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10.森の歩き方

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 サザーク森林。
 センターの街に最も近い森林エリアで、様々な動物や植物が生息している。
 当然モンスターも多いが、比較的弱いモンスターが縄張りにしており、新米冒険者の訓練場のような場所にもなっていた。
 そして、特徴的なのが木の高さだ。
 街から出てすぐ見える森は、どこにでも生えているような種類の木々に覆われている。
 しかし、奥へ進むにつれ木々の種類が変化し、背の高い木々が多くなる。

「中心部へ近づくほど、モンスターの数が多くなるんだ」
「へぇ~ 奥にモンスターがいっぱい……」
「まさか、突っ込もうなんて考えてないよな?」

 俺が尋ねると、ステラはプイっと横を向く。
 あれは考えていた顔だな。
 そう思って、念のために説明する。

「中心部は数だけじゃなくて、手強いモンスターも多い。冒険者になったばかりの新米が、ふらっと迷い込んで戻れる保証はないぞ」
「わかってるよ。うるさいなーもう」

 プンプン拗ねてしまうステラ。
 その様子を見ていたミルアは、申し訳なさそうな表情をしていた。
 
 やれやれ。
 先が思いやられるな。
 
 俺は心の中で呟きながら、過去の記憶を遡っていた。
 思い返すと、新米冒険者っていうのは大抵、自信過剰で見栄っ張りなのばっかりだな。
 そういう奴らほど痛い目を見て、無事に成長してベテランになっていく。
 その過程で命を落とす者も少なくない。
 彼女たちだって、一つ間違えば同じ運命を辿るかもしれない。
 俺の役目は、せめてそうならない程度に色々と教えてあげることなんだろう。

「今さらながら……大役を任されたな」
「シオンさん?」
「何でもない。ミルア、地図は持ってきてるか?」
「え、はい。森の地図ですよね」

 ミルアが腰のポーチから茶色の地図を取り出す。
 この地図は、街の道具屋で売っている。
 センターの街を中心に、各エリアまでのルートや近隣の街まで載っている。

「一応サザーク森林も載ってますね」
「ああ。だけど見ての通り、森の中までは書かれていない。当然だけどな」

 一旦森へ踏み入ってしまえば、自分の居場所がわからなくなる。
 サザーク森林は初心者向けのエリアだが、決してやさしい場所ではない。
 大自然の迷路は、多くの冒険者を苦しめてきた。

「でもさ~ 道はわかんなくても、方角さえわかれば問題なくない? 街は森の東側にあるんだし、東を目指せば出れはするじゃん」

 俺とミルアの会話に、ステラが入ってきた。
 この手の話は興味ないのかと思ったが、案外ちゃんと聞いているらしい。

「確かにな。そのために方位磁石は用意してある。でも残念ながら、中心部だとこの磁石も使えない」
「え、何で?」
「セコイアの木が、微弱だけど磁力を帯びているからだよ。周りの磁力に引っ張られて、磁石の針はクルクル回りだすぞ」
「何だよそれ。何で木が磁力なんて持ってんの?」
「そういう木なんだよ。詳しく説明してると長いから、クエストが終わってからな」

 セコイアの木は、サザーク森林特有の種類らしい。
 だから、センターで暮らす人々以外は、セコイアの木を知らないことが多いとか。
 彼女たちも同様に、セコイアの木を知らなかった。
 同じように遠方から来た冒険者は、セコイアの木を知らないまま森へ入ってしまう。
 磁石頼りに進めば、中心部へ入った途端に迷子だ。
 これは新米冒険者がよくやらかすミスでもある。

「まぁ今日は中心部へは入らないし、一先ず迷うことはないがな。さて、そろそろつくぞ」
「つくってどこにだよ?」
「トラップの設置場所だ。回収がクエストにあっただろ?」

 目の前の木に、ブランと垂れ下がったカゴがある。
 これがツリートラップと呼ばれる物で、特定の虫を集めている。

「回収するのは中のカゴだけなんですね」
「ああ。必要なのは中身だからな」

 ちなみに採取されているのは交合虫という種類。
 親指くらいの大きさで、お尻の部分が光るのが特徴的だ。
 薬の調合に用いられている。

「三人ともトラップの場所は覚えておくと良いよ。森で活動するときの起点になるからな」
「はい!」
「ほーい」
「うん」

 こういう目印は探索のときに役立つ。
 俺も街に来たばかりの頃は、こういう目印を中心に探索しまわっていたな。
 なんてことを思いながら、俺はふと視線を下げる。

「それから――」

 下ろした視線の先。
 木の根元に生えている黄緑色の草を指さす。

「あれがエイド草だな」
「あ、ホントだ!」
「何だ? エイド草は知ってるのか」
「はい。私たちのいた村でも見かけましたから」

 エイド草。
 薬草の一種で、もっともスタンダードな回復役の材料になる。
 こういった森の中で育ちやすく、世界中様々な地域でも見かける薬草だ。

「ちなみに知ってるかもしれないけど、大抵のモンスターはエイド草が苦手なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、そういう臭いなんだと。だからまぁ、森の中で休みたいって時があれば、エイド草の近くを選ぶと安全だぞ」
「なるほどぉ」

 ミルアが感心して頷いていた。
 すると、ソフィアが俺を見つめて言う。 

「お兄さん……物知り?」
「そうでもないさ。これくらい知ってて普通なことばかりだよ」

 長く冒険者を続けていると、色々な知識が身につく。
 冒険者は危険が多いからな。
 生き抜くために、知りすぎなんてことはない。
 そんなことをしみじみと思うことに、自分が年をとったと実感する。
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