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episode4-2
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アンドロイドはパーソナルプログラムの種類で大きく三つに分かれる。
一つはパーソナルプログラムが存在しない《ニュートラル》だ。感情や個性が邪魔になるルーティンワークに活用される。
最も需要が高いのは家族になる目的の《ファミリア》だ。これは一般家庭よりも介護サービス企業に需要が多く、今最も注目されている分野でもある。
最後が《ラバーズ》だが、その名の通り恋人になることが目的とされている。
一般家庭で最も需要の高い種だが、問題も多くどのメーカーも撤退している。現状続けているのは美作を含めて数社だ。
「ラバーズ初期型だと何か問題あるんですか?」
「あるよ。うちの社長の名前知ってるか?」
「何ですか突然。鷹司総一郎社長ですよね」
「そうだな。じゃあ先代社長は?」
「美作幸四郎」
「その通り。うちの社名は社長の苗字なわけだ。じゃあ何で今の社長は美作さんじゃないのか」
「世襲制じゃないから?」
「まあそうだけど、他にも理由があるんだよ。美作アンドロイド開発を率いた人の名前は?」
「藤井啓介博士ですよね。アンドロイドの父」
「そう。でもこの人は美作前社長の時に美作を離れて、鷹司社長になってから戻って来たんだ。その理由は知ってるか?」
A-RGRYと何の関係があるのかさっぱり見当もつかず、全く学んでこなかった美作の歴史に美咲は頭を悩ませた。
愛社精神のある真面目な社員なら知っているのかもしれないが、漆原目当てで入った美咲がそんな事を知っているわけもない。
「申し訳ありません」
「まあそうだよな。はい、じゃあ小テスト。最も人気のアンドロイドは?」
「それ何か関係あるんですか?」
「あるから聞いてんだよ。最も人気のアンドロイドは?」
「どの市場の話ですか? それによります」
「お、さすが美作中央。そこらへんは馬鹿じゃないな。じゃあ各一位とその理由を十秒で答えろ。まず生産数」
「十秒!? え、えっと、ニュートラル。パーソナルプログラムを入れなくて良い分安くて企業の大量発注需要が高い」
「正解。じゃあ購入後継続利用率」
「ファミリア。故人の再現を目的とする場合が多いため、購入者は買い替えるという概念がない」
「まあいいだろう。次、単価」
「ラバーズ。見た目は良いが機能面で職業特化型に劣るため購入者が少ない。結果、低ロット高単価になる」
「はい、よくできました。教科書通り」
漆原はパチパチと拍手をした。
美咲は自信満々に答えていたが、大学でもよく「久世は何でも教科書通りだな」と言われているのを思い出し、我ながら成長の無さを感じて恥ずかしくなってしまった。
しょんぼりと俯いていると、ぽんっと漆原に頭を撫でられる。
「馬鹿にしてるわけじゃない。大多数が購入する『商品』には購入者が必要とする最低限の機能が絶対に必要で、これが教科書に詰め込まれてる。けど新機能とか個性を追求してると既成技術を無視して『商品』にならない開発を続けちまう奴も多い。美作は研究企業じゃなくて商品を作る企業だ。美作の社員なら『教科書通り』の知識は絶対に忘れちゃいけないんだ。お前はそれが出来てる。自信持て」
「は、はい……」
いきなり饒舌に褒められ思わず身を引いてしまった。
これが本心なのか慰めるためにそれらしい事を言っただけなのかは分からない。慰めだったとしても、慰めるに値するだけの何かは感じてもらえたのだろう――とポジティブに解釈して美咲は大きく頷いた。
「さて。こっからはちょっと変わるぞ。購入後返品数」
「へ? 返品……えーっと……ラバーズ? 理想の恋人にならなかった、とか」
「外れ。次、システムエラー報告数」
「えー!? えっと、えーっと、じゃあラバーズ! プログラムが複雑だから!」
「外れ。クイズじゃねえんだから考えろよ。次、訴訟数」
「……ラバーズ。痴情のもつれ」
「大外れ。最後、逮捕数」
「はいっ! ラバーズのストーカー化! アンドロイド犯罪! これは絶対そう!」
アンドロイド犯罪とはその名の通り、アンドロイドによる犯罪だ。
犯罪といっても、プログラムエラーで異常行動を取り、その経過で物理的な二次被害をもたらすワンパターンである。
多いのは恋人設定が狂ってストーカー化し、終われた人間がマンションの屋上から落下――などで、今最も問題視されているアンドロイド犯罪だ。
その他にも、AIで進化する結果が予測できずプログラムエラーを起こし、結果、ストーカー化したり暴力沙汰を起こす事がある。
これにより法改正とアンドロイド専門警察の設立が急務となっている。
美咲は自信満々に答え、漆原はにっこりと微笑んでくれた。よし、と思いきや漆原から出てきた言葉は――
「外れ。はい失格」
お見事、とまた馬鹿にして拍手してくる漆原に美咲はくうっと唇を噛んで地団駄を踏んだ。
「落ち着け。返品エラー訴訟逮捕、これは全部ニュートラルだ」
「ニュートラル? へえ、問題事には無縁そうなのに」
「その感想は悪くないな。だが数量を競えば必ずニュートラルが一位だ。これは単純に生産数が多いからだ。母数が違う」
「ああ、そっか。母語一位が中国みたいな事ですね」
「そうそう。でもラバーズが圧倒的問題児に見えるだろ? そう印象付けたのがこのA-RGRYだ」
漆原はコンッとパソコンのモニターを叩いた。
