24 / 31
23 元夫の執念 ⑤
しおりを挟む
レンジロード様がどうしてもわたしと二人で話がしたいというので、話の内容は聞こえないけれど、姿は見える範囲で見守ってもらうことになった。
「危険じゃないか?」
「ルイーダ様が見ていますから、わたしに暴力をふるうようなことは絶対にできないと思います」
心配そうにするシリュウ兄さまに笑顔で答え、レンジロード様に話しかける。
「あなたがルイーダ様に想いを寄せていることなんて、多くの人はわかっているんですよ」
「ば、馬鹿な! そんなはずがない!」
「あなたは気づいていないかもしれませんが、ルイーダ様と話をしている時のあなたは、締まりの無い顔をしていて、いつもと全く違いますから」
「し、締まりの無い顔だと……?」
レンジロード様はルイーダ様に目を向けて言った。
レンジロード様への愛が冷めてしまったからわかるようになったけれど、こんなに単純な人だったなんて――
この人をクールだと思っていたわたしって、一体、何を見ていたのかしら。
自分自身に呆れていると、レンジロード様はわたしの表情を見て、レンジロード様に呆れていると思ったのか、怒り顔に変わる。
「私を馬鹿にするな!」
「馬鹿にはしていません」
「リコット、いい加減にしろ。私の気を引きたいのかもしれないが、それでは逆効果だぞ」
「気を引きたくないので逆効果ならそれで良いです」
「強がらなくていい」
レンジロード様はまだわたしが、自分のことを好きだと思っているみたいね。そこまで自分に自信があるのなら、ルイーダ様に告白すれば良いのに。
……と思ったけど、ジリン様との様子を見ていたら、自分がふられるということは理解できているみたいなのよね。
「強がってなんていません。レンジロード様、あなたは勘違いしておられるようですが、わたしはもうあなたに愛を求めていません」
「……どういうことだ?」
「あなたはわたしのことが嫌いでしたよね」
「そ……そんなことは……」
レンジロード様はやはり、ルイーダ様が気になるらしい。この会話が聞こえていないか確認するかのように、ルイーダ様のほうを見た。
賢い人なら、この人を上手く扱えていたのかもしれない。そして、それなりに幸せな夫婦生活を送っていたでしょう。
でも、わたしは違う。
階段から突き落とされた時点で、この人との関係は終わっている。
「わたしとあなたはお互いに嫌いあっているんです。それなのに再婚する理由がありますか?」
「……世間体のことを考えろ。それに、私は二番目に君を愛している」
ルイーダ様に聞こえないようにか、レンジロード様は小さな声で言った。聞こえていたけど、聞こえないふりをする。
「聞こえません。もっと大きな声で言ってもらえますか?」
「だから、世間体を考えろと言っているんだ!」
「あなたにとってわたしは嘘つき女なのでしょう? なら、別れて当然だと思われるのでは?」
「そうじゃないから言っているんだ!」
「どういうことですか?」
「今までは私に同情する声が多かった。それなのに最近は、別れた原因は私にあるのではないかと言われ始めている!」
シリュウ兄さまたちが手を回してくれているらしく、レンジロード様を支持していた人たちも表立って彼を擁護できなくなっているようだった。
「リコット、素直になるんだ」
「素直になっています」
興奮しているからか、肩で息をしているレンジロード様を睨みつけて叫ぶ。
「わたしはレンジロード様に愛なんて求めていません!」
「昔は求めていたではないか!」
「昔の話です! 今は求めていませんから、ご安心いただけますと幸いです!」
「……そんなわけがない」
レンジロード様は呟くと、鋭い眼差しをわたしに向けた。そして、わたしに近づきながらぶつぶつと話し始める。
「リコットが私の言うことを聞かないはずがない! 私への愛を思い出させてやる」
「近づかないでください」
「うるさい。私への愛を思い出させるために、お前を抱きしめてやる。そうすれば、私への愛を思い出すはずだ。そう本に書いてあった」
レンジロード様はそう言ったあと、ルイーダ様に叫ぶ。
「悪いが、向こうを向いていてくれないか」
「……承知いたしました!」
ルイーダ様はシリュウ兄さまとジリン様を見たあとに頷く。自分が見ていなくても、二人に見ておいてね、ということだと思う。
「さあ、リコット。有難く思え」
どんな本を読んだのかわからないけれど、レンジロード様は本気でわたしを抱きしめるつもりなのだとわかった。
気持ち悪い!
