上 下
12 / 60
一章 女子高生殺傷殺人未遂事件

11. 当該生徒の人柄2

しおりを挟む
「いじめてたのは女子だけ? 男子生徒や先生の反応はどうだった?」
 逸れた話を戻すと、二人は居住まいを正した。

「男子は雑誌を学校に持ち込んで、からかって喜んでた。反応がなくても良かったみたい。中には見せてとか揉ませてなんて冗談めかして言うアホもいたけど。先生はどうだったかなあ。ちょっと待って思い出してみる」

「花井さんはどう思ってた?」
 奥村智香がぶつぶつ独り言を言っている間に、花井愛莉にも尋ねる。

「私は宮前さんと同じクラスになったことがないから、全然知らない子で。うちの学校に芸能人がいるんだって感覚でした。宮前さんわりときれいじゃないですか。色白だし、お姫様カットが似合う人なんてなかなかいないと思うんです。私自分に自信がないから、すごいなあ勇気あるなあって思ってました」

 ふわりとした話し方をする。奥村智香のような思い入れがないのだろう。


「宮前亜澄と山岸由依の間にトラブルはなかった? 喧嘩していそうな時期があったとか?」
「わかりません、ずっと見ていたわけじゃないし。でも仲は良かったと思います、話をしている二人はとても楽しそうでした」

「思い出した。宮前、授業中に男の先生にグラビアの話をされて、不快そうな顔をしてた。ポーカーフェイス保ってた子でも嫌な表情するんだって思ったんだよね」

「それは中2のときの話?」
「うん、そう。それから来なくなったから、あれが不登校のきっかけかも」

「今は、クラスに親しい人はいない?」
「いない。体育で二人一組の時は絶対余ってる」

「モテてるの?」
「あー、どうだろ。本気で好きになる奴いんのかなあ」
 首を傾げる。

「それはグラドルだから?」
「そうじゃなくて。何考えてんのかわからない子だなって。山岸は天然。宮前は謎」

「話さないから?」
「そう。体育祭でさ、種目決めるのにどれにも手挙げないんだよ。みんなからどれかにでろよって言われても動かないの。で当日ばっくれた」

「休んじゃったんだ」
「ずるくない? あたしでもウザイなって思いながらリレー出たのに」

「運動は苦手そう?」

「ううん。悪くないと思う。春に体力測定があったの。球技は弱かったけど、柔軟とかバランスは良かったし、走るのもそんなに遅くなかった。胸が揺れてたから、でかいと走りにくそうだなって話してたんだ」

「学校行事には積極的じゃなかった?」
 奥村智香は強く頷いた。

「文化祭も来なかった。クラスで何をやるって話にも参加しなかったし。当日なんてファンが来て、宮前亜澄さんはいますかって聞かれてイラっとした」
 その時の事を思い出したのか、眉を寄せた。

「そういう人が来るからあえて欠席したのかもしれないわよ」
「自分だけよければいいのかよって話」

「本気で怒ってたり、憎らしく思ってる子いたりする?」
「クラスに? 本気って言われるとわかんないけど」

「いじめて喜んでたり、酷い言葉を投げつけたり」
「そこまでの存在じゃないと思うけど。陰だとわかんないや」

「裏サイトなんかでそういう書き込み見たことはない?」

「ないかな。うちの高校、頭良くないけど自由なんだよね。先生たちあんまうるさくないし。スマホもバイトも認めてくれるし。そういうとこで憂さ晴らしする必要がないっていうか。あたしだけかもしれないけど、少なくてもあたしの身近にはそんな奴いないかな」

 鈍感な子ではなさそうだから、奥村智香が気づいていないだけとは考えにくい。

「楽しそうな学校ね」
「わりとね。だから学校に迷惑かけんなって感じ。早く犯人捕まんないかな」

「学校はいつから?」
「来週月曜から。でもまたマスコミくるんでしょ」

「騒がしくてごめんね。お仕事だから」
「あたしらが知ってることはこれくらいかな。ねえお腹空いてきたから、パンケーキ頼んでいい?」

 取材だからと遠慮していたのか、ドリンクバーしか頼んでいなかった奥村智香がメニューを広げた。そのドリンクすら取りに行かなかった。

「どうぞ。花井さんも。遠慮なく」
「あ、ありがとうございます」

 二人がタブレットに目を移している間にスマホを開き、動画のその後を追う。
 昼間近になり、再生回数は5000を越えた。

「あなたたちは、あの動画見た?」
「宮前亜澄のオカンって人が真相を告白しますってやつ? 見た見た」

「本当の母親だと思う」
「さあ? 見たことないし」

「花井さんは?」
「私もわかりません」

「仮に本物の母親だとして、言っている内容はどう思う? 二人を知っている者として」
 二人は顔を見合わせた後、揃ってゆっくりと首を捻る。

「なんか違うなって。山岸が嫉妬なんてするのかなあって。そんな感情自体持ってなさそうっていうか」
「山岸さんって、負の感情からは一番遠い子のような気がします」

「そうそう。あたしらと違う感覚で生きてるような感じする」
「なるほどね。ありがとう」

 知っている者からしたら、あの内容には違和感があるらしい。貴重な情報を得られた。

 レコーダーを止めて鞄に収める。
 謝礼金を入れた封筒が目にとまった。そろそろ渡しておこうかと思ったが、彼女たちが情報を売った理由が知りたくなった。

「話せたらでいいんだけど、どうしてわたしに連絡をしてきたの? 遊ぶお金欲しさに連絡してきた、っていう風には見えないし、山岸さんと宮前さんに恨みを持っている感じもないし」

 パンケーキをシェアしよう、と楽しそうにしながら注文を終え、ドリンクを取りに行って戻ってきた二人に訊ねると、表情に影を落とした。

 花井愛莉が口を開いた。
 ラーメン屋でのアルバイト中、酔ったお客とぶつかり、店の食器を何枚か割ってしまった。
 店側から食器の弁償とお客へのクリーニング代を支払うように言われた。
 そのためにお金が必要なのだと、泣きそうに顔を歪ませた。

 芙季子は鞄を持って、いったん店外に出た。
 スマホを取り出し労働基準監督署に電話をかける。

 電話を終えた芙季子が席に戻ると、二人はテーブルに届いていたパンケーキに手を付けていなかった。

 労働基準監督署で教えてもらった内容を伝える。
 割った食器を全額弁償しなければいけない決まりはない。でも請求される可能性はある。ただし、お給料から天引きするのはNG。労働基準法で禁止されている。

「可能なら、領収書を請求してみて。新しく買ってない場合もあるかもしれないから。クリーニング代についても、お店側が出すのが一般的なようです。もし、クリーニング代も請求されたら、お皿と同じように領収書を請求した上で支払うかどうか決めてください。もちろん揉めたくないから店長さんに従う。という選択をするのもありかと。それは働いている花井さんが決めることです」

「わ、わかりました。教えて下さってありがとうございます」

 不安そうにしていた花井愛莉の表情が少し晴れやかになる。
「ちなみにどこのラーメン店か教えてもらってもいいかしら?」

 花井から店名と店舗を教えてもらい、メモを取る。ネタになるかもしれない。

「情報料です。ありがとうございました」
 芙季子は二人に封筒を差し出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

Like

重過失
ミステリー
「私も有名になりたい」 密かにそう思っていた主人公、静は友人からの勧めでSNSでの活動を始める。しかし、人間の奥底に眠る憎悪、それが生み出すSNSの闇は、彼女が安易に足を踏み入れるにはあまりにも深く、暗く、重いモノだった。 ─── 著者が自身の感覚に任せ、初めて書いた小説。なのでクオリティは保証出来ませんが、それでもよければ読んでみてください。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

白雪姫の接吻

坂水
ミステリー
――香世子。貴女は、本当に白雪姫だった。 二十年ぶりに再会した美しい幼馴染と旧交を温める、主婦である直美。 香世子はなぜこの田舎町に戻ってきたのか。実父と継母が住む白いお城のようなあの邸に。甘美な時間を過ごしながらも直美は不可解に思う。 城から響いた悲鳴、連れ出された一人娘、二十年前に彼女がこの町を出た理由。食い違う原作(オリジナル)と脚本(アレンジ)。そして母から娘へと受け継がれる憧れと呪い。 本当は怖い『白雪姫』のストーリーになぞらえて再演される彼女たちの物語。 全41話。2018年6月下旬まで毎日21:00更新。→全41話から少し延長します。

亡くなった妻からのラブレター

毛蟹葵葉
ミステリー
亡くなった妻からの手紙が届いた 私は、最後に遺された彼女からのメッセージを読むことにした

処理中です...