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26.進級
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朝、学園に向かう。
足取りは軽やかに、期待と少しばかりの不安を混ぜ込んで。
「ブラン!」
「ニナ」
彼女が後ろから駆け寄ってくる。
僕の隣までくると、眩しい太陽よりも光る笑顔を見せる。
「おはよう! 今日もこのまま図書館に行くの?」
「うん。そのつもりだよ」
「そっか~」
ニナはちょっぴり不満そうな顔をする。
理由はなんとなくわかる。
「ニナは午前中に受けたい授業があるんだよね?」
「そうだよー。あ、ブランも一緒に受けない?」
「僕は聞いても仕方ないよ」
「そういうと思った」
僕にとって授業はあまり意味がない。
ユニークギフトのことを知っているのは所持者本人だ。
本を開いている間だけ他のギフトを使えるようになったけど、使い方も本の主人公が経験した内容がそのまま流れ込んでくるし、誰かに聞く必要がない。
「でもさ。それじゃ前とおんなじじゃない?」
「あははは、そうだね」
「笑ってるけどいいの? 私たち二年生になったんだよ」
そう、僕たちは二年生になった。
進級試験があったのは二月前のことだ。
いろいろと予想外のことが起こって大変だったけど、僕とニナは無事に進級することができた。
もちろん、僕たちだけじゃない。
「ブラン君、ニナさん、おはようございます」
「あ! フレンダさん!」
「おはよう」
フレンダさんが前を歩く僕たちに声をかけてくれた。
彼女も進級試験に合格し、二年生になっている。
「フレンダさんはこの後どうするの? なにか受けたい授業を受ける?」
「はい。そのつもりでいます」
「ほらほら! フレンダさんも授業受けるんだよ!」
「い、いやそれは当たり前だから」
彼女も自分のギフトを持っているんだから、それに関係する授業を受けるのは普通のことだ。
「聞いてよフレンさん。ブランは今日も図書館に行くんだって!」
「え、あ、はい。そうですよね」
「あれれ? なんか思ってた反応と違う……」
二人の反応がかみ合わず、お互いに首を傾げる。
たぶんニナは自分の意見に賛同してほしかったんだろうけど、フレンダさんは言う。
「ブラン君は受けたい授業があるんですか?」
「ううん、僕は特にないよ」
「ですよね。それなら受けなくてもいいと……思います。授業は必要な人が受けるものですから」
「ええー! フレンダさんがブランの味方するぅ!」
子供らしく拗ねるニナにあたふたするフレンダさん。
この数か月で彼女も少し変わった。
前は自分の意見を言ったり、話しかけたりすることもなかったのに。
なんだかちょっと明るくなった気がする。
それもあったニナも気兼ねなく話ができているんだろう。
「おうおう、朝から盛り上がってんなー」
「ひょっとして修羅場?」
「ジーク君、フィオさんもおはよう」
「おう! んでなんだ? 痴話喧嘩か?」
合流したジーク君に説明しようとする。
それより先にニナが動いて、彼の隣を歩くフィオさんに抱き着く。
「聞いてよ二人とも! ブランがまた図書館に引き籠ろうとしてるんだよ!」
「なんだと!? なんかあったのか!」
「違うよ! 別に引き籠るつもりじゃなくて、受けたい授業がないからいつも通り図書館に行こうとしてるだけ」
「なんだそうか。驚いたぜ」
ジーク君はすぐに理解してくれたみたいだ。
このわかりやすさには助けられる。
ニナはちょっぴり不服そうだけどね。
「そんなにずっと図書館にいたら、また司書さんだと思われるよ!」
「え、別にいいかな?」
「いいの!?」
「うん。本は好きだし、図書館にいると落ち着くんだ」
一年以上ずっと居座った場所だからかな?
ここが自分の場所だって、身体と心が覚えているのかもしれない。
無意識に学園を歩いていたら必ず図書館にたどり着くように、当たり前の場所になっている。
「それに……」
僕はニナやみんなを見る。
「ブラン?」
「なんでもない」
◇◇◇
授業へ向かうみんなと別れた僕は、一人で図書館に向かった。
僕は手持ちの鍵を使って扉を開ける。
誰もいない図書館に一人、カバンをおいてカウンターに腰をおろした。
「ふぅ……やっぱり落ち着く」
部屋に広まる本の香り。
目を開けば必ず視界には本が映る。
読みたい本も探し放題だ。
本好きにはたまらない光景と環境だろう。
しばらくは暇な時間だ。
授業中の利用者は少ないし、朝の早い時間帯は特に誰もこない。
一人きりの時間が長く続く。
以前までは、この時間を心地よく思えると同時に、心の奥底では孤独を嘆いていた。
僕の居場所はここしかなくて、誰とも関われないと。
「すみません。探してる本があるんですが」
「はい。タイトルはわかりますか?」
他人との会話も、図書館を利用する人との事務的な会話だけ。
ニナがいなかったら、他愛のない話の一つもできない。
これが僕の全て、一生変わらないと諦めていた。
でも今は――
扉が開く音がするたびに、僕は期待する。
時間を確認して、授業の終わりを待ちわびる。
今か今かとソワソワする。
ニナが、フレンダさんが、ジーク君とフィオさんが……。
僕の元にやってくることを。
「ブラン!」
「いらっしゃい。みんな」
僕の唯一の居場所。
ここは今、みんなが集まる場所になった。
だから心地いい。
