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4.ドキドキが止まらない
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彼を見ていると、ドキドキが止まらない。
でも、だからこそ名残惜しい。
きっとこうして話してくれるのも今だけだ。
効果がキレれば、またいつも通りに戻る。
殿下は女嫌いで、私は一人ぼっちのままこの部屋で過ごす。
ならもう一度……ううん、それで良い。
薬の効果に頼っても、殿下に迷惑をかけるだけだから。
一時でも、私のことを褒めてくれただけで十分だ。
そう思って納得した。
いや、納得させた。
私がこれ以上、殿下のことを考えてしまわないように。
それなのに……
「邪魔をするぞ、ユーリア」
翌日も。
「今日は特に調子がよくない。休む時間をくれるか?」
翌々日も。
「今日は……特にないが、休ませてくれると助かる」
そのさらに次の日も、殿下は私の研究室にやってきた。
おかしい。
惚れ薬の効果はもっても一日が限界だったはず。
もうとっくに効果切れだ。
それでも殿下は毎日、私の元を訪れる。
他愛のない話をしたり、お互いのことを話したり。
何気ない時間を過ごしにやってくる。
語り合ううちに、接し合ううちに、殿下の人柄がわかるようになってきた。
王城での殿下の評判はあまり良くない。
女嫌いという点を除いても、他人と深く関わらず、愛想笑いすらしないことで有名だった。
取り入ろうとする多くの者が諦めてしまうほど、殿下は冷たく孤独を愛する人だと。
私もそう思っていた。
でも実際はおしゃべりで、少ないけど笑顔も見せてくれる。
私の話だってちゃんと聞いてくれて、努力を認めてくれる優しさがある。
何だか時を過ごすうちに、私のほうが殿下に惹かれていくようで。
だからこそ、今のままは駄目だと思ったんだ。
惚れ薬なんて卑怯な手で、殿下の心を引こうなんて。
そんなことしちゃいけない。
優しい殿下を裏切る行為だ。
「あ、あの殿下! 私は殿下に謝らないといけません」
「ユーリア? 突然どうしたんだ?」
「私、殿下に嘘をついていました」
「嘘……?」
責められるのは怖かった。
嫌われてしまうことは予想できる。
それでも言うべきだと思って、私はあの日のことを打ち明けた。
殿下が飲んだのは回復ポーションじゃないくて、私が気まぐれで作った惚れ薬だということを。
こうして殿下が私を気にかけてくれるのは、すべてその効果なのだと。
「なるほど、惚れ薬か」
「申し訳ありません、殿下。私は殿下の気持ちを……」
「そうか。ようやく合点がいった」
「……え?」
怒られると思っていた。
怒られてしかるべき行いだ。
にも関わらず、真実を知った殿下の表情は、どこか楽しそうだったんだ。
「いや最初から不思議だとは思っていた。あのポーションを飲んでから急に君のことが気になり始めて、気づけば君のことばかり考えていたんだ。翌日も続いて、私はここへ足を運んだ。だがその日以降、徐々に気持ちは落ち着いてきた」
「そ、それは効果が薄れてきたのだと思います。あれは一時的なもので」
「そうなのだろうな。現に翌日、君と話している中で冷静になったよ。あくまで一時の効果なのだな」
「はい。ですから……」
私は気づく。
殿下の話通りなら、効果はとっくにきれていたことになる。
しかも翌日にはもう。
だったらどうして、今日まで殿下はここに足を運ばれたんだ?
あの時の自分がおかしいと気づいていたのに。
「どうして……殿下は今日もここに?」
「ふっ、ユーリア、君はどうして俺が女嫌いになったか知っているか?」
「い、いえ」
様々な噂は流れている。
しかし本当のことを知っている人はいない。
私も首を横に振ると、殿下が答える。
でも、だからこそ名残惜しい。
きっとこうして話してくれるのも今だけだ。
効果がキレれば、またいつも通りに戻る。
殿下は女嫌いで、私は一人ぼっちのままこの部屋で過ごす。
ならもう一度……ううん、それで良い。
薬の効果に頼っても、殿下に迷惑をかけるだけだから。
一時でも、私のことを褒めてくれただけで十分だ。
そう思って納得した。
いや、納得させた。
私がこれ以上、殿下のことを考えてしまわないように。
それなのに……
「邪魔をするぞ、ユーリア」
翌日も。
「今日は特に調子がよくない。休む時間をくれるか?」
翌々日も。
「今日は……特にないが、休ませてくれると助かる」
そのさらに次の日も、殿下は私の研究室にやってきた。
おかしい。
惚れ薬の効果はもっても一日が限界だったはず。
もうとっくに効果切れだ。
それでも殿下は毎日、私の元を訪れる。
他愛のない話をしたり、お互いのことを話したり。
何気ない時間を過ごしにやってくる。
語り合ううちに、接し合ううちに、殿下の人柄がわかるようになってきた。
王城での殿下の評判はあまり良くない。
女嫌いという点を除いても、他人と深く関わらず、愛想笑いすらしないことで有名だった。
取り入ろうとする多くの者が諦めてしまうほど、殿下は冷たく孤独を愛する人だと。
私もそう思っていた。
でも実際はおしゃべりで、少ないけど笑顔も見せてくれる。
私の話だってちゃんと聞いてくれて、努力を認めてくれる優しさがある。
何だか時を過ごすうちに、私のほうが殿下に惹かれていくようで。
だからこそ、今のままは駄目だと思ったんだ。
惚れ薬なんて卑怯な手で、殿下の心を引こうなんて。
そんなことしちゃいけない。
優しい殿下を裏切る行為だ。
「あ、あの殿下! 私は殿下に謝らないといけません」
「ユーリア? 突然どうしたんだ?」
「私、殿下に嘘をついていました」
「嘘……?」
責められるのは怖かった。
嫌われてしまうことは予想できる。
それでも言うべきだと思って、私はあの日のことを打ち明けた。
殿下が飲んだのは回復ポーションじゃないくて、私が気まぐれで作った惚れ薬だということを。
こうして殿下が私を気にかけてくれるのは、すべてその効果なのだと。
「なるほど、惚れ薬か」
「申し訳ありません、殿下。私は殿下の気持ちを……」
「そうか。ようやく合点がいった」
「……え?」
怒られると思っていた。
怒られてしかるべき行いだ。
にも関わらず、真実を知った殿下の表情は、どこか楽しそうだったんだ。
「いや最初から不思議だとは思っていた。あのポーションを飲んでから急に君のことが気になり始めて、気づけば君のことばかり考えていたんだ。翌日も続いて、私はここへ足を運んだ。だがその日以降、徐々に気持ちは落ち着いてきた」
「そ、それは効果が薄れてきたのだと思います。あれは一時的なもので」
「そうなのだろうな。現に翌日、君と話している中で冷静になったよ。あくまで一時の効果なのだな」
「はい。ですから……」
私は気づく。
殿下の話通りなら、効果はとっくにきれていたことになる。
しかも翌日にはもう。
だったらどうして、今日まで殿下はここに足を運ばれたんだ?
あの時の自分がおかしいと気づいていたのに。
「どうして……殿下は今日もここに?」
「ふっ、ユーリア、君はどうして俺が女嫌いになったか知っているか?」
「い、いえ」
様々な噂は流れている。
しかし本当のことを知っている人はいない。
私も首を横に振ると、殿下が答える。
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