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22 元夫の執念 ④
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「ど、どうして絵を描いたんだ!? しかも、人に見せるだなんて!」
「描くとお話していたはずですが?」
「あんな場面を描いて、人を笑い者にするなんてどうかしている!」
「笑い者になんてしていません。ルイーダ様に見せようと思っただけです」
これは嘘ではない。だから、躊躇うことなく伝えると、レンジロード様は悔しそうな顔をする。
「そんなこと、屁理屈と同じじゃないか」
「屁理屈と言われましても、ルイーダ様に見せたいという純粋な気持ちで描いたものなんです。わたしは別にレンジロード様を辱めたいわけではなく、あなたの愛する人に本当のあなたを知ってほしいだけなんです」
「リコット、君は誤解している!」
元夫婦が会話しているのだから、注目が集まっても仕方がない。ここで、ルイーダ様が好きなことがばれたら、妻に捨てられた可哀想な夫ではいられなくなる。そう思ったのか、レンジロード様は小声で話しかけてくる。
「リコット、私は君を二番目に愛していると言っただろう」
「俺だったら二番目に愛しているなんて言わても心に響きませんけどね」
わたしの代わりに、シリュウ兄さまが大きな声で答えると、聞き耳を立てていた周りがざわめいた。レンジロード様は顔を真っ赤にしてシリュウ兄さまを睨みつける。
「あなたに言ってるんじゃない!」
「これは失礼」
シリュウ兄さまは笑顔で応えると、わたしに目を向ける。
「どうする? かなり注目を集めているみたいだし、場所を変える?」
「レンジロード様が諦めてくれないのなら、場所を変えて話をしたいと思います」
シリュウ兄さまからレンジロード様に視線を移し、彼に尋ねる。
「レンジロード様、わたしはあなたとやり直すつもりはありません。必要のない嘘をつく人は大嫌いなんです」
「私は嘘なんてついていない!」
「二番目に愛していると言っていますが、二番目ということもそうですが、愛しているというのも本当なんですか?」
周りに聞こえるように大きな声で言うと、レンジロード様は周りを見回しながら訴える。
「誤解だ! 二番目など言っていない!」
大きな声で否定したレンジロード様に、今度はルイーダ様が反応する。
「よりを戻してもらえるかは別として、よりを戻したいと言っているのですから、元妻を一番に愛していないとおかしいですわよね」
「……えっ」
ルイーダ様に結婚式を見られたくないという理由で、私を階段から突き落とすのだ。ということは、レンジロード様はルイーダ様に自分が他の女性を大事にしているところを絶対に見られたくないし、聞かれたくないはず。
でも、今、この状況で私を一番大事と言わなかったら、ルイーダ様に不誠実な男性だと思われてしまう。
レンジロード様、あなたはどうするつもり?
