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3話 おしゃべりな幽霊
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「ねえ、どこに行くの? 今日はまっすぐ帰らないの?」
放課後になるのを待って、僕は音楽室のある旧校舎の階段を上がった。
「部活は、たぶん入ってないよね。一週間活動なしの部活なんて、なさそうだし」
彼女はしゃべりながら、後をついて来る。
旧校舎の屋上に出る扉の鍵が壊れているのを、去年、音楽の授業のあとに発見した。
「彼女と待ち合わせとか? 高二だもんね。彼女の一人や二人、いてもおかしくないもんね」
見かけだけの南京錠を外して、ノブを回す。
キーっと耳障りな音を立てて、ドアが開いた。向こうから日差しが差し込む。
朝晩はまだ肌寒い日が続いているけど、昼間は夏のように暑い。今日は蒸し暑さがなくて、カラッとしている。気持ちの良い気温だった。
吹奏楽部の音出しや、野球部の掛け声とボールが弾かれる音がカンと響いて聴こえてくる。
屋上全体を見て回って人がいないのを確認。大丈夫そうだ。
「一人ならまだしも、二人いたらまずいだろ。そもそも好きな人すらいないけどさ」
僕は振り返って、彼女に返答した。
彼女はドア付近で待っていた。
「好きな人いないんだ。あ、ユージくんが話してくれた! やった!」
大きな目をさらに見開いてから、ぱあと明るい笑みを浮かべ、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。ポニーテールが左右に揺れる。
無邪気で素直に感情を表現する彼女に、好感を抱く人は多いだろうな。人と関わらないでおこうと思っている僕の心が動いたぐらいだから。
「話しようと思ってさ。人のいない所だと、ここしか思いつかなかった」
僕の部屋という選択肢もあったけど、幽霊とはいえ、女の子を部屋に上げるのは抵抗があった。
「相手してくれるんだ。嬉しい。私のこと見てくれる人ぜんぜんいなくって」
ドアを開けたまま、壁際に腰をおろすと、彼女もその場に座る。
「いつから幽霊やってるの?」
「幽霊やってるって訊き方、面白いね」
ふふと笑ってから、空を見つめた。
「いつからなのか、あまりはっきり覚えてないんだ。最初は、私って誰だろうから、少しずつ思い出していったの」
「名前は?」
「小清水円花。円形の花って書くの。歳は15歳」
「やっぱり年下だったんだ。どうして授業に出るのさ。高二の授業聞いたって理解できないだろう」
「うん。さっぱり」
僕の方を向いて、清々しい笑顔を見せる。
「私ね、ここの高校に来たことあるの。ユージくんについてきて、思い出したの」
「通ってたの?」
「ううん。受験したんだと思う。結果は覚えてないんだけど、受かってたら通ってたんだよねって思ったら、授業受けたくなっちゃって。まあ、受けても意味ないんだけど」
照れたように、肩をすくめた。
「気の毒だとは思うけど、どうして僕に憑くわけ? 僕は霊媒師とかじゃないから、何もしてあげられないよ」
「迷惑だった? 私に気づいてくれたのが嬉しかったの。ごめんなさい」
ずるい。上目遣いでそんなこと言われたら、迷惑だなんて言えないよ。
いや、でも心を鬼にして、突き放すべきか。
僕が悩んでいると、
「あのね、お願いがあるの」
彼女がそう切り出した。
僕は身体を固くする。幽霊からのお願いなんて、おおかた心残りを解消したい、成仏のためにやり残したことをしたい、そんなところだろう。面倒事に巻き込まれたくない。
「悪いけど、僕は幽霊に付き合ってやれるほど、優しくないから。そもそも君はほとんど人から見えないんだよ。っていうことは、僕がひとりで何かをやってるって世間から見られるんだからさ。注目を浴びるようなことはごめんだね」
「そ、そうだよね。勝手なことを言って、ごめんなさい」
僕が突き放すと、彼女の顔からすっと表情が消えた。と思ったら、目がうるうるしはじめて、切ない表情に変わる。
だから、反則だって。ずっと笑顔だった彼女から、笑顔を奪った僕。罪悪感湧いてくるやつじゃん。
「んーー‥‥‥話ぐらいなら、きくよ。何もできないかもだけど」
「いいの?」
「言ってみて」
心を鬼にできなかった僕が、頬をぽりぽり掻いて言うと、みるみるうちに、彼女の顔が明るくなった。
