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四章 前を向いて

⒈異母姉妹

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 今回の事件について父親としてどう思うかと、茫然とした頭で最後に質問をした。

 橘宏樹は、
「直接的には関係ないですよね。亜澄と由依の間の事件ですから」
 と他人事のように答えて、帰って行った。

「驚いた」
「ですね。つまり、山岸由依と宮前亜澄は異母姉妹ということだったんですね。本人たちは知っていて、事件を起こしたんでしょうか」

「まさか……」
 言葉が出てこない。芙季子と外村は残って頭を整理していた。
 由依と亜澄の間に、親同士の過去が関わってくるとは、想像もしていなかった。

「宮前亜矢をいじめていた、中学時代の山岸沙都子。沙都子は高校で橘宏樹と出会い交際、後に結婚し橘沙都子に。宮前亜矢は、山岸沙都子をずっと恨んでいた。その相手が、橘宏樹の妻だとわかり、不妊を悩む沙都子より先に妊娠し、復讐をした。亜矢は長女亜澄を出産。沙都子は長女由依を出産後、離婚し山岸に戻る。そして子供たちは中学三年生で出会い、友人になる。姉妹の間に特別な縁でも働いたのかしら」

「本来なら宮前亜澄はこの世に誕生していなかった存在ですよね。自然界の自浄作用でも働いたんですかね」

 外村の言う通り本来なら亜澄は生まれていなかった。由依が事件を起こすことはなかった。でも、芙季子はそうは思いたくない。

「生まれない方が良かったとは思わないわ。二人が出会わない方が良かったのかなとは思うけど」

「そうですね。失言でした。生まれた命を否定してはいけませんね。宮前亜澄は被害者ですしね」

「そもそも、沙都子さんが亜矢さんをいじめなければ良かったのよ」
 はあー、と芙季子はため息を吐く。

「これからどう進めましょうか。亜矢さんが娘をどう思っているのかを調べていたはずなのに、親同士の過去が絡んでくるなんてね」

「山岸由依の周辺調査を続行して、記事にしますか。親たちの過去が事件と関係があるのかわからないですしね」

「そうね。宮前亜澄の話を聞きたいけど、わたしたちが直接会うのは難しいでしょうね」

「母親に全力で阻止されますよ。それにまだ事情聴取も始まっていませんから、警察より先に自分たちが会えるわけないです」

「それもそうね。山岸由依は家庭裁判所に送致されたのよね」

「10日に退院して逮捕されて、今は少年鑑別所です」

「どんな判断が下されるかしらね」

 山岸由依は15歳。犯罪少年として逮捕され、取り調べを受けた後、家庭裁判所に送致された。
 少年鑑別所に収容されている間、鑑別所の技官による検査や面接を受け、調査をされる。
 その調査資料を元に裁判官が少年審判を行い、処分を決定する。

「反省していれば保護観察。矯正教育が必要と判断されれば少年院か更生施設へ送致。今頃付添人が奔走してるんじゃないでしょうか」

 付添人というのは、つまりは弁護士のこと。事件が家庭裁判所に送致された後に呼び名が替わるだけ。

「どっちの処分が山岸由依や家族にとっていいのかしらね」

「確実に言えるのは、被害者や被害者家族にとってはどちらの処分も納得いかないってことじゃないですか」

「結果的に命は助かったけど、犯罪少年が罰を受けずに社会に戻ることに不満を持つでしょうね。悲しい事件ね」

 亜矢に水をかけられた事を思い出した。あの母親ならどんな処分も納得いかないと騒ぎ立てそうだ。

 その日の夜、宮前亜澄のお見舞いに行ったという範子から電話があった。

「宮前さんを助けて欲しいんです」
 いきなりそう告げられて、芙季子は面食らった。
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