上 下
9 / 18

9.失って初めて【追放側】

しおりを挟む
 ルンの祈りはアンデッドを浄化できる。
 死霊も、ゾンビも例外なく光に包まれれば天に還る。
 元ドラゴンとは言え、リンドブルムもアンデッドモンスターの一体。
 彼女の祈りからは逃れならない。

 ――はずだった。

「あ、あれ?」
「おいルン……効いてないぞ」
「何で? え、どうして効かないの?」

 祈りの光に包まれても、リンドブルムは浄化されない。
 アンデッドであれば有効な攻撃手段だったにも関わらず、一切のダメージを感じさせない。
 リンドブルムは朽ちた翼を広げ、彼らを威嚇する。

「冗談だろ? ちゃんと祈ったのかよ!」
「祈ったわ! ワタシが出せる最高の祈りを捧げたわよ。それなのに……」

 リンドブルムには効いていない。
 否、効いてはいる。
 彼女たちは気付いていない様子だが、リンドブルムにも浄化の力は有効だった。
 しかし、彼女たちは知らない。
 リンドブルムがただのアンデッドではないことを。

 多重魂アンデッド。
 それがリンドブルムの正確な分類。
 簡単に言うと、リンドブルムには複数の魂が宿っている。
 主となるのは朽ちたドラゴン。
 そこに複数の魂、つまり屍が集まって誕生したのが、地を這う竜の成れの果て。
 ルンの祈りは有効だったが、表面の屍を浄化するばかりで、本体であるドラゴンまでは届いていなかった。
 加えてこの地は屍の山。
 浄化されようと、次から次へと補充できてしまう。
 主であるドラゴンの屍に攻撃を届かせない限り、リンドブルムは無敵だ。

「くそっ、だったら魔法だ! ローラ!」
「あたしの出番ね」

 魔法使いのローラが前に出る。
 アンデッドに有効な攻撃は、祈りだけではない。
 炎魔法による攻撃なら、腐った肉体ごと焼き尽くしてしまえる。

「ヘルフレア!」

 魔法陣が展開され、燃え盛る業火の渦が放たれる。
 ヘルフレアは炎魔法の中でも高威力かつ広範囲。
 ローラは優れた魔法使いだったから、平然と高度な魔法が使える。
 彼女の存在が、ロイたちにとってピンチを覆してくれる希望だったし、ローラ自身もそれを理解していた。
 だが、今回ばかりはそう簡単にいかない。

 放たれた炎はリンドブルムに届かない。
 地中から伸びた触手によって阻まれてしまった。

「何よあの気持ち悪いの!」
「あれもリンドブルムの一部なのか? 炎が効いていないぞ」

 地中から伸びる触手は、リンドブルムの腹から伸びていた。
 見た目はドラゴンのままだが、ドラゴンだと思って戦うと理解に追いつかない。
 さらに触手が地面から湧き出て、ロイたちに襲い掛かる。

「ゴルドフ!」
「任せてくれ」

 ゴルドフが盾を構えて応戦する。
 彼の盾は、かつて十メートルを超える巨人の一撃をも防いだことがある。
 守りにおいて絶対の自信を持つ彼は、ロイたちを守るために立ちふさがる。

「ローラ、もう一回燃やせないのか?」
「無理よ。触手が邪魔で当てられない」
「だったらルン! 触手を浄化して退かしてくれ!」
「もうやってる。やってるけど……」

 触手もリンドブルムの一部。
 彼女の祈りでは、表面の屍を削るばかり。
 完全に浄化させるまでには足りていなかった。
 悔しそうな表情を浮かべるルンに、ロイはきつく当たる。

「何やってんだよ! お前が浄化できないんじゃ話にならないだろーが!」
「さっきから何よ! ワタシに文句を言う前に自分が戦ったどうなのかしら?」
「無理に決まってるだろ? こっちは剣士なんだ。アンデッドに有効な攻撃が出来るのは、お前とローラだけなんだよ!」
「なら文句言わないでもらえるかしら?」
「ちょっと二人ともうるさい」

 モンスターを目の前にしてギスギスし出すロイたち。
 その間もゴルドフが必死に攻撃から三人を守っていたが、徐々に限界が近づいていた。

「すまないがそろそろ限界だ。ロイ、何かいい案はないのか?」
「は? もうって早すぎるだろ。いつものお前なら……」
 
 ここでロイは思い出す。
 かつてゴルドフが巨人の一撃を防いだ時、シオンが防御強化を付与していたことを。
 彼の不在が、小さな綻びを生んでいる事実に、わずかな焦りを感じ始める。
 そして、同じことをゴルドフも感じていた。
 彼の場合は特に、自分が持ちこたえられないことを実感している。

