60 / 75
30-2
しおりを挟む
もう二度と、あの場所には戻らないと思っていた。
けれど、いつかこういう日が来るんじゃないかとも思っていた。
まさかこんなにも早く、訪れるなんて。
本当に、人生何が起こるかわからない。
辺境へ左遷されたと思ったら、待っていたのは殿下で。
自分が選ばれたことを知って。
そして今――
「ただいま戻りました。父上」
「長旅、ご苦労であった。エルムス」
「ありがとうございます」
「うむ、その者が例の……」
「はい。錬金術師のルミナ・ロノワードです」
私は殿下と共に、玉座の間で国王陛下に謁見している。
膝をつき、頭を下げて。
過去最大級の緊張感だ。
殿下が代わりに話してくれているから大丈夫だけど、緊張で声も出ない気がする。
置物みたいに固まっていると、話が進む。
「限定解放の結果を聞こう」
「はい。経過はおおむね順調です。特に大きな問題もなく、このまま建設が終われば、一般開放も可能かと」
殿下が淡々と説明していた。
私も聞くべきなのだけど、緊張であまり頭に入ってこない。
むしろ早く終わってくれないかな、なんて失礼なことすら考えてしまう。
「大体はわかった。順調そうで何よりだ」
「はい」
「ルミナ・ロノワードよ」
「は、はい!」
まさかの国王陛下が私の名前を呼んだ。
ビックリして声が裏返る。
何か粗相をしてしまったのかと思い、ビクビクしている私に陛下は尋ねてくる。
「そなたから見て、シュナイデンはどうだ?」
「どう……ですか……」
陛下と視線が合う。
試されているような気分になった。
私がどう答えるのかを、陛下は待っている。
緊張で回答に詰まる私に、殿下は小さな声で囁く。
「思うままに応えてくれ。それでいい」
背中を押されて、私は口を開く。
「す、素敵な場所です。私が、人生を捧げたいと思えるくらい」
「――!」
「そうか。よくわかった」
今、国王陛下が笑ったように見えた。
一瞬だけだったから、気のせいかもしれないけど。
ほんの少し、緊張が和らいだ。
「期待しているぞ」
「は、はい!」
こうして、長いようで短い時間が終わる。
玉座の間を出てすぐ、私は大きくため息をこぼした。
「はぁ……」
「よく頑張ったな」
「殿下……緊張しました」
「だろうな」
殿下は笑い、嬉しそうに続ける。
「けど、いい言葉だった。嬉しかったよ」
「お、思ったことを口に出しただけですので」
「だからこそ嬉しいんだ。あの場所には、俺の夢があるからな」
「――はい」
私も知ってる。
殿下があの都市に、どんな想いを抱いているのか。
知っているからこそ、人生をかける価値を見出した。
「疲れただろう? 客室を用意してあるから休むといい。俺は少し予定があるから、先に行っていてくれ」
「はい」
私はこれから先も、あの都市で頑張っていく。
そう決めている。
たとえ誰に、何を言われようとも。
「――ルミナ」
「――! お姉様……」
誰と出会おうとも。
けれど、いつかこういう日が来るんじゃないかとも思っていた。
まさかこんなにも早く、訪れるなんて。
本当に、人生何が起こるかわからない。
辺境へ左遷されたと思ったら、待っていたのは殿下で。
自分が選ばれたことを知って。
そして今――
「ただいま戻りました。父上」
「長旅、ご苦労であった。エルムス」
「ありがとうございます」
「うむ、その者が例の……」
「はい。錬金術師のルミナ・ロノワードです」
私は殿下と共に、玉座の間で国王陛下に謁見している。
膝をつき、頭を下げて。
過去最大級の緊張感だ。
殿下が代わりに話してくれているから大丈夫だけど、緊張で声も出ない気がする。
置物みたいに固まっていると、話が進む。
「限定解放の結果を聞こう」
「はい。経過はおおむね順調です。特に大きな問題もなく、このまま建設が終われば、一般開放も可能かと」
殿下が淡々と説明していた。
私も聞くべきなのだけど、緊張であまり頭に入ってこない。
むしろ早く終わってくれないかな、なんて失礼なことすら考えてしまう。
「大体はわかった。順調そうで何よりだ」
「はい」
「ルミナ・ロノワードよ」
「は、はい!」
まさかの国王陛下が私の名前を呼んだ。
ビックリして声が裏返る。
何か粗相をしてしまったのかと思い、ビクビクしている私に陛下は尋ねてくる。
「そなたから見て、シュナイデンはどうだ?」
「どう……ですか……」
陛下と視線が合う。
試されているような気分になった。
私がどう答えるのかを、陛下は待っている。
緊張で回答に詰まる私に、殿下は小さな声で囁く。
「思うままに応えてくれ。それでいい」
背中を押されて、私は口を開く。
「す、素敵な場所です。私が、人生を捧げたいと思えるくらい」
「――!」
「そうか。よくわかった」
今、国王陛下が笑ったように見えた。
一瞬だけだったから、気のせいかもしれないけど。
ほんの少し、緊張が和らいだ。
「期待しているぞ」
「は、はい!」
こうして、長いようで短い時間が終わる。
玉座の間を出てすぐ、私は大きくため息をこぼした。
「はぁ……」
「よく頑張ったな」
「殿下……緊張しました」
「だろうな」
殿下は笑い、嬉しそうに続ける。
「けど、いい言葉だった。嬉しかったよ」
「お、思ったことを口に出しただけですので」
「だからこそ嬉しいんだ。あの場所には、俺の夢があるからな」
「――はい」
私も知ってる。
殿下があの都市に、どんな想いを抱いているのか。
知っているからこそ、人生をかける価値を見出した。
「疲れただろう? 客室を用意してあるから休むといい。俺は少し予定があるから、先に行っていてくれ」
「はい」
私はこれから先も、あの都市で頑張っていく。
そう決めている。
たとえ誰に、何を言われようとも。
「――ルミナ」
「――! お姉様……」
誰と出会おうとも。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
2,176
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる