39 / 59
第三部 仲良し姉妹
39 姉の行動
しおりを挟む
「調理科三年のお店は、『コース de アラカルト』に決定で、いいですか」
クラス委員長こと桃谷くんが教室内を見渡した。異論はない。
「それでは分担を決めます。必要数を決めてから、挙手制で、多かったらジャンケンで決めます」
9月の下旬の土日に文化祭がある。今はまだ夏休み前だけど、調理科三年は毎年飲食店出店のため、早くから準備を始めるそうだ。
今年はフレンチのコースをアラカルトで提供するお店になった。
コース料理を食べるとなると、そこそこのお店に行って、そこそこのお値段の物を、緊張しながら食べる印象があるけど、メニューから好きな物を一品ずつ注文できるようにすることでお財布にも胃にも優しいお店を目指した。
あたしの担当は前菜。
「学校からもらえる予算の振り分けは、これでいいですか? では各パート毎、予算内に収めてください」
「委員長、メニューはどうやって決めますか? 今決めちゃいます?」
クラス全員の担当が決まり、議題はメニューに移る。
「何か案はありますか?」
「パート毎に話し合って決めたらいいんじゃない」
「コースにするなら、全体的なバランスを考えないと」
「でもアラカルトだから、少しボリュームがあってもいいと思う」
「それだとコースで食べたい人にはきついでしょう」
さまざまな意見が飛び交う。
「麻帆は、意見ないの?」
頭の中でお姉ちゃんが意見を求めてくる。
あたしはみんなの意見を聞いていただけ。自分の意見は持ってない。
お姉ちゃん、ずるい。人がいるとあたしは話しかけられないのに。頭の中で会話できたらいいのにな。
「海野さん、どうぞ」
いきなり桃谷くんに当てられて、びっくりして体が固まる。
「手上げてるから」
えええええ。
自分の右手が無意識で上がっていた。
なんで、なんで。
あたし上げてないよ。
戸惑いながら、頭をひねって、案を考える。
「えっと、メインを先に決めてから、各パートが考えるっていうのは、どうでしょうか」
その場しのぎでひねり出した意見だから、自信なんてない。声がどんどん小さくなる。
「メインはどうやって決めましょうか?」
「ええっと、投票するとか‥‥‥」
「みんなで出し合ってメイン料理を投票で決めるのもいいですね。メイン料理担当の人たちは、どうですか?」
「いろいろ試したいので、時間が欲しいです」
メイン料理の担当になった人たちが言うと、
「それだと、他の料理が決められないよ」
と別の料理担当から意見が出る。
再び議論が再加熱。
あたしは体を小さくして、両手の指先を組んだ。お姉ちゃんに手を上げられないように。
♢
「お姉ちゃん、どうして勝手に手を上げるの? パニックになったよ」
メニューについての意見がまとまり、下校の時間になった。
あたしはトイレの個室に駆けこんで、姉に抗議する。もちろん小さな声で。
「ごめんごめん。麻帆は積極性がないじゃない? ピンチになったらどうするのかなって思って。いい意見出せたじゃない」
「そんなことないよ」
夏休みいっぱいを使って個人がメニューを考え、二学期に試食をして投票で決めることになった。
あたしの「メインを先に決めてから~」は採用されなかったけど、投票制だけは残った。
「ていうか、お姉ちゃん。どうして、あたしの体動かせてるの?」
抗議の本題はそっち。姉が勝手に体を動かせたことに、驚きと戸惑いがあって、早く謎を知りたかった。
「麻帆が寝てる時に、布団がベッドから落ちちゃって。掛けたあげたいけど、どうにかならないかなって思ったら、体を動かせたの。お姉ちゃんもびっくりしちゃった」
「布団は掛けてくれて助かるけど、自分の体じゃないみたいだから、やめてよ」
「そうだね。ごめんね。もうやらないから」
謝っているけど、お姉ちゃんの声がなんだか楽しそうで、少し罪悪感が沸いた。
「少しの時間で、寝てる時ならいいよ。包丁とか火は使わない約束なら」
「いいの? んー、でもやっぱりやめておくね。麻帆が疲れたらいけないから」
「平気だよ。元気だから」
「じゃ、寝相が悪い時に動かすね」
「わかった。じゃよろしく」
そう言って笑い合った。
クラス委員長こと桃谷くんが教室内を見渡した。異論はない。
「それでは分担を決めます。必要数を決めてから、挙手制で、多かったらジャンケンで決めます」
9月の下旬の土日に文化祭がある。今はまだ夏休み前だけど、調理科三年は毎年飲食店出店のため、早くから準備を始めるそうだ。
今年はフレンチのコースをアラカルトで提供するお店になった。
コース料理を食べるとなると、そこそこのお店に行って、そこそこのお値段の物を、緊張しながら食べる印象があるけど、メニューから好きな物を一品ずつ注文できるようにすることでお財布にも胃にも優しいお店を目指した。
あたしの担当は前菜。
