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「よいしょっと」
荷物を馬車に詰め込む。
辺境の領地へは、馬車を借りて行くことになった。
私以外に乗客はいない。
御者のおじさんも面倒くさそうな顔をしていた。
それも仕方がないかもしれない。
馬車で一週間もかかるらしいから。
「すみません、お願いします」
「かしこまりました」
長旅だ。
生まれ変わって初めて、王都を出る。
こんな理由で外の世界に出ることになるなんて、小さい頃は夢にも思わなかったけど。
「シュナイデン……どんな場所なのかな」
私がこれから向かう領地の主要都市らしい。
地図にも載っていなくて、調べてもよくわからなかった。
よほど辺鄙な土地なのだろう。
事前に調べてわかったのは、私が暮らすラットマン王国と、モーストとタガリスという二つの隣国の国境が交わる地点にあるということ。
三国は同盟を結んでいて、友好国として長年互いに支え合っている。
争いごとは起きないと思うけど、国同士で生活様式や文化も違うし、少し不安はある。
変な問題に巻き込まれないといいな。
行ったらいきなり、他国のお偉い人が待っていたりして?
「なんて、さすがにないよね」
不安よりも、期待のほうが大きい。
もう余分な仕事をやらされることはない。
居心地の悪い屋敷に戻る必要もなくなった。
最初から一人だから、今さら一人で生活することに何の不安もない。
こういう日が来るだろうと思って、家事全般も一人でこなせるようにしてある。
あとはどんな場所で、どんな仕事をさせられるかだ。
◇◇◇
「……えぇ……」
到着して、私は驚きのあまり見上げた。
空ではない。
空を一部覆いそうな勢いの高い壁に。
「な、なにこれ……」
「ここまででいいですね? こっから先は入場許可がないと入れんので」
「え、許可? そんなのいるんですか?」
「当たり前でしょ? ここは三国家が共同で開発してる交易都市ですよ?」
「こ、交易都市!?」
そんなに凄い場所だったの?
しかも三つの国が共同で運営している?
初めて聞いたんだけど。
「知っていたんですか?」
「私らは仕事柄ね。一般人にはまだ知られてないですし、王都から出ない貴族なんかも知らない人は多いんじゃないですか。あなたみたいにね」
「は、はぁ……」
「それじゃ、私はこれで」
「え、あ!」
御者のおじさんはそそくさと行ってしまった。
取り残された私はぽつんと立っていると……。
「失礼、ルミナ・ロノワードというのはお前か?」
「え、あ、はい!」
突然見知らぬ男性に声をかけられて、思わず慌てて振り返った。
私は見惚れた。
その容姿に、基本とした立ち姿と、人を惹きつけるような赤い瞳に。
「待っていたぞ」
「あ、あなたは――エルムス・ラットマン殿下!?」
ラットマン王国の第二王子様?
どうして王族の方が、こんな辺境の地に……?
いいや、ここが交易都市だとするなら、いても不思議じゃない?
それ以前に……。
「声が大きいな」
「す、すみません。驚いてしまって」
「元気があるのはいいことだ。じゃあ荷物をこっちに、中を案内しよう」
「あ、あの!」
さりげなく、殿下は私の大きな荷物を代わりに持ってくれた。
その優しさに触れるより、私はどうしても気になった。
「ど、どうして、殿下が私の名前を知っているんですか?」
一度も接点はない。
あるとしても、お姉様と会ったことがある程度だろう。
パーティーに参加するのはいつも姉の役目だった。
私は毎日、宮廷で働き続けていたから。
そんな私の名を、容姿を見て私だと気づけたのは一体……。
「なんでって、お前をここにスカウトしたのは俺だからだ」
「……へ?」
「あれ? ちゃんと伝わってなかったのか? 俺がお前を、この交易都市シュナイデンを発展させる一人に選んだんだ」
「え、え、ええええええええええ!?」
荷物を馬車に詰め込む。
辺境の領地へは、馬車を借りて行くことになった。
私以外に乗客はいない。
御者のおじさんも面倒くさそうな顔をしていた。
それも仕方がないかもしれない。
馬車で一週間もかかるらしいから。
「すみません、お願いします」
「かしこまりました」
長旅だ。
生まれ変わって初めて、王都を出る。
こんな理由で外の世界に出ることになるなんて、小さい頃は夢にも思わなかったけど。
「シュナイデン……どんな場所なのかな」
私がこれから向かう領地の主要都市らしい。
地図にも載っていなくて、調べてもよくわからなかった。
よほど辺鄙な土地なのだろう。
事前に調べてわかったのは、私が暮らすラットマン王国と、モーストとタガリスという二つの隣国の国境が交わる地点にあるということ。
三国は同盟を結んでいて、友好国として長年互いに支え合っている。
争いごとは起きないと思うけど、国同士で生活様式や文化も違うし、少し不安はある。
変な問題に巻き込まれないといいな。
行ったらいきなり、他国のお偉い人が待っていたりして?
「なんて、さすがにないよね」
不安よりも、期待のほうが大きい。
もう余分な仕事をやらされることはない。
居心地の悪い屋敷に戻る必要もなくなった。
最初から一人だから、今さら一人で生活することに何の不安もない。
こういう日が来るだろうと思って、家事全般も一人でこなせるようにしてある。
あとはどんな場所で、どんな仕事をさせられるかだ。
◇◇◇
「……えぇ……」
到着して、私は驚きのあまり見上げた。
空ではない。
空を一部覆いそうな勢いの高い壁に。
「な、なにこれ……」
「ここまででいいですね? こっから先は入場許可がないと入れんので」
「え、許可? そんなのいるんですか?」
「当たり前でしょ? ここは三国家が共同で開発してる交易都市ですよ?」
「こ、交易都市!?」
そんなに凄い場所だったの?
しかも三つの国が共同で運営している?
初めて聞いたんだけど。
「知っていたんですか?」
「私らは仕事柄ね。一般人にはまだ知られてないですし、王都から出ない貴族なんかも知らない人は多いんじゃないですか。あなたみたいにね」
「は、はぁ……」
「それじゃ、私はこれで」
「え、あ!」
御者のおじさんはそそくさと行ってしまった。
取り残された私はぽつんと立っていると……。
「失礼、ルミナ・ロノワードというのはお前か?」
「え、あ、はい!」
突然見知らぬ男性に声をかけられて、思わず慌てて振り返った。
私は見惚れた。
その容姿に、基本とした立ち姿と、人を惹きつけるような赤い瞳に。
「待っていたぞ」
「あ、あなたは――エルムス・ラットマン殿下!?」
ラットマン王国の第二王子様?
どうして王族の方が、こんな辺境の地に……?
いいや、ここが交易都市だとするなら、いても不思議じゃない?
それ以前に……。
「声が大きいな」
「す、すみません。驚いてしまって」
「元気があるのはいいことだ。じゃあ荷物をこっちに、中を案内しよう」
「あ、あの!」
さりげなく、殿下は私の大きな荷物を代わりに持ってくれた。
その優しさに触れるより、私はどうしても気になった。
「ど、どうして、殿下が私の名前を知っているんですか?」
一度も接点はない。
あるとしても、お姉様と会ったことがある程度だろう。
パーティーに参加するのはいつも姉の役目だった。
私は毎日、宮廷で働き続けていたから。
そんな私の名を、容姿を見て私だと気づけたのは一体……。
「なんでって、お前をここにスカウトしたのは俺だからだ」
「……へ?」
「あれ? ちゃんと伝わってなかったのか? 俺がお前を、この交易都市シュナイデンを発展させる一人に選んだんだ」
「え、え、ええええええええええ!?」
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