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「どうして……わかったんですか?」
「仕事以外で考え事、しかも今日となればそれ以外ないかなと思ってな」
「な、なるほど……」
実際当たっているから言い返せない。
私は殿下のことが知りたくて、気になっていた。
だから改めて尋ねる。
「お伺いしても、いいですか?」
「……少し暗い話になるが、いいか?」
「はい」
殿下は立ち止まる。
ちょうど道端に休憩用のベンチがあって、そこに二人で座った。
一呼吸おいて、殿下は語る。
「俺には友人がいたんだ。とても仲のいい友人……昔は、そいつも入れて四人で幼馴染だった。楽しかったよ。四人揃った時なんて賑やかで、何をするにも一緒で……」
殿下なとても懐かしそうだった。
その横顔から、明るく楽しい思い出なのだとわかる。
「その方は今どちらに?」
「……もういない」
「……!」
「そいつは、ユーリは死んだよ」
明るい想いでは突如、悲しい結末に繋がる。
彼らにはユーリというもう一人の幼馴染がいた。
十歳の頃に知り合い、二年間を共に過ごしたという。
仲のいい友人だったが、ユーリだけは三人とは違った。
「あいつは平民だった。王城で働いていた騎士見習いだ。俺たちは気にしてなかったけど、あいつは気を遣ってたし、周りは俺たちの関係に否定的だった」
王族と平民が対等であるはずがない。
友人は選ぶべきだという貴族もいたらしい。
しかし気にせず、彼らは交友を続けた。
そんなある日のことだった。
王城を暗殺者が襲撃し、殿下がターゲットにされてしまった。
「王国に恨みのある一族の末裔が、俺たちを殺すために動いた。まだ子供だった俺も狙われて、殺されかけた」
「だ、大丈夫だったんですか?」
「ああ、見ての通り、俺は生きてる」
ホッとした。
目の前に殿下がいるのだから、無事に決まっている。
それでも安心した。
「俺は……な」
「――まさか……」
「あいつは、俺を庇って死んだんだ」
「っ……」
襲ってきた暗殺者から殿下を庇い、友人のユーリは命を落とした。
彼は身を挺して、大切な友を救った。
まさに英雄だ。
でも、それを聞いた周囲の反応は冷ややかだった。
「おかしいよな? 死んだのが俺じゃなくてよかったとか。平民も偶には役に立つとか……誰もあいつの死を悲しまない。悲しまないにしても、せめて称えてほしかった。あいつのおかげで俺は生きているのに……」
ユーリの功績は、何も残らない。
王子を救った英雄にもなれず、襲撃事件の死者に名を連ねただけ。
周囲のユーリに対する感情は冷ややかだった。
どうでもいいとすら、思われていた。
「その時に思ったんだ。権力ってなんだ? 地位ってなんだ? 貴族ってなんだ? 本当に必要なものなのか? 差別と区別は何が違う?」
「殿下……」
珍しく感情的な殿下を見て、胸が苦しくなる。
もう十分、殿下の意思は伝わった。
「だから、国を変えるためにここへ」
「そうだ。小さな変化じゃダメなんだ。国の在り方を、今の貴族制度を見直したい。そのために俺一人の力じゃ足りない」
だから、同じ志の仲間と共に、この都市を作り上げようとしている。
彼らが思い描くのは新しい世界。
新しい国の形。
その始まりこそが、この地だった。
「仕事以外で考え事、しかも今日となればそれ以外ないかなと思ってな」
「な、なるほど……」
実際当たっているから言い返せない。
私は殿下のことが知りたくて、気になっていた。
だから改めて尋ねる。
「お伺いしても、いいですか?」
「……少し暗い話になるが、いいか?」
「はい」
殿下は立ち止まる。
ちょうど道端に休憩用のベンチがあって、そこに二人で座った。
一呼吸おいて、殿下は語る。
「俺には友人がいたんだ。とても仲のいい友人……昔は、そいつも入れて四人で幼馴染だった。楽しかったよ。四人揃った時なんて賑やかで、何をするにも一緒で……」
殿下なとても懐かしそうだった。
その横顔から、明るく楽しい思い出なのだとわかる。
「その方は今どちらに?」
「……もういない」
「……!」
「そいつは、ユーリは死んだよ」
明るい想いでは突如、悲しい結末に繋がる。
彼らにはユーリというもう一人の幼馴染がいた。
十歳の頃に知り合い、二年間を共に過ごしたという。
仲のいい友人だったが、ユーリだけは三人とは違った。
「あいつは平民だった。王城で働いていた騎士見習いだ。俺たちは気にしてなかったけど、あいつは気を遣ってたし、周りは俺たちの関係に否定的だった」
王族と平民が対等であるはずがない。
友人は選ぶべきだという貴族もいたらしい。
しかし気にせず、彼らは交友を続けた。
そんなある日のことだった。
王城を暗殺者が襲撃し、殿下がターゲットにされてしまった。
「王国に恨みのある一族の末裔が、俺たちを殺すために動いた。まだ子供だった俺も狙われて、殺されかけた」
「だ、大丈夫だったんですか?」
「ああ、見ての通り、俺は生きてる」
ホッとした。
目の前に殿下がいるのだから、無事に決まっている。
それでも安心した。
「俺は……な」
「――まさか……」
「あいつは、俺を庇って死んだんだ」
「っ……」
襲ってきた暗殺者から殿下を庇い、友人のユーリは命を落とした。
彼は身を挺して、大切な友を救った。
まさに英雄だ。
でも、それを聞いた周囲の反応は冷ややかだった。
「おかしいよな? 死んだのが俺じゃなくてよかったとか。平民も偶には役に立つとか……誰もあいつの死を悲しまない。悲しまないにしても、せめて称えてほしかった。あいつのおかげで俺は生きているのに……」
ユーリの功績は、何も残らない。
王子を救った英雄にもなれず、襲撃事件の死者に名を連ねただけ。
周囲のユーリに対する感情は冷ややかだった。
どうでもいいとすら、思われていた。
「その時に思ったんだ。権力ってなんだ? 地位ってなんだ? 貴族ってなんだ? 本当に必要なものなのか? 差別と区別は何が違う?」
「殿下……」
珍しく感情的な殿下を見て、胸が苦しくなる。
もう十分、殿下の意思は伝わった。
「だから、国を変えるためにここへ」
「そうだ。小さな変化じゃダメなんだ。国の在り方を、今の貴族制度を見直したい。そのために俺一人の力じゃ足りない」
だから、同じ志の仲間と共に、この都市を作り上げようとしている。
彼らが思い描くのは新しい世界。
新しい国の形。
その始まりこそが、この地だった。
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