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episode18
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イベントが無事終了して翌週、美咲は会議室にいた。
参加者は漆原と第二のマネージャーである蒼汰、そして第三のマネージャーであり開発全部署のシニアマネージャーでもある近藤という錚々たるメンバーだ。
(何故私がこんな首脳会談に……)
漆原にはイベントの振り返りだということで呼ばれた。
てっきり巨額の売り上げを立てた安西の活躍についてを振り返るのだろうと思ったが当の安西はいない。
ならば一体これは何の会議だというのか。
「お疲れ様でした。さすが漆原君、大成功でしたね」
「有難うございます。けどカフェは動物型が一番好評でしたし、メンテはカフェ以外の客も来ました。協力してくれた皆のおかげです」
「客を呼べども売り上げの少ない漆原さんとは大違いで感謝の言葉しかありません」
「おいインターン。その通りだがもう少しオブラートに包め」
「だって漆原さんのお客さんてコーヒー一杯で何十分も粘る女の人ばっかなんですもん。ホストクラブじゃないんですけどねえ」
「お前俺の事嫌いなの?」
「いいえ~。アンドロイド作りが優秀なだけじゃ事業は駄目なんだなって分かってよかったと思ってますよ~」
美咲があははと軽く笑い飛ばすと、急にマネージャー勢がぴたりと黙りじいっと美咲を見た。
「え? 何ですか?」
「いや、何でも無い」
「はあ……」
漆原はクスリと笑って美咲の額を軽く突くと、マネージャー勢は顔を見合わせて頷いた。
美咲は何も分からずにいたが、漆原はそれを無視してマネージャー二人に向けて頭を下げた。
「改めて、アンドロイドカフェ事業についてご相談させて下さい」
「……え!? これカフェ事業の会議なんですか!?」
「そうだよ。久世が言った通り、第一は客寄せ担当。メインで実働するのは動物型とメンテナンスサービス。これのアサインにご協力を頂けませんか」
「こちらこそ参加させてほしいですよ。開発第三の社員も羨ましがってて」
「安西君は五千万円だったっけ。オーダーメイド部門が泡吹いてるよ。朔也以来だこんなの」
「でもNICOLAって一機二十万円くらいなのに五千万円も貰ったら盛大な詐欺じゃないです? いいんですか?」
「二十万円? それは無理だろう」
「え、二十万もいかないって言ってましたよ。NICOLAは廃棄パーツ寄せ集めなんです。会社の廃棄予定機体使えば材料費ゼロじゃないです? 調整だけなら二十万でもお釣りが出ますよね」
そんなに何十機も作るんですか、と美咲は唸りながら首を傾げた。
しかしマネージャー陣はまた黙って美咲をじいっと見つめる。
「え? 何ですか?」
「数字を意識できるのは良いね。コスト削減は大事だ」
「開発部門は廃棄費用で圧倒的な赤字だからそこを抑えられる。これは凄い事だよ」
「いえ、寄せ集めで作れる安西君が凄いんですよ」
「その情報を知ってプランにできる事が凄いんだよ。普段のコミュニケーションがなきゃ現場の声を吸い上げることはできない」
「そして僕ら上長はそれが難しいんだ」
「へー……」
思いもよらぬところで急に褒められ、しかも同僚同士の会話で出たことにすぎないので美咲は気まずくなり目を泳がせた。
「スタッフアンドロイドは製品じゃない方がいいかもしれないね。一対一で寄り添うっていうアンドロイドの本質を提供できる」
「NICOLAはどこが良かったんだろうね。寄せ集めという事は機能じゃないだろうし」
「久世はどう思う?」
「個性的な万能カスタムじゃないですか?」
「カスタムできるのかい? 万能というのは?」
「元々寄せ集めだからパーツ単位で変更できるらしいです。髪と目はどんなタイプでも良いとか」
「セミオーダーか! へえ。それもサービスに入れたいね。スタッフアンドロイドがカタログだ」
「となるとビジュアルデザイナーのアサインが必要だね」
「プロのデザイナー付けると結局量産型製品と同じじゃないです? 個人製作出す方が楽しい気がしますけど」
「けど美作のブランドイメージがあるからね」
「古着屋みたいな事じゃ駄目なんですか? 中古っぽさがウリのラインで低価格にすれば若い人が買いそうですけど。NICOLAは安西君のお古みたいなもんだし」
「あー……」
またマネージャー陣は黙って美咲を見つめた。
何でちょいちょい私を見るんだ、と美咲はつい身を縮めてしまう。
そして開発第三のマネジャーがにこりと微笑んだ。
「久世さんは美作中央だったね。どうして開発職を選んだんだい?」
「な、何で漆原さんと同じ事言うんですか……」
「ああ、やっぱりそうだよねえ。漆原君もそう思うんだ」