そこにはA-RGRYにまつわる事件が所狭しと表示されている。その顔は全て美咲が拾ったアンドロイドと同じものだった。
一つはパーソナルプログラムが存在しない《ニュートラル》だ。感情や個性が邪魔になるルーティンワークに活用される。
最も需要が高いのは家族になる目的の《ファミリア》だ。これは一般家庭よりも介護サービス企業に需要が多く、今最も注目されている分野でもある。
最後が《ラバーズ》だが、その名の通り恋人になることが目的とされている。
一般家庭で最も需要の高い種だが、問題も多くどのメーカーも撤退している。現状続けているのは美作を含めて数社だ。
「ラバーズ初期型だと何か問題あるんですか?」
「あるよ。うちの社長の名前知ってるか?」
「何ですか突然。鷹司総一郎社長ですよね」
「そうだな。じゃあ先代社長は?」
「美作幸四郎」
「その通り。うちの社名は社長の苗字なわけだ。じゃあ何で今の社長は美作さんじゃないのか」
「世襲制じゃないから?」
「まあそうだけど、他にも理由があるんだよ。美作アンドロイド開発を率いた人の名前は?」
「藤井啓介博士ですよね。アンドロイドの父」
「そう。でもこの人は美作前社長の時に美作を離れて、鷹司社長になってから戻って来たんだ。その理由は知ってるか?」
A-RGRYと何の関係があるのかさっぱり見当もつかず、全く学んでこなかった美作の歴史に美咲は頭を悩ませた。
愛社精神のある真面目な社員なら知っているのかもしれないが、漆原目当てで入った美咲がそんな事を知っているわけもない。
「申し訳ありません」
「まあそうだよな。はい、じゃあ小テスト。最も人気のアンドロイドは?」
「それ何か関係あるんですか?」
「あるから聞いてんだよ。最も人気のアンドロイドは?」
「どの市場の話ですか? それによります」
「お、さすが美作中央。そこらへんは馬鹿じゃないな。じゃあ各一位とその理由を十秒で答えろ。まず生産数」
「十秒!? え、えっと、ニュートラル。パーソナルプログラムを入れなくて良い分安くて企業の大量発注需要が高い」
「正解。じゃあ購入後継続利用率」
「ファミリア。故人の再現を目的とする場合が多いため、購入者は買い替えるという概念がない」
「まあいいだろう。次、単価」
「ラバーズ。見た目は良いが機能面で職業特化型に劣るため購入者が少ない。結果、低ロット高単価になる」
「はい、よくできました。教科書通り」
漆原はパチパチと拍手をした。
美咲は自信満々に答えていたが、大学でもよく「久世は何でも教科書通りだな」と言われているのを思い出し、我ながら成長の無さを感じて恥ずかしくなってしまった。
しょんぼりと俯いていると、ぽんっと漆原に頭を撫でられる。
「馬鹿にしてるわけじゃない。大多数が購入する『商品』には購入者が必要とする最低限の機能が絶対に必要で、これが教科書に詰め込まれてる。けど新機能とか個性を追求してると既成技術を無視して『商品』にならない開発を続けちまう奴も多い。美作は研究企業じゃなくて商品を作る企業だ。美作の社員なら『教科書通り』の知識は絶対に忘れちゃいけないんだ。お前はそれが出来てる。自信持て」
「は、はい……」
いきなり饒舌に褒められ思わず身を引いてしまった。
これが本心なのか慰めるためにそれらしい事を言っただけなのかは分からない。慰めだったとしても、慰めるに値するだけの何かは感じてもらえたのだろう――とポジティブに解釈して美咲は大きく頷いた。
「さて。こっからはちょっと変わるぞ。購入後返品数」
「へ? 返品……えーっと……ラバーズ? 理想の恋人にならなかった、とか」
「外れ。次、システムエラー報告数」
「えー!? えっと、えーっと、じゃあラバーズ! プログラムが複雑だから!」
「外れ。クイズじゃねえんだから考えろよ。次、訴訟数」
「……ラバーズ。痴情のもつれ」
「大外れ。最後、逮捕数」
「はいっ! ラバーズのストーカー化! アンドロイド犯罪! これは絶対そう!」
アンドロイド犯罪とはその名の通り、アンドロイドによる犯罪だ。
犯罪といっても、プログラムエラーで異常行動を取り、その経過で物理的な二次被害をもたらすワンパターンである。
多いのは恋人設定が狂ってストーカー化し、終われた人間がマンションの屋上から落下――などで、今最も問題視されているアンドロイド犯罪だ。
その他にも、AIで進化する結果が予測できずプログラムエラーを起こし、結果、ストーカー化したり暴力沙汰を起こす事がある。
これにより法改正とアンドロイド専門警察の設立が急務となっている。
美咲は自信満々に答え、漆原はにっこりと微笑んでくれた。よし、と思いきや漆原から出てきた言葉は――
「外れ。はい失格」
お見事、とまた馬鹿にして拍手してくる漆原に美咲はくうっと唇を噛んで地団駄を踏んだ。
「落ち着け。返品エラー訴訟逮捕、これは全部ニュートラルだ」
「ニュートラル? へえ、問題事には無縁そうなのに」
「その感想は悪くないな。だが数量を競えば必ずニュートラルが一位だ。これは単純に生産数が多いからだ。母数が違う」
「ああ、そっか。母語一位が中国みたいな事ですね」
「そうそう。でもラバーズが圧倒的問題児に見えるだろ? そう印象付けたのがこのA-RGRYだ」
漆原はコンッとパソコンのモニターを叩いた。
そこにはA-RGRYにまつわる事件が所狭しと表示されている。その顔は全て美咲が拾ったアンドロイドと同じものだった。
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