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「その理由は、女性が私を見る目が、私ではなく肩書きを見ているとわかってしまったからだ」
殿下が女嫌いになった理由。
それは彼が王子だった故の苦悩だった。
第一王子である彼は、小さい頃から多くの人たちと関わる機会があった。
中には当然女性も含まれていて、彼女たちはよく殿下に言い寄ったそうだ。
多くの女性が彼に好意を伝えた。
しかし、それは彼が王子だからであって、彼への好意ではなかった。
彼にはそれが見え透いてしまった。
自分を見ているようで、誰も見ていない。
見ているのは肩書きと、先にある自分の栄光だけ。
「それが嫌で、避けるようになったのが最初だ。歳を重ねるごとに、周囲からアプローチは増え続けた。時には色仕掛けなんてものもあって……本当に参ったよ。惚れ薬を飲まされたのは初めてだったけど」
「も、申し訳ありません」
「ははっ、責めていないよ。むしろ逆だ。君は惚れ薬を飲んだ俺に取り入ろうとはしなかった。変に色目を使ったりもしない。あの状況なら簡単だったはずだし、普通ならそうする。でも……君は違った」
「そ、それは……」
申し訳なさと、卑怯だと思う気持ちがあったから。
「理由は何でも構わない。俺にとって重要なのは、君が俺の肩書きに目がくらむような女性じゃなかったということだ。だから効果がきれた後も、君のことが気になってしまった。気付けば図々しく毎日来てしまったよ。迷惑をかけた」
「そ、そんな迷惑だなんて!」
「思わないか? なら、明日からもここへ来てもいいか?」
「は、は……」
はい、と答えたい。
それと同じくらい、申し訳なさも感じる。
私は王宮でも評判が良くない。
錬金術師としての評判ではなく、私個人の評判が。
フロア殿下は次期王になるお方だ。
私の関わることで悪い影響が出てしまうかもしれない。
殿下が優しい方だからこそ、迷惑はかけたくなかった。
「先に言っておくが、評判なんて今さら気にしていないぞ?」
「え……で、でも」
「君が気にすることじゃない。それに言ったはずだ。俺は君が凄い人だと思っている。才能も努力も、こうしてここにいることも。あの日の言葉は嘘じゃない。俺の本心だ」
「殿下……」
惚れ薬の効果は薄れていた。
今となっては完全になくなっている。
それでも口にする言葉は、紛れもなく彼の言葉に他ならない。
「そんな君だからこそ、俺はもっと関わりたいと思った。俺は君と仲良くしたいし、もっと色々な話がしたい。君はどうだ?」
「私は……」
「嘘はいらない。建前もいらない。君がどう思うのかを」
そんなの考えるまでもない。
私の努力を認めてくれた初めての人。
優しい言葉は嬉しかったし、他愛のない話も楽しかった。
だから――
「私……も、もっと仲良くなりたいです」
「そうか。なら、これからよろしく」
「はい」
流れる涙が頬をつたる。
今まで何度も涙を流してきた。
どれも悔しさや悲しさの詰まった涙だったけど、今は違う。
温かくて愛おしい……
そんな涙があると知った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
新作「芋くさ聖女~」投稿しました!
良ければ読んでみてください。
殿下が女嫌いになった理由。
それは彼が王子だった故の苦悩だった。
第一王子である彼は、小さい頃から多くの人たちと関わる機会があった。
中には当然女性も含まれていて、彼女たちはよく殿下に言い寄ったそうだ。
多くの女性が彼に好意を伝えた。
しかし、それは彼が王子だからであって、彼への好意ではなかった。
彼にはそれが見え透いてしまった。
自分を見ているようで、誰も見ていない。
見ているのは肩書きと、先にある自分の栄光だけ。
「それが嫌で、避けるようになったのが最初だ。歳を重ねるごとに、周囲からアプローチは増え続けた。時には色仕掛けなんてものもあって……本当に参ったよ。惚れ薬を飲まされたのは初めてだったけど」
「も、申し訳ありません」
「ははっ、責めていないよ。むしろ逆だ。君は惚れ薬を飲んだ俺に取り入ろうとはしなかった。変に色目を使ったりもしない。あの状況なら簡単だったはずだし、普通ならそうする。でも……君は違った」
「そ、それは……」
申し訳なさと、卑怯だと思う気持ちがあったから。
「理由は何でも構わない。俺にとって重要なのは、君が俺の肩書きに目がくらむような女性じゃなかったということだ。だから効果がきれた後も、君のことが気になってしまった。気付けば図々しく毎日来てしまったよ。迷惑をかけた」
「そ、そんな迷惑だなんて!」
「思わないか? なら、明日からもここへ来てもいいか?」
「は、は……」
はい、と答えたい。
それと同じくらい、申し訳なさも感じる。
私は王宮でも評判が良くない。
錬金術師としての評判ではなく、私個人の評判が。
フロア殿下は次期王になるお方だ。
私の関わることで悪い影響が出てしまうかもしれない。
殿下が優しい方だからこそ、迷惑はかけたくなかった。
「先に言っておくが、評判なんて今さら気にしていないぞ?」
「え……で、でも」
「君が気にすることじゃない。それに言ったはずだ。俺は君が凄い人だと思っている。才能も努力も、こうしてここにいることも。あの日の言葉は嘘じゃない。俺の本心だ」
「殿下……」
惚れ薬の効果は薄れていた。
今となっては完全になくなっている。
それでも口にする言葉は、紛れもなく彼の言葉に他ならない。
「そんな君だからこそ、俺はもっと関わりたいと思った。俺は君と仲良くしたいし、もっと色々な話がしたい。君はどうだ?」
「私は……」
「嘘はいらない。建前もいらない。君がどう思うのかを」
そんなの考えるまでもない。
私の努力を認めてくれた初めての人。
優しい言葉は嬉しかったし、他愛のない話も楽しかった。
だから――
「私……も、もっと仲良くなりたいです」
「そうか。なら、これからよろしく」
「はい」
流れる涙が頬をつたる。
今まで何度も涙を流してきた。
どれも悔しさや悲しさの詰まった涙だったけど、今は違う。
温かくて愛おしい……
そんな涙があると知った。
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