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引きこもり聖女のお仕事 ゴブリン退治 エピローグ

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「さて、言い訳を聞きましょうか?」
目の前に座っているネリアさんの笑顔が怖い。
銀の翼の面々は、視線を逸らしている。
………助けてくれる気はないってわけね。
エルザは、銀の翼の面々に一瞥くれると、視線をネリアさんに戻す。

ザバナの村のゴブリン退治の依頼を終了させたエルザ達は、村への挨拶もそこそこに逃げるようにして、このミモザの街へ帰ってきた。
そして依頼終了の報告のためにギルドへ顔を出したのだが、エルザ達がギルド内へ入った途端、連行されるようにして、この奥の部屋へと連れてこられ、ネリアさんとギルドマスターの前に座らされているのだった。

「えっと、言い訳と言われましても、何のことやら?」
「ほほぅ?何もやましいことはないと言うのね?」
「えぇ、強いて言えば、ギルドからの情報がアテにならず、解決するのにとんでもなく苦労した、ってことですかね?」
「その結果だと?」
「そうです。そもそも当初の情報通りであれば、問題なく終わったと思いますよ?」
こちらを睨むネリアの視線に真っ向から立ち向かうエルザ。
確かに森を荒野にしてしまったのは申し訳ないと思うが、そもそもゴブリンキングがいなければあんなことにはならなかった。ゴブリンキングと言えば驚異度B~Aランクの魔物であり、間違ってもDランクのパーティ数人で討伐できるような相手ではない。

「いくらギルドでも、状況がコロコロ変わる現場に完全に対応出来る訳じゃありません。」
「そうは言っても、ちょっと調べれば少なくとも報告にあがっているより多くのゴブリンがいたことぐらいは分かるのでは?私達が村に着いたとき、ホブゴブリンが率いていましたし、ホブゴブリンを見落とすような調査はどうなのかと……。」
「それらも含め、ギルドの報告と現状に差異があった場合は、ペナルティ無しで依頼の放棄が出来る筈です。」
「つまり、助けを求めてきた村人を見捨てろ、と言うわけですね。」
「そうじゃなくて、しかるべき判断と準備が必要だと言ってるんです!」
「そのしかるべき判断により、準備をしている間に、村が全滅するんですね?」
ネリアとエルザが睨み合う。

「二人ともそこまでにしておけ。」
今まで黙っていたギルドマスターが、仲裁に入る。
「とにかくだ、ギルドにあがっていた報告より高難度な条件の中、依頼を達成したことには間違いない。報酬には色を付けておくので、手続きが済み次第帰っていいぞ……ネリアはその二人の手続きをしてやれ。俺はこいつ等から報告を聞いておく。」
「ハイ、わかりました。……エルザちゃん、ユウ様、こちらへどうぞ。」
エルザとユウは、ネリアの後に続いて部屋を出ていった。

3人が部屋を出ていった扉を、しばらくの間黙ってみていたギルドマスターだが、、やがて大きく一息付き、銀の翼の面々と向き合う。
「じゃぁ、報告してもらおうか?」
「報告はいいのですが、自分たちの身の保証はしてもらえるのか?」
ギルドマスターに問いかけられるが、マイケル達の口は重い。
「ふむ、そう言うという事は余程のことがあるな。大丈夫だ。依頼前も言った通り、保証はする。ただし口外不要は守ってもらうぞ。」
「言いませんよ。言ったって気がふれたとしか思われませんし。」
諦め顔でミラが言うと、そのままの流れでギルドマスターに対する報告が始まる。
馬車の魔改造について、異常な容量があると思われるユウのアイテム袋について、普通ではありえない探知能力と、それが当たり前だと思っている、ユウとエルザについて、そして……。
「コレがユウさんが片手間に治してくれた装備です。」
そう言ってミラが自分たちの武器をギルドマスターに見せる。
ミラの杖とマイケルの剣は、ゴブリンキングとの闘いの後、後始末をしていたら、お礼にと直してくれたものだ。
ちなみに、ミラの杖には耐久力アップと魔法抵抗力アップ、魔力増幅の効果が、マイケルの剣には、同じく耐久力アップと切れ味強化、BCCの効果が付与されている。
「三重の効果付与品か……。国宝級の武器だな。」
ギルドマスターは、差し出された武器に『鑑定』をかけて確認するとそう呟く。
「どうする?こちらで引き取っても良いが?」
「そうしたいのは山々なんですが、この武器を手放すのは彼女達への信頼を裏切る気がして……。」
ギルドマスターの問いかけに、マイケルがそう答える。
「そうだな、おまえたちがそのまま使うのがいいだろう。ただし、くれぐれも、他の冒険者達にバレないようにしろよ。」
「「「はい。」」」
三人は返事をすると、それぞれの武器をしまい込む。

「さて、後は森が一夜にして焼失した件だが……。」
ギルドマスターの再度の問いかけに、マイケルとメイデンはミラをみる。彼らはその時、大怪我を負い意識が朦朧としていたため、よく分からないのだ。
ミラは彼らの視線を受け、ギルドマスターに答える。
「ユウさんが使った魔法ですね。どんな魔法かまでは分かりませんが、最上位の広域魔法なのは間違いありません。」
実際、ミラが目にしたものは、今までに見たことも聞いたこともないもので、分かっているのは、火属性で広域に影響を与えると言うことぐらいだってことと、あれでも、ユウは全力を出していないと言うことだけだった。
「そうか……。……それらを踏まえてお前たちに問う。彼女は脅威になりえるか?」
「「「なりえません」」」
ギルドマスターの問いかけに、きっぱりと言い切る銀の翼の3人。
「彼女……ユウさんが魔法を使ったのはエルザちゃんを助ける為でした。私達の武器を直してくれたのも、エルザちゃんの頼みだからです。今まで見ていて、ユウさんが動くのは、エルザちゃんが関わることのみで、それ以外には関心が無いように思えます。だからエルザちゃんが危険に晒されるか、彼女を怒らせない限り、脅威にはなりえないと思います。」
ミラの言葉を聞いて、考え込むギルドマスターだったが、しばらくしてから口を開く。
「この件については王宮案件となる。お前等には再度口外無用を申し渡す。」
「「「はい。」」」
「ご苦労だった。下がっていいぞ。」
ギルドマスターの声に、銀の翼の面々は部屋を後にする。
彼らが去った扉をしばらく見ていた後に、ギルドマスターは大きな溜息を吐く。
彼の気苦労は、これから大きくなりそうであった。



カランカラーン……。
ギルドの扉が開き、一人の少女が姿を見せる。
「いらっしゃーい。……エルザちゃん、今日も一人?」
「誰のせいだと思います?」
そう答えると、ネリアは困った表情を見せる。
あれから数日経っているが、あの日以来、ユウは家に籠もりっぱなしで、一歩も外にでようとしない。
「まぁ、あの子もやり過ぎちゃった感はあるけど、私を助けるためって言われたら、私には何も言えないし、実際ユウのお陰で私も銀の翼の人たちも助かったわけだし……。」
「わかってるのよっ。でも仕方がないじゃない。あの時はマスターも致し、ちゃんとお仕事してる所見せないと、私のお給料がぁ……。」
「その結果、ユウは拗ねて引き籠り。あの子ネリアさんには少し心開いてたように見えたから、きっと裏切られた気持ちなんでしょうね。」
「ごめんなさぁぁぁぃぃ。」
ネリアが、その場で大げさに土下座をする。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ。それに私に謝っても仕方がないでしょう。」
「そこを、エルザちゃんの御力でとりなしてよぉ。ユウ様に嫌われたら、私のお給料がぁっ!」
「……結局、心配なのはそこなのね。」
「当たり前じゃないですかっ!お給料がなければ生きていけないのよ。明日食べるものが買えないって言うわびしさがエルザちゃんに分かるのっ。」
「それは分からないですけど……。」
実際、エルザは遺跡迷宮で彷徨っていた時以外に食べるものに困ったことはない。質素ではあってもちゃんと食事をすることが出来る生活をしていたので、食べ物が買えない、という知識はあっても感覚として実感することは難しかった。
「とにかく、です。明日は何としてもユウ様を連れてきてください。ユウ様の好きなイチゴショートケーキをシュークリームを好きなだけ食べれるように取り寄せておきますからと、お伝えください。」
「はぁ、ワカリマシタ……。」
エルザはそう呟くと、依頼ボードの方へ、逃げるようにして向かっていった。

