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25.英雄への一歩
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ギフトによる風じゃない。
魔術によって強化され、周囲を切断するほど強力な風に進化している。
風の色が変化し、彼自身もどす黒いオーラを纏う。
僕は困惑していた。
ありえない光景だからだ。
人間には魔力がない。
魔力は悪魔たちが宿す力で、僕たち人間の力ではないんだ。
魔術を使うには魔力がなければいけない。
だから、使えるはずがないんだ。
それなのに……。
「どういうことですか! どうしてラスト君が魔術を!」
「簡単な話だよ。俺が誰よりも優れているからだ。魔力にすら選ばれるほどにね! 君たちには一生かけても追いつけない場所にいるんだよ!」
彼は興奮しているのか、天井を見上げて高らかに語る。
彼がどうして魔術を身に着けたのかはわからない。
だけど今はそれを考えている余裕はない。
こうしている間にも、彼女たちの命は危険にさらされている。
「やめてください。ラスト君」
「なにをやめる? お前が死ぬのは決定事項なんだぞ」
「……そうですか」
今のが最後の確認だ。
彼にはもう、退く気はないらしい。
だったらやることは一つしかない。
「やめないというなら、僕が止めます」
「ふっ、図に乗るなよ。虫けらが」
瞬間、彼は突風を僕に放つ。
鋭利な刃物のように空間を斬り裂き地面を抉りながら僕に迫る。
「――【聖剣の英雄】!」
咄嗟に僕はギフトを発動させ、聖剣プレアデスを召喚した。
突風を聖剣で防御する。
しかし威力に押されてそのまま吹き飛ばされてしまう。
「くっ」
「その力で魔獣を倒したのか。面白い。だがくだらないな!」
「っ……」
聖剣で防ぎきれなかった。
吹き飛ばされたのは自分からだ。
あのままとどまっていたら、風に切り刻まれていただろう。
証拠に、聖剣を握っていた手や腕からは血が流れる。
「ブラン!」
「ニナ。君だけは俺に従えば助けてやってもいいぞ! これから永久に俺の道具として生きると誓えばな!」
「ラスト君……そんなの絶対に嫌だよ!」
「なんだと?」
彼女はハッキリと断った。
そして僕を見る。
「ブランは負けないから」
その視線は僕に、信じていると伝えていた。
彼女の信頼が僕の心を燃やす。
「そうか……なら仲良く死ねばいい。俺は新しい女を探すだけだ」
「させない」
「ん? なんだって?」
僕は聖剣を構える。
切っ先を天井に向けて、掲げるように。
「そんなこと僕がさせない。ニナは……みんなは僕が守る。僕の役目だ!」
「ふ、ふふふははははははははは! 面白い冗談を言うな~ 俺を笑わせて隙を作ろうとしているのか? だとしたら悪くない作戦だよ」
「そんなつもりはないよ。僕は本気だ」
「……なら不快だな」
鋭い視線には殺気が宿る。
彼は僕を殺すつもりだ。
おそらく殺すことに躊躇はない。
すでに彼は、人として越えてはいけない一線を越えてしまっている。
魔術を身に着けた時点で、人をやめたようなものだ。
「僕はもう、君を人間だとは思わない」
「ああそうしてくれ! 俺もお前たちと同列に扱われるなんてごめんだ!」
彼は人の道を外れた獣だ。
あの時に戦った魔獣のように。
人々に害をなす。
だから全力で戦う。
覚悟は決まった。
「星よ――満ちろ」
「なんだ? 天井に夜空?」
殺風景だった部屋の天井が夜空へと変化した。
夜空には星々が輝く。
中でも特に眩しく光る六つの星々。
「聖剣プレアデスは別名星の聖剣と呼ばれている。主人公は星の力を借りることで、邪悪な存在を退けてきたんだ」
「何を言って、よくわからないが見世物芸じゃ俺には勝てないぞ」
「見世物じゃないよ」
確かにこの剣は本物じゃない。
物語の主人公が使っていた剣を模して造られた偽物だ。
