39 / 60
四章 前を向いて
⒈異母姉妹
しおりを挟む
今回の事件について父親としてどう思うかと、茫然とした頭で最後に質問をした。
橘宏樹は、
「直接的には関係ないですよね。亜澄と由依の間の事件ですから」
と他人事のように答えて、帰って行った。
「驚いた」
「ですね。つまり、山岸由依と宮前亜澄は異母姉妹ということだったんですね。本人たちは知っていて、事件を起こしたんでしょうか」
「まさか……」
言葉が出てこない。芙季子と外村は残って頭を整理していた。
由依と亜澄の間に、親同士の過去が関わってくるとは、想像もしていなかった。
「宮前亜矢をいじめていた、中学時代の山岸沙都子。沙都子は高校で橘宏樹と出会い交際、後に結婚し橘沙都子に。宮前亜矢は、山岸沙都子をずっと恨んでいた。その相手が、橘宏樹の妻だとわかり、不妊を悩む沙都子より先に妊娠し、復讐をした。亜矢は長女亜澄を出産。沙都子は長女由依を出産後、離婚し山岸に戻る。そして子供たちは中学三年生で出会い、友人になる。姉妹の間に特別な縁でも働いたのかしら」
「本来なら宮前亜澄はこの世に誕生していなかった存在ですよね。自然界の自浄作用でも働いたんですかね」
外村の言う通り本来なら亜澄は生まれていなかった。由依が事件を起こすことはなかった。でも、芙季子はそうは思いたくない。
「生まれない方が良かったとは思わないわ。二人が出会わない方が良かったのかなとは思うけど」
「そうですね。失言でした。生まれた命を否定してはいけませんね。宮前亜澄は被害者ですしね」
「そもそも、沙都子さんが亜矢さんをいじめなければ良かったのよ」
はあー、と芙季子はため息を吐く。
「これからどう進めましょうか。亜矢さんが娘をどう思っているのかを調べていたはずなのに、親同士の過去が絡んでくるなんてね」
「山岸由依の周辺調査を続行して、記事にしますか。親たちの過去が事件と関係があるのかわからないですしね」
「そうね。宮前亜澄の話を聞きたいけど、わたしたちが直接会うのは難しいでしょうね」
「母親に全力で阻止されますよ。それにまだ事情聴取も始まっていませんから、警察より先に自分たちが会えるわけないです」
「それもそうね。山岸由依は家庭裁判所に送致されたのよね」
「10日に退院して逮捕されて、今は少年鑑別所です」
「どんな判断が下されるかしらね」
山岸由依は15歳。犯罪少年として逮捕され、取り調べを受けた後、家庭裁判所に送致された。
少年鑑別所に収容されている間、鑑別所の技官による検査や面接を受け、調査をされる。
その調査資料を元に裁判官が少年審判を行い、処分を決定する。
「反省していれば保護観察。矯正教育が必要と判断されれば少年院か更生施設へ送致。今頃付添人が奔走してるんじゃないでしょうか」
付添人というのは、つまりは弁護士のこと。事件が家庭裁判所に送致された後に呼び名が替わるだけ。
「どっちの処分が山岸由依や家族にとっていいのかしらね」
「確実に言えるのは、被害者や被害者家族にとってはどちらの処分も納得いかないってことじゃないですか」
「結果的に命は助かったけど、犯罪少年が罰を受けずに社会に戻ることに不満を持つでしょうね。悲しい事件ね」
亜矢に水をかけられた事を思い出した。あの母親ならどんな処分も納得いかないと騒ぎ立てそうだ。
その日の夜、宮前亜澄のお見舞いに行ったという範子から電話があった。
「宮前さんを助けて欲しいんです」
いきなりそう告げられて、芙季子は面食らった。
橘宏樹は、
「直接的には関係ないですよね。亜澄と由依の間の事件ですから」
と他人事のように答えて、帰って行った。
「驚いた」
「ですね。つまり、山岸由依と宮前亜澄は異母姉妹ということだったんですね。本人たちは知っていて、事件を起こしたんでしょうか」
「まさか……」
言葉が出てこない。芙季子と外村は残って頭を整理していた。
由依と亜澄の間に、親同士の過去が関わってくるとは、想像もしていなかった。
「宮前亜矢をいじめていた、中学時代の山岸沙都子。沙都子は高校で橘宏樹と出会い交際、後に結婚し橘沙都子に。宮前亜矢は、山岸沙都子をずっと恨んでいた。その相手が、橘宏樹の妻だとわかり、不妊を悩む沙都子より先に妊娠し、復讐をした。亜矢は長女亜澄を出産。沙都子は長女由依を出産後、離婚し山岸に戻る。そして子供たちは中学三年生で出会い、友人になる。姉妹の間に特別な縁でも働いたのかしら」
「本来なら宮前亜澄はこの世に誕生していなかった存在ですよね。自然界の自浄作用でも働いたんですかね」
外村の言う通り本来なら亜澄は生まれていなかった。由依が事件を起こすことはなかった。でも、芙季子はそうは思いたくない。
「生まれない方が良かったとは思わないわ。二人が出会わない方が良かったのかなとは思うけど」
「そうですね。失言でした。生まれた命を否定してはいけませんね。宮前亜澄は被害者ですしね」
「そもそも、沙都子さんが亜矢さんをいじめなければ良かったのよ」
はあー、と芙季子はため息を吐く。
「これからどう進めましょうか。亜矢さんが娘をどう思っているのかを調べていたはずなのに、親同士の過去が絡んでくるなんてね」
「山岸由依の周辺調査を続行して、記事にしますか。親たちの過去が事件と関係があるのかわからないですしね」
「そうね。宮前亜澄の話を聞きたいけど、わたしたちが直接会うのは難しいでしょうね」
「母親に全力で阻止されますよ。それにまだ事情聴取も始まっていませんから、警察より先に自分たちが会えるわけないです」
「それもそうね。山岸由依は家庭裁判所に送致されたのよね」
「10日に退院して逮捕されて、今は少年鑑別所です」
「どんな判断が下されるかしらね」
山岸由依は15歳。犯罪少年として逮捕され、取り調べを受けた後、家庭裁判所に送致された。
少年鑑別所に収容されている間、鑑別所の技官による検査や面接を受け、調査をされる。
その調査資料を元に裁判官が少年審判を行い、処分を決定する。
「反省していれば保護観察。矯正教育が必要と判断されれば少年院か更生施設へ送致。今頃付添人が奔走してるんじゃないでしょうか」
付添人というのは、つまりは弁護士のこと。事件が家庭裁判所に送致された後に呼び名が替わるだけ。
「どっちの処分が山岸由依や家族にとっていいのかしらね」
「確実に言えるのは、被害者や被害者家族にとってはどちらの処分も納得いかないってことじゃないですか」
「結果的に命は助かったけど、犯罪少年が罰を受けずに社会に戻ることに不満を持つでしょうね。悲しい事件ね」
亜矢に水をかけられた事を思い出した。あの母親ならどんな処分も納得いかないと騒ぎ立てそうだ。
その日の夜、宮前亜澄のお見舞いに行ったという範子から電話があった。
「宮前さんを助けて欲しいんです」
いきなりそう告げられて、芙季子は面食らった。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
7月は男子校の探偵少女
金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。
性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。
顔の塗りつぶされた肖像画。
完成しない彫刻作品。
ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。
19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。
(タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)
アンティークショップ幽現屋
鷹槻れん
ミステリー
不思議な物ばかりを商うアンティークショップ幽現屋(ゆうげんや)を舞台にしたオムニバス形式の短編集。
幽現屋を訪れたお客さんと、幽現屋で縁(えにし)を結ばれたアンティークグッズとの、ちょっぴり不思議なアレコレを描いたシリーズです。
歪像の館と消えた令嬢
葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽(しんどう はね)は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の親友である財閥令嬢、綺羅星天音(きらぼしてんね)が、曰くつきの洋館「視界館」で行われたパーティーの後、忽然と姿を消したというのだ。天音が最後に目撃されたのは、館の「歪みの部屋」。そこでは、目撃者たちの証言が奇妙に食い違い、まるで天音と瓜二つの誰かが入れ替わったかのような状況だった。葉羽は彩由美と共に視界館を訪れ、館に隠された恐るべき謎に挑む。視覚と認識を歪める館の構造、錯綜する証言、そして暗闇に蠢く不気味な影……葉羽は持ち前の推理力で真相を解き明かせるのか?それとも、館の闇に囚われ、永遠に迷い続けるのか?
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
”その破片は君を貫いて僕に突き刺さった”
飲杉田楽
ミステリー
"ただ恋人に逢いに行こうとしただけなんだ"
高校三年生になったばかり東武仁は授業中に謎の崩落事故に巻き込まれる。街も悲惨な姿になり友人達も死亡。そんな最中今がチャンスだとばかり東武仁は『彼女』がいる隣町へ…
2話からは隣町へ彼女がいる理由、事故よりも優先される理由、彼女の正体、など、現在と交差しながら過去が明かされて行きます。
ある日…以下略。があって刀に貫かれた紫香楽 宵音とその破片が刺さった東武仁は体から刀が出せるようになり、かなり面倒な事件に巻き込まれる。二人は刀の力を使って解決していくが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる