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1話 

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「君、香水臭いよね。鼻がツーンとする」

 大好きな婚約者からの言葉は「可愛い」でも「綺麗」でもなく、それとは正反対のものだった。




 婚約者であるドミニク様とは私が十歳の時に婚約した。彼も私と同じ公爵家の御子息で、王子様のような金髪、形の良いアーモンド型の緑目、その全てが魅力的だった。笑顔の時に出来るエクボが素敵で、私も彼に笑いかけて欲しくて積極的に話しかけたが、その願いは未だ一度も叶っていない。
 なぜなら、初めて会った時から彼の私に対する当たりは強かったからだ。
 私が影で泣くたびに、侍女たちは「好きな人ほど素直になれず冷たくするものです」と慰めてくれたので、私は諦めず、彼の好みになれるよう努力した。そしてそれは今もなお続いているのだけれど……。



「どうしてドミニク様はあんなに私を嫌うのかしら……」

 私は公爵家の屋敷でいつめのように侍女たちに相談していた。どうしてここまでドミニク様に嫌われるのか。深いため息が今日もまた漏れる。
 しかし彼女たちも原因がいまいちよく分からないらしく、首を傾げるだけだ。

「まぁ、ドミニク様は見る目がないですわね」
「こんなにお綺麗なのに」
「どこがいけないのかしら。香水はまず止めるべきよね。後問題なのは、この縦巻きロール?それともお化粧?」

 全て信頼している侍女たちに相談して教えてもらったことだけれど。
 そう呟いた私に、侍女たちはふるふると首を振る。

「いえいえ、これこそ必要なものですわ!」
「えぇ、クレア様は間違ってなどおりません」
「私たちのご指導通りにやられていれば、間違いはないです」
「そうよね……」

 やはり原因は他にあるというのか……。
 結局、化粧に力を入れることを決めて一旦話は解決した。
 そして翌日、私は鏡の前に腰掛け侍女たちに身支度を手伝って貰っていた。
 いつものように柔らかいブロンドの髪を無理やりきつい縦ロールに変える。化粧は「私たちにお任せ下さい!」と自信満々な侍女たちにやって貰っているけれど……。

「……ねぇ、本当にこれで大丈夫かしら?顔が白すぎる気がするわ」
「女は化粧でいくらでも化けられるのです」
「えぇ、これでドミニク様もクレア様の虜ですわ」
「本当にそうなるかしら……」

 不安を残したまま、私は学園に到着した。
 廊下を歩けば、まあいつものようにヒソヒソと囁かれる。
 そして教室に入った時、ドミニク様と目が合った。

「クレア……」

 目を見開く彼を見て私の胸の心拍数は速くなる。緊張しながら彼の言葉を待てば……。

「酷いな。一瞬化け物かと思った」

 それはいつも以上に酷い言葉だった。
 

 
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