出ています」
「えっ!?」

 慌てて両頬を手で押さえると、ピノまで笑う。

「もう遅いわよ。リウは気を抜いていると感情が顔に出ちゃうのよね。本当はいけないことなんでしょうけど、私たちに気を許してくれているんだと思うと嬉しいわ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、あまり良いことではないのよね」
「私たちの前くらいはリラックスしても良いと思うわ」
「……そうです。息抜きしないと辛いですよ」

 二人を見ると、わたしを優しい目で見つめていた。
 
 多くの貴族は、わたしのことを平民としか仲良くできなかったから、差別をしないのだろうと言う。

 それは違う。
 そんなことを言ったり、考えたりするほうがおかしい。

 わたしたちの関係性は平民だからとか貴族だからどうとか関係なく、気が合うから友人なのだ。

「ありがとう」

 お礼を言うと、二人共、満足げな表情を見せてくれた。

 二人には伝えても良いと許可をもらっていたし、今のタイミングで婚約者が代わったことや次期公爵がレイ様であることを口にしようとした時だった。

「どうして、ここに平民がいるんだよ! この店に出資しているのは誰だと思ってんだよ! ああ? 店を潰すぞコラ」

 下品な言葉遣いをする男性の声が聞こえて、そちらに目を向ける。

 柄の悪そうな大柄の男性がいて、近くのテーブルに座る男女を指さして店員に文句を言っていた。
 たしか、彼はミンラッド伯爵令息で貴族の中で下品であることで有名だ。
 わたしよりも二つ年上の20歳だというのに、わたし以上に感情のコントロールができない人間だ。

 性格の悪さでいえば、フサス様よりも悪い。

「あの、坊ちゃま。この店の客層は平民をターゲットにしております。ですから、平民がいるのは当たり前」
「うるせぇ!」

 対応していた店長らしき中年の男性の話の途中で、ミンラッド伯爵令息は叫び、男性を殴り飛ばした。

 男性は女性客二人のテーブルに倒れ込み、そのまま動かない。

「あの人を止めてきて」

 立ち上がり、わたしを護衛してくれている騎士たちに命令すると、すぐにミンラッド伯爵令息の元へ向かってくれた。

「坊ちゃまに近づくな!」

 ミンラッド家の騎士たちとファーシバル公爵家の騎士たちが睨み合う。

 でも、すぐにミンラッド家の騎士たちが怯み始めた。

 ファーシバル公爵邸の騎士はエリート集団なので、同じ職業に就いている人は相手が誰だかわかったからだ。

「ど、どうしてファーシバル公爵家の騎士隊が……」
「ファーシバル公爵家?」

 ミンラッド伯爵令息は店員との間に割って入ったファーシバル公爵家の騎士たちを見て眉根を寄せた。

 そして、わたしの存在に気が付くと「ぎゃはははは」と下品な笑い声を上げた。

「お前はネイロス家の厄介者じゃないか! どうした? 貴族が嫌になって平民になる相談を平民にしていたのか? 馬鹿な野郎めが」
「馬鹿な野郎はそっちでしょう」
 
 言い返すと、ミンラッド伯爵令息はわたしたちのいるテーブルに向かって歩き始めた。


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