「一番だなんて言えませんよね、レンジロード様」
にこりと微笑んで尋ねると、レンジロード様の額から一筋の汗が流れた。ここでわたしは髪形が変わっていることに触れてみる。
「そういえば、レンジロード様、髪形を変えたんですね。さっきまではそんな髪形じゃなかったのに」
「まあ、本当ですわ! 情けない声を出して会場から出て行かれたので何事かと思いましたが、髪の毛を整えに行っていらっしゃったのですね。失礼なことを言いますが、先ほどの髪形のほうが似合ってらしてよ」
ルイーダ様に言われた瞬間、レンジロード様はあげていた前髪を慌てておろすなどして、元の髪形に戻す。
ルイーダ様が絡むと、レンジロード様は冷静でいられなくなってしまう。でも、この状態はわたしにとっては好都合だった。
「レンジロード様、ここでは人が多すぎますので、会場の外でお話ししましょう」
「わ、わかった」
先に歩き出したレンジロード様の後を、わたしとシリュウ兄さま、ルイーダ様とジリン様が付いていく。すると、レンジロード様は急に立ち止まり、振り返って叫ぶ。
「リコットと二人で話をしたいのに、どうして付いてくるんだ!?」
「「「駄目です」」」
わたし以外の三人が声を揃えて却下した。三人がレンジロード様を相手にしてくれている間に、わたしはメイドに頼んで、シルバートレイを背中側の腰のリボンの間に入れてもらった。
腰と背中に違和感を感じるけど、背中を見せなければレンジロード様にはばれない。
できればシルバートレイを使わないようにしたいけど、レンジロード様はわたしになんと言うつもりかしら。
「描くとお話していたはずですが?」
「あんな場面を描いて、人を笑い者にするなんてどうかしている!」
「笑い者になんてしていません。ルイーダ様に見せようと思っただけです」
これは嘘ではない。だから、躊躇うことなく伝えると、レンジロード様は悔しそうな顔をする。
「そんなこと、屁理屈と同じじゃないか」
「屁理屈と言われましても、ルイーダ様に見せたいという純粋な気持ちで描いたものなんです。わたしは別にレンジロード様を辱めたいわけではなく、あなたの愛する人に本当のあなたを知ってほしいだけなんです」
「リコット、君は誤解している!」
元夫婦が会話しているのだから、注目が集まっても仕方がない。ここで、ルイーダ様が好きなことがばれたら、妻に捨てられた可哀想な夫ではいられなくなる。そう思ったのか、レンジロード様は小声で話しかけてくる。
「リコット、私は君を二番目に愛していると言っただろう」
「俺だったら二番目に愛しているなんて言わても心に響きませんけどね」
わたしの代わりに、シリュウ兄さまが大きな声で答えると、聞き耳を立てていた周りがざわめいた。レンジロード様は顔を真っ赤にしてシリュウ兄さまを睨みつける。
「あなたに言ってるんじゃない!」
「これは失礼」
シリュウ兄さまは笑顔で応えると、わたしに目を向ける。
「どうする? かなり注目を集めているみたいだし、場所を変える?」
「レンジロード様が諦めてくれないのなら、場所を変えて話をしたいと思います」
シリュウ兄さまからレンジロード様に視線を移し、彼に尋ねる。
「レンジロード様、わたしはあなたとやり直すつもりはありません。必要のない嘘をつく人は大嫌いなんです」
「私は嘘なんてついていない!」
「二番目に愛していると言っていますが、二番目ということもそうですが、愛しているというのも本当なんですか?」
周りに聞こえるように大きな声で言うと、レンジロード様は周りを見回しながら訴える。
「誤解だ! 二番目など言っていない!」
大きな声で否定したレンジロード様に、今度はルイーダ様が反応する。
「よりを戻してもらえるかは別として、よりを戻したいと言っているのですから、元妻を一番に愛していないとおかしいですわよね」
「……えっ」
ルイーダ様に結婚式を見られたくないという理由で、私を階段から突き落とすのだ。ということは、レンジロード様はルイーダ様に自分が他の女性を大事にしているところを絶対に見られたくないし、聞かれたくないはず。
でも、今、この状況で私を一番大事と言わなかったら、ルイーダ様に不誠実な男性だと思われてしまう。
レンジロード様、あなたはどうするつもり?
「一番だなんて言えませんよね、レンジロード様」
にこりと微笑んで尋ねると、レンジロード様の額から一筋の汗が流れた。ここでわたしは髪形が変わっていることに触れてみる。
「そういえば、レンジロード様、髪形を変えたんですね。さっきまではそんな髪形じゃなかったのに」
「まあ、本当ですわ! 情けない声を出して会場から出て行かれたので何事かと思いましたが、髪の毛を整えに行っていらっしゃったのですね。失礼なことを言いますが、先ほどの髪形のほうが似合ってらしてよ」
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「レンジロード様、ここでは人が多すぎますので、会場の外でお話ししましょう」
「わ、わかった」
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