10 / 18
10.森の歩き方
しおりを挟む
サザーク森林。
センターの街に最も近い森林エリアで、様々な動物や植物が生息している。
当然モンスターも多いが、比較的弱いモンスターが縄張りにしており、新米冒険者の訓練場のような場所にもなっていた。
そして、特徴的なのが木の高さだ。
街から出てすぐ見える森は、どこにでも生えているような種類の木々に覆われている。
しかし、奥へ進むにつれ木々の種類が変化し、背の高い木々が多くなる。
「中心部へ近づくほど、モンスターの数が多くなるんだ」
「へぇ~ 奥にモンスターがいっぱい……」
「まさか、突っ込もうなんて考えてないよな?」
俺が尋ねると、ステラはプイっと横を向く。
あれは考えていた顔だな。
そう思って、念のために説明する。
「中心部は数だけじゃなくて、手強いモンスターも多い。冒険者になったばかりの新米が、ふらっと迷い込んで戻れる保証はないぞ」
「わかってるよ。うるさいなーもう」
プンプン拗ねてしまうステラ。
その様子を見ていたミルアは、申し訳なさそうな表情をしていた。
やれやれ。
先が思いやられるな。
俺は心の中で呟きながら、過去の記憶を遡っていた。
思い返すと、新米冒険者っていうのは大抵、自信過剰で見栄っ張りなのばっかりだな。
そういう奴らほど痛い目を見て、無事に成長してベテランになっていく。
その過程で命を落とす者も少なくない。
彼女たちだって、一つ間違えば同じ運命を辿るかもしれない。
俺の役目は、せめてそうならない程度に色々と教えてあげることなんだろう。
「今さらながら……大役を任されたな」
「シオンさん?」
「何でもない。ミルア、地図は持ってきてるか?」
「え、はい。森の地図ですよね」
ミルアが腰のポーチから茶色の地図を取り出す。
この地図は、街の道具屋で売っている。
センターの街を中心に、各エリアまでのルートや近隣の街まで載っている。
「一応サザーク森林も載ってますね」
「ああ。だけど見ての通り、森の中までは書かれていない。当然だけどな」
一旦森へ踏み入ってしまえば、自分の居場所がわからなくなる。
サザーク森林は初心者向けのエリアだが、決してやさしい場所ではない。
大自然の迷路は、多くの冒険者を苦しめてきた。
「でもさ~ 道はわかんなくても、方角さえわかれば問題なくない? 街は森の東側にあるんだし、東を目指せば出れはするじゃん」
俺とミルアの会話に、ステラが入ってきた。
この手の話は興味ないのかと思ったが、案外ちゃんと聞いているらしい。
「確かにな。そのために方位磁石は用意してある。でも残念ながら、中心部だとこの磁石も使えない」
「え、何で?」
「セコイアの木が、微弱だけど磁力を帯びているからだよ。周りの磁力に引っ張られて、磁石の針はクルクル回りだすぞ」
「何だよそれ。何で木が磁力なんて持ってんの?」
「そういう木なんだよ。詳しく説明してると長いから、クエストが終わってからな」
セコイアの木は、サザーク森林特有の種類らしい。
だから、センターで暮らす人々以外は、セコイアの木を知らないことが多いとか。
彼女たちも同様に、セコイアの木を知らなかった。
同じように遠方から来た冒険者は、セコイアの木を知らないまま森へ入ってしまう。
磁石頼りに進めば、中心部へ入った途端に迷子だ。
これは新米冒険者がよくやらかすミスでもある。
「まぁ今日は中心部へは入らないし、一先ず迷うことはないがな。さて、そろそろつくぞ」
「つくってどこにだよ?」
「トラップの設置場所だ。回収がクエストにあっただろ?」
目の前の木に、ブランと垂れ下がったカゴがある。
これがツリートラップと呼ばれる物で、特定の虫を集めている。
「回収するのは中のカゴだけなんですね」
「ああ。必要なのは中身だからな」
ちなみに採取されているのは交合虫という種類。
親指くらいの大きさで、お尻の部分が光るのが特徴的だ。
薬の調合に用いられている。
「三人ともトラップの場所は覚えておくと良いよ。森で活動するときの起点になるからな」
「はい!」
「ほーい」
「うん」
こういう目印は探索のときに役立つ。
俺も街に来たばかりの頃は、こういう目印を中心に探索しまわっていたな。
なんてことを思いながら、俺はふと視線を下げる。
「それから――」
下ろした視線の先。
木の根元に生えている黄緑色の草を指さす。
「あれがエイド草だな」
「あ、ホントだ!」
「何だ? エイド草は知ってるのか」
「はい。私たちのいた村でも見かけましたから」
エイド草。
薬草の一種で、もっともスタンダードな回復役の材料になる。
こういった森の中で育ちやすく、世界中様々な地域でも見かける薬草だ。
「ちなみに知ってるかもしれないけど、大抵のモンスターはエイド草が苦手なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、そういう臭いなんだと。だからまぁ、森の中で休みたいって時があれば、エイド草の近くを選ぶと安全だぞ」
「なるほどぉ」
ミルアが感心して頷いていた。
すると、ソフィアが俺を見つめて言う。
「お兄さん……物知り?」
「そうでもないさ。これくらい知ってて普通なことばかりだよ」
長く冒険者を続けていると、色々な知識が身につく。
冒険者は危険が多いからな。
生き抜くために、知りすぎなんてことはない。
そんなことをしみじみと思うことに、自分が年をとったと実感する。
センターの街に最も近い森林エリアで、様々な動物や植物が生息している。
当然モンスターも多いが、比較的弱いモンスターが縄張りにしており、新米冒険者の訓練場のような場所にもなっていた。
そして、特徴的なのが木の高さだ。