それでも、宿った力は同じ。
鏡写しのように、僕の姿と力は聖剣の英雄そのものと化す。
彼は変化に気付く。
「なんだ? 俺の魔力が!」
「聖剣の力は魔を退ける。力が満ちたことで、ラスト君が放っている魔力を打ち消しているんだ」
「打ち消して……ふざけるな! そんなことができるか!」
怒りに任せて彼は突風を放つ。
僕は聖剣を一振りして、放たれた風を霧散させた。
「ば、馬鹿な……」
「ラスト君……」
正直、勿体ないと思う気持ちもあるんだ。
彼には才能があった。
力を持っていた。
その力を正しく使えば、きっと多くの人に必要とされたはずだ。
「だけど君は道を踏み外した。やっちゃいけないことをした。だから僕が罰を下す」
「ふざけるな……ふざけるなよ! 何様のつもりだ! なんなんだお前は!」
僕は聖剣を両手で握る。
そして――
「僕はブラン・プラトニアだよ。君が知らない、新しい僕だ」
聖剣を振り下ろす。
星の力を貯めた一振りは純白の斬撃を放った。
ただの攻撃ではなく、魔を滅し浄化する力。
この力は人間を傷つけない。
彼の身体を守り、宿った悪しき力だけ力だけを消し去る。
戦う決意と同時に、僕は決めていた。
彼も守ることを。
物語の英雄なら、決して道を踏み外した者も見捨てない。
少なくとも僕が知る英雄たちは、そういう強い人たちで、僕もそうなりたいと思った。
「ブラン!」
「ニナ」
ラスト君が気を失ったことで、風の壁は解除された。
一目散に彼女は僕のもとへ駆け寄り、抱き着く。
「やったねブラン! 格好良かったよ!」
「……ありがとう」
その直後、歓声と拍手があがった。
みんなが僕を見ている。
その視線に宿っているのは感謝の気持ちだった。
前に僕は思った。
みんなのヒーローにはなれなくてもいいと。
あの時の覚悟に嘘はない。
だけど、なりたい気持ちがなくなったわけでもなかった。
今ならなれる気がするよ。
みんなを守れるヒーローに。
この歓声が僕の背中を押す。
英雄への一歩を踏み出させる。
魔術によって強化され、周囲を切断するほど強力な風に進化している。
風の色が変化し、彼自身もどす黒いオーラを纏う。
僕は困惑していた。
ありえない光景だからだ。
人間には魔力がない。
魔力は悪魔たちが宿す力で、僕たち人間の力ではないんだ。
魔術を使うには魔力がなければいけない。
だから、使えるはずがないんだ。
それなのに……。
「どういうことですか! どうしてラスト君が魔術を!」
「簡単な話だよ。俺が誰よりも優れているからだ。魔力にすら選ばれるほどにね! 君たちには一生かけても追いつけない場所にいるんだよ!」
彼は興奮しているのか、天井を見上げて高らかに語る。
彼がどうして魔術を身に着けたのかはわからない。
だけど今はそれを考えている余裕はない。
こうしている間にも、彼女たちの命は危険にさらされている。
「やめてください。ラスト君」
「なにをやめる? お前が死ぬのは決定事項なんだぞ」
「……そうですか」
今のが最後の確認だ。
彼にはもう、退く気はないらしい。
だったらやることは一つしかない。
「やめないというなら、僕が止めます」
「ふっ、図に乗るなよ。虫けらが」
瞬間、彼は突風を僕に放つ。
鋭利な刃物のように空間を斬り裂き地面を抉りながら僕に迫る。
「――【聖剣の英雄】!」
咄嗟に僕はギフトを発動させ、聖剣プレアデスを召喚した。
突風を聖剣で防御する。
しかし威力に押されてそのまま吹き飛ばされてしまう。
「くっ」
「その力で魔獣を倒したのか。面白い。だがくだらないな!」
「っ……」
聖剣で防ぎきれなかった。
吹き飛ばされたのは自分からだ。
あのままとどまっていたら、風に切り刻まれていただろう。
証拠に、聖剣を握っていた手や腕からは血が流れる。
「ブラン!」
「ニナ。君だけは俺に従えば助けてやってもいいぞ! これから永久に俺の道具として生きると誓えばな!」