そう思ったわたしは、近づいてきたレンジロード様に向けて唐辛子スプレーを噴射した。
※
レンジロードの考えについて補足です。
わかりにくいかと思いますが、レンジロードは少女漫画などである「落ち着けよ」的な感じでヒーローがヒロインを抱きしめているシーンを想像しています。それでリコットがときめくと思っているようです。
「危険じゃないか?」
「ルイーダ様が見ていますから、わたしに暴力をふるうようなことは絶対にできないと思います」
心配そうにするシリュウ兄さまに笑顔で答え、レンジロード様に話しかける。
「あなたがルイーダ様に想いを寄せていることなんて、多くの人はわかっているんですよ」
「ば、馬鹿な! そんなはずがない!」
「あなたは気づいていないかもしれませんが、ルイーダ様と話をしている時のあなたは、締まりの無い顔をしていて、いつもと全く違いますから」
「し、締まりの無い顔だと……?」
レンジロード様はルイーダ様に目を向けて言った。
レンジロード様への愛が冷めてしまったからわかるようになったけれど、こんなに単純な人だったなんて――
この人をクールだと思っていたわたしって、一体、何を見ていたのかしら。
自分自身に呆れていると、レンジロード様はわたしの表情を見て、レンジロード様に呆れていると思ったのか、怒り顔に変わる。
「私を馬鹿にするな!」
「馬鹿にはしていません」
「リコット、いい加減にしろ。私の気を引きたいのかもしれないが、それでは逆効果だぞ」
「気を引きたくないので逆効果ならそれで良いです」
「強がらなくていい」
レンジロード様はまだわたしが、自分のことを好きだと思っているみたいね。そこまで自分に自信があるのなら、ルイーダ様に告白すれば良いのに。
……と思ったけど、ジリン様との様子を見ていたら、自分がふられるということは理解できているみたいなのよね。
「強がってなんていません。レンジロード様、あなたは勘違いしておられるようですが、わたしはもうあなたに愛を求めていません」
「……どういうことだ?」
「あなたはわたしのことが嫌いでしたよね」
「そ……そんなことは……」
レンジロード様はやはり、ルイーダ様が気になるらしい。この会話が聞こえていないか確認するかのように、ルイーダ様のほうを見た。
賢い人なら、この人を上手く扱えていたのかもしれない。そして、それなりに幸せな夫婦生活を送っていたでしょう。
でも、わたしは違う。
階段から突き落とされた時点で、この人との関係は終わっている。
「わたしとあなたはお互いに嫌いあっているんです。それなのに再婚する理由がありますか?」
「……世間体のことを考えろ。それに、私は二番目に君を愛している」
ルイーダ様に聞こえないようにか、レンジロード様は小さな声で言った。聞こえていたけど、聞こえないふりをする。
「聞こえません。もっと大きな声で言ってもらえますか?」
「だから、世間体を考えろと言っているんだ!」
「あなたにとってわたしは嘘つき女なのでしょう? なら、別れて当然だと思われるのでは?」
「そうじゃないから言っているんだ!」
「どういうことですか?」
「今までは私に同情する声が多かった。それなのに最近は、別れた原因は私にあるのではないかと言われ始めている!」
シリュウ兄さまたちが手を回してくれているらしく、レンジロード様を支持していた人たちも表立って彼を擁護できなくなっているようだった。
「リコット、素直になるんだ」
「素直になっています」
興奮しているからか、肩で息をしているレンジロード様を睨みつけて叫ぶ。
「わたしはレンジロード様に愛なんて求めていません!」
「昔は求めていたではないか!」
「昔の話です! 今は求めていませんから、ご安心いただけますと幸いです!」
「……そんなわけがない」
レンジロード様は呟くと、鋭い眼差しをわたしに向けた。そして、わたしに近づきながらぶつぶつと話し始める。
「リコットが私の言うことを聞かないはずがない! 私への愛を思い出させてやる」
「近づかないでください」
「うるさい。私への愛を思い出させるために、お前を抱きしめてやる。そうすれば、私への愛を思い出すはずだ。そう本に書いてあった」
レンジロード様はそう言ったあと、ルイーダ様に叫ぶ。
「悪いが、向こうを向いていてくれないか」
「……承知いたしました!」
ルイーダ様はシリュウ兄さまとジリン様を見たあとに頷く。自分が見ていなくても、二人に見ておいてね、ということだと思う。
「さあ、リコット。有難く思え」
どんな本を読んだのかわからないけれど、レンジロード様は本気でわたしを抱きしめるつもりなのだとわかった。
気持ち悪い!
そう思ったわたしは、近づいてきたレンジロード様に向けて唐辛子スプレーを噴射した。
※
レンジロードの考えについて補足です。
わかりにくいかと思いますが、レンジロードは少女漫画などである「落ち着けよ」的な感じでヒーローがヒロインを抱きしめているシーンを想像しています。それでリコットがときめくと思っているようです。
1,948
お気に入りに追加
3,407
あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※

完結 この手からこぼれ落ちるもの
ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。
長かった。。
君は、この家の第一夫人として
最高の女性だよ
全て君に任せるよ
僕は、ベリンダの事で忙しいからね?
全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ
僕が君に触れる事は無いけれど
この家の跡継ぎは、心配要らないよ?
君の父上の姪であるベリンダが
産んでくれるから
心配しないでね
そう、優しく微笑んだオリバー様
今まで優しかったのは?

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

幼馴染だけを優先するなら、婚約者はもう不要なのですね
新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアと婚約関係を結んでいたグレイ男爵は、自身の幼馴染であるミラの事を常に優先していた。ある日、グレイは感情のままにアリシアにこう言ってしまう。「出て行ってくれないか」と。アリシアはそのままグレイの前から姿を消し、婚約関係は破棄されることとなってしまった。グレイとミラはその事を大いに喜んでいたが、アリシアがいなくなったことによる弊害を、二人は後に思い知ることとなり…。


【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中
恋愛
養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!大勢の男性から求婚されましたが誰を選べば正解なのかわかりません!〜
タイトルちょっと変更しました。
政略結婚の夫との冷えきった関係。義母は私が気に入らないらしく、しきりに夫に私と別れて再婚するようほのめかしてくる。
それを否定もしない夫。伯爵夫人の地位を狙って夫をあからさまに誘惑するメイドたち。私の心は限界だった。
なんとか自立するために仕事を始めようとするけれど、夫は自分の仕事につながる社交以外を認めてくれない。
そんな時に出会った画材工房で、私は絵を描く喜びに目覚めた。
そして気付いたのだ。今貴族女性でもつくことの出来る数少ない仕事のひとつである、魔法絵師としての力が私にあることに。
このまま絵を描き続けて、いざという時の為に自立しよう!
そう思っていた矢先、高価な魔石の粉末入りの絵の具を夫に捨てられてしまう。
絶望した私は、初めて夫に反抗した。
私の態度に驚いた夫だったけれど、私が絵を描く姿を見てから、なんだか夫の様子が変わってきて……?
そして新たに私の前に現れた5人の男性。
宮廷に出入りする化粧師。
新進気鋭の若手魔法絵師。
王弟の子息の魔塔の賢者。
工房長の孫の絵の具職人。
引退した元第一騎士団長。
何故か彼らに口説かれだした私。
このまま自立?再構築?
どちらにしても私、一人でも生きていけるように変わりたい!
コメントの人気投票で、どのヒーローと結ばれるかが変わるかも?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる