6 / 25
6.魔法とドラゴンの国
しおりを挟む
森を抜け、広大な自然が眺める崖の上へ。
気持ち良い風を浴びながら、澄んだ空気を大きく吸って吐き出す。
「すぅーはぁー……それで? 結局これからどうするの? 私と一緒に帝国の追手から逃げ続ける? アレクが味方してくれるのは心強いけど、きっと今まで以上にしつこくなるよ?」
「でしょうね。実を言うと僕以外にも先生を追う部隊はあったんです。他に先を越されないかヒヤヒヤしていました」
「そっか。そういえば今日まではアレク以外の部隊が追いかけてきてわね」
我ながらこの数年、よく逃げ切ったものだ。
酷い時は三日三晩追われ続けて、寝る暇もないほど慌ただしい毎日を送っていて。
決して弱い相手ばかりじゃなかった。
下手に傷つけたら今より追手が増えると思ったから、やり過ぎないようにセーブして、戦うことよりも逃げることを優先してきた。
今から思えば、もっと強く追い返すべきだったのかもしれないな。
反省しよう。
今日からは私一人じゃないんだから。
「そろそろ行きましょう。彼らも直に動けるようになります」
「ええ。って待って、どこに行くの?」
出発しようとした彼を呼び止める。
最初に質問した答えは、未だ聞けていなかった。
これからどうするのか。
私の逃避行に彼が加わるだけなのか、あるいは別の方法があるのか。
立ち止まった彼は自信を匂わせる表情で答える。
「魔法とドラゴンの国、アフタリアですよ」
◇◇◇
アフタリア王国。
その誕生は、世界でも唯一と言えるだろう。
始まりは二千年ほど昔。
一人の魔女と、一匹のドラゴンが出会ったことをきっかけに、かの国は誕生した。
「世界でただ一つ、魔女が作った国……アフタリア王国かぁ」
「同じ魔女の先生なら、アフタリアにも訪れたことがあるんじゃないですか?」
「ううん、名前だけは知っているけど、実際に行ったことはないわ。私が生まれた時にはもう、あの国に魔女はいなかったみたいだし」
誕生から二千年経過した現在、アフタリアを統治しているのは魔女ではなく、その末裔だ。
今の王族は魔女の血を引いているらしい。
とは言え、その血も長い年月で薄れているから、魔女らしさは残っていないとか。
私とは直接関係もなかったし、関わる機会も生まれなかった。
宮廷魔法使いとして働いていた期間も含めて。
「そんな所に行って大丈夫なの? 確かにあそこは魔女狩り令にも従ってない珍しい国だけど、私は世界中に指名手配されてるし……」
数年逃げ続けている中で、私の名前は世界中に広まった。
もちろん謂れもない罪とセットで。
「さすがに追い出されちゃわない?」
「大丈夫ですよ。もう事前に話はついているので」
「え? 事前に?」
「ええ」
自信満々な表情でアレクは頷いた。
驚きと疑問を同時に感じる。
私でも行ったことのない国、交流のない場所なのに。
「話をつけたって、誰に?」
「それはもちろん、アフタリア王国を統べる者ですよ」
「そ、それってまさか……国王に?」
「はい。まぁ正確に言えば、最初にコンタクトを取ったのは国王ではなく王女のほうですが。彼女は少々読めない性格ですが、魔女に対しても理解のある人物でして……先生聞いてますか?」
あまりに驚きすぎて、言葉を失っていた私。
彼にトントンと肩を叩かれたお陰で現実に引き戻される。
「はっ! え、ええ聞いてるわ。で、でもどうやってつながったの? 場所は大陸の反対側だし、接点なんてなかったでしょ?」
「それはまぁ、頑張ったんです」
「頑張ったって……」
「先生と合流した後、行く宛がないんじゃ困りますからね。せめて少しでも安心できる場所を見つけたかったんです。幸い僕は先生から魔法を教わっていましたし、他の者たちに気付かれず探すくらいは出来ましたよ」
彼はそんな調子で淡々と教えてくれた。
さっき言葉を失ったばかりだけど、改めて彼が歩んできた道のりの壮大さを痛感する。
私が逃げ回っている間、彼も奮闘していたんだ。
魔法使いとしての力を付けながら、私を探して、私を守るための準備を入念にしてくれていた。
