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 トリスタン・モースト。
 モースト帝国の第二王子であり、武芸に秀でた才能を持つと称される天才。
 あらゆる武術を身につけた彼は、モースト帝国最強の騎士。
 各国合同の騎士演習に参加されているところを、一度だけ遠目に見たことがある。
 他国だから接点はまったくないため、すぐには気づけなかった。
 それにしても大きな体だ。
 身長が殿下より高いのもあるけど、筋肉質な肉体は大工の方々よりも……。

「ん? どうした? 俺の筋肉に見惚れたか? 触ってもいいぞ?」
「え、いや、その……」
「おい、それセクハラだからやめておけ」
「何言ってんだ? 俺の筋肉をわいせつ物みたいに言うんじゃねーよ!」
「言ってないから。まったく、ルミナが困ってるだろ?」

 実際困っていた。
 どんな人なのかわからないのに、ぐいぐい距離を詰めてくるから。
 私は苦笑いをする。

「おお、すまんすまん。そういや自己紹介してねーな。オレはトリスタンだ。よろしく頼むぜ! エルムス期待の錬金術師だろ?」
「は、はい! ルミナ・ロノワードです! よろしくお願いします」

 期待の錬金術師……うん、嬉しい言葉だ。
 頭を下げて、表情が緩む。

「しっかしついに呼んだのか。随分とかかったな」
「手続きがあるんだよ。いろいろと策も多い」
「めんどくせーな。家柄だの地位だの、そんなもんなくなりゃーいいのによ」
「え……」

 一国の王子が、貴族制度を批判したような……。
 聞き間違いじゃないよね?

「そこについては半分同感だが、そう簡単じゃないだろ」
「半分……」

 殿下も半分は今の意見に同意しているの?
 貴族制への批判、それはそのまま現代の王政に対する批判に等しい。
 一国の王子が国政を批判する意味は重い。
 それがわらかない王子たちじゃないと思うけど……。
 ただその疑問より先に、気になったことが一つ。

「あの、お二人は……」

 どういうご関係なのだろうか?
 隣国の王子同士、というだけには見えなかった。
 二人は顔を一度顔を合わせ、笑顔を見せながら答える。

「俺たちは古い友人だ」
「お互い二番目で歳も近かったからな! 幼馴染みてーなもんだよ」
「幼馴染……そうだったのですね」

 知らなかった。
 隣国の王子同士が仲良しな幼馴染か。
 物語の中だけに見られる特権かと思っていたから、なんだかほっこりする。

「あともう一人いるんだが、そういや最近見てねーな」
「忙しいんだろ。彼女は俺たちと違って、特別な役目もあるから」
「そうだな。まっ、そのうち顔出すだろ」
「彼女……」

 ひょっとしてあの人?
 と、思い浮かんだ人物がいたけど、いずれわかることだ。
 今は深く考えなくてもいいだろう。
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