上 下
17 / 20

17.気をつけて

しおりを挟む
「だからな? 彼女の刻印が気になって見せてもらっていただけで、決してやましいことはしていないんだ」
「……本当だろうな?」
「信じてくれ。これが嘘をついているやつの目か?」

 じーっとリールを見つめる。
 真剣に。
 一度も目を逸らさず。

「目でわかるわけないだろ」

 それもそうだった。
 目をみて心が読めたら魔術なんていらないな。

「そこの黒い人、ホントに何もされてないの?」

 ネアはこくりと頷いて答える。

「ここに触られただけ」

 胸の刻印に触れる。
 電撃が走ったのは一瞬で、今は落ち着いている。

「これでわかっただろ? 俺は無実だ」
「……いや女の子の胸元に触るのだって駄目だよ」
「それは反省してます」

 やましい気持ちは一切なかったとは言え、軽率な行動だったのは確かだ。
 結果的に目的は果たせたから無駄ではなかったが。
 とにかくこれで誤解は解けた。
 説得にニ十分もかかってしまって、もう講義には間に合いそうにない。

「レインさん、この方がお知り合いなんですか?」
「ん? ああ、昨日会ったのが彼女だ」
「え!? じゃあこの人があれなの? レインに斬りかかったっていう」
「まぁそんな感じかな」

 嘘は言っていないぞ。
 攻撃されたのは事実だしな。
 
 リールはじーっとネアを見つめる。
 当の本人はキョトンとしていた。
 リールの顔からは、信じられないという感想がにじみ出ている。

「見た目によらず過激なんだな」

 お前が言うなと言いたいが、面倒なのでやめておこう。
 俺はごほんと一回咳ばらいをする。

「紹介するよ。彼女はネアだ。歳は……いくつ?」
「十五」
「だそうです」
「歳も知らなかったのかよ。本当に知り合いか?」
「ああ、知り合いだぞ」

 昨日会ったばかりだけどな。

「私はラナです。こっちは妹の」
「リール! 同い年だから仲良くしような!」
「……うん」

 ネアは無表情のまま二人の自己紹介を聞いていた。
 簡素な返事だが、彼女なりの精一杯の一言なのだろうと俺は思う。

「これで二人とも友達、だな」
「友達……二人も?」

 驚いて目を丸くするネア。
 答えを求めるように、彼女の視線は二人に向けられる。

「友達だな!」
「私たちでよければ」
「……うん、友達」

 驚きは嬉しそうな表情へと変わる。
 
「友達……三人もできたの、初めて」
「よかったな」
「うん」

 今の一言だけでも、彼女がどういう人生を送ってきたのか想像できてしまう。
 俺が知る相守の一族と同じなら、より鮮明にわかる。
 放っておけない。
 それから俺たちは、次の講義の時間まで時間を潰すことにした。
 木陰に腰をおろし、他愛のない会話で盛り上がる。

「そろそろ昼だな。ネアはどうする?」
「昼は行くところがある」
「そうか。じゃあまた後でな」
「午後の講義一緒だったらよろしくな!」
「またお話しましょうね、ネアさん」

 僅かな時間で打ち解けたラナとリールの温かな声を聞き、ネアの表情も柔らかくなる。
 本当はもう少し砕けた話ができればよかったんだけど、焦らず行こう。
 時間はいくらでもある。

 去り際、ネアは俺にぼそりと言う。

「もうすぐ大きな襲撃がある」
「襲撃? ネアの主人が企ててるのか。なんのために? 狙いは?」
「わからない。ネアには聞かされていない。たぶん、その日は参加もしない。だから……気を付けて」

 そう言い残し、彼女は一人で去っていく。
 今のはきっと彼女なりの善意だろう。
 友人に向けての忠告、有難く受け取るとしよう。

「襲撃……か」

 平和になっても、争いは消えない。
 無駄に血が流れるところを、俺は見たくない。
 どうすればこの世界から争いがなくせるのか。
 前世でも、今世でも、俺は死ぬまで悩み続けることになりそうだ。

  ◇◇◇

 学園に入学して十日ほどが経過した。
 ここでの生活にも幾分なれはじめ、新入生たちにも余裕が見え始める頃。

「今日は人が少ないな。何かあるのか?」
「聞いてなかったのかよ。今日は上級生がみんな外で演習するから、新入生だけなんだよ」
「ネアさんも今日はお休みするって昨日言っていましたね」
「そうだったのか。通りで……」

 学園の中がいつもより静かだ。
 
「先生も半分は同行しているそうですね。その関係で講義の科目も今日は限られているんです」
「そうか」

 生徒の三分の二、教員の半数が不在となる。
 残っている大半は入学したばかりで、ようやく新しい環境に慣れてきた初々しい若人たち。
 加えてネアが不在。
 このタイミング、まさに……。

「襲撃にピッタリだな」

 直後、爆発音が学園に響く。
 軽い振動が俺たちを襲う。

「な、なんだよ今の音!」
「庭のほうからでした」
  
 驚く二人。
 それより速く俺は駆け出す。

「レインさん!?」
「どこ行くんだよ!」
「二人ともついて来い! 今は俺と一緒のほうが安全だ」

 俺が向かう方角には煙が立ち昇っている。
 庭の木々が燃やされたのだろう。
 魔力の気配は複数。
 一番多く集まっている場所が庭なら、俺はそこへ向かうべきだ。

「ひゃーっはっは! 面のいい女は捕らえろ! それ以外は皆殺しだぁ!」
「……」
「ボス! なんかこっち見てますぜ」
「あん? なんだもう来たのか。大人より速くきやがって、命知らずな……おい、なんだその同情した見てぇな顔は」
 
 品のない男たちが二十人弱。
 服装はならず者。
 どこからどう見ても、自分たち盗賊ですって言わんばかりの雰囲気や言動。
 なんというか。
 すごく哀れに思った。
 今の時代でもいるんだな。
 こういう……。

「わかりやすいやられ役だな……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

処理中です...