精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ

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1-09 なぜかいきなり大金持ち、かも。

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1-09 なぜかいきなり大金持ち、かも。



「しかしこれほどの魔法使いだったとは…」
「魔法はともかく、動きがすごく良かったわね。鍛えれば一流の武術家になれると思うわ~」

 魔法に感心したのがシャイガさんで、動きに感心したのがエルメアさんだ。

 あとで聞いた話では獣人族という種族は極めて魔法が苦手な種族で、あまり魔法を使えることに価値を見出さないのだそうだ。
 魔法の才能のある人間と、武術の才能のある人間を比較すると間違いなく武術の才能のある人間を評価する。そう言う種族なんだそうだ。

 なんでもこの二人の馴れ初めも武術の才能を垣間見せるシャイガさんをエルメアさんが見つけて、エルメアさんの親まで巻き込んで鍛え上げ、婿にしたとか、つまり逆光源氏計画なわけだ。すごいな~。

 そんなエルメアさんをシャイガさんは苦笑しながら見ている。

「にしても魔法は魔導器なしでは使えないはずだが…ひょっとして…」
「はい、これが魔導器…だと思います。少し思いだしたんですけど、たぶん腕を切り落とされてこれをくっつけられた…んだと…」

 ここまでくればこの程度の説明は不可避だろう。俺は左腕の先にはまっている魔導器を見せてそう言った。もともとはこの先に腕の形をしたガラクタがくっついていたのだがそれは既になくなり、左腕の切断面にはめ込むリングのような形になっている。

 シャイガさんは眉を顰め、エルメアさんが痛ましそうに俺を見た。
 ルティーナも悲しそうな顔をしている。
 こういう雰囲気はいくないのだ。

「でっ、でも大丈夫ですよ、痛いとかありませんし、魔法も使えますし、どこかに置き忘れたりもしませんし、むぎゅっ」

 正面からおっぱいが攻めてきた。いや、ちゃう。正面からエルメアさんに抱きしめられたのだ。後ろからルティーナが抱きついてきた。おまけに三人一度に抱きしめるようにシャイガさんまで、なんじゃこりゃ。すっごい照れくさいんですけど?

 なんかちょっと胸が熱くなってきた気がするんです。涙がこぼれそう。
 やっぱり感情の起伏が大きくなっている気がするな。いいや、泣いちゃえ。

 俺は少しの間、エルメアさんにしがみつくようにして声を殺して泣いた。さすがに声を上げるのは無理だった。いくら情動がはげしくなっていても…この年で声を上げて泣くのはやっぱり無理だったよ。うん。

 ◆・◆・◆

「ねえディアちゃん、いっそのことこのままうちの子にならない? 私がお母さんで、ルーがお姉ちゃんだね」

 俺の涙が収まった後そう言ったのはエルメアさんだった。
 何気にハブられたシャイガさんが衝撃を受けていた
 おもろい。

 しかしいいのかこの人たちこんなに情にもろくて。

「うちの子になると武術の達人になれるわよ、さっきの動きを見ていたけど、動体視力も反射神経も一級品だと思う。今から鍛えればきっと武術家として大成できるわ」

 俺はその言葉に目を見張った。

「いや、エルメア、待ちなさい。これだけの魔法の才能があるのだから、やはり魔法使いを目指すべきじゃないかな」
「なに言っているの、男ならやはり肉体の性能で勝負するべきよ、魔法なんて面白くないわ」
「おもしろくないわ~」

 これが獣人の人たちの価値観だ。
 どうもこの種族脳筋臭い。

 シャイガさんの気持ちもわかる。何か才能のある分野があるのであればそれを伸ばすというのは当然ある選択肢だ。
 だが俺は武術家という言葉にとてつもない魅力を感じてしまった。

「強くなれる?」

 俺の返事を聞いてエルメさんのは顔を輝かせる。シャイガさんは少し困ったような顔をしていた。

「もちろんよ、武術というのはね、自分の身体を上手に使う技術なの。あなたは片腕がなくてそれはハンデだけど、武術をしっかりとやればきっとものともしないで生活できるわ」

 それはちょっと言い過ぎでは? 役に立たないというつもりはないのだけれど…まあ腕に関してはちょっと腹案があるからこれはいいや。
 だが武術を学ぶというのは名案というか幸運なような気がする。
 なぜって前世の俺は体があんな状態だったから当然激しい運動などできるはずもなかった。

 武術なんて高校の時に授業で少しやった柔道ぐらいのものだ。

 元気に駆け回り、飛び、跳ね、鋭い動きで攻撃を繰り出す。そんな自分をイメージする。なんかもうこれしかないよな気がしてくる。

「やります。武術やります」

 気が付いたら元気よくそう答えていた。

「よし、えらい、じゃあ今日からうちの子ね、お母さんって呼んでね」
「ルトナのことはお姉ちゃんだよ、お姉ちゃん。ね。ね」

 あれ? そっち?

