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 もう二度と、あの場所には戻らないと思っていた。
 けれど、いつかこういう日が来るんじゃないかとも思っていた。
 まさかこんなにも早く、訪れるなんて。
 本当に、人生何が起こるかわからない。
 辺境へ左遷されたと思ったら、待っていたのは殿下で。
 自分が選ばれたことを知って。

 そして今――

「ただいま戻りました。父上」
「長旅、ご苦労であった。エルムス」
「ありがとうございます」
「うむ、その者が例の……」
「はい。錬金術師のルミナ・ロノワードです」

 私は殿下と共に、玉座の間で国王陛下に謁見している。
 膝をつき、頭を下げて。
 過去最大級の緊張感だ。
 殿下が代わりに話してくれているから大丈夫だけど、緊張で声も出ない気がする。
 置物みたいに固まっていると、話が進む。

「限定解放の結果を聞こう」
「はい。経過はおおむね順調です。特に大きな問題もなく、このまま建設が終われば、一般開放も可能かと」

 殿下が淡々と説明していた。
 私も聞くべきなのだけど、緊張であまり頭に入ってこない。
 むしろ早く終わってくれないかな、なんて失礼なことすら考えてしまう。

「大体はわかった。順調そうで何よりだ」
「はい」
「ルミナ・ロノワードよ」
「は、はい!」

 まさかの国王陛下が私の名前を呼んだ。
 ビックリして声が裏返る。
 何か粗相をしてしまったのかと思い、ビクビクしている私に陛下は尋ねてくる。

「そなたから見て、シュナイデンはどうだ?」
「どう……ですか……」

 陛下と視線が合う。
 試されているような気分になった。
 私がどう答えるのかを、陛下は待っている。
 緊張で回答に詰まる私に、殿下は小さな声で囁く。

「思うままに応えてくれ。それでいい」

 背中を押されて、私は口を開く。

「す、素敵な場所です。私が、人生を捧げたいと思えるくらい」
「――!」
「そうか。よくわかった」

 今、国王陛下が笑ったように見えた。
 一瞬だけだったから、気のせいかもしれないけど。
 ほんの少し、緊張が和らいだ。

「期待しているぞ」
「は、はい!」

 こうして、長いようで短い時間が終わる。
 玉座の間を出てすぐ、私は大きくため息をこぼした。

「はぁ……」
「よく頑張ったな」
「殿下……緊張しました」
「だろうな」

 殿下は笑い、嬉しそうに続ける。

「けど、いい言葉だった。嬉しかったよ」
「お、思ったことを口に出しただけですので」
「だからこそ嬉しいんだ。あの場所には、俺の夢があるからな」
「――はい」

 私も知ってる。
 殿下があの都市に、どんな想いを抱いているのか。
 知っているからこそ、人生をかける価値を見出した。

「疲れただろう? 客室を用意してあるから休むといい。俺は少し予定があるから、先に行っていてくれ」
「はい」

 私はこれから先も、あの都市で頑張っていく。
 そう決めている。
 たとえ誰に、何を言われようとも。

「――ルミナ」
「――! お姉様……」

 誰と出会おうとも。
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