「いや、そんなはずない。あんなおっさんいなくても俺たちは戦える」
「だがこのままでは……」

 もしも……もしもの話をする。
 この場にシオンがいたのなら、状況は変わっていたかもしれない。
 彼の付与でロイの剣にアンデッド特攻を付与すれば、触手を切り裂くことが出来る。
 ルンの祈りと、ローラの魔法も強化出来ていたら。
 ゴルドフも前線を維持し続けられたはずだ。

 しかし、彼はこの場にいない。
 全員が意見を一致させ、もう必要ないと切り捨てたからだ。

「まだだ……まだ負けてない!」 

 ロイが叫んだ。
 自分は間違っていないと証明するため、彼は剣を抜く。
 だが、彼の剣には何も付与されていない。
 付与されていたとしても、術者が一定の距離にいなければその効果は発揮されない。
 ただの剣では、アンデッドを倒せない。

「くそっ、くそ!」

 がむしゃらに切りつけても、触手の壁は破れない。
 ルンの祈りは届かず、ローラの魔法も防がれる。
 ゴルドフの盾はボロボロになり、彼自身も膝をついていた。
 もはや勝敗は決したのだ。

 そうして、彼らは逃げ帰る。
 無様にも敵に背を向け、こんなはずじゃなかったと愚痴を漏らしながら。
 失って初めて気づくことがある。
 自分たちがどうして強くなれたのか。
 その理由を知った時には……もう手遅れだ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺とシロ(second)

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】只今再編集中です。ご迷惑をおかけしています。m(_ _)m ※表題が変わりました。 俺とシロだよ → 【俺とシロ(second)】 俺はゲン。聖獣フェンリルであるシロのお陰でこうして異世界の地で楽しく生活している。最初の頃は戸惑いもあったのだが、シロと周りの暖かい人達の助けを借りながら今まで何とかやってきた。故あってクルーガー王国の貴族となった俺はディレクという迷宮都市を納めながらもこの10年間やってきた。今は許嫁(いいなずけ)となったメアリーそしてマリアベルとの関係も良好だし、このほど新しい仲間も増えた。そんなある日のこと、俺とシロは朝の散歩中に崩落事故(ほうらくじこ)に巻き込まれた。そして気がつけば??? とんでもない所に転移していたのだ。はたして俺たちは無事に自分の家に帰れるのだろうか? また、転移で飛ばされた真意(しんい)とは何なのか……。 ……異世界??? にてゲンとシロはどんな人と出会い、どんな活躍をしていくのか!……

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー
ファンタジー
俺はテレパシーの専門家、通信魔術師。王宮で地味な裏方として冷遇されてきた俺は、ある日突然クビになった。俺にできるのは通信魔術だけ。攻撃魔術も格闘も何もできない。途方に暮れていた俺が出会ったのは、頭のネジがぶっ飛んだ魔導具職人の女。その時は知らなかったんだ。まさか俺の通信魔術が世界を変えるレベルのチート能力だったなんて。でも俺は超絶ブラックな労働環境ですっかり運動不足だし、生来の出不精かつ臆病者なので、冒険とか戦闘とか戦争とか、絶対に嫌なんだ。俺は何度もそう言ってるのに、新しく集まった仲間たちはいつも俺を危険なほうへ危険なほうへと連れて行こうとする。頼む。誰か助けてくれ。帰って酒飲んでのんびり寝たいんだ俺は。嫌だ嫌だって言ってんのに仲間たちにズルズル引っ張り回されて世界を変えていくこの俺の腰の引けた勇姿、とくとご覧あれ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

僕とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】僕とシロの異世界物語。 ボクはシロ。この世界の女神に誘われてフェンリルへと転生した犬のシロ。前回、ボクはやり遂げた。ご主人様を最後まで守り抜いたんだ。「ありがとう シロ。楽しかったよ。またどこかで……」ご主人様はそう言って旅立たっていかれた。その後はあっちこっちと旅して回ったけど、人と交われば恐れられたり うまく利用されたりと、もうコリゴリだった。そんなある日、聞こえてきたんだ、懐かしい感覚だった。ああ、ドキドキが止まらない。ワクワクしてどうにかなっちゃう。ホントにご主人様なの。『――シロおいで!』うん、待ってて今いくから…… ……異世界で再び出会った僕とシロ。楽しい冒険の始まりである………

処理中です...