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16.この変態が!
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ラナとリール、二人の姉妹が並んで廊下を歩く。
体格の違う二人は歩幅も異なる。
だからラナのほうが歩くスピードが速く、彼女に会わせるためリールは少々駆け足になる。
「お姉ちゃん」
「……」
「お姉ちゃんってば!」
「――! ど、どうしたの?」
リールの呼びかけにハッと驚いたラナはその場で立ち止まる。
「どうしたのじゃないよ。さっきから話しかけてるのに全然答えないし、次の教室も通り過ぎてるよ?」
「え、あ……」
リールが指をさす方向に目的の教室があった。
すでに後方、二部屋超えてしまっている。
心ここにあらずな状態なラナを見ながら、リールは大きくため息をこぼして言う。
「はぁ、そんなに気になるなら様子見に行く?」
「え……?」
「レインが気になるんでしょ。それくらいわかるよ」
「あ、うん……」
ラナはあははと目を逸らしながら笑う。
やれやれ顔のリールは決意を瞳に表し、ラナの手を握り引っ張る。
「リール?」
「ほら行くよ」
「で、でも講義は」
「そんなの今日じゃなくてもいいよ。どうせ今のまま受けたって集中できないでしょ!」
そう言いながら再び教室を通り過ぎる。
ラナは通り過ぎ様に教室を見ながら止まることはなかった。
いつになく強引なリールに、ラナはふと直感する。
「もしかして、リールも気になってたの?」
「なっ、そんなわけないじゃん! なんであんなやつのこと気にするんだよ!」
「……ふふっ」
ラナは笑う。
妹に自分の感情が見透かされたように、妹の感情もよく見えることを。
二人は似た者姉妹だった。
こうして講義よりレインを優先した二人は、彼と別れた場所まで戻ってくる。
彼がどこへ行くか伝えていないが、方向は覚えていた。
とりあえず彼が進んだ方向に歩いて探す。
「――あ、いたぞ」
「レインさ……」
意外とすぐに見つかった。
しかし目の前に広がる光景に、二人は言葉を失う。
「あ……」
学園内にある林の中。
人には見えないような場所で……。
レインが黒髪の女の子を押し倒していた。
五分ほど前――
◇◇◇
「友達……ともだち?」
「そうだ。俺たちはもう友達だ」
友達というフレーズが気に入ったのか、彼女は何度も口にする。
命令を実行するための人形とはかけ離れた緩い表情で。
「さて、さっそく友達になったことだし、一緒に講義を受けに行くか?」
「講義?」
「ああ。今からでもギリギリ間に合うだろ」
「……別にいい」
すっと彼女は無表情に戻ってしまう。
「なんだ? 勉強は嫌いか」
「好き嫌いはない。ただ、退屈。ここで聞く話、教わったから知ってる」
「おお、意見が合うな。俺も講義はつまらないと思ってる。今さら知ってる内容を永遠と語られてもな。寝るなというほうが無理がある。ネアは誰に習ったんだ?」
「ネアの師匠、拾ってくれた人」
「拾った? ネアは孤児だったのか」
彼女はこくりと小さく頷いた。
あまり良い話ではないが、彼女は表情を一切変えず機械的に答える。
「ネア、小さい頃に両親がいなくなって一人だった。その時、師匠と会った。師匠はよく言ってた。行きたいなら力と知識をつけろって」
「いい師匠だな」
「優しい人だった。今、どこにいるか知らないけど」
会いたいと、口では言わないがそう思っている表情だ。
彼女の師匠ということは、その人物が本来の相守の一族なのだろう。
なら彼女のように、今も誰かに仕えているかもしれないな。
「俺もいつか会ってみたいな。もし見かけたら俺にも教えてくれ」
「わかった」
「ありがと。そういえばずっと気になってたんだが、鎖は持ってないんだな」
「持ってる」
「どこに?」
ぱっとみ彼女は手ぶらだ。
あれだけ大量の鎖を隠せる場所なんて見当たらない。
彼女はその答えを見せるように、制服の胸元を徐に開く。
「お、おい」
「ここ」
