2 / 8
2話
しおりを挟む
「ば、化け物!?」
「うん、なにその顔、気持ち悪い。でも香水はやめたみたいだね」
「え、あ、はい。ドミニク様が臭いとおっしゃるので」
「まぁあれも臭かったけれど、君の体臭の方がずっと臭いから、やめなくても別に良かったんじゃない?」
「そうですか……」
それだけ言うと、ドミニク様はある女生徒と話し始めてしまった。確か伯爵令嬢のミレイ様だ。彼は最近彼女と仲が良い。彼女は私とは違って、自然体な美しさを持っていらっしゃるお方で、ドミニク様も彼女に対しては私に見せないような優しい笑みを浮かべている。
それが悔しくて私は顔を逸らした。
惨敗だったわ……。
どうやったら彼に褒められるのだろう。認めて欲しいのにその願いは一向に叶わない。
私はその後も浮かない気分のまま授業を受けた。
全ての授業を終えると私は足早に教室を出た。
……早くまた次の作戦を立てないと。
今度こそ、綺麗だって思われたい。
そう思って下駄箱へと続く階段を進むと、突如、背中を誰かに押される。
「きゃっ」
そして抵抗も虚しく階段から転げ落ちる間に、私は前世の記憶というものを思い出した。
しかし意識はそこで途切れる。
次に目が覚めたのは自室のベッドだった。
「クレア様!」
「お目覚めですか?」
「心配しました!」
「ご無事で何よりです!」
目の前に並ぶ侍女たちの顔。それはいつものように私を心配しているようだけれど、今の私にはそうは思えなかった。
どうしてこの人たちは、私をわざわざ不細工に仕立て上げていたのかしら……。
前世の記憶、化粧品会社で働いていた記憶を取り戻した今の私は、自分の格好が酷いことにすぐに気づいた。
きつい香水に、似合わない縦巻きロール、厚化粧なんて、可愛くなれるわけないじゃない。
どうしてわざわざ嘘をついてまで私に……。そりゃあ、ドミニク様も好きにはなれないわよ。こんな婚約者をあてがわれてむしろ被害者じゃない。
まぁ、でももう彼への恋心もないけれど。
記憶を取り戻したことによって、私はドミニク様への愛情を完全に失ってしまった。彼も私を押し付けられてなかなか可哀想だとは思うけれど、自分を好きになってくれるどころか暴言を吐いてくる人を追いかけるほど私も馬鹿ではない。何故今までそれほどドミニクに執着していた、クレアよ。
「ク、クレア様、どうされましたか?」
「ドミニク様にまあ酷いことを言われたんですか?」
「でしたら、また私たちと考えましょう!次は髪型をもっと派手にしてみるとか……」
「もう良いわ」
私はベッドから起き上がった。階段から突き落とされた体がキシキシと痛む。
でも気にせず立ち上がって私は鏡の前に腰掛けた。
慌てて寄ってくる侍女たちに向けて、鏡越しに私は微笑む。
「さぁ、始めましょう」
「うん、なにその顔、気持ち悪い。でも香水はやめたみたいだね」
「え、あ、はい。ドミニク様が臭いとおっしゃるので」
「まぁあれも臭かったけれど、君の体臭の方がずっと臭いから、やめなくても別に良かったんじゃない?」
「そうですか……」
それだけ言うと、ドミニク様はある女生徒と話し始めてしまった。確か伯爵令嬢のミレイ様だ。彼は最近彼女と仲が良い。彼女は私とは違って、自然体な美しさを持っていらっしゃるお方で、ドミニク様も彼女に対しては私に見せないような優しい笑みを浮かべている。
それが悔しくて私は顔を逸らした。
惨敗だったわ……。
どうやったら彼に褒められるのだろう。認めて欲しいのにその願いは一向に叶わない。
私はその後も浮かない気分のまま授業を受けた。
全ての授業を終えると私は足早に教室を出た。
……早くまた次の作戦を立てないと。
今度こそ、綺麗だって思われたい。
そう思って下駄箱へと続く階段を進むと、突如、背中を誰かに押される。
「きゃっ」
そして抵抗も虚しく階段から転げ落ちる間に、私は前世の記憶というものを思い出した。
しかし意識はそこで途切れる。
次に目が覚めたのは自室のベッドだった。
「クレア様!」
「お目覚めですか?」
「心配しました!」
「ご無事で何よりです!」
目の前に並ぶ侍女たちの顔。それはいつものように私を心配しているようだけれど、今の私にはそうは思えなかった。
どうしてこの人たちは、私をわざわざ不細工に仕立て上げていたのかしら……。
前世の記憶、化粧品会社で働いていた記憶を取り戻した今の私は、自分の格好が酷いことにすぐに気づいた。
きつい香水に、似合わない縦巻きロール、厚化粧なんて、可愛くなれるわけないじゃない。
どうしてわざわざ嘘をついてまで私に……。そりゃあ、ドミニク様も好きにはなれないわよ。こんな婚約者をあてがわれてむしろ被害者じゃない。
まぁ、でももう彼への恋心もないけれど。
記憶を取り戻したことによって、私はドミニク様への愛情を完全に失ってしまった。彼も私を押し付けられてなかなか可哀想だとは思うけれど、自分を好きになってくれるどころか暴言を吐いてくる人を追いかけるほど私も馬鹿ではない。何故今までそれほどドミニクに執着していた、クレアよ。
「ク、クレア様、どうされましたか?」
「ドミニク様にまあ酷いことを言われたんですか?」
「でしたら、また私たちと考えましょう!次は髪型をもっと派手にしてみるとか……」
「もう良いわ」
私はベッドから起き上がった。階段から突き落とされた体がキシキシと痛む。
でも気にせず立ち上がって私は鏡の前に腰掛けた。
慌てて寄ってくる侍女たちに向けて、鏡越しに私は微笑む。
「さぁ、始めましょう」
235
お気に入りに追加
5,501
あなたにおすすめの小説
婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います
kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。
でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。
サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。
ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
愛される日は来ないので
豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。
──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる