世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

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引きこもり聖女 領都へ向かう?

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「御領主様から呼び出しがかかっています。」
ネリアがそう告げると、エルザは「とうとう来たのね。」と身を竦める。
ユウと行動を共にするようになってから、いつかは呼び出しを受けることは覚悟していたので、想定の範囲ではある。ただ、予想よりも速かったのは、この間のゴブリン退治の一件のせいだろうと推測する。
「エー、面倒。」
しかしユウはネリアの言葉を一刀両断に切り捨てる。
「あの、ユウ様?面倒と言われましても……。」
困った顔でエルザをみるネリア。
……そんな顔で見られても、私だって困る。
エルザはそう思いつつもユウの説得を試みようとする。
「ねぇ、ユウ。領主様の呼び出しを断ると、もっと面倒になるよ?」
「……ヤッパリそう言う人なんだ。」
「そういうって?」
「人の迷惑も顧みず、自分が偉いから他人が言うことを聞くのは当たり前、聞かない人は権力を持って非道いことをする屑。」
「いやいやいや、さすがにそれは………。」
ユウの偏見に満ちた人物像を正そうとするが、よく考えれば、そう言う貴族が多いことを思い出す。
「断った私は、きっと女郎長屋に売られるんだね。」
「女郎長屋って………。」
「ユウ様、確かにユウ様の言うような領主様が多いのは事実ですが、このブラウシュタット領の領主様は、領民思いの立派なお方ですので大丈夫ですよ。」
ネリアが、そうフォローを入れる。
「領民思いなら、放っておいて欲しい。」
「えっと、それは……。」
「ねぇ、ユウ。私と旅行したくない?」
それならば、とエルザは攻める方向を変えてみる。
「エルたんと旅行………。」
………よし、食いついてきた。
「私はユウと二人っきりで出掛けたいなぁ。」
「エルたんと二人っきり………。でも外に出るの面倒……でもエルたんと二人で旅行……。」
……かなりぐらついてるね。後一押しかな?
「ユウは私と一緒じゃイヤ?」
少し上目遣いでユウをみる。
「いく。きゃわわなエルたんと旅行。」
ユウに抱き締められたエルザはこっそりとネリアに向けて親指を立ててみせる。
ネリアもエルザに笑顔で頷いていた。
エルザはうまくいったと、この時までは思っていたが、出発する日になっているユウのことを甘く見ていたと思い知らされたのだった。



「ねぇ、本当に馬車じゃなくていいの?」
エルザは街を出てしばらく歩きながらユウに問いかける。
この街から、領都フォンブラウまでは、馬車で2週間かかる距離がある。
歩いていけなくもないが、その場合、1ヶ月以上かかるので、馬車を利用するのが普通である。
エルザは当然、馬車の手配をしようとしたのだが、ユウが頑なに反対したのだ。
「馬車は乗り心地が悪い。」
「だからといって、歩いていくのは大変だよ?」
「大丈夫、乗り物は用意する。」
「用意って………えっ!」
ユウがアイテム袋から取り出したものを見て、エルザは絶句する。
目の前に小ぶりとはいえ、立派なログハウスが出現する。それはいつも野営に使っているログハウスによく似ていた。違う所があるとすれば、下方に大きめの車輪がついているのと、再度に引くための取っ手が追加されているところだろうか?
「えっと、ユウ、これって乗り物?」
「乗り物だよ?ちゃんと移動するための車輪がついてるでしょ?」
「ついてるけど、そもそもこんな大きなものを何が引くの?」
小ぶりとはいえ、キッチンに食堂、リビングに寝室やバストイレが完備されているので、それなりの大きさがある。間違っても馬の1~2頭ぐらいで引ける重量ではないだろう。
「それは大丈夫。今から呼び出すよ……『土偶創造《クリエイト・ゴーレム》』」
ユウが魔法を唱えると、目の前の土が盛り上がってくる。
と同時にどこからか軽快な音楽が流れてくる。
盛り上がった土が形を作ると、音楽に合わせてキレッキレのダンスを踊り始めた。
時に激しく、時にコミカルな動きを交えたそのダンスは、見ていて楽しい。楽しいのだが……。
「ねぇ、ユウ、は何?」
「何って、馬?」
「確かに、馬だけどっ!」
目の前で、派手なパフォーマンスを繰り広げるモノ……それは確かに馬ではあった。……ただし頭部だけ。
首から下は筋骨隆々な人族の男性そのもので、下半身にブーメランパンツを履いている以外は、その鍛え抜かれた肉体美を見せつけるかのように裸だった。
馬の頭を持つ筋肉男二人が、キレッキレなダンスを披露する……実にシュールな光景だ。
「マッチョな馬のゴーレムだからウマッ……。」
「もういいわ。頭痛い。」
ユウの言葉を遮って、エルザは頭を振る。
正直、こんなので領都まで行ったら、確実に不審者扱いを受けるだろう。
下手すれば魔族の襲撃と間違えられるかもしれない。
とはいえ、今から他の馬車を手配するのも難しいし歩いていくのは勘弁してもらいたい。さらに言えば、ドヤ顔をしているユウの機嫌を損ねるのも得策ではなく、エルザ自身が受け入れれば済む話という事もあって、諦めることにしたのだ。
「それで、このゴーレムはちゃんとこの家を引けるの?」
「大丈夫。力自慢だから。それに足も速いよ?」
ユウはそう言って、ゴーレムに何やら命じると、ゴーレムたちはダンスをやめ、ログハウスに取り付けられた引手を持つ。
「さぁ、入ろ?」
ユウに促されるがままにログハウスに入るエルザ。
中に入ると、いつも使うログハウスと間取りが違う事に気づく。
ドアから入ってすぐ左手がリビングで、右手側にキッチンと食堂があり、寝室や、浴室などはさらにその奥に配置されているようだ。
リビングに入ると左右には大きめの窓があって、そこから外を見ることが出来る。 前方には小さな明り取り窓があり、そこから覗くと、馬?のゴーレムが出発の合図を待ってしゃがんでいるのが見える。
ユウも横に来て、外を覗くと「領都までお願い」とゴーレムたちに指示を出す。
指示を受けたゴーレムたちは立ち上がると足並みをそろえて走り出した。

「意外と揺れないのね。」
「そう言う風に設計した。」
ドヤ顔をするユウ。その顔が褒めて、褒めてと訴えているので、エルザは優しく頭を撫でてやる。
窓の外の景色が流れるように後方へと去っていく以外は、普段リビングでくつろいでいる感じと大差はなく、窓からの景色がなければ移動していることに気づかないくらいだ。
「とりあえずお茶入れるわね。」
エルザはキッチンに向かうとお茶の用意を始める。
棚にはいつも使うティーセットが用意されていて、食料棚を覗くと、各種食材が大量に詰め込まれている。
キッチンのシンクにある蛇口をひねると水が出てきて、その水をやかんに入れる。
横にある魔導コンロの上にやかんを置き、軽く魔力を流せば魔導コンロが熱を持ちやかんの中の水を温め始める。
他にも、ものを冷やしておける冷蔵棚や、中に入れておけば自動で洗浄してくれる洗浄棚などがある。
これらはすべてユウが作成した魔道具で、言ってみればロストテクノロジーの塊だ。
ユウに言わせれば、片手間に作れて珍しくもなんともないとの事だが、冷蔵棚一つとっても、現在最高の技量を持つ魔道具師が何人集まっても、ここまで小型のものを作るのは難しいだろう。
食料棚に至っては、ここの棚は状態保存の魔法が掛かっているので、いつでも新鮮な食材を使えるが、そもそも、状態保存の魔法そのものが今現在ではロストテクノロジーとして扱われているため、王宮ぐらいでしかお目に掛かれないものだったりする。
水やコンロ、明かりなども、魔石を利用した魔道具で、説明を受ければ、確かに簡単な仕組みなのだが、今までそのような仕組みを聞いたことはなかった。
この辺りの仕組みについて、魔道具師に説明すれば、あっという間に一般的に広まることは間違いなく、一般に普及するのも早いだろうと思われる。
それだけに、エルザはこのことを他に話していいかどうか迷うのだった。
ユウは、別にいいんじゃない?と気にしていない。実際、ユウが生きていた時代ではごく当たり前に普及していた技術らしいので、エルザが何を悩んでいるのかが理解できないらしい。
エルザが気にしているのは、世間一般に与える影響が大きすぎる事だった。
今まで、何故気づかなかったのか?と思えるくらいに簡単で誰でも使える技術……これが広まれば、今までの常識がひっくり返るぐらいの影響力があり、そのことによってどこで何が起きるのか想像もつかないという所に恐怖を覚えるエルザだった。
なので、今回の領主の呼び出しに乗じて、この件を相談するつもりでいた。
今の領主であれば、大きな混乱を起こさないようにうまく調整してくれるだろうという期待を込めての事だった。

「ハイ、ユウ。おやつはクッキーね。」
エルザはユウの前にクッキーの皿を置き、ティーカップにお茶を注ぐ。
自分のカップにもお茶を注いでから、手を合わせた後、クッキーに手を伸ばす。
「ねぇ、ユウ。ひょっとしてこの家わざわざ作ったの?」
はむはむとクッキーを頬張るユウに聞いてみる。
「ん?いつも使ってるのを改造しただけ。これならずっと家にいられるよね?」
どうやら引きこもりを拗らせた結果、「家から出ずに遠出をする方法」を考え付いたらしい。
エルザはその答えに、大きなため息を吐くことで答えた。

「このスピードなら10日位で領都に着きそうだけど、休憩とか必要ないの?」
エルザは窓の外を見ながらユウに訊ねる。
景色の流れ方は馬車から見る景色より早く、かなりのスピードが出ているのが分かる。そのくせ、まったく揺れを感じないというのが、ユウの技術の高さが伺い知れるのだが、これは普通の馬車に流用できるのだろうか?などと益体もない考えがよぎる。
「ん、夜通し走ることも出来るけど、一応夜は止めるよ。早く着いたらもったいないから。」
どうやらユウは、エルザが思っている以上に旅行を楽しみにしているらしい。
「じゃぁ、とりあえずミモザの街に着いたら観光でもしようか?」
「うん。」
エルザが道中にある宿場町の名を告げると、ユウは嬉しそうに頷く。
本来の馬車の旅なら、もっと小刻みに宿場町に立ち寄るのが普通ではあるが、この異様な馬車?はあまり人目に触れない方がいいだろうと思い、また、宿に泊まる必要もないため、宿場町には立ち寄らないことも考えていたエルザだったが、せっかくの旅行なのだから、と考え直して、ユウが見て喜びそうな宿場町に立ち寄ることを決めた。
なんだかんだと言っても、ユウの笑顔を見るのが好きなエルザだった。

「ん?」
「どうしたの?」
ユウが不意にお茶を飲む手を止めて、顔をしかめるのを見て、エルザが訊ねる。
「ちょっと待ってね。」
ユウは、それに応えずに前方の窓から顔を出し、ゴーレムたちに泊まるように指示を出す。
「どうしたのよ?」
「この先に何かいるって。」
ユウに言われて、エルザも気配を探るが、いつもの装備(ネコミミカチューシャ)をつけていない今のエルザでは、何も感じ取ることが出来なかった。
エルザは胸のペンダントトップを握り締め魔力を送ると、エルザの身体が光に包まれ、一瞬のうちにいつもの装備を身に着けた。
これは、エルザの安全(プラスユウ自身の欲望)の為にネコミミメイドドレスの姿でいて欲しいというユウの要望と、常にその格好は恥ずかしい、戦闘時に有効なのは認めるから装備するのは構わないけど、せめて普段は別の格好がしたい、というエルザの切実な願いの妥協案として、ユウが用意してくれた『早着替え』の魔道具だった。
欠点としては、新しい衣装を用意した場合、あらかじめユウに登録をお願いしておかないと、着替えた後元の衣装が消えてなくなるということぐらいだったが、これのお陰で、他の洋服が着れる様になったので、エルザとしては満足だった。

「……何も感じないけど?」
ネコミミの機能を最大限に発揮して気配を探るが、エルザにはユウのユウ気配を感じ取ることが出来なかった。
「ん、15kmぐらい先だから……ゆっくりと進んで。」
ユウはそう言いながら、ゴーレムたちに進むように命じる。
「この辺りならエルでもわかる。」
しばらく進んだところで、再度馬車?を止めるユウ。
ユウに言われ、再度探知を試みるエルザ。
「あ、うん、何かいるね……これはゴブリン?」
「たぶんそう。」
エルザの呟きに応えるユウ。
エルザの探知では、少し言ったところで10匹ぐらいのゴブリンらしき気配がたむろっているのを捕らえている。
「このまままっすぐ行って蹴散らすことも出来るけど?」
「そんなことできるの?」
「ん。」
「じゃぁそうしようか。」
正直なところ、エルザはしばらくゴブリンは見たくないと思っていたので、問題なく通り抜けられるならそれでいいと考える。
「ん、……真っすぐ。邪魔者は蹴散らして。」
ユウはエルザの要望に応え、ゴーレムたちに指示を出す。

しばらく走ると、前方にゴブリンたちの姿が見えてくる。
エルザは念のため、いつでも飛び出せるように、ショートソードの使を握り戦闘態勢に入っている。
ゴブリンたちの姿が近づくにつれ段々と大きくなってくる。
ゴブリンたちは馬車?の姿を認めると、剣やこん棒などを片手に立ち塞がる。
しかし、ゴーレムたちはスピードを緩めることもなく、その中を突っ切る。
ゴーレムに蹴り飛ばされ、殴り飛ばされ、跳ね飛ばされるゴブリン達。
半死半生で横たわるゴブリンたちに、見向きもせずに走り去るゴーレム馬車。

「……えっと何だったのかな?」
警戒を解いて息を吐くエルザ。何が何だかわからないうちにゴブリンたちは後方遠く見えなくなっている。
「オークの群れ相手でも蹴散らせる。」
そう、自慢げに言うユウだったが、以前のゴブリン退治の時、最初からこのゴーレムたちを呼び出しておけば、面倒なく依頼を達成できたのでは?と思うエルザだった。
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