【完結】僕らの恋は青くない

衿乃 光希

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26話 喪う覚悟

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 よく考えるように、使うなら必ずうちにきなさい、と言われて、僕と円花さんは叔父さん宅を出た。

 僕たちは無言で帰途に就く。外だったからというものあるけど、それぞれが考えていたから。一族の力とその代償について。

 一族の中でも霊感体質の人間だけが、過去に戻る力を使える。
 ただし力を使えるのはたった一度だけ。失敗しても二度目はない。
 やり直しが成功しても、同程度の代償を支払うことになる。

 眞紗美叔母さんが高校を受験できるようにした叔父さんは、自分の高校受験を失敗した。
 妹の命を救った京一郎さんは、一年後に母親を喪った。

 確実に関連しているかはわからない。勝手に関連付けて考えてしまっただけかもしれない。
 二つの出来事の幅があり過ぎて、判断がつかない。

 でも、僕に話したということは、叔父さんは関連していると、考えているんだろう。

 僕が過去に戻って、円花さんの事故をなかったことにする。
 これに対する代償は――。僕自身か近辺の人間が事故に遭う。

 これはかなり楽観的な希望だ。

 幽霊になった円花さんを、生き返らせた。
 そう判断される。その可能性もゼロじゃない。

 そうなると、僕か、僕の近辺にいる誰かの命が失われる。
 ぞっとした。

 僕の近辺には母か叔父さん夫婦しか、大切な人はいない。
 三人のうちの誰かを喪って、円花さんを生き返らせる。

 無理だ。さすがに受け入れられない。

『君たちは、生き返りたい、生き返らせたいと願うけど、その代償は高くつくかもしれない。誰かの命が失われてでも、願いを叶えたいのかい? 叶えるなら、覚悟が必要だよ。君たちに、その覚悟はあるのかい?』

 叔父さんに言われた言葉が頭から離れない。
 覚悟。覚悟ってなんだよ。誰かを喪う覚悟なんて、できるわけないじゃん。

「ユージくん、やめよう」
「え?」

 隣を歩く円花さんが呟いた。
 僕は足を止める。

「誰かを、ユージくんの大切な人を喪ってまで生き返りたいなんて、私思ってない」
 ふるふると、円花さんが頭を振る。ポニーテールが揺れる。

「‥‥‥でも」
「そうはならないかもしれない? だけど、そうなるかもしれないよ。私。覚悟なんてできないよ」

「円花さん‥‥‥」
「ユージくんの大切な人を、私の大切な人に置き換えたら、耐えられないもん。両親だったり、友だちだったりが、私の代わりにいなくなっちゃうなんて、無理。だからもういいの」

 同意を求めるように、円花さんが顔を上げた。笑顔だけど、無理をして笑っているように見えた。

「絶対に大切な人限定なのかな」

 僕の呟きを理解できなかったのか、円花さんが首を傾ける。
「‥‥‥どういうこと?」

「例えば、円花さんが死んじゃう直接の原因になった人と入れ替えるみたいなこと、できないかな」

 そんな都合の良い事が起きるかはわからないけど、円花さんに降りかかった不幸を原因に返せればいいのにな、とふと考えた。

「直接の原因? ユージくん、私の死因知ってるの?」
 円花さんに指摘されて、そういえば円花さんは記憶が全部戻ってないんだったと思い出した。

「たぶんだけど、合ってると思う」
「教えてくれる?」
 ショックな出来事を教えていいのか少し迷った。

 でも、もう黙っている段階ではないのかもしれない。
 たったひとつだけある方法を活かすには、円花さんにすべてを思い出してもらった方がいい気がした。

「新聞に載ってたんだ。あの交差点で、円花さんはトラックに撥ねられた。重体だって」

「トラック‥‥‥」
 記憶を探るように瞼を閉じた。

 僕は円花さんの様子を慎重に窺う。ショックで消えてしまったり、記憶が戻れば消えてしまったりしないかと。

「そう‥‥‥そうだったんだ。ユージくんの時と、同じ状況だったんだね」
 すぐに目を開き、納得したような顔をした。

 ショックを受けているようには見えない。記憶は戻らなかったのかもしれない。

「円花さんが声をかけてくれたから、僕は撥ねられずにすんだ。円花さんのお陰で助かった」

「私、交通事故だったんだ。だからあそこで生まれたんだね。そのお陰でユージくんを助けられたんだから、幽霊になった意味はあったんだ」

 死因に納得したんじゃなくて、幽霊になった意味に納得したらしい。

「だからさ、円花さんを撥ねたトラック運転手と入れ替えられたら、丸く収まると思わない?」
 うまくいくかはわからなくても、僕が過去に戻ってなんとかできないだろうか。

 けれど、円花さんは首を横に振った。
「ユージくん、私、それでも嫌かも」

「どうして?」

「私を撥ねたトラック運転手にも家族がいるかも。何にも悪いことをしてない、真面目にお仕事してる人なのかも」

 円花さんはこんなにお人好しな人だったんだ。自分を撥ねた相手に対して起こるどころか、あるかもわからない背景を思いやるなんて。

「そんなこと! 注意して運転すれば、交通ルールを守れば、避けられたんだから、自業自得だよ。円花さん、人が良すぎるよ。自分を撥ねた人間まで思いやる必要はないよ」

「思いやりっていうか、誰かに命を削ってもらう価値のある人間じゃないの、私は」

 円花さんが言おうとしていることが理解できない。僕にとって円花さんの存在は、もうなくてはならないものになっている。

「円花さんの命に価値はあるよ」

「ないよ。だって大好きな人に嘘をついたんだから」


   次回⇒27話 円花さんの気持ち
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