【完結】この出会いはきっと偶然じゃなかった

風見ゆうみ

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9  ノボウ伯爵家のメイドの後悔 ②

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 ロロミナ様の好んでいる仕立て屋は貴族の間でも値段が少しお高めということで有名だ。それでも、オーダーメイドの予約が一年先まで埋まっているという人気店でもある。
 彼女のためにこの店の既製品を買いに来たことは何度もあったので、店長は私の顔を覚えてくれていた。

「いらっしゃいませ、ノボウ伯爵夫人」

 店長も噂のことを知っているはずだが、そこはプロだからか、プライベートの話に自分から言及してくることはない。

「申し訳ございません。本日は新作は出ていないのです。どのようなものがご希望でしょうか」
「えーっと」

 連れてこられただけだとは言えず、返答に困っていると、年配のメイドのルーミーが口を開く。

「ルファラ様に似合うドレスが何着かほしいのです。予算は問いません。既製品でかまいませんから、質の良いものを出してくださいな」
「ちょっ、ルーミー!」

 私が抗議する前に、店長は笑顔で頷く。

「承知いたしました。ルファラ様、好みではないお色などございますか?」
「い、いえ、色と言うよりか、あの、お手頃な価格のものでお願いしたいんですけど」

 たとえジンシ侯爵が私に借りがあると思っていたとしても、ここまで贅沢させてもらうのは違う。
 すると、ルーミーが私の手を取って話す。

「ルファラ様、あまり遠慮されますとセオドア様に失礼ですわ」
「こ、ここのお金はセオドア様が出してくださるのですか!?」
「もちろんです。セオドア様はあなたやシド様を馬鹿にする方たちをこらしめたいようです。まあ、個人的に腹を立てているのもあるでしょうけどね」

 ルーミーは笑いながら続ける。

「馬鹿にされたままではいられない性格なのです。相手の鼻を明かすためにはお金は惜しみませんよ。さあさあ、細かいことは気になさらないで、お洋服を合わせましょう」

 ご機嫌なルーミーと店長に押し切られ、私はしばらくの間、着せ替え人形と化した。シドはその間、控え室で待ってくれていたのだが、待ち疲れたのか、ふかふかのソファの上で眠ってしまっていた。

「今日はここまでにしておきましょうか」

 店員が薦めてくれたドレスを5着選んだところで、ルーミーが満足そうに言った。

「一着で十分よ。メイドのあなたが決めてしまって大丈夫なの?」
「はい。これでもわたくし、位の高いメイドなのですよ」

 もしかして、ルーミーはメイドのふりをしている貴族なのでは……?
 でも、見覚えはないのよね。

 お金を出してもらう場合、気を遣いすぎるのは、相手がお金を持っていないと言っているようなものだから失礼に当たる。

「では、今回はお言葉に甘えます」
「ええ。それが一番ですよ」

 ドレスの支払いをルーミーとセオドア様の側近がしてくれている時、店に入ってきた人物がいた。

 ロロミナ様は新作が出るとわかれば、発売日に私にその服を買いに行かせていた。今日は何も出ていないのであれば、ノボウ伯爵家の人間に鉢合わせることもないと思っていたのだが、考えが甘かった。
 いや、セオドア様は鉢合わせさせるために、この店を選んだのかもしれない。

「……どうしてルファラ様がこちらにいらっしゃるのですか」

 店に入ってきたノボウ伯爵家のメイド長は、あからさまに嫌悪感を顔に出して、私に話しかけてきた。

「私の話はあなたも聞いているんでしょう? どこにいても私の勝手だわ」
「騒がれて本当に迷惑です。ところで、セオドア様に保護されたと聞きましたが、こんな高い店に来て大丈夫なんですか?」

 メイド長は蔑んだ目で私を見つめて言った。

 彼女はセオドア様の後ろにジンシ侯爵がいることを知らないのね。この店の店員とルーミーは顔見知りのようにも思えるし、お金の心配はいらなさそう。
 セオドア様の目的のためにも、ここは強く出てもいいでしょう。

「あなたはセオドア様には、この店の支払いができないと言いたいの?」

 私に問われたメイド長は、焦った顔になって目を逸らした。
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