「学校からもらえる予算の振り分けは、これでいいですか? では各パート毎、予算内に収めてください」
「委員長、メニューはどうやって決めますか? 今決めちゃいます?」
クラス全員の担当が決まり、議題はメニューに移る。
「何か案はありますか?」
「パート毎に話し合って決めたらいいんじゃない」
「コースにするなら、全体的なバランスを考えないと」
「でもアラカルトだから、少しボリュームがあってもいいと思う」
「それだとコースで食べたい人にはきついでしょう」
さまざまな意見が飛び交う。
「麻帆は、意見ないの?」
頭の中でお姉ちゃんが意見を求めてくる。
あたしはみんなの意見を聞いていただけ。自分の意見は持ってない。
お姉ちゃん、ずるい。人がいるとあたしは話しかけられないのに。頭の中で会話できたらいいのにな。
「海野さん、どうぞ」
いきなり桃谷くんに当てられて、びっくりして体が固まる。
「手上げてるから」
えええええ。
自分の右手が無意識で上がっていた。
なんで、なんで。
あたし上げてないよ。
戸惑いながら、頭をひねって、案を考える。
「えっと、メインを先に決めてから、各パートが考えるっていうのは、どうでしょうか」
その場しのぎでひねり出した意見だから、自信なんてない。声がどんどん小さくなる。
「メインはどうやって決めましょうか?」
「ええっと、投票するとか‥‥‥」
「みんなで出し合ってメイン料理を投票で決めるのもいいですね。メイン料理担当の人たちは、どうですか?」
「いろいろ試したいので、時間が欲しいです」
メイン料理の担当になった人たちが言うと、
「それだと、他の料理が決められないよ」
と別の料理担当から意見が出る。
再び議論が再加熱。
あたしは体を小さくして、両手の指先を組んだ。お姉ちゃんに手を上げられないように。
♢
「お姉ちゃん、どうして勝手に手を上げるの? パニックになったよ」
メニューについての意見がまとまり、下校の時間になった。
あたしはトイレの個室に駆けこんで、姉に抗議する。もちろん小さな声で。
「ごめんごめん。麻帆は積極性がないじゃない? ピンチになったらどうするのかなって思って。いい意見出せたじゃない」
「そんなことないよ」
夏休みいっぱいを使って個人がメニューを考え、二学期に試食をして投票で決めることになった。
あたしの「メインを先に決めてから~」は採用されなかったけど、投票制だけは残った。
「ていうか、お姉ちゃん。どうして、あたしの体動かせてるの?」
抗議の本題はそっち。姉が勝手に体を動かせたことに、驚きと戸惑いがあって、早く謎を知りたかった。
「麻帆が寝てる時に、布団がベッドから落ちちゃって。掛けたあげたいけど、どうにかならないかなって思ったら、体を動かせたの。お姉ちゃんもびっくりしちゃった」
「布団は掛けてくれて助かるけど、自分の体じゃないみたいだから、やめてよ」
「そうだね。ごめんね。もうやらないから」
謝っているけど、お姉ちゃんの声がなんだか楽しそうで、少し罪悪感が沸いた。
「少しの時間で、寝てる時ならいいよ。包丁とか火は使わない約束なら」
「いいの? んー、でもやっぱりやめておくね。麻帆が疲れたらいけないから」
「平気だよ。元気だから」
「じゃ、寝相が悪い時に動かすね」
「わかった。じゃよろしく」
そう言って笑い合った。
0
あなたにおすすめの小説
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
氷雨と猫と君〖完結〗
カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。
そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、
死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。
「でも、子供たちの心だけは、
必ず取り戻す」
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。
それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。
これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
失礼ながら殿下……私の目の前に姿を現すな!!
星野日菜
ファンタジー
転生したら……え? 前世で読んだ少女漫画のなか?
しかもヒロイン?
……あの王子変態すぎて嫌いだったんだけど……?
転生令嬢と国の第二王子のクエスチョンラブコメです。
本編完結済み
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる