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「……はっ!」

 唐突に目覚めて、ベッドから起き上がる。
 部屋は真っ暗だった。
 とっくに夜になっていたらしく、カーテンの空いた窓の外は星空が見える。
 
「寝ちゃってたんだ」

 よほど疲れていたらしい。
 変な姿勢で寝ていたから、髪の毛もぐちゃぐちゃだ。
 
「シャワーでも浴びよう」

 服を着替え、シャワールームを使う。
 この国の生活を支えているのは魔導具だ。
 前世が科学によって進歩したのに対して、この世界は魔法によって人類社会は発展している。
 シャワーも見た目は普通だけど、立派な魔導具で……。

「あれ? 違う?」

 よく見ると、私が知っている魔導具のシャワーじゃない。
 どちらかと言えば、前世のシャワーに近い。

「まさか、電気?」

 いつの間に電気を取り入れるようになったの?
 それともこの街だから?
 さっそく疑問が一つ増えた。
 明日、殿下に会った時に聞いてみようと思う。
 
 シャワーを浴びて着替え直した私は、キッチンに立つ。
 何か食べようかと思ったのだけど……。

「あんまりお腹空いてない……かも」

 空腹は感じていない。
 寝起きで感覚が鈍っているのだろうか。
 食事は昼にしたっきりで、その後は何も食べていないのに。
 
「お腹空いてないのに無理に食べてもしかたないし、どうしようかな。外は夜だし……」

 もう一度寝る?
 今から眠って、朝までぐっすりいける?
 寝起きで目は冴えている。
 無理にベッドへ入ったところで、眠れずに悶々と過ごすだけになるだろう。
 結果、私は部屋を出て散歩することにした。
 身体を軽く動かせばお腹も空いて、いずれ眠気も来るだろうと思ったから。

「自由にしていいって話だし、いいよね」

 と、自分の中で確認する。
 昼間と違って、建物内は静かだった。
 みんな休んでいるのだろう。
 邪魔をしないように、起こさないようになるべく静かに外出する。

 外は明るかった。
 工事途中の建物を照らす光のおかげだ。
 初めての場所だから、少しだけ怖さはあるけど。
 人通りのなさも理由だろう。
 時間も時間だし、街の広さに対して、人の数は王都に比べて圧倒的に少ないみたいだ。

「さすがに夜は工事もしてないか」
「当たり前だろ? 夜は休む時間だぞ」
「ですよね――って! 殿下!?」
「こんばんは、ルミナ」

 振り返った先にはエルムス殿下の姿があった。

「ど、どうしてここに?」
「ん? こっちのセリフだぞ。こんな夜更けにどうしたんだ?」
「えっと、私は眠れなくて散歩を……」
「散歩か」
「はい。あの、すみませんでした」
「別に謝ることじゃない。ただ、夜遅いし女性が一人で出歩くのは感心しないな。今度から夜に出かけるなら、俺かアルマに声をかけるといい」
「え! さ、さすがにそれはご迷惑では……」

 散歩のために殿下に声をかける?
 なんと恐れ多い。

「迷惑じゃないぞ。俺も夜は時々こうして散歩してる。今日は偶々、お前が外に行くのが見えたから出てきただけなんだが」
「私を追いかけて……?」
「ふらっと出て行ったから、迷子にならないか心配だろ?」
「……」

 私のことを心配して、追いかけてくれた?
 殿下がわたざわざ、私のために……。

「どうした?」
「いえ! ありがとうございます!」
「声がでかいぞ。もう夜だからな?」
「あ、すみません、つい……」

 気をつけないと。
 興奮したりビックリすると、ついつい大きなリアクションをとってしまう。
 
「さて、散歩に来たんだ。せっかくだから一緒に歩こう」
「はい! 光栄です」

 こうして図らずして、殿下と二人で夜の街を歩くことになった。
 いろんな意味でドキドキだ。
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