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 殿下は続ける。

「王族同士の婚姻は複雑なんだ。どちらがどちらの国の人間になるか、というのもある。特に二人は、それぞれの国で特別な位置にいる」
「特別な位置……」
「そう。彼女は聖女で言うまでもないが、トリスタンもだ。あいつはあれで、モースト帝国最強の男だからな」
「さ、最強!?」

 パッと思い浮かべるトリスタン様の姿。
 懐のでかい豪快な人、というイメージが強い彼が、帝国最強の男?
 噂に聞いたことはあったけど、殿下がおっしゃるなら事実なのだろう。
 今さらながら、私が凄い方々と知り合いになったものだ。
 殿下も含めて。

「互いに国にとって重要な存在、それ故に手放せない。だが結婚すれば、どちらかを失い、手に入れることになる」
「面倒なことね。私たちがそうしたいと言っているだからいいじゃない。別に国を捨てるわけじゃないんだから」

 そう言いながらも、彼女は王女様だ。
 きっと簡単ではないことをわかっている。
 わかっているからこそ、もどかしいに違いない。

「はぁ、早く国境なんてなくなればいいのよ。そうすれば、私たちを拒む壁なんて……」
「そうだな。そのための第一歩がこの都市だ」
「そうね」
「こ、国境をなくすって……」

 殿下と聖女様が、そろって私を見る。

「ああ、それが俺たちの最終目標の一つだ」
「三国の国境をなくして一つにするのよ。素敵でしょ?」
「そ、それは……」

 言ってもいいことなの?
 そういえば以前、貴族制度について殿下とトリスタン様は苦言を呈していた。
 あれも十分な爆弾発言だった。
 けれど今回はもっと重い。
 国境をなくす……それは、国の存在意義を否定しているようなものだ。

「驚くよな」
「は、はい……」
「私たちはね? それぞれが王国の代表だけど、共通していることがあるのよ」
「共通……ですか」
「ええ。私たちは二番目……王になる可能性が低い王族であること。だから比較的自由だし、期待値も第一候補よりは低い」

 殿下とトリスタン様は第二王子、聖女様も第二王女。
 全員が上に一人、ご兄弟や姉妹がいらっしゃる。
 この世界では生まれた順番はとても需要だ。
 先に生まれた者が優遇されることが多く、性能や地位があれば揺るがない。
 王族ともなればそれが顕著だろう。
 故に彼らは、次期王の候補ではあっても、可能性は低い。

「そういう立場だから、王都を離れて活動もできる。俺たちには合っていたな」
「そうね。ずっと王都なんて窮屈だわ。それに、王様になんてなったら、好きな人も選べないもの……ねぇ、ルミナ? あなたもあるでしょ? 王国への不満」
「え? いえ、そんなことは……」
「嘘ね。あなたの境遇は知っているわ。貴族だからこその差別……不満がないなんてありえないもの」

 私は殿下と目が合った。

「俺が教えた。すまないな」
「いえ、そうですね……」

 殿下の前でハッキリは言えないけど、確かに不満はある。
 貴族なんかに生まれなければ、もっと楽に、もっと自由に生きられたのだろうか。
 平民には平民の辛さもあるだろう。
 結局は地位や権力に振り回されるのかもしれない。

「私たちはそれぞれ、今の国の在り方に不満があるの。変えるためには力がいるわ。だから作るのよ。自分たちで実績を」
「それがこの交易都市シュナイデンだ」

 国境をなくす。
 壮大で、夢物語のような目標を堂々と掲げる。
 そんな殿下や聖女様が、少し羨ましいと思ってしまった。
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