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 歴史というのは偉大で、時に面倒なものでもある。
 文化や伝統を守るために、現代の風習や考え方から逸脱することは、前世の世界でもあった。
 この世界も例外じゃないのかもしれない。
 でも、この街はそういう面倒なことを排除して、いいものは取り入れようという精神で運営される。
 前世を知る私にとっても、居心地がいい場所になる予感がした。
 
 それからしばらく他愛のない話をして、気づけば元の場所に戻ってきていた。

「この建物は特に大きいから目立ちますね」
「だろ? 迷った時はここに戻ってくれば解決する。よく覚えておくといい」
「はい。そうします」
「執行部が正式に動き出したら、案内所とかも作らないとな。迷子の預り所もいるか。あとは治安維持のために騎士団の待機場所を……」

 殿下は真剣な顔でお仕事のことをぼそぼそと呟いていた。
 私以上に考えることが多そうだ。
 なんだか宮廷で働いていた頃の自分を見ているような気持になる。

「殿下、私に手伝えることがあればいつもでおっしゃってください!」
「ん? ああ、ありがとな。けど、お前にも自分の仕事があるんだ。宮廷の時みたいに、無理に何倍も働くのはなしだぞ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「普通のことだ。さ、もう遅い。明日に備えて休め」
「はい!」

 殿下のおかげで迷うことなく散歩ができた。
 心なしか眠気もある。
 お腹は相変わらず減っていないけど、明日になればグーグー音を鳴らすだろう。
 今はお腹いっぱいだ。
 殿下とゆっくりお話ができて。

「じゃあな」
「殿下!」
「ん?」
「私を選んでくれて、本当にありがとうございます!」

 今度は言えた。
 改めて、感謝の言葉を。
 殿下は少し驚いた顔をして、優しく微笑む。

「こちらこそ、期待している」
「はい!」

 こうして、初めての夜は終わった。
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