「それじゃ‥‥‥あのね、私の過去を一緒に探して欲しいの」
次回⇒4話 幽霊からのお願い事
放課後になるのを待って、僕は音楽室のある旧校舎の階段を上がった。
「部活は、たぶん入ってないよね。一週間活動なしの部活なんて、なさそうだし」
彼女はしゃべりながら、後をついて来る。
旧校舎の屋上に出る扉の鍵が壊れているのを、去年、音楽の授業のあとに発見した。
「彼女と待ち合わせとか? 高二だもんね。彼女の一人や二人、いてもおかしくないもんね」
見かけだけの南京錠を外して、ノブを回す。
キーっと耳障りな音を立てて、ドアが開いた。向こうから日差しが差し込む。
朝晩はまだ肌寒い日が続いているけど、昼間は夏のように暑い。今日は蒸し暑さがなくて、カラッとしている。気持ちの良い気温だった。
吹奏楽部の音出しや、野球部の掛け声とボールが弾かれる音がカンと響いて聴こえてくる。
屋上全体を見て回って人がいないのを確認。大丈夫そうだ。
「一人ならまだしも、二人いたらまずいだろ。そもそも好きな人すらいないけどさ」
僕は振り返って、彼女に返答した。
彼女はドア付近で待っていた。
「好きな人いないんだ。あ、ユージくんが話してくれた! やった!」
大きな目をさらに見開いてから、ぱあと明るい笑みを浮かべ、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。ポニーテールが左右に揺れる。
無邪気で素直に感情を表現する彼女に、好感を抱く人は多いだろうな。人と関わらないでおこうと思っている僕の心が動いたぐらいだから。
「話しようと思ってさ。人のいない所だと、ここしか思いつかなかった」
僕の部屋という選択肢もあったけど、幽霊とはいえ、女の子を部屋に上げるのは抵抗があった。
「相手してくれるんだ。嬉しい。私のこと見てくれる人ぜんぜんいなくって」
ドアを開けたまま、壁際に腰をおろすと、彼女もその場に座る。
「いつから幽霊やってるの?」
「幽霊やってるって訊き方、面白いね」
ふふと笑ってから、空を見つめた。
「いつからなのか、あまりはっきり覚えてないんだ。最初は、私って誰だろうから、少しずつ思い出していったの」
「名前は?」
「小清水円花。円形の花って書くの。歳は15歳」
「やっぱり年下だったんだ。どうして授業に出るのさ。高二の授業聞いたって理解できないだろう」
「うん。さっぱり」
僕の方を向いて、清々しい笑顔を見せる。
「私ね、ここの高校に来たことあるの。ユージくんについてきて、思い出したの」
「通ってたの?」
「ううん。受験したんだと思う。結果は覚えてないんだけど、受かってたら通ってたんだよねって思ったら、授業受けたくなっちゃって。まあ、受けても意味ないんだけど」
照れたように、肩をすくめた。
「気の毒だとは思うけど、どうして僕に憑くわけ? 僕は霊媒師とかじゃないから、何もしてあげられないよ」
「迷惑だった? 私に気づいてくれたのが嬉しかったの。ごめんなさい」
ずるい。上目遣いでそんなこと言われたら、迷惑だなんて言えないよ。
いや、でも心を鬼にして、突き放すべきか。
僕が悩んでいると、
「あのね、お願いがあるの」
彼女がそう切り出した。
僕は身体を固くする。幽霊からのお願いなんて、おおかた心残りを解消したい、成仏のためにやり残したことをしたい、そんなところだろう。面倒事に巻き込まれたくない。
「悪いけど、僕は幽霊に付き合ってやれるほど、優しくないから。そもそも君はほとんど人から見えないんだよ。っていうことは、僕がひとりで何かをやってるって世間から見られるんだからさ。注目を浴びるようなことはごめんだね」
「そ、そうだよね。勝手なことを言って、ごめんなさい」
僕が突き放すと、彼女の顔からすっと表情が消えた。と思ったら、目がうるうるしはじめて、切ない表情に変わる。
だから、反則だって。ずっと笑顔だった彼女から、笑顔を奪った僕。罪悪感湧いてくるやつじゃん。
「んーー‥‥‥話ぐらいなら、きくよ。何もできないかもだけど」
「いいの?」
「言ってみて」
心を鬼にできなかった僕が、頬をぽりぽり掻いて言うと、みるみるうちに、彼女の顔が明るくなった。
「それじゃ‥‥‥あのね、私の過去を一緒に探して欲しいの」
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