【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希

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第一部

44 プロの演奏

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 朝食後からリノとロドヴィーゴはずっと工房にこもりっきりだった。食事の時だけでてきて再び工房へ。かなり綿密な打ち合わせをしているのだろう。

 そんなこんなで夜になっても言い出すタイミングはまったくなかった。唐突に云うより話のついでで云えればいいのだが、と思うものの、会話自体ができない。

 あと何日滞在するのかはわからないが、なんとかタイミングを計って自分の演奏を聴いてもらいたい。弟子にしてもらうのは無理でも、せめてアドバイスが欲しい。

 工房の隅に置いた寝台でディーノは横になる。

 リノは何かの作業をしていて机に向かっているが、ランプの灯りはリノの周辺だけを照らし、ディーノのところまでは届かない。薄闇の中、なんて切り出そうかと考えていると、耳になじんだ音が聞こえてきた

 柔らかくて、優しくて、心が和む、流れるようなリュートの音。

 心穏やかに眠れそうな、耳に心地良い音色についうとうととしかけてしまうが、眠ってしまうのはあまりに惜しい。いつまでも聴いていたくなるような、素晴らしい演奏。

「ねえ、リノ。この演奏ってロドヴィーゴさんかな?」

 囁くような声で、ディーノは話しかけた。

「きっとそうだろうね。ここでこんな演奏をする人はいないはずだからね」

「そうだよね」 

 これがプロの演奏。

 叙情的で哀愁があり、ふと切ない気持ちがこみ上げてくる。まるで親や故郷を想って奏でているような、弾き手の気持ちが伝わってくる。身体の中心がきゅっと掴まれたかのように切なくなった。それでいて、前に進もうとする勇気や覇気が沸いてくるような気もするのだ。

 ロドヴィーゴが作曲したものなのか、弾き継がれているものなのか。ディーノにはわからないが、ディーノはこの曲を弾いてみたいと思った。

 譜面を見たことはないから、書きとめることはできない。

 頭にリュートを思い浮かべ、演奏に遅れてリュートを弾く。弾いているつもりになる。そうやって曲を記憶していく。寝ているうちに忘れてしまわないように、深く刻み込もうと必死で。
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