精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ

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?-03 天運の導くもの。

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?-03 天運の導くもの。


「わずかばかり留守にしただけでこの変転…いったい何があったのです? このあたりを包んでいた瘴気がすべて晴れてしまっているです。 ひょっとしてあなたの仕業です? 艶」

 現場にたどり着くなりそうかけられた言葉に艶は顔をしかめた。

「それはこちらの台詞だと思いますよ。妙な話だと思ったらあなたの仕業だったのですねアリス…」

 場所は迷宮の抜け穴。ディアが突入に使ったあの坂道だった。
 そこに立つ女性は金髪の少女で空色のワンピースに真っ白いエプロン。青い瞳が印象的な可愛らしい見た目の少女だった。
 普通の人なら彼女を見て表情が和むところだろう。だが艶の顔はより一層厳しくなる。

「可愛らしい子ですね」

「あら、ありがとうです? うれしいです」

 リリアのもらした言葉に艶は若干の眩暈を感じた。
 アリスと呼ばれた少女を見た人間の反応としては至極当たり前のものなのだが彼女の本性を知る艶としてはとてもそんな気にはなれない。

「リリ、しっかりしなさい。この子は世界再生委員会の幹部ですよ」
「ふええ? 本当ですか?」
「ええ、本当です」

 アリスはくすくすと笑った。

「リリさんとおっしゃいますの? 残念ですの。三剣教導騎士団と私たち世界再生委員会は不倶戴天の敵同士です? 決してなれ合ってはいけない間柄です」

 リリアは艶とアリスの顔を交互に見比べアワアワしている。
 ふだんから聞いている世界再生委員会の悪行と目の前の可愛らしい少女のイメージがどうしても結びつかなかったのだ。

「ところで今回は何をたくらんでいたのですか?」

 艶は問いかけた。あくまでも過去形で。
 つまり彼らのたくらみが失敗したという前提でだ。

「ここに封じられていた魔物を利用して何かしようとしていたんでしょうけど…」

「あら、やっぱり知っていたです? まあそうですの。ここの魔物を封じ込めていた封印は一〇〇〇年の時間で崩れかけていたですの。
 もしあれを外に出せてあげられたらきっと喜んでくれると思ったのです?」

「あの人食いのアンデットをですか?」

「ああ、ここにいたのはアンデットだったですか? 知らなかったですの。ここに強力な魔物が封じられていたのは分かっていましたけど、四階層の封印が強力でそこから先に行けなかったのです。ただ性質は分かったですけど…」

 それは艶も知っていた。
 そもそもあれをソウルイーターと名付けたのは実は艶だったりする。
 昔は名無しのアンデットだったのだ。

 生きとし生けるものの魂を食らい死者に変えてしまうアンデットだからソウルイーター。
 数十年前、神の力を借りて近くまで進み。そして討伐などは到底無理と諦めて引き返すしかなかった。
 それ以降数年に一度は人を派遣してこの迷宮の様子は調べさせていたのだが、今回はその合間を縫うような犯行だった。
 さらに悪いことにキハール伯爵がここを利用して学園を運営していることも前回の報告の時にはあがってきてはいなかった。

『そもそもいろいろなことを秘密にしてしまったのがまずかったんでしょうけど・・・』

 キハール伯爵もギルドマスターのランファも艶から見ると『弟子』のような存在だ。
 会う機会は作ろうと思えば作れたはずだった。しかも話せばわかるかもしれない人たちだと思っている。

 だが艶は冒険者という存在の性も理解している。そして秘密というものが永遠でも完全でもないことを知っている。
 強力な魔物がいて、その所為でみんなが迷惑をしている。

 そんな話を聞けば討伐しようと考えるのが冒険者だ。

 なにも正義心に突き動かされて、というわけではない。もちろんそれがないとは言わないが、『俺達ならできるんじゃね?』であるとか『これに成功したら世界中に名がとどろくぜ』であるとか、あまつさえ『ウハウハだ』『スポーンスポーンだ』という根拠のない自信を持っているのも彼らなのだ。
 あるいは際限のない欲望とか。

 堅実な者がいないというわけではない。
 いや、むしろ堅実な奴らの方が多いだろう。だがここで問題になるのはわずかでも『バカ』がいるということの方だった。

 そのマイノリティーが迷宮に突入。
 ソウルイーターに食われる。
 ソウルイーターパワーアップ。
 何となくループ。
 封印解除。あるいは拘束じゅちゅ式解除?

 ↓

 大惨事!!

 となるのが目に見えていたので一人自分の胸のうちにしまっておくことしかできなかった。
 それがまさか敵の悪だくみに利用されようとは!

「あら、私はちょっと噂をばらまいただけです? 三階層にものすごいお宝があるぞってね。ああ、あと、『聖水をかぶっていくと三階層でも平気かもしれない』という予測を述べたりしたかしら、でもあくまでもかもしれないですから?」 

 ものすっごく良い笑顔で笑うアリスを見てリリアは顔をひきつらせた。
 話に聞いていたがまさかこういう人たちだったなんて…というのが正直な感想だった。

「この子はまだましな方よ…まあいいわ、アリス・マリアス、大人しく捕まってくださいな」

「い・や・です?」

「そう言うと思ってました」

 ぼこっ。という音を立て地中から大きな影が躍り出た。

「わーっ、かっこいいです? 蜘蛛です? 騎士です? ごーれむです」

 そこにいたのは上半身が鎧の騎士、下半身が蜘蛛の形をしたゴーレムだった。

「どうやったです? 最初から潜んでいたです?」

 アリスはチラリと艶を見た。

「召喚したですね?」

「問答無用です」

 アルケニー型のゴーレムは艶の言葉に合わせるように速やかに戦闘態勢に入った。
 人間に比べてまったく遜色のない動きで盾と剣を構えてアリスに切りかかる。

「艶様」

 リリアが思わず目を伏せるも艶の方は全く視線を逸らさない。
 それが正解であるかのように人間の倍もの大きさのあるゴーレムの斬撃を、小柄な少女がパンチ一発、弾いてみせる。

 ガーン、ガーンという音が響いて金属製のゴーレムと互角に戦うアリス。

「なっ、なっ、なっ」

「あの子のユニークスキルですね。怪力アリスとはよく言ったものです」

「いやーんです」
「そして今度は植物召喚ですか?」

 ゴーレムとの戦いに気を取られて居たせいで足元から生えてきた植物の蔓にアリスはからめとられていた。体中縦横に走るつる草が体を締め付け、メリハリを強調して微妙にエッチだったりする。

「拘束樹と言うんです、このゴーレムと合わせて新顔ですね」

「ああ、そう言えば艶のユニークスキルって『大御巫』でしたね、神さまを呼んでお話しできる。ずるいですよね、人間の知らないことも神さまに聞けば分かってしまうです。そこでこんなかっこいいもの見つけてくるんですから~あ~あ~あ~~~」

 ぶちぶちぶちぶちという音が響いた。
 アリスは力ずくで自分を縛り上げていた蔓を引き千切るとよっこいしょと地面に降り立
つた。

「はあっ、やっぱり何の準備もなしでは難しいですか…」

「当然ですの、鋼鉄製の檻ぐらいじゃ私は捕まえられないですの。まして蔓草ではですの?」

「ではやはりしかたありませんかね」

 艶は諦めたようにため息をついた。

「当然ですの。脱兎! ですの。 アバヨーなのですの~」

「艶さま逃げましたよ」

「ええ、逃げましたね…見事な逃げっぷりですね」

「ああいうのは…色っぽいというんでしょうか?」

 スカートをギリギリまでたくし上げ、見事なストライドで走り去るアリス。
 それを見たリリアは素朴な疑問に襲われる。

 名前と見た目は割と一致しているが行動と能力は全く一致していない少女だった。

「紐パンチラ見せで全力疾走というのは」

「何故でしょう、エッチなシチュエーションのはずなのにまったくそそるものがありませんね」

「女としてダメダメな気がします…というか女であること捨ててませんかあれ」

 アリスはあっという間に見えなくなった。

「まあ仕方ありませんね、いきなりの遭遇戦でしたし、町のうわさを聞いて確認にきて変なのに会ってしまいました…まっ、状況が分かっただけ良しとしましょう」

「しかし、この迷宮になにがあったんでしょう?」

「分かりません、まあ迷宮に潜ればその場の記憶で何があったか分かるかもしれないし、後で詳しく調べてみましょう。でもその前に」

「キハール伯爵の所ですか?」

「ええ、ランファも呼んで、お茶でもしましょうか? 久しぶりです」

「はい、承知しました」

 風に運ばれるように踵を返す艶に付き従うリリアの影。
 行き当たりばったりの、しかもはったりで、ある程度の状況は把握できた。これは僥倖だった。だがそもそもの情報が足りなさすぎる。
 艶たちは本当に最近あった大騒ぎのうわさを聞いてちょっと足を運んだだけだったのだ。

 だがその偶然が『天運』のように思えて仕方がないリリアだった。
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