 いつの間にか俺はナガン家の人になってしまった。

 ◆・◆・◆

「一匹目~、二匹目~」
「ふむ、なるほど遺物型の一種だね」
「遺物型?」
「ああ、異空間型とも言うね。ここではない別空間にアイテムをしまい込むタイプの収納でね、空間拡張型と違って時間遅延機能があるんだよ。まあどの程度の性能なのかはまちまちなんだけどね。あと空間拡張型というのは表と同じように時間が経過するやつだね。これは僕たちも持っているよ」

 ほーほー、空間収納というのは結構メジャーなんだね。

 俺達が倒した八匹のグラトン。
 これが結構いいかお金になるのだそうだ。
 だがシャイガさんたちの車にはそんなもの詰むスペースがない。
 屋根の上に括り付けて一匹か二匹運ぶのがやっとだろう。

 あまりにもったいないと嘆くので何とかならないかなと考えたら、魔導器から件の異空間収納機能のマニュアルが送られてきた。
 なのでもっていけますよと提案したわけだ。

 このグラトン、まずお肉がうまい事で有名らしい。『グラトンステーキ』とか言って結構高額で取引されるんだそうだ。ただし新鮮な内は。

 そしてそのカラフルで美しい革は地球でいうと所のワニ革のようなもので、この皮を使った小物は高級品であるらしい。
 きっとクロコダイルのハンドバックならぬグラトン革のハンドバックとかあるんだろう。こうして近くで見るとかなりよさげな皮だ。

 ただし新鮮な内は。

「一匹いくらぐらいになるんです?」

 何気に聞いてみた。

「そうだな、時間経過とともに値段が下がって行って、半日過ぎれば一匹で二万リゼルぐらいかな。
 逆に倒してから六時間以内に納品できれば一匹五〇万リゼルぐらいになる。金貨で五〇枚ぐらいだね」

「おおー、すごいーってよくわかんないや」

 そもそもリゼル自体が分からん。

「あははっ、そりゃそうか、まあ一万リゼルが金貨一枚。金貨一枚あれば夫婦者がつましく一か月ほどは暮らしていける額だね、だから今回は大儲けだ」

 そりゃすごいや。六匹だから三〇〇枚。三〇〇か月。
 あっ、この世界の一か月が三十二日で一年が十二か月だから二十五年分になる。すごすぎる。
 あれ、一年の日数おぼえてるな。

 うん、思いだしてきた。
 この世界は八日が一週期、つまり一週間にあたるもので、火、風、水、土、光、闇、命、冥、の八日間になる。これはこの世界にある元素、つまりエレメントを表したもの…だったと思う。
 冥の日が安息日というやつだな。
 一の月二十三日、火の日みたいな言い方をしたはずだ。

「なんか物凄い大金ですね」

 であればシャイガさんが勿体ないと嘆いていたのも頷ける。

「あれ、でもシャイガさんもアイテムバック持っているって言ってたよね?」

「まああることはあるんだが…」

 そう言ってシャイガさんが見せてくれたのは大きなナップザックだった。見た目は…

「グラトンの皮?」

「そう、これはグラトンの胃袋と皮で作った収納バックだよ」

 日本で使われていた一番大きなごみ袋ぐらいの大きさだな。口には紐が二本通してあってひもを引っ張ると口が閉まるようになっている。
 なかの空間が拡張されていて、見た目の容量の三〇倍ぐらい物が入るそうだ。

「だけど欠点があってね」

 まずバックの口を潜らないものは収納できないらしい。マンガみたいに口が際限なく伸びたり、入れたいものが変に伸びて細くなったりはしないらしい。残念。
 それに加えて前述の時間を遅くするような機能がない。

 入れても時間が経過するのであれば収納しても町に帰るまで値段がだだ下がりというわけだ。
 話を聞くとこういった胃に大量の物を入れられる魔物というのは何種類かいて、その魔物素材を利用してこの手のアイテムバックは製造されているらしい。
 グラトンはその中ではまあまあの素材。

 ただし仕留めてから半日以内に必要な処理をしないとその能力はドンドン減衰してついには永久に失われてしまう。できれば三時間以内に処理するのが理想なんだそうだ。
 魔力エナが抜けるということらしい。