僕にとって新しい意味で、かけがえのない思い出の場所になったんだ。
こうして僕は二年生になった。
足取りは軽やかに、期待と少しばかりの不安を混ぜ込んで。
「ブラン!」
「ニナ」
彼女が後ろから駆け寄ってくる。
僕の隣までくると、眩しい太陽よりも光る笑顔を見せる。
「おはよう! 今日もこのまま図書館に行くの?」
「うん。そのつもりだよ」
「そっか~」
ニナはちょっぴり不満そうな顔をする。
理由はなんとなくわかる。
「ニナは午前中に受けたい授業があるんだよね?」
「そうだよー。あ、ブランも一緒に受けない?」
「僕は聞いても仕方ないよ」
「そういうと思った」
僕にとって授業はあまり意味がない。
ユニークギフトのことを知っているのは所持者本人だ。
本を開いている間だけ他のギフトを使えるようになったけど、使い方も本の主人公が経験した内容がそのまま流れ込んでくるし、誰かに聞く必要がない。
「でもさ。それじゃ前とおんなじじゃない?」
「あははは、そうだね」
「笑ってるけどいいの? 私たち二年生になったんだよ」
そう、僕たちは二年生になった。
進級試験があったのは二月前のことだ。
いろいろと予想外のことが起こって大変だったけど、僕とニナは無事に進級することができた。
もちろん、僕たちだけじゃない。
「ブラン君、ニナさん、おはようございます」
「あ! フレンダさん!」
「おはよう」
フレンダさんが前を歩く僕たちに声をかけてくれた。
彼女も進級試験に合格し、二年生になっている。
「フレンダさんはこの後どうするの? なにか受けたい授業を受ける?」
「はい。そのつもりでいます」
「ほらほら! フレンダさんも授業受けるんだよ!」
「い、いやそれは当たり前だから」
彼女も自分のギフトを持っているんだから、それに関係する授業を受けるのは普通のことだ。
「聞いてよフレンさん。ブランは今日も図書館に行くんだって!」
「え、あ、はい。そうですよね」
「あれれ? なんか思ってた反応と違う……」
二人の反応がかみ合わず、お互いに首を傾げる。
たぶんニナは自分の意見に賛同してほしかったんだろうけど、フレンダさんは言う。
「ブラン君は受けたい授業があるんですか?」
「ううん、僕は特にないよ」
「ですよね。それなら受けなくてもいいと……思います。授業は必要な人が受けるものですから」
「ええー! フレンダさんがブランの味方するぅ!」
子供らしく拗ねるニナにあたふたするフレンダさん。
この数か月で彼女も少し変わった。
前は自分の意見を言ったり、話しかけたりすることもなかったのに。
なんだかちょっと明るくなった気がする。
それもあったニナも気兼ねなく話ができているんだろう。
「おうおう、朝から盛り上がってんなー」
「ひょっとして修羅場?」
「ジーク君、フィオさんもおはよう」
「おう! んでなんだ? 痴話喧嘩か?」
合流したジーク君に説明しようとする。
それより先にニナが動いて、彼の隣を歩くフィオさんに抱き着く。
「聞いてよ二人とも! ブランがまた図書館に引き籠ろうとしてるんだよ!」
「なんだと!? なんかあったのか!」
「違うよ! 別に引き籠るつもりじゃなくて、受けたい授業がないからいつも通り図書館に行こうとしてるだけ」
「なんだそうか。驚いたぜ」
ジーク君はすぐに理解してくれたみたいだ。
このわかりやすさには助けられる。
ニナはちょっぴり不服そうだけどね。
「そんなにずっと図書館にいたら、また司書さんだと思われるよ!」
「え、別にいいかな?」
「いいの!?」
「うん。本は好きだし、図書館にいると落ち着くんだ」
一年以上ずっと居座った場所だからかな?
ここが自分の場所だって、身体と心が覚えているのかもしれない。
無意識に学園を歩いていたら必ず図書館にたどり着くように、当たり前の場所になっている。
「それに……」
僕はニナやみんなを見る。
「ブラン?」
「なんでもない」
◇◇◇
授業へ向かうみんなと別れた僕は、一人で図書館に向かった。
僕は手持ちの鍵を使って扉を開ける。
誰もいない図書館に一人、カバンをおいてカウンターに腰をおろした。
「ふぅ……やっぱり落ち着く」
部屋に広まる本の香り。
目を開けば必ず視界には本が映る。
読みたい本も探し放題だ。
本好きにはたまらない光景と環境だろう。
しばらくは暇な時間だ。
授業中の利用者は少ないし、朝の早い時間帯は特に誰もこない。
一人きりの時間が長く続く。
以前までは、この時間を心地よく思えると同時に、心の奥底では孤独を嘆いていた。
僕の居場所はここしかなくて、誰とも関われないと。
「すみません。探してる本があるんですが」
「はい。タイトルはわかりますか?」
他人との会話も、図書館を利用する人との事務的な会話だけ。
ニナがいなかったら、他愛のない話の一つもできない。
これが僕の全て、一生変わらないと諦めていた。
でも今は――
扉が開く音がするたびに、僕は期待する。
時間を確認して、授業の終わりを待ちわびる。
今か今かとソワソワする。
ニナが、フレンダさんが、ジーク君とフィオさんが……。
僕の元にやってくることを。
「ブラン!」
「いらっしゃい。みんな」
僕の唯一の居場所。
ここは今、みんなが集まる場所になった。
だから心地いい。
僕にとって新しい意味で、かけがえのない思い出の場所になったんだ。
こうして僕は二年生になった。
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