「ラスト君……そんなの絶対に嫌だよ!」
「なんだと?」
彼女はハッキリと断った。
そして僕を見る。
「ブランは負けないから」
その視線は僕に、信じていると伝えていた。
彼女の信頼が僕の心を燃やす。
「そうか……なら仲良く死ねばいい。俺は新しい女を探すだけだ」
「させない」
「ん? なんだって?」
僕は聖剣を構える。
切っ先を天井に向けて、掲げるように。
「そんなこと僕がさせない。ニナは……みんなは僕が守る。僕の役目だ!」
「ふ、ふふふははははははははは! 面白い冗談を言うな~ 俺を笑わせて隙を作ろうとしているのか? だとしたら悪くない作戦だよ」
「そんなつもりはないよ。僕は本気だ」
「……なら不快だな」
鋭い視線には殺気が宿る。
彼は僕を殺すつもりだ。
おそらく殺すことに躊躇はない。
すでに彼は、人として越えてはいけない一線を越えてしまっている。
魔術を身に着けた時点で、人をやめたようなものだ。
「僕はもう、君を人間だとは思わない」
「ああそうしてくれ! 俺もお前たちと同列に扱われるなんてごめんだ!」
彼は人の道を外れた獣だ。
あの時に戦った魔獣のように。
人々に害をなす。
だから全力で戦う。
覚悟は決まった。
「星よ――満ちろ」
「なんだ? 天井に夜空?」
殺風景だった部屋の天井が夜空へと変化した。
夜空には星々が輝く。
中でも特に眩しく光る六つの星々。
「聖剣プレアデスは別名星の聖剣と呼ばれている。主人公は星の力を借りることで、邪悪な存在を退けてきたんだ」
「何を言って、よくわからないが見世物芸じゃ俺には勝てないぞ」
「見世物じゃないよ」
確かにこの剣は本物じゃない。
物語の主人公が使っていた剣を模して造られた偽物だ。
それでも、宿った力は同じ。
鏡写しのように、僕の姿と力は聖剣の英雄そのものと化す。
彼は変化に気付く。
「なんだ? 俺の魔力が!」
「聖剣の力は魔を退ける。力が満ちたことで、ラスト君が放っている魔力を打ち消しているんだ」
「打ち消して……ふざけるな! そんなことができるか!」
怒りに任せて彼は突風を放つ。
僕は聖剣を一振りして、放たれた風を霧散させた。
「ば、馬鹿な……」
「ラスト君……」
正直、勿体ないと思う気持ちもあるんだ。
彼には才能があった。
力を持っていた。
その力を正しく使えば、きっと多くの人に必要とされたはずだ。
「だけど君は道を踏み外した。やっちゃいけないことをした。だから僕が罰を下す」
「ふざけるな……ふざけるなよ! 何様のつもりだ! なんなんだお前は!」
僕は聖剣を両手で握る。
そして――
「僕はブラン・プラトニアだよ。君が知らない、新しい僕だ」
聖剣を振り下ろす。
星の力を貯めた一振りは純白の斬撃を放った。
ただの攻撃ではなく、魔を滅し浄化する力。
この力は人間を傷つけない。
彼の身体を守り、宿った悪しき力だけ力だけを消し去る。
戦う決意と同時に、僕は決めていた。
彼も守ることを。
物語の英雄なら、決して道を踏み外した者も見捨てない。
少なくとも僕が知る英雄たちは、そういう強い人たちで、僕もそうなりたいと思った。
「ブラン!」
「ニナ」
ラスト君が気を失ったことで、風の壁は解除された。
一目散に彼女は僕のもとへ駆け寄り、抱き着く。
「やったねブラン! 格好良かったよ!」
「……ありがとう」
その直後、歓声と拍手があがった。
みんなが僕を見ている。
その視線に宿っているのは感謝の気持ちだった。
前に僕は思った。
みんなのヒーローにはなれなくてもいいと。
あの時の覚悟に嘘はない。
だけど、なりたい気持ちがなくなったわけでもなかった。
今ならなれる気がするよ。
みんなを守れるヒーローに。
この歓声が僕の背中を押す。
英雄への一歩を踏み出させる。
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