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第五章 浪人と剣術
第049話 倉橋新右衛門
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「これはこれはお侍様、道に迷いなされたということでございますが、どちらへ行くおつもりで?」
「拙者ゆえあって廻国の旅をしておるところでな。戸隠山へと参詣し、その後越後へと行かんとしたところ、斯様に道に迷うてしもうた。ここまでずっと急ぎ足で来たものゆえ、そろそろ脚にも疲れが来ておる。迷惑はかけんので休ませてはくれぬだろうか」
続けて侍は、名は倉橋新右衛門といい、元はさる大名家の御小姓組番士を勤めていたが、とある失策有りてやむなく浪人したのだと明かした。
幸いなことに、江戸のある大店と縁故があって食うには困らないため、全国を回って見聞を広めたのち、刀を捨てどこかで商売でもしようかと考えているという。
新右衛門の態度は終始明朗なもので、どことなく育ちの良さが感じられる。
浪人したというのに屈託が一切なく、あっさりと武士を捨てるつもりでいるというのは奇妙だが、元来明るい性格ゆえにそのような考えに至ったのかもしれない。
その人柄を見る限り怪しげなところはないものの、基本的に村では他所者を歓迎していない。
藩からは怪しい人物が村へとやってきたら、すぐに通報するよう御触れが出ている。
この頃は年貢の取り立ても厳しく、藩のほうも村への監督を強めているから、他所者を入れたことであらぬ疑いをかけられたらつまらない。
「和尚、どうしましょう…?」
「うむそうだな…」
久安は、新右衛門のことを頭のてっぺんから足の先までじっくりと眺めまわし、結局泊めることにした。
なにか決め手があったのか、と鬼助が後で問うたところ久安は、
「わしにも少し思うところがあってな」
と言葉を濁すばかりで、その裏には何やら仔細ありげな気配がした。
「拙者ゆえあって廻国の旅をしておるところでな。戸隠山へと参詣し、その後越後へと行かんとしたところ、斯様に道に迷うてしもうた。ここまでずっと急ぎ足で来たものゆえ、そろそろ脚にも疲れが来ておる。迷惑はかけんので休ませてはくれぬだろうか」
続けて侍は、名は倉橋新右衛門といい、元はさる大名家の御小姓組番士を勤めていたが、とある失策有りてやむなく浪人したのだと明かした。
幸いなことに、江戸のある大店と縁故があって食うには困らないため、全国を回って見聞を広めたのち、刀を捨てどこかで商売でもしようかと考えているという。
新右衛門の態度は終始明朗なもので、どことなく育ちの良さが感じられる。
浪人したというのに屈託が一切なく、あっさりと武士を捨てるつもりでいるというのは奇妙だが、元来明るい性格ゆえにそのような考えに至ったのかもしれない。
その人柄を見る限り怪しげなところはないものの、基本的に村では他所者を歓迎していない。
藩からは怪しい人物が村へとやってきたら、すぐに通報するよう御触れが出ている。
この頃は年貢の取り立ても厳しく、藩のほうも村への監督を強めているから、他所者を入れたことであらぬ疑いをかけられたらつまらない。
「和尚、どうしましょう…?」
「うむそうだな…」
久安は、新右衛門のことを頭のてっぺんから足の先までじっくりと眺めまわし、結局泊めることにした。
なにか決め手があったのか、と鬼助が後で問うたところ久安は、
「わしにも少し思うところがあってな」
と言葉を濁すばかりで、その裏には何やら仔細ありげな気配がした。
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