「本当……大きくなったわね」
「このくらいで褒められても困りますよ。僕の成長はこれからたっぷり見ていてください。きっと驚きますから」
「今より驚いたらきっと倒れちゃうわ」
「その時は僕が抱きかかえて運びますよ。あの頃は子供だったので無理でしたけど、今は先生よりずっと大きくなりましたから。力も強いですよ」
そう言ってあざとく力をこぶを見せるアレク。
少しおかしくて笑ってしまった。
身体もたくましく成長しているのに、言動は時折子供みたいに聞こえて。
なんだか昔を思い出す。
宮廷魔法使いとして働き、子供だった彼に指導していたあの頃を。
「さて、行先も共有できましたし、そろそろ本格的に急ぎましょうか」
私たちは街道を歩いていた。
彼はそう言ってピタリと止まり、指をさして目的地を示す。
方角というより、方向を。
彼が指を刺したのは気もが穏やかに流れる青空だった。
「ここから王国までは遠いですからね。歩いていくのは骨が折れる。だから僕らは、僕ららしく行きましょう」
「ふふっ、そうね。私たちらしく」
私は魔女、彼は魔女の弟子。
長所は言わずもがな魔法なんだ。
歩いていくより、空を飛んでしまえと。
「風よ」
「大気よ」
「「我が身を包み運びたまえ」」
私たちは重ねて詠唱を始める。
これくらいの魔法なら、詠唱を唱えなくても発動できるけど。
今はお互いに、あえて唱えたい気分だった。
「「――【微風羽靴】」」
同じタイミングで飛び上がる。
風を纏い、味方につけて、大空を舞う。
「魔力の制御も上手くなったね」
「まだまだですよ。先生はもっとすごいです」
「そうかな? アレクにそう思い続けてもらえるように頑張らないとね」
私たちは空を飛ぶ。
当たり前のように、穏やかに会話しながら。
目指すは大陸の東の果て。
魔法とドラゴンの国アフタリア。
気持ち良い風を浴びながら、澄んだ空気を大きく吸って吐き出す。
「すぅーはぁー……それで? 結局これからどうするの? 私と一緒に帝国の追手から逃げ続ける? アレクが味方してくれるのは心強いけど、きっと今まで以上にしつこくなるよ?」
「でしょうね。実を言うと僕以外にも先生を追う部隊はあったんです。他に先を越されないかヒヤヒヤしていました」
「そっか。そういえば今日まではアレク以外の部隊が追いかけてきてわね」
我ながらこの数年、よく逃げ切ったものだ。
酷い時は三日三晩追われ続けて、寝る暇もないほど慌ただしい毎日を送っていて。
決して弱い相手ばかりじゃなかった。
下手に傷つけたら今より追手が増えると思ったから、やり過ぎないようにセーブして、戦うことよりも逃げることを優先してきた。
今から思えば、もっと強く追い返すべきだったのかもしれないな。
反省しよう。
今日からは私一人じゃないんだから。
「そろそろ行きましょう。彼らも直に動けるようになります」
「ええ。って待って、どこに行くの?」
出発しようとした彼を呼び止める。
最初に質問した答えは、未だ聞けていなかった。
これからどうするのか。
私の逃避行に彼が加わるだけなのか、あるいは別の方法があるのか。
立ち止まった彼は自信を匂わせる表情で答える。
「魔法とドラゴンの国、アフタリアですよ」
◇◇◇
アフタリア王国。
その誕生は、世界でも唯一と言えるだろう。
始まりは二千年ほど昔。
一人の魔女と、一匹のドラゴンが出会ったことをきっかけに、かの国は誕生した。
「世界でただ一つ、魔女が作った国……アフタリア王国かぁ」
「同じ魔女の先生なら、アフタリアにも訪れたことがあるんじゃないですか?」
「ううん、名前だけは知っているけど、実際に行ったことはないわ。私が生まれた時にはもう、あの国に魔女はいなかったみたいだし」
誕生から二千年経過した現在、アフタリアを統治しているのは魔女ではなく、その末裔だ。
今の王族は魔女の血を引いているらしい。
とは言え、その血も長い年月で薄れているから、魔女らしさは残っていないとか。
私とは直接関係もなかったし、関わる機会も生まれなかった。
宮廷魔法使いとして働いていた期間も含めて。