「……ってことなんだけど、どうする?」
無駄だろうな、と思いつつユウに聞いてみるエルザ。
「行く。」
「だからね、そろそろ家を出るのも……って、行くって言っ?」
「うん。イチゴショート食べ放題。」
この数日、自分が何を言っても家から出ようとしなかったのに、たかがイチゴショートごときで、と思うと何故か納得がいかないエルザだった。
「イチゴショート好きなの?」
「ウン。」
「シュークリームも?」
「ウン。」
「私の作るハンバーグは?」
「大好き。チーズ入りならもっと好き。」
「……イチゴショートと私のハンバーグどっちかを選んでって言ったらどうする?」
「……エルたんの意地悪。そんなこと言うならこの街吹っ飛ばす。」
「どっちが意地悪よっ!そんなことぐらいで街吹っ飛ばすなっ!」
「だってぇ……。」
「ハイハイ、私が悪かったわよ。今夜はユウの好きなハンバーグ作ってあげるから、機嫌直して、ね?」
「うん。エルたん大好き。」
……つまり、ユウは食べ物で釣るのが一番手っ取り早いってことね。
ギュッとしがみついてくるユウを抱き留めながら、そんなことを思うエルザだった。


「ユウ様いらっしゃいませっ!」
ギルドの扉をくぐると、ネリアが、待ち構えていた。
「ささ、どうぞ奥へ。ショートケーキを山のように用意してありますから。」
「くるしゅうない。」
ユウはネリアに案内されるがままに、酒場の奥の席へと進む。
心なしか、酒場に様子がいつもよりにぎやかに感じたのはエルザの気のせいではなかった。
酒場の常連たちは、久しぶりにユウが姿を見せたことで色めき立っていた。
(おい、やっぱり可愛いなぁ。)
(そうだな。我らがアイドルの姿が見れてよかった。これで落ち着いて酒が飲める。)
(お前、昨日もそう言いながら飲んでたじゃねぇか。)
(そんな事よりも、だ。エルたんを見てみ?)
(あぁ、やっぱりユウちゃんと一緒の方が笑顔が輝いてるぜ。)
(やっぱ、あの二人がそろってこそだよなっ!)
(何とかお近づきになれねえかなぁ?声かけてみようかな。)
(お前、勇者かっ!)
(シカトされるにエールを2杯)
(冷たい目で蔑まされるに。ミードを3杯だ。)
(じゃぁ、俺は吹っ飛ばされて宙を舞うに蒸留酒を5杯だ。)
(俺もそれに乗るぜ。)
(((俺も、俺も……)))
(お前ら、ひどくね?)
(いいから、いいから。声かけて見ろよ)

そんな言葉が酒場内で交わされているとはつゆ知らず、ユウとエルザは、ネリアの用意したショートケーキを味わっていた。
「エルたん、あーん。」
「あーん。………美味しい。」
「うん。」
もぐもぐ……。
「そうでしょう、そうでしょう。ユウ様の為に御用意させていただきましたから。」
ネリアが嬉しそうにそう言うが、その言葉を聞いた途端、ユウがフォークを置く。
「ユウ様、どうかされましたか?」
「………昔、同じ言葉をよく聞いた。みんな、私の為に用意したと言いながら無茶な要求をしてきた。……そんな食べ物美味しくない。」
ユウは悲しそうな顔でそう呟き、帰ろうと立ち上がる。
「ま、待って下さい。そんなつもりじゃないんです。これは………、そう、お詫びですっ!先日私の態度がユウ様の心を傷つけたと、エルザちゃんから伺ったのでっ!」
ネリアは、必死になってユウを説得する。
ここでユウに嫌われてしまっては、特別ボーナスがでないばかりか、減棒処分もありえるので、必死にならざるを得なかった。
「…………。」
「あの、ユウ様?」
「……………。」
「………シュークリーム食べます?」
「エクレアなら。」
「すぐ用意しますっ!」
エクレアの手配をかけながら、どうやら切り抜けることが出来たらしい、と、安堵の溜息を吐くネリアだった。

「ところでお二人にお願いというか、領主様より呼び出しが来てるのですが?」
ユウ達がケーキを食べ終わったタイミングを見計らってネリアがそう切り出すのだった。
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