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一章 女子高生殺傷殺人未遂事件
11. 当該生徒の人柄2
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「いじめてたのは女子だけ? 男子生徒や先生の反応はどうだった?」
逸れた話を戻すと、二人は居住まいを正した。
「男子は雑誌を学校に持ち込んで、からかって喜んでた。反応がなくても良かったみたい。中には見せてとか揉ませてなんて冗談めかして言うアホもいたけど。先生はどうだったかなあ。ちょっと待って思い出してみる」
「花井さんはどう思ってた?」
奥村智香がぶつぶつ独り言を言っている間に、花井愛莉にも尋ねる。
「私は宮前さんと同じクラスになったことがないから、全然知らない子で。うちの学校に芸能人がいるんだって感覚でした。宮前さんわりときれいじゃないですか。色白だし、お姫様カットが似合う人なんてなかなかいないと思うんです。私自分に自信がないから、すごいなあ勇気あるなあって思ってました」
ふわりとした話し方をする。奥村智香のような思い入れがないのだろう。
「宮前亜澄と山岸由依の間にトラブルはなかった? 喧嘩していそうな時期があったとか?」
「わかりません、ずっと見ていたわけじゃないし。でも仲は良かったと思います、話をしている二人はとても楽しそうでした」
「思い出した。宮前、授業中に男の先生にグラビアの話をされて、不快そうな顔をしてた。ポーカーフェイス保ってた子でも嫌な表情するんだって思ったんだよね」
「それは中2のときの話?」
「うん、そう。それから来なくなったから、あれが不登校のきっかけかも」
「今は、クラスに親しい人はいない?」
「いない。体育で二人一組の時は絶対余ってる」
「モテてるの?」
「あー、どうだろ。本気で好きになる奴いんのかなあ」
首を傾げる。
「それはグラドルだから?」
「そうじゃなくて。何考えてんのかわからない子だなって。山岸は天然。宮前は謎」
「話さないから?」
「そう。体育祭でさ、種目決めるのにどれにも手挙げないんだよ。みんなからどれかにでろよって言われても動かないの。で当日ばっくれた」
「休んじゃったんだ」
「ずるくない? あたしでもウザイなって思いながらリレー出たのに」
「運動は苦手そう?」
「ううん。悪くないと思う。春に体力測定があったの。球技は弱かったけど、柔軟とかバランスは良かったし、走るのもそんなに遅くなかった。胸が揺れてたから、でかいと走りにくそうだなって話してたんだ」
「学校行事には積極的じゃなかった?」
奥村智香は強く頷いた。
「文化祭も来なかった。クラスで何をやるって話にも参加しなかったし。当日なんてファンが来て、宮前亜澄さんはいますかって聞かれてイラっとした」
その時の事を思い出したのか、眉を寄せた。
「そういう人が来るからあえて欠席したのかもしれないわよ」
「自分だけよければいいのかよって話」
「本気で怒ってたり、憎らしく思ってる子いたりする?」
「クラスに? 本気って言われるとわかんないけど」
「いじめて喜んでたり、酷い言葉を投げつけたり」
「そこまでの存在じゃないと思うけど。陰だとわかんないや」
「裏サイトなんかでそういう書き込み見たことはない?」
「ないかな。うちの高校、頭良くないけど自由なんだよね。先生たちあんまうるさくないし。スマホもバイトも認めてくれるし。そういうとこで憂さ晴らしする必要がないっていうか。あたしだけかもしれないけど、少なくてもあたしの身近にはそんな奴いないかな」
鈍感な子ではなさそうだから、奥村智香が気づいていないだけとは考えにくい。
「楽しそうな学校ね」
「わりとね。だから学校に迷惑かけんなって感じ。早く犯人捕まんないかな」
「学校はいつから?」
「来週月曜から。でもまたマスコミくるんでしょ」
「騒がしくてごめんね。お仕事だから」
「あたしらが知ってることはこれくらいかな。ねえお腹空いてきたから、パンケーキ頼んでいい?」
取材だからと遠慮していたのか、ドリンクバーしか頼んでいなかった奥村智香がメニューを広げた。そのドリンクすら取りに行かなかった。
「どうぞ。花井さんも。遠慮なく」
「あ、ありがとうございます」
二人がタブレットに目を移している間にスマホを開き、動画のその後を追う。
昼間近になり、再生回数は5000を越えた。
「あなたたちは、あの動画見た?」
「宮前亜澄のオカンって人が真相を告白しますってやつ? 見た見た」
「本当の母親だと思う」
「さあ? 見たことないし」
「花井さんは?」
「私もわかりません」
「仮に本物の母親だとして、言っている内容はどう思う? 二人を知っている者として」
二人は顔を見合わせた後、揃ってゆっくりと首を捻る。
「なんか違うなって。山岸が嫉妬なんてするのかなあって。そんな感情自体持ってなさそうっていうか」
「山岸さんって、負の感情からは一番遠い子のような気がします」
「そうそう。あたしらと違う感覚で生きてるような感じする」
「なるほどね。ありがとう」
知っている者からしたら、あの内容には違和感があるらしい。貴重な情報を得られた。
レコーダーを止めて鞄に収める。
謝礼金を入れた封筒が目にとまった。そろそろ渡しておこうかと思ったが、彼女たちが情報を売った理由が知りたくなった。
「話せたらでいいんだけど、どうしてわたしに連絡をしてきたの? 遊ぶお金欲しさに連絡してきた、っていう風には見えないし、山岸さんと宮前さんに恨みを持っている感じもないし」
パンケーキをシェアしよう、と楽しそうにしながら注文を終え、ドリンクを取りに行って戻ってきた二人に訊ねると、表情に影を落とした。
花井愛莉が口を開いた。
ラーメン屋でのアルバイト中、酔ったお客とぶつかり、店の食器を何枚か割ってしまった。
店側から食器の弁償とお客へのクリーニング代を支払うように言われた。
そのためにお金が必要なのだと、泣きそうに顔を歪ませた。
芙季子は鞄を持って、いったん店外に出た。
スマホを取り出し労働基準監督署に電話をかける。
電話を終えた芙季子が席に戻ると、二人はテーブルに届いていたパンケーキに手を付けていなかった。
労働基準監督署で教えてもらった内容を伝える。
割った食器を全額弁償しなければいけない決まりはない。でも請求される可能性はある。ただし、お給料から天引きするのはNG。労働基準法で禁止されている。
「可能なら、領収書を請求してみて。新しく買ってない場合もあるかもしれないから。クリーニング代についても、お店側が出すのが一般的なようです。もし、クリーニング代も請求されたら、お皿と同じように領収書を請求した上で支払うかどうか決めてください。もちろん揉めたくないから店長さんに従う。という選択をするのもありかと。それは働いている花井さんが決めることです」
「わ、わかりました。教えて下さってありがとうございます」
不安そうにしていた花井愛莉の表情が少し晴れやかになる。
「ちなみにどこのラーメン店か教えてもらってもいいかしら?」
花井から店名と店舗を教えてもらい、メモを取る。ネタになるかもしれない。
「情報料です。ありがとうございました」
芙季子は二人に封筒を差し出した。
逸れた話を戻すと、二人は居住まいを正した。
「男子は雑誌を学校に持ち込んで、からかって喜んでた。反応がなくても良かったみたい。中には見せてとか揉ませてなんて冗談めかして言うアホもいたけど。先生はどうだったかなあ。ちょっと待って思い出してみる」
「花井さんはどう思ってた?」
奥村智香がぶつぶつ独り言を言っている間に、花井愛莉にも尋ねる。
「私は宮前さんと同じクラスになったことがないから、全然知らない子で。うちの学校に芸能人がいるんだって感覚でした。宮前さんわりときれいじゃないですか。色白だし、お姫様カットが似合う人なんてなかなかいないと思うんです。私自分に自信がないから、すごいなあ勇気あるなあって思ってました」
ふわりとした話し方をする。奥村智香のような思い入れがないのだろう。
「宮前亜澄と山岸由依の間にトラブルはなかった? 喧嘩していそうな時期があったとか?」
「わかりません、ずっと見ていたわけじゃないし。でも仲は良かったと思います、話をしている二人はとても楽しそうでした」
「思い出した。宮前、授業中に男の先生にグラビアの話をされて、不快そうな顔をしてた。ポーカーフェイス保ってた子でも嫌な表情するんだって思ったんだよね」
「それは中2のときの話?」
「うん、そう。それから来なくなったから、あれが不登校のきっかけかも」
「今は、クラスに親しい人はいない?」
「いない。体育で二人一組の時は絶対余ってる」
「モテてるの?」
「あー、どうだろ。本気で好きになる奴いんのかなあ」
首を傾げる。
「それはグラドルだから?」
「そうじゃなくて。何考えてんのかわからない子だなって。山岸は天然。宮前は謎」
「話さないから?」
「そう。体育祭でさ、種目決めるのにどれにも手挙げないんだよ。みんなからどれかにでろよって言われても動かないの。で当日ばっくれた」
「休んじゃったんだ」
「ずるくない? あたしでもウザイなって思いながらリレー出たのに」
「運動は苦手そう?」
「ううん。悪くないと思う。春に体力測定があったの。球技は弱かったけど、柔軟とかバランスは良かったし、走るのもそんなに遅くなかった。胸が揺れてたから、でかいと走りにくそうだなって話してたんだ」
「学校行事には積極的じゃなかった?」
奥村智香は強く頷いた。
「文化祭も来なかった。クラスで何をやるって話にも参加しなかったし。当日なんてファンが来て、宮前亜澄さんはいますかって聞かれてイラっとした」
その時の事を思い出したのか、眉を寄せた。
「そういう人が来るからあえて欠席したのかもしれないわよ」
「自分だけよければいいのかよって話」
「本気で怒ってたり、憎らしく思ってる子いたりする?」
「クラスに? 本気って言われるとわかんないけど」
「いじめて喜んでたり、酷い言葉を投げつけたり」
「そこまでの存在じゃないと思うけど。陰だとわかんないや」
「裏サイトなんかでそういう書き込み見たことはない?」
「ないかな。うちの高校、頭良くないけど自由なんだよね。先生たちあんまうるさくないし。スマホもバイトも認めてくれるし。そういうとこで憂さ晴らしする必要がないっていうか。あたしだけかもしれないけど、少なくてもあたしの身近にはそんな奴いないかな」
鈍感な子ではなさそうだから、奥村智香が気づいていないだけとは考えにくい。
「楽しそうな学校ね」
「わりとね。だから学校に迷惑かけんなって感じ。早く犯人捕まんないかな」
「学校はいつから?」
「来週月曜から。でもまたマスコミくるんでしょ」
「騒がしくてごめんね。お仕事だから」
「あたしらが知ってることはこれくらいかな。ねえお腹空いてきたから、パンケーキ頼んでいい?」
取材だからと遠慮していたのか、ドリンクバーしか頼んでいなかった奥村智香がメニューを広げた。そのドリンクすら取りに行かなかった。
「どうぞ。花井さんも。遠慮なく」
「あ、ありがとうございます」
二人がタブレットに目を移している間にスマホを開き、動画のその後を追う。
昼間近になり、再生回数は5000を越えた。
「あなたたちは、あの動画見た?」
「宮前亜澄のオカンって人が真相を告白しますってやつ? 見た見た」
「本当の母親だと思う」
「さあ? 見たことないし」
「花井さんは?」
「私もわかりません」
「仮に本物の母親だとして、言っている内容はどう思う? 二人を知っている者として」
二人は顔を見合わせた後、揃ってゆっくりと首を捻る。
「なんか違うなって。山岸が嫉妬なんてするのかなあって。そんな感情自体持ってなさそうっていうか」
「山岸さんって、負の感情からは一番遠い子のような気がします」
「そうそう。あたしらと違う感覚で生きてるような感じする」
「なるほどね。ありがとう」
知っている者からしたら、あの内容には違和感があるらしい。貴重な情報を得られた。
レコーダーを止めて鞄に収める。
謝礼金を入れた封筒が目にとまった。そろそろ渡しておこうかと思ったが、彼女たちが情報を売った理由が知りたくなった。
「話せたらでいいんだけど、どうしてわたしに連絡をしてきたの? 遊ぶお金欲しさに連絡してきた、っていう風には見えないし、山岸さんと宮前さんに恨みを持っている感じもないし」
パンケーキをシェアしよう、と楽しそうにしながら注文を終え、ドリンクを取りに行って戻ってきた二人に訊ねると、表情に影を落とした。
花井愛莉が口を開いた。
ラーメン屋でのアルバイト中、酔ったお客とぶつかり、店の食器を何枚か割ってしまった。
店側から食器の弁償とお客へのクリーニング代を支払うように言われた。
そのためにお金が必要なのだと、泣きそうに顔を歪ませた。
芙季子は鞄を持って、いったん店外に出た。
スマホを取り出し労働基準監督署に電話をかける。
電話を終えた芙季子が席に戻ると、二人はテーブルに届いていたパンケーキに手を付けていなかった。
労働基準監督署で教えてもらった内容を伝える。
割った食器を全額弁償しなければいけない決まりはない。でも請求される可能性はある。ただし、お給料から天引きするのはNG。労働基準法で禁止されている。
「可能なら、領収書を請求してみて。新しく買ってない場合もあるかもしれないから。クリーニング代についても、お店側が出すのが一般的なようです。もし、クリーニング代も請求されたら、お皿と同じように領収書を請求した上で支払うかどうか決めてください。もちろん揉めたくないから店長さんに従う。という選択をするのもありかと。それは働いている花井さんが決めることです」
「わ、わかりました。教えて下さってありがとうございます」
不安そうにしていた花井愛莉の表情が少し晴れやかになる。
「ちなみにどこのラーメン店か教えてもらってもいいかしら?」
花井から店名と店舗を教えてもらい、メモを取る。ネタになるかもしれない。
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