恥じらいなく開いた胸元には、黒い円形に文字が描かれていた。
「刻印か」
「ここにしまってる」
物を魔力に変換して収納する術式。
あの大量の鎖は胸に刻まれた刻印から出し入れしていたらしい。
この手法は武器を扱う魔術師も好んで使うことが多い。
珍しい方法ではないが、気になるのは一点。
「ネアの術式じゃないな。君の雇い主か」
「そう。便利だから」
「……ネア、君はこの術式をどこまで知っている?」
彼女はキョトンとした顔を見せる。
どうやら気付いていないらしい。
「そうか。ネア、少しそれに触れてもいいか?」
「ん? 構わない」
「悪い。少しびりっとするぞ」
「え――」
俺の指先が刻印に触れた直後、電撃のような赤い光が走る。
宣言通りびりっとした痛みが彼女を襲っただろう。
突然のことで顔をしかめ、ふらついて後ろに倒れそうになる。
後ろに倒れていく彼女は流れで俺の腕を掴んだ。
「おっと!」
そのまま一緒になって倒れる。
ネアが下で仰向けに寝転び、俺がそこへ覆いかぶさるような体勢。
はたから見たら、俺が彼女を襲っているようにも見える。
誰もいない場所でよかったな。
と、思った矢先に感じる気配。
振り向いた先に、よく知る二人が目を丸くして立っていた。
「あ……」
「レインさん……」
「お、お前! 一体何してるんだよ!」
「違う! 誤解だ。俺は別にやましいことをしてたわけじゃない!」
「嘘つくなよ! じゃあなんで胸元が開いてる女の子を押し倒してるんだよ!」
リールは興奮気味に指を差しながら言う。
こんな状況でよく見ているな。
とか感心している場合じゃないぞ。
早く弁明しなくては。
「それは彼女の刻印を見せてもらっただけだ! おいネア、君からも何か言ってくれ」
「……痛かった」
「ちょっ!」
「こんなの初めて」
意味深。
ネアは自分の胸元に手を触れながらそう言った。
「レインさん……本当に……」
「こ、この変態!」
「だから違うって言ってるだろぉ!」
俺の悲痛な叫びが学園の庭で木霊する。
体格の違う二人は歩幅も異なる。
だからラナのほうが歩くスピードが速く、彼女に会わせるためリールは少々駆け足になる。
「お姉ちゃん」
「……」
「お姉ちゃんってば!」
「――! ど、どうしたの?」
リールの呼びかけにハッと驚いたラナはその場で立ち止まる。
「どうしたのじゃないよ。さっきから話しかけてるのに全然答えないし、次の教室も通り過ぎてるよ?」
「え、あ……」
リールが指をさす方向に目的の教室があった。
すでに後方、二部屋超えてしまっている。
心ここにあらずな状態なラナを見ながら、リールは大きくため息をこぼして言う。
「はぁ、そんなに気になるなら様子見に行く?」
「え……?」
「レインが気になるんでしょ。それくらいわかるよ」
「あ、うん……」
ラナはあははと目を逸らしながら笑う。
やれやれ顔のリールは決意を瞳に表し、ラナの手を握り引っ張る。
「リール?」
「ほら行くよ」
「で、でも講義は」
「そんなの今日じゃなくてもいいよ。どうせ今のまま受けたって集中できないでしょ!」
そう言いながら再び教室を通り過ぎる。
ラナは通り過ぎ様に教室を見ながら止まることはなかった。
いつになく強引なリールに、ラナはふと直感する。
「もしかして、リールも気になってたの?」
「なっ、そんなわけないじゃん! なんであんなやつのこと気にするんだよ!」
「……ふふっ」
ラナは笑う。
妹に自分の感情が見透かされたように、妹の感情もよく見えることを。
二人は似た者姉妹だった。
こうして講義よりレインを優先した二人は、彼と別れた場所まで戻ってくる。
彼がどこへ行くか伝えていないが、方向は覚えていた。
とりあえず彼が進んだ方向に歩いて探す。
「――あ、いたぞ」
「レインさ……」
意外とすぐに見つかった。
しかし目の前に広がる光景に、二人は言葉を失う。
「あ……」
学園内にある林の中。
人には見えないような場所で……。
レインが黒髪の女の子を押し倒していた。
五分ほど前――
◇◇◇
「友達……ともだち?」
「そうだ。俺たちはもう友達だ」
友達というフレーズが気に入ったのか、彼女は何度も口にする。
命令を実行するための人形とはかけ離れた緩い表情で。
「さて、さっそく友達になったことだし、一緒に講義を受けに行くか?」
「講義?」
「ああ。今からでもギリギリ間に合うだろ」
「……別にいい」
すっと彼女は無表情に戻ってしまう。
「なんだ? 勉強は嫌いか」
「好き嫌いはない。ただ、退屈。ここで聞く話、教わったから知ってる」
「おお、意見が合うな。俺も講義はつまらないと思ってる。今さら知ってる内容を永遠と語られてもな。寝るなというほうが無理がある。ネアは誰に習ったんだ?」
「ネアの師匠、拾ってくれた人」
「拾った? ネアは孤児だったのか」
彼女はこくりと小さく頷いた。
あまり良い話ではないが、彼女は表情を一切変えず機械的に答える。
「ネア、小さい頃に両親がいなくなって一人だった。その時、師匠と会った。師匠はよく言ってた。行きたいなら力と知識をつけろって」
「いい師匠だな」
「優しい人だった。今、どこにいるか知らないけど」
会いたいと、口では言わないがそう思っている表情だ。
彼女の師匠ということは、その人物が本来の相守の一族なのだろう。
なら彼女のように、今も誰かに仕えているかもしれないな。
「俺もいつか会ってみたいな。もし見かけたら俺にも教えてくれ」
「わかった」
「ありがと。そういえばずっと気になってたんだが、鎖は持ってないんだな」
「持ってる」
「どこに?」
ぱっとみ彼女は手ぶらだ。
あれだけ大量の鎖を隠せる場所なんて見当たらない。
彼女はその答えを見せるように、制服の胸元を徐に開く。
「お、おい」
「ここ」
恥じらいなく開いた胸元には、黒い円形に文字が描かれていた。
「刻印か」
「ここにしまってる」
物を魔力に変換して収納する術式。
あの大量の鎖は胸に刻まれた刻印から出し入れしていたらしい。
この手法は武器を扱う魔術師も好んで使うことが多い。
珍しい方法ではないが、気になるのは一点。
「ネアの術式じゃないな。君の雇い主か」
「そう。便利だから」
「……ネア、君はこの術式をどこまで知っている?」
彼女はキョトンとした顔を見せる。
どうやら気付いていないらしい。
「そうか。ネア、少しそれに触れてもいいか?」
「ん? 構わない」
「悪い。少しびりっとするぞ」
「え――」
俺の指先が刻印に触れた直後、電撃のような赤い光が走る。
宣言通りびりっとした痛みが彼女を襲っただろう。
突然のことで顔をしかめ、ふらついて後ろに倒れそうになる。
後ろに倒れていく彼女は流れで俺の腕を掴んだ。
「おっと!」
そのまま一緒になって倒れる。
ネアが下で仰向けに寝転び、俺がそこへ覆いかぶさるような体勢。
はたから見たら、俺が彼女を襲っているようにも見える。
誰もいない場所でよかったな。
と、思った矢先に感じる気配。
振り向いた先に、よく知る二人が目を丸くして立っていた。
「あ……」
「レインさん……」
「お、お前! 一体何してるんだよ!」
「違う! 誤解だ。俺は別にやましいことをしてたわけじゃない!」
「嘘つくなよ! じゃあなんで胸元が開いてる女の子を押し倒してるんだよ!」
リールは興奮気味に指を差しながら言う。
こんな状況でよく見ているな。
とか感心している場合じゃないぞ。
早く弁明しなくては。
「それは彼女の刻印を見せてもらっただけだ! おいネア、君からも何か言ってくれ」
「……痛かった」
「ちょっ!」
「こんなの初めて」
意味深。
ネアは自分の胸元に手を触れながらそう言った。
「レインさん……本当に……」
「こ、この変態!」
「だから違うって言ってるだろぉ!」
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※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
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