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episode17-4
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女性はカフェに来ていた客だったが、手元には犬型のロボットを抱えていた。
必ずしもカフェにいるアンドロイドを指名しなければならないわけでは無く、ただアンドロイドと過ごすスペースとしての利用も歓迎している。
何しろ一般にはアンドロイドよりも動物型の方が多く普及しているが、連れて入れる場所は多くない。
アンドロイドは特殊な金属を用いているため店や設備を傷つける可能性があるからだ。動物入店お断りのようにロボットやアンドロイドは全面禁止の場合が多い。そんな人達の遊び場になれば、という目的もあり同伴も許可している。
しかし中にはこういったメンテナンス希望の客もいる。
女性客は恐る恐るアンドロイドをメンテナンス担当のスタッフに渡したが、大丈夫だろうかと心配そうに眺めている。
犬型ロボットを立たせようとするけれど右後ろ脚が自立できないようで、かくんと倒れてしまった。
「結構古い型ですね。珍しい」
「はい。お店では治せないって言われたんですけど……」
「サービス終了してる型ですからね。でも物理的に直せないわけじゃないですよ」
不安そうな女性客とは対照的に、スタッフは困った事など無くてきぱきと何やら道具を並べて作業を始めた。
何をしているのかは美咲には分からず、女性客も心配そうな顔をしたままだった。
けれど五分もしないうちに作業は終わり、電源を入れると脚は何の問題も無く動きぴょんと飛び上がり女性客に飛びついた。
「ははっ。元気ですね」
「ま、まあ、どうしてこんなすぐに」
「関節が割れてたから付け替えたんです。少しフリースペースで遊ばせてみましょうか」
そう言うと二人は一緒にフリースペースへ行き走り回らせた。
そしてもう一度調整し、また走らせまた調整し、それを何度か繰り返すと女性客は涙を流して喜んだ。
「大丈夫そうですね」
「前よりもずっと元気だわ。ああ、こんなに元気になるなんて」
「壊れたら美作の直営に相談して下さい。できる修理が違いますから」
「あ、あの、あなたはどちらのお店に?」
「私は美作の社員なんで個別修理の店には出てないんですよ」
「まあ……そうなんですね……」
どうやら今後もメンテナンスを頼めると思ったようで、女性客は残念そうな顔をしてがくりと肩を落とした。
その姿があまりにも頼りなげだったからか、スタッフは名刺を取り出し差し出した。
「どうしてもという事であればここにご連絡下さい。できる限り対応しますよ」
「本当ですか! 有難う御座います! やっぱり信頼できるお医者様がいいですからね」
お医者、と聞いて美咲はぴくりと小さく震えた。
メンテナンスは治療ではないし、修理をするのは医者ではない。
しかしアンドロイドやロボットを生き物のように深く愛するある特定の人達はこの表現をする。
(依存症だ……)
途端に美咲は不安になった。
アンドロイドと楽しく触れ合う場所という事はアンドロイドとの時間が増えるという事で、それはアンドロイド依存症を悪化させるのではと思われた。
もやもやした気持ちを抱えていると、コンッと後ろから軽く叩かれる。
「おい、何ぼーっとしてんだよ。客呼んでるぞ」
「す、すみません! 行きます!」
気にはなったが、どんどん客は入って来た。
どうやら個別のメンテナンスをしてくれるというのがアンドロイドを持ってる人間に響いたようで、次第に列になりメンテナンスブースは人であふれて行く。
「美咲ちゃーん! どうしよう! 整理券作る!?」
「はい。みんなで列整理しましょう」
「オッケー!」
初日に大変な事になったので漆原が出る時間を限定したら、それ以外は悲しいかな客があまり入らなかった。
しかしその分を埋めるようにメンテナンスブースが盛り上がり、同時にメンテナンスで目にする動物型の購入希望も増えていった。
そうこうしているうちにあっという間に一日は過ぎ、三日目はさらに動物型指名とメンテナンス希望が増えた。
仕方なく漆原はスポンサーのブースへ移ってもらい、すると漆原目当ての客もいなくなりカフェは本当にアンドロイドと触れ合いたい客だけになり大成功で締めくくる事となった。
必ずしもカフェにいるアンドロイドを指名しなければならないわけでは無く、ただアンドロイドと過ごすスペースとしての利用も歓迎している。
何しろ一般にはアンドロイドよりも動物型の方が多く普及しているが、連れて入れる場所は多くない。
アンドロイドは特殊な金属を用いているため店や設備を傷つける可能性があるからだ。動物入店お断りのようにロボットやアンドロイドは全面禁止の場合が多い。そんな人達の遊び場になれば、という目的もあり同伴も許可している。
しかし中にはこういったメンテナンス希望の客もいる。
女性客は恐る恐るアンドロイドをメンテナンス担当のスタッフに渡したが、大丈夫だろうかと心配そうに眺めている。
犬型ロボットを立たせようとするけれど右後ろ脚が自立できないようで、かくんと倒れてしまった。
「結構古い型ですね。珍しい」
「はい。お店では治せないって言われたんですけど……」
「サービス終了してる型ですからね。でも物理的に直せないわけじゃないですよ」
不安そうな女性客とは対照的に、スタッフは困った事など無くてきぱきと何やら道具を並べて作業を始めた。
何をしているのかは美咲には分からず、女性客も心配そうな顔をしたままだった。
けれど五分もしないうちに作業は終わり、電源を入れると脚は何の問題も無く動きぴょんと飛び上がり女性客に飛びついた。
「ははっ。元気ですね」
「ま、まあ、どうしてこんなすぐに」
「関節が割れてたから付け替えたんです。少しフリースペースで遊ばせてみましょうか」
そう言うと二人は一緒にフリースペースへ行き走り回らせた。
そしてもう一度調整し、また走らせまた調整し、それを何度か繰り返すと女性客は涙を流して喜んだ。
「大丈夫そうですね」
「前よりもずっと元気だわ。ああ、こんなに元気になるなんて」
「壊れたら美作の直営に相談して下さい。できる修理が違いますから」
「あ、あの、あなたはどちらのお店に?」
「私は美作の社員なんで個別修理の店には出てないんですよ」
「まあ……そうなんですね……」
どうやら今後もメンテナンスを頼めると思ったようで、女性客は残念そうな顔をしてがくりと肩を落とした。
その姿があまりにも頼りなげだったからか、スタッフは名刺を取り出し差し出した。
「どうしてもという事であればここにご連絡下さい。できる限り対応しますよ」
「本当ですか! 有難う御座います! やっぱり信頼できるお医者様がいいですからね」
お医者、と聞いて美咲はぴくりと小さく震えた。
メンテナンスは治療ではないし、修理をするのは医者ではない。
しかしアンドロイドやロボットを生き物のように深く愛するある特定の人達はこの表現をする。
(依存症だ……)
途端に美咲は不安になった。
アンドロイドと楽しく触れ合う場所という事はアンドロイドとの時間が増えるという事で、それはアンドロイド依存症を悪化させるのではと思われた。
もやもやした気持ちを抱えていると、コンッと後ろから軽く叩かれる。
「おい、何ぼーっとしてんだよ。客呼んでるぞ」
「す、すみません! 行きます!」
気にはなったが、どんどん客は入って来た。
どうやら個別のメンテナンスをしてくれるというのがアンドロイドを持ってる人間に響いたようで、次第に列になりメンテナンスブースは人であふれて行く。
「美咲ちゃーん! どうしよう! 整理券作る!?」
「はい。みんなで列整理しましょう」
「オッケー!」
初日に大変な事になったので漆原が出る時間を限定したら、それ以外は悲しいかな客があまり入らなかった。
しかしその分を埋めるようにメンテナンスブースが盛り上がり、同時にメンテナンスで目にする動物型の購入希望も増えていった。
そうこうしているうちにあっという間に一日は過ぎ、三日目はさらに動物型指名とメンテナンス希望が増えた。
仕方なく漆原はスポンサーのブースへ移ってもらい、すると漆原目当ての客もいなくなりカフェは本当にアンドロイドと触れ合いたい客だけになり大成功で締めくくる事となった。
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