「ええ。なので今回は久世に運営をやってもらいました」
「なるほど。朔也は久世さんをアンドロイドカフェ事業の設立メンバーにしたいわけだ」
「ああ。プロジェクトリーダーを任せようと思ってる」
「えっ!?」
漆原の発言に驚き、ガタンと美咲は椅子をひっくり返して立ち上がった。目をこれでもかというくらい見開いて瞬きすら忘れてしまう。
しかし漆原はにやにやと笑っているだけだ。
「あの、は、初耳、ですけど」
「今言った」
「……え? 私インターンですよ?」
「俺もインターンでアンドロイドファッション事業立ち上げた」
「いや、まあそうですけど……でも私インターン成果ゼロなんですが……」
「まあな。お前は開発者としては全くの役立たずだ。しかも興味の対象はアンドロイドじゃないときた」
「そ、そんなことは……」
はいそうです、とはとても言えない。
しかも漆原以外のマネージャーもあははと笑っている。もはや否定しても意味がなさそうだった。
唇を噛んで俯くが、こんっと漆原に頭を小突かれる。
「だが何の才能も無いわけじゃない。適材適所って知ってるか」
「……私の適所はアンドロイドカフェってことですか?」
「じゃなきゃこんな会議に呼ばねーよ。うちの経営陣がどういう奴らか蒼汰から聞いたろ」
「経営陣……」
論文を見て貰う時に、蒼汰が聞かせてくれた話の中でそれはあった。
『アンドロイドが好きなのは生徒や現場の社員だけで、経営陣は興味無いよ。興味あるのは売上』
「経営者はアンドロイド最優先じゃなくていいんだ。お前は?」
(……私が興味あるのは漆原さんだった。その漆原さんが私を必要としてくれてる)
だがにわかには信じられず、美咲は思わず第二と第三のマネージャーを振り返る。しかし二人もにこにこと微笑んでいるだけだ。
本当なのかと再び漆原を見ると、再びにやりと笑いを浮かべた。
「アンドロイドカフェは俺の新規事業だ。手ぇ貸せよ」
「……はい!」
「今後は久世から連絡をさせますんで。よろしくお願いします」
「了解。よろしくね、久世さん」
「はいっ! よろしくお願いします!」
そして会議を終え、ドキドキしながらぼうっとしているとペンっと書類で軽く頭を叩かれる。
「寝てんなよ」
「お、起きてます。あ、じゃなくて、有難う御座いました」
「お前が頑張った成果だよ」
「でも漆原さんがいなかったらできなかったし。カフェ頑張ります」
「頼りにしてるよ」
くしゃりと頭を撫でて立ち去っていく姿を美咲はしばらく見つめていた。
参加者は漆原と第二のマネージャーである蒼汰、そして第三のマネージャーであり開発全部署のシニアマネージャーでもある近藤という錚々たるメンバーだ。
(何故私がこんな首脳会談に……)
漆原にはイベントの振り返りだということで呼ばれた。
てっきり巨額の売り上げを立てた安西の活躍についてを振り返るのだろうと思ったが当の安西はいない。
ならば一体これは何の会議だというのか。
「お疲れ様でした。さすが漆原君、大成功でしたね」
「有難うございます。けどカフェは動物型が一番好評でしたし、メンテはカフェ以外の客も来ました。協力してくれた皆のおかげです」
「客を呼べども売り上げの少ない漆原さんとは大違いで感謝の言葉しかありません」
「おいインターン。その通りだがもう少しオブラートに包め」
「だって漆原さんのお客さんてコーヒー一杯で何十分も粘る女の人ばっかなんですもん。ホストクラブじゃないんですけどねえ」
「お前俺の事嫌いなの?」
「いいえ~。アンドロイド作りが優秀なだけじゃ事業は駄目なんだなって分かってよかったと思ってますよ~」
美咲があははと軽く笑い飛ばすと、急にマネージャー勢がぴたりと黙りじいっと美咲を見た。
「え? 何ですか?」
「いや、何でも無い」
「はあ……」
漆原はクスリと笑って美咲の額を軽く突くと、マネージャー勢は顔を見合わせて頷いた。
美咲は何も分からずにいたが、漆原はそれを無視してマネージャー二人に向けて頭を下げた。
「改めて、アンドロイドカフェ事業についてご相談させて下さい」
「……え!? これカフェ事業の会議なんですか!?」
「そうだよ。久世が言った通り、第一は客寄せ担当。メインで実働するのは動物型とメンテナンスサービス。これのアサインにご協力を頂けませんか」
「こちらこそ参加させてほしいですよ。開発第三の社員も羨ましがってて」
「安西君は五千万円だったっけ。オーダーメイド部門が泡吹いてるよ。朔也以来だこんなの」
「でもNICOLAって一機二十万円くらいなのに五千万円も貰ったら盛大な詐欺じゃないです? いいんですか?」
「二十万円? それは無理だろう」
「え、二十万もいかないって言ってましたよ。NICOLAは廃棄パーツ寄せ集めなんです。会社の廃棄予定機体使えば材料費ゼロじゃないです? 調整だけなら二十万でもお釣りが出ますよね」
そんなに何十機も作るんですか、と美咲は唸りながら首を傾げた。
しかしマネージャー陣はまた黙って美咲をじいっと見つめる。
「え? 何ですか?」
「数字を意識できるのは良いね。コスト削減は大事だ」
「開発部門は廃棄費用で圧倒的な赤字だからそこを抑えられる。これは凄い事だよ」
「いえ、寄せ集めで作れる安西君が凄いんですよ」
「その情報を知ってプランにできる事が凄いんだよ。普段のコミュニケーションがなきゃ現場の声を吸い上げることはできない」
「そして僕ら上長はそれが難しいんだ」
「へー……」
思いもよらぬところで急に褒められ、しかも同僚同士の会話で出たことにすぎないので美咲は気まずくなり目を泳がせた。
「スタッフアンドロイドは製品じゃない方がいいかもしれないね。一対一で寄り添うっていうアンドロイドの本質を提供できる」
「NICOLAはどこが良かったんだろうね。寄せ集めという事は機能じゃないだろうし」
「久世はどう思う?」
「個性的な万能カスタムじゃないですか?」
「カスタムできるのかい? 万能というのは?」
「元々寄せ集めだからパーツ単位で変更できるらしいです。髪と目はどんなタイプでも良いとか」
「セミオーダーか! へえ。それもサービスに入れたいね。スタッフアンドロイドがカタログだ」
「となるとビジュアルデザイナーのアサインが必要だね」
「プロのデザイナー付けると結局量産型製品と同じじゃないです? 個人製作出す方が楽しい気がしますけど」
「けど美作のブランドイメージがあるからね」
「古着屋みたいな事じゃ駄目なんですか? 中古っぽさがウリのラインで低価格にすれば若い人が買いそうですけど。NICOLAは安西君のお古みたいなもんだし」
「あー……」
またマネージャー陣は黙って美咲を見つめた。
何でちょいちょい私を見るんだ、と美咲はつい身を縮めてしまう。
そして開発第三のマネジャーがにこりと微笑んだ。
「久世さんは美作中央だったね。どうして開発職を選んだんだい?」
「な、何で漆原さんと同じ事言うんですか……」
「ああ、やっぱりそうだよねえ。漆原君もそう思うんだ」
「ええ。なので今回は久世に運営をやってもらいました」
「なるほど。朔也は久世さんをアンドロイドカフェ事業の設立メンバーにしたいわけだ」
「ああ。プロジェクトリーダーを任せようと思ってる」
「えっ!?」
漆原の発言に驚き、ガタンと美咲は椅子をひっくり返して立ち上がった。目をこれでもかというくらい見開いて瞬きすら忘れてしまう。
しかし漆原はにやにやと笑っているだけだ。
「あの、は、初耳、ですけど」
「今言った」
「……え? 私インターンですよ?」
「俺もインターンでアンドロイドファッション事業立ち上げた」
「いや、まあそうですけど……でも私インターン成果ゼロなんですが……」
「まあな。お前は開発者としては全くの役立たずだ。しかも興味の対象はアンドロイドじゃないときた」
「そ、そんなことは……」
はいそうです、とはとても言えない。
しかも漆原以外のマネージャーもあははと笑っている。もはや否定しても意味がなさそうだった。
唇を噛んで俯くが、こんっと漆原に頭を小突かれる。
「だが何の才能も無いわけじゃない。適材適所って知ってるか」
「……私の適所はアンドロイドカフェってことですか?」
「じゃなきゃこんな会議に呼ばねーよ。うちの経営陣がどういう奴らか蒼汰から聞いたろ」
「経営陣……」
論文を見て貰う時に、蒼汰が聞かせてくれた話の中でそれはあった。
『アンドロイドが好きなのは生徒や現場の社員だけで、経営陣は興味無いよ。興味あるのは売上』
「経営者はアンドロイド最優先じゃなくていいんだ。お前は?」
(……私が興味あるのは漆原さんだった。その漆原さんが私を必要としてくれてる)
だがにわかには信じられず、美咲は思わず第二と第三のマネージャーを振り返る。しかし二人もにこにこと微笑んでいるだけだ。
本当なのかと再び漆原を見ると、再びにやりと笑いを浮かべた。
「アンドロイドカフェは俺の新規事業だ。手ぇ貸せよ」
「……はい!」
「今後は久世から連絡をさせますんで。よろしくお願いします」
「了解。よろしくね、久世さん」
「はいっ! よろしくお願いします!」
そして会議を終え、ドキドキしながらぼうっとしているとペンっと書類で軽く頭を叩かれる。
「寝てんなよ」
「お、起きてます。あ、じゃなくて、有難う御座いました」
「お前が頑張った成果だよ」
「でも漆原さんがいなかったらできなかったし。カフェ頑張ります」
「頼りにしてるよ」
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