街から出てすぐ見える森は、どこにでも生えているような種類の木々に覆われている。
しかし、奥へ進むにつれ木々の種類が変化し、背の高い木々が多くなる。
「中心部へ近づくほど、モンスターの数が多くなるんだ」
「へぇ~ 奥にモンスターがいっぱい……」
「まさか、突っ込もうなんて考えてないよな?」
俺が尋ねると、ステラはプイっと横を向く。
あれは考えていた顔だな。
そう思って、念のために説明する。
「中心部は数だけじゃなくて、手強いモンスターも多い。冒険者になったばかりの新米が、ふらっと迷い込んで戻れる保証はないぞ」
「わかってるよ。うるさいなーもう」
プンプン拗ねてしまうステラ。
その様子を見ていたミルアは、申し訳なさそうな表情をしていた。
やれやれ。
先が思いやられるな。
俺は心の中で呟きながら、過去の記憶を遡っていた。
思い返すと、新米冒険者っていうのは大抵、自信過剰で見栄っ張りなのばっかりだな。
そういう奴らほど痛い目を見て、無事に成長してベテランになっていく。
その過程で命を落とす者も少なくない。
彼女たちだって、一つ間違えば同じ運命を辿るかもしれない。
俺の役目は、せめてそうならない程度に色々と教えてあげることなんだろう。
「今さらながら……大役を任されたな」
「シオンさん?」
「何でもない。ミルア、地図は持ってきてるか?」
「え、はい。森の地図ですよね」
ミルアが腰のポーチから茶色の地図を取り出す。
この地図は、街の道具屋で売っている。
センターの街を中心に、各エリアまでのルートや近隣の街まで載っている。
「一応サザーク森林も載ってますね」
「ああ。だけど見ての通り、森の中までは書かれていない。当然だけどな」
一旦森へ踏み入ってしまえば、自分の居場所がわからなくなる。
サザーク森林は初心者向けのエリアだが、決してやさしい場所ではない。
大自然の迷路は、多くの冒険者を苦しめてきた。
「でもさ~ 道はわかんなくても、方角さえわかれば問題なくない? 街は森の東側にあるんだし、東を目指せば出れはするじゃん」
俺とミルアの会話に、ステラが入ってきた。
この手の話は興味ないのかと思ったが、案外ちゃんと聞いているらしい。
「確かにな。そのために方位磁石は用意してある。でも残念ながら、中心部だとこの磁石も使えない」
「え、何で?」
「セコイアの木が、微弱だけど磁力を帯びているからだよ。周りの磁力に引っ張られて、磁石の針はクルクル回りだすぞ」
「何だよそれ。何で木が磁力なんて持ってんの?」
「そういう木なんだよ。詳しく説明してると長いから、クエストが終わってからな」
セコイアの木は、サザーク森林特有の種類らしい。
だから、センターで暮らす人々以外は、セコイアの木を知らないことが多いとか。
彼女たちも同様に、セコイアの木を知らなかった。
同じように遠方から来た冒険者は、セコイアの木を知らないまま森へ入ってしまう。
磁石頼りに進めば、中心部へ入った途端に迷子だ。
これは新米冒険者がよくやらかすミスでもある。
「まぁ今日は中心部へは入らないし、一先ず迷うことはないがな。さて、そろそろつくぞ」
「つくってどこにだよ?」
「トラップの設置場所だ。回収がクエストにあっただろ?」
目の前の木に、ブランと垂れ下がったカゴがある。
これがツリートラップと呼ばれる物で、特定の虫を集めている。
「回収するのは中のカゴだけなんですね」
「ああ。必要なのは中身だからな」
ちなみに採取されているのは交合虫という種類。
親指くらいの大きさで、お尻の部分が光るのが特徴的だ。
薬の調合に用いられている。
「三人ともトラップの場所は覚えておくと良いよ。森で活動するときの起点になるからな」
「はい!」
「ほーい」
「うん」
こういう目印は探索のときに役立つ。
俺も街に来たばかりの頃は、こういう目印を中心に探索しまわっていたな。
なんてことを思いながら、俺はふと視線を下げる。
「それから――」
下ろした視線の先。
木の根元に生えている黄緑色の草を指さす。
「あれがエイド草だな」
「あ、ホントだ!」
「何だ? エイド草は知ってるのか」
「はい。私たちのいた村でも見かけましたから」
エイド草。
薬草の一種で、もっともスタンダードな回復役の材料になる。
こういった森の中で育ちやすく、世界中様々な地域でも見かける薬草だ。
「ちなみに知ってるかもしれないけど、大抵のモンスターはエイド草が苦手なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、そういう臭いなんだと。だからまぁ、森の中で休みたいって時があれば、エイド草の近くを選ぶと安全だぞ」
「なるほどぉ」
ミルアが感心して頷いていた。
すると、ソフィアが俺を見つめて言う。
「お兄さん……物知り?」
「そうでもないさ。これくらい知ってて普通なことばかりだよ」
長く冒険者を続けていると、色々な知識が身につく。
冒険者は危険が多いからな。
生き抜くために、知りすぎなんてことはない。
そんなことをしみじみと思うことに、自分が年をとったと実感する。
0
お気に入りに追加
1,751
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
勇者の育成係に任命されました
茜カナコ
ファンタジー
結城司は車道に飛び出した女子高生を救おうと、車の前に飛び出した。
すると光に包まれて、知らない場所で目を覚ます。
そこは宮殿で、美しい少女が薄いヴェールだけを見に纏い立っていた。
少女はミクルと名乗った。
勇者候補生で、召喚魔法を唱えたと言った。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる