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得体の知れない〝違和感〟のある母親
しおりを挟む〝母親って時に恐ろしい〟と思った看護体験の話です。
私は総合病院の小児科病棟で働いていました。
季節性の感染症の治療や、扁桃腺の除去目的、骨折などの外傷の治療、虫垂炎の手術目的など、さまざまな目的の入院患者さんがいました。
小児科なので、家族が入院につきそいます。
なかには、我が子の病状が心配なあまり、頻回なナースコールをしたり、過度なケアを求めるような困った家族もいました。
そんななかで、何度か入退院を繰り返している乳児がいました。男の子で、名前はタケルくんと言いました。
その子のお母さんは、非常に人当たりのいいお母さんで、看護師からは大変人気がありました。
タケルくんのお母さんは、夜中に巡視に行った際も眠たそうな顔一つせず、わざわざきちんと膝を揃えてベッドサイドに座り、「ご苦労様です」と看護師に微笑んでくれました。
「感じがいい」
「本当にいいお母さん」
「看病で疲れてるお母さんが多いから、中には疲れすぎてイライラしてるお母さんもいるけど、タケルくんのお母さんはいつもニコニコしてるよね」
「関わりやすいし、むしろお母さんに癒される!」
ナースステーションで、同僚たちがタケルくんのお母さんを賞賛する声をよく聞きました。
でも、私は同僚たちから同意を求められても、うまく返事ができないのでした。
私はいつも、タケルくんのお母さんにどこか違和感を感じていたのです。
いったい、何に違和感を感じていたのでしょうかーー?
それは、自分自身でもハッキリとわかりませんでした。
ただ、私はタケルくんのお母さんの笑顔を見ていると何となくゾッとしてしまうのでした。
• • •
タケルくんは、小児科の外来にもよく訪れていました。
外傷をつくって、受診することが多かったようです。
タケルくんのお母さんは、外来でも丁寧で礼儀正しく、いつも笑顔を絶やさないので、外来看護師からも人気がありました。
受診の回数も多かったことから、タケルくんはまだ一歳にも満たないのに、外来のおなじみさんになっていたようです。
タケルくんのお母さんは、いつも看護師の笑顔に囲まれていました。
しかし、そんなお母さんを、影のある表情で見つめる顔がありました。
小児科医のアンドウ先生でした。
ある日、仕事帰りに小児科外来の前を横ぎった私は、外来看護師とアンドウ先生が廊下で会話をしているのをたまたま耳にしました。
「どうしたんですか? アンドウ先生」
アンドウ先生は言葉を濁すように、
「いや、何もないよ……」
と答えました。
「暗い顔しちゃって。タケルくんのお母さんの笑顔を見習ったらどうですか?」
その時、アンドウ先生の視線の先にはーー、タケルくんを膝に抱いて、何人かの看護師とにこやかに話をするお母さんの姿がありました。
お母さんを見つめるアンドウ先生の顔は、驚くほど暗いものでした。
まるで、暗い沼の底をのぞくみたいでした。
私は、思わずハッとして立ち止まりました。
アンドウ先生も、私と同じように、何か違和感を感じているにちがいないーー。
私はそう思いました。
続く~
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