「そんな所に行って大丈夫なの? 確かにあそこは魔女狩り令にも従ってない珍しい国だけど、私は世界中に指名手配されてるし……」
数年逃げ続けている中で、私の名前は世界中に広まった。
もちろん謂れもない罪とセットで。
「さすがに追い出されちゃわない?」
「大丈夫ですよ。もう事前に話はついているので」
「え? 事前に?」
「ええ」
自信満々な表情でアレクは頷いた。
驚きと疑問を同時に感じる。
私でも行ったことのない国、交流のない場所なのに。
「話をつけたって、誰に?」
「それはもちろん、アフタリア王国を統べる者ですよ」
「そ、それってまさか……国王に?」
「はい。まぁ正確に言えば、最初にコンタクトを取ったのは国王ではなく王女のほうですが。彼女は少々読めない性格ですが、魔女に対しても理解のある人物でして……先生聞いてますか?」
あまりに驚きすぎて、言葉を失っていた私。
彼にトントンと肩を叩かれたお陰で現実に引き戻される。
「はっ! え、ええ聞いてるわ。で、でもどうやってつながったの? 場所は大陸の反対側だし、接点なんてなかったでしょ?」
「それはまぁ、頑張ったんです」
「頑張ったって……」
「先生と合流した後、行く宛がないんじゃ困りますからね。せめて少しでも安心できる場所を見つけたかったんです。幸い僕は先生から魔法を教わっていましたし、他の者たちに気付かれず探すくらいは出来ましたよ」
彼はそんな調子で淡々と教えてくれた。
さっき言葉を失ったばかりだけど、改めて彼が歩んできた道のりの壮大さを痛感する。
私が逃げ回っている間、彼も奮闘していたんだ。
魔法使いとしての力を付けながら、私を探して、私を守るための準備を入念にしてくれていた。
「本当……大きくなったわね」
「このくらいで褒められても困りますよ。僕の成長はこれからたっぷり見ていてください。きっと驚きますから」
「今より驚いたらきっと倒れちゃうわ」
「その時は僕が抱きかかえて運びますよ。あの頃は子供だったので無理でしたけど、今は先生よりずっと大きくなりましたから。力も強いですよ」
そう言ってあざとく力をこぶを見せるアレク。
少しおかしくて笑ってしまった。
身体もたくましく成長しているのに、言動は時折子供みたいに聞こえて。
なんだか昔を思い出す。
宮廷魔法使いとして働き、子供だった彼に指導していたあの頃を。
「さて、行先も共有できましたし、そろそろ本格的に急ぎましょうか」
私たちは街道を歩いていた。
彼はそう言ってピタリと止まり、指をさして目的地を示す。
方角というより、方向を。
彼が指を刺したのは気もが穏やかに流れる青空だった。
「ここから王国までは遠いですからね。歩いていくのは骨が折れる。だから僕らは、僕ららしく行きましょう」
「ふふっ、そうね。私たちらしく」
私は魔女、彼は魔女の弟子。
長所は言わずもがな魔法なんだ。
歩いていくより、空を飛んでしまえと。
「風よ」
「大気よ」
「「我が身を包み運びたまえ」」
私たちは重ねて詠唱を始める。
これくらいの魔法なら、詠唱を唱えなくても発動できるけど。
今はお互いに、あえて唱えたい気分だった。
「「――【微風羽靴】」」
同じタイミングで飛び上がる。
風を纏い、味方につけて、大空を舞う。
「魔力の制御も上手くなったね」
「まだまだですよ。先生はもっとすごいです」
「そうかな? アレクにそう思い続けてもらえるように頑張らないとね」
私たちは空を飛ぶ。
当たり前のように、穏やかに会話しながら。
目指すは大陸の東の果て。
魔法とドラゴンの国アフタリア。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される
希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。
すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。
その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる