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4話 幽霊からのお願い事
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「過去探し?」
「うん。私ね、この体になった時、自分が誰だかわからなくて、すごく戸惑ったの。話しかけても誰も反応してくれなくて、ついに世界中を敵に回しちゃったんだって、悲しかった。何をしたのかぜんぜん思い出せないし、家もわからない。どうしたらいいんだろうって途方に暮れてたら、窓ガラスに姿が写っていないことに気がついて、悟ったの。私死んじゃったんだ。幽霊になったから、誰も気づいてくれないんだって。それから少しずつ私を思い出していったの。名前とか、一中に通っていたこととか」
「一中! そうだ、その制服、第一中学のだ」
彼女の着ている制服がどこの学校の物なのか、僕はずっと思い出せなくて消化不良を起こしていた。
「そう、一中の制服。でもね、卒業したの。卒業証書もらって、クラスの子たちと泣いた記憶があるの。思い出したの。それなのに死んでも制服着てるなんて、私どれだけ学校が好きだったのよって、ちょっと笑っちゃった」
自虐的な笑みをうっすらと浮かべる。
「君にとって、良い思い出がたくさんあるからじゃないかな」
「そうなのかも。友だちと話ができれば、もっといろいろ思い出せると思うんだけど、その友だちの顔すらわからないんだから。どうしようって思ってて」
「悪いけど、僕は君とは初対面だから、どんな人と友だちだったかとか、部活とか何をしてたのか知らないよ。生前の写真を見せて訊ねて回れば情報は得られそうだけど、不審者みたいなことしたくないな」
「そうだよね。そもそも家がわからないんだから、写真をゲットするのも無理だよね」
「何もできない僕に憑いて、高校の理解できない授業を受けてるより、街中を歩き回った方がいいんじゃない? 地縛霊ってわけじゃないんでしょ?」
「地縛霊って?」
こてりと小首を傾げる。
「その場所から動けない幽霊ってこと」
「それなら、動けるから、違うと思う」
「最初にいた場所ってどこなの?」
「ユージくんが撥ねられそうになった横断歩道の近く。どうしてそこなのか、わからないんだけど。幽霊の小清水円花、生誕の地」
生誕の地って。
ちょっとおもしろくて、僕は思わずくすっと笑ってしまう。彼女は幽霊のわりに悲嘆さや落胆なんかの、負の感情が感じられないんだよな。
僕が街中で見かける幽霊たちは、どんよりと暗いものを背負っている人がほとんど。それこそが幽霊、って感じがする。だからこそ関わりたくなかったのに。
彼女は明るくて、前向きさすら感じられる。生前の性格が反映されてるんだろうか。
「ユージくんは、霊感体質なんだね。なんかカッコイイ」
無邪気すぎる言葉が、僕の胸を抉った。
「カッコイイ? 嫌な思いしかしてないのに?」
僕の嫌味な言い方のせいで、あっ、と彼女の表情が変わる。
「厨二病なこと言って、ごめんなさい。そっか、ユージくんにとっては、嫌なことなんだね。だから、私とも話してくれなかったんだ」
笑顔が消えると、僕の心にちくっと針が刺さる。
「僕こそごめん。君は僕のことを知らないんだから、僕がどんな経験をしてきたかなんて、わからないよね」
どうやら僕は、彼女が笑顔でなくなるのにいちいち罪悪感を覚えるらしい。
「生まれた時から幽霊が見えてたわけじゃないんだ。ある出来事がきっかけで見えるようになって。僕も最初はおもしろがってたんだけど、ちょっと嫌な経験をして、人が信じられなくなった。トラウマなんだ。だから人と距離を取っているし、幽霊とも関わらないで、無視してる」
「アニメとかだと、特別な能力で人を救ったりできるから、その感覚で発言しちゃった。ほんとにごめんね。私の存在も迷惑なんだね。どうやったら成仏できるのかもわからないんだけど、ひとりでいろいろやってみる。私と話してくれてありがとう」
言うなり、彼女はぱっと立ち上がり、階段を下りて行った。
屋上にぽつんと残されて、僕は後味の悪い思いを抱いた。
話だけは聞いた。
自分を形成してきた過去がわからないのは不安だろうとは思う。だけど、何も知らない僕がしてあげられることはない。
しばらくぼんやりしてから、立ち上がった。
南京錠を元の状態に戻してから、階段を下りる。
ノリのいい軽快な音楽が耳に届いた。
旧校舎の一階は体育館になっていて、音はそこから聴こえてくる。
二階部分に観覧席がある造りになっていて、気になった僕は、少しだけ見てみようと扉を開けた。
観覧席は階段状に下がっていて、体育館がよく見渡せた。
フロアを半分に仕切った観覧席側は女子バスケ部が使い、ステージ側は男女混合の団体が音楽に合わせて踊っていた。ダンス部かと思ったけど、部員たちは棒状の物を持っていた。
手のひらの上でくるくると回転させ、真上に放り投げた棒を受け取り、二本使っている人もいる。棒がまるで体の一部のようだ。
バトントワリング部だとすぐに気がついた。踊りながら、アクロバティックな動きでバトンを操っている姿は、なかなかかっこいい。
見応えを感じていると、そこにひとりだけ、違和感を覚える人物が混ざっているのを見つけた。
楽しそうに踊っているけれど、周囲を見ながらだから、ダンスが遅れている。それにバトンを持っていない。
なにより、その人物は透けていた。
次回⇒5話 踊る幽霊
「うん。私ね、この体になった時、自分が誰だかわからなくて、すごく戸惑ったの。話しかけても誰も反応してくれなくて、ついに世界中を敵に回しちゃったんだって、悲しかった。何をしたのかぜんぜん思い出せないし、家もわからない。どうしたらいいんだろうって途方に暮れてたら、窓ガラスに姿が写っていないことに気がついて、悟ったの。私死んじゃったんだ。幽霊になったから、誰も気づいてくれないんだって。それから少しずつ私を思い出していったの。名前とか、一中に通っていたこととか」
「一中! そうだ、その制服、第一中学のだ」
彼女の着ている制服がどこの学校の物なのか、僕はずっと思い出せなくて消化不良を起こしていた。
「そう、一中の制服。でもね、卒業したの。卒業証書もらって、クラスの子たちと泣いた記憶があるの。思い出したの。それなのに死んでも制服着てるなんて、私どれだけ学校が好きだったのよって、ちょっと笑っちゃった」
自虐的な笑みをうっすらと浮かべる。
「君にとって、良い思い出がたくさんあるからじゃないかな」
「そうなのかも。友だちと話ができれば、もっといろいろ思い出せると思うんだけど、その友だちの顔すらわからないんだから。どうしようって思ってて」
「悪いけど、僕は君とは初対面だから、どんな人と友だちだったかとか、部活とか何をしてたのか知らないよ。生前の写真を見せて訊ねて回れば情報は得られそうだけど、不審者みたいなことしたくないな」
「そうだよね。そもそも家がわからないんだから、写真をゲットするのも無理だよね」
「何もできない僕に憑いて、高校の理解できない授業を受けてるより、街中を歩き回った方がいいんじゃない? 地縛霊ってわけじゃないんでしょ?」
「地縛霊って?」
こてりと小首を傾げる。
「その場所から動けない幽霊ってこと」
「それなら、動けるから、違うと思う」
「最初にいた場所ってどこなの?」
「ユージくんが撥ねられそうになった横断歩道の近く。どうしてそこなのか、わからないんだけど。幽霊の小清水円花、生誕の地」
生誕の地って。
ちょっとおもしろくて、僕は思わずくすっと笑ってしまう。彼女は幽霊のわりに悲嘆さや落胆なんかの、負の感情が感じられないんだよな。
僕が街中で見かける幽霊たちは、どんよりと暗いものを背負っている人がほとんど。それこそが幽霊、って感じがする。だからこそ関わりたくなかったのに。
彼女は明るくて、前向きさすら感じられる。生前の性格が反映されてるんだろうか。
「ユージくんは、霊感体質なんだね。なんかカッコイイ」
無邪気すぎる言葉が、僕の胸を抉った。
「カッコイイ? 嫌な思いしかしてないのに?」
僕の嫌味な言い方のせいで、あっ、と彼女の表情が変わる。
「厨二病なこと言って、ごめんなさい。そっか、ユージくんにとっては、嫌なことなんだね。だから、私とも話してくれなかったんだ」
笑顔が消えると、僕の心にちくっと針が刺さる。
「僕こそごめん。君は僕のことを知らないんだから、僕がどんな経験をしてきたかなんて、わからないよね」
どうやら僕は、彼女が笑顔でなくなるのにいちいち罪悪感を覚えるらしい。
「生まれた時から幽霊が見えてたわけじゃないんだ。ある出来事がきっかけで見えるようになって。僕も最初はおもしろがってたんだけど、ちょっと嫌な経験をして、人が信じられなくなった。トラウマなんだ。だから人と距離を取っているし、幽霊とも関わらないで、無視してる」
「アニメとかだと、特別な能力で人を救ったりできるから、その感覚で発言しちゃった。ほんとにごめんね。私の存在も迷惑なんだね。どうやったら成仏できるのかもわからないんだけど、ひとりでいろいろやってみる。私と話してくれてありがとう」
言うなり、彼女はぱっと立ち上がり、階段を下りて行った。
屋上にぽつんと残されて、僕は後味の悪い思いを抱いた。
話だけは聞いた。
自分を形成してきた過去がわからないのは不安だろうとは思う。だけど、何も知らない僕がしてあげられることはない。
しばらくぼんやりしてから、立ち上がった。
南京錠を元の状態に戻してから、階段を下りる。
ノリのいい軽快な音楽が耳に届いた。
旧校舎の一階は体育館になっていて、音はそこから聴こえてくる。
二階部分に観覧席がある造りになっていて、気になった僕は、少しだけ見てみようと扉を開けた。
観覧席は階段状に下がっていて、体育館がよく見渡せた。
フロアを半分に仕切った観覧席側は女子バスケ部が使い、ステージ側は男女混合の団体が音楽に合わせて踊っていた。ダンス部かと思ったけど、部員たちは棒状の物を持っていた。
手のひらの上でくるくると回転させ、真上に放り投げた棒を受け取り、二本使っている人もいる。棒がまるで体の一部のようだ。
バトントワリング部だとすぐに気がついた。踊りながら、アクロバティックな動きでバトンを操っている姿は、なかなかかっこいい。
見応えを感じていると、そこにひとりだけ、違和感を覚える人物が混ざっているのを見つけた。
楽しそうに踊っているけれど、周囲を見ながらだから、ダンスが遅れている。それにバトンを持っていない。
なにより、その人物は透けていた。
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