 まあ胃袋ほどじゃないがお肉は時間経過でアンモニア臭がきつくなり、保存食にしか使えなくなるし、皮も艶が悪くなる。
 グラトンは戦闘力としては弱めの魔物であるのにこの処理のむずかしさから乱獲されたりはしないんだそうだ。つまりグラトンを狩るためには大掛かりな処理施設を運び込み、取った尻から処理しないといけない。この処理施設が結構大きく運ぶのにコストがかかる。
 ならこのあたりに処理施設を作ってしまえばいい思うかもしれないがここは北部大草原。全体としてみればたかだか三時間で移動できる範囲などごく一部でしかない。ここは広すぎるのだ。そしてグラトンの生息範囲も。

 だが俺の魔導器に装備された異空間収納は時間凍結機能が付いている。
 大きさ重さに関係なく一〇〇種のアイテムを収納できるというものだ。
 使い方は収納したいものに向けて収納を命じるとそのアイテムを包み込むように球形の魔法陣が展開し、そのアイテムがふっと消えてなくなる。つまり異空間に転送されるらしい。

 ではグラトンも全部一度に…とか思うけどそうは問屋が卸さない。
 同じ一種のアイテムとして扱うには条件があって、個性のない物という条件が付く。

 例えばお金、これは個性がない。たとえば金貨、金貨一枚を支払う場合、右の金貨で左の金貨でも金貨に変わりはないわけだ。つまり価値が変わらない。
 ではグラトンは? これは大きさが違い、毛皮の模様が違い、胃袋の容量が違う。つまり一頭目のグラトンと二投目のグラトンは価値が違うわけだ。
 中には傷のあるやつもいるし、牙の折れたやつもいる。
 これが個性があるということ、つまり一つ一つを区別する意味のあるものということになる。

 つまりグラトンは一頭で一種。つまりスロットを六つ使うわけだ。
 微妙に融通が利かないよね。
 まあ、百個のスロットのうちの六個なんだから別にいいけどね、それに一時だし。

 あともう一つ、水を大量に収納しました。
 水の扱いというのは前述のとおり、個性がないのでいくらでも同じスロットに入るわけだ。同じ川から二杯の水を汲み、右と左を区別する意味はない。
 まず水を収納しようとすると普通と同じように水中にピンポン玉ぐらいの魔法陣が発生する。
 その魔法陣に触れた水がどんどん収納に転送され続けるわけだ。

 出すときはその逆、魔法陣かまず発生し、そこから水が流れ続けることになる。水量としては水道の蛇口よりも多いぐらい。
 まあ、時間単位あたりに取り込める量には限界があるから際限なくというわけにはいかないが、思いっきり出した水道の水、三〇分分と考えるとかなかなか大した量じゃないかな。
 いや、そうでもないか…今日の野営でも水はできるだけ汲んでおこう。

 これが異空間タイプのアイテム収納なのだがこちらは現在の技術では創り出せないモノらしい。現存するこのタイプのアイテム収納は迷宮や遺跡から発掘されたアーティファクト。つまり今は作りえない古代王国の魔法道具になってしまう。
 それなりに数はあるらしいが貴重品であることも間違いない。
 扱いには気を付けるようにと言われた。
 うん、気を付けよう。

 ◆・◆・◆

「さっ、そろそろ行こうか」

 やるべきことを終え、俺達は馬車に乗り込む。
 シャイガさんたちは最初ここでもう一泊と考えていたのだ。俺を気遣って。だがここではグラトンの血が流れてしまった。こういう場所は良くないのだそうだ。
 魔物の襲撃的に。

 なのでどうしても距離を取らないといけなくなってしまった。
 まあ、このまま川沿いに少し西に移動するだけなんだけどね。

 獣車ではシャイガさんが御者。隣にルティーナが座って俺とエルメアさんは馬車の中。
 恐ろしいことに俺はエルメアさんに抱えられている。
 さすがにちょっと疲れたのかとっても心地いい。

 俺は運がよかったと思う。
 この異世界転移のような転生で、右も左もわからない状況でこんなに温かいか…家族(てれる)を得た。
 
 何とかやっていけそうな気がしている。
 俺はエルメアさんの腕の中でいつの間にか眠りについた。

 だがエルメアさんたちはおれのしらないところで恐ろしい計画を立てていたのだ。
 俺はすぐにその恐怖を味わうことになる。
 そう、味わうことになってしまうのだ…
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