【完結】縁因-えんいんー 第7回ホラー・ミステリー大賞奨励賞受賞

衿乃 光希

文字の大きさ
11 / 60
一章 女子高生殺傷殺人未遂事件

10. 当該生徒の人柄1

しおりを挟む
 奥村智香と待ち合わせをしたファミレスに向かう。
 彼女はまだ来ていなかった。

 壁側の席で待っている間、駒澤から返信が来ていた。
 動画を見た彼は、事件のことは知っていたが宮前亜澄が被害者だとは知らなかったと驚いていた。

 テーブルに影が指し、扶季子は顔を上げた。
 昨日見た顔と、知らない女子がもう一人。

「奥村さん、メールありがとう。どうぞ座って」
 二人は向かいの席に腰を下ろす。
 メールをしてきた奥村智香は壁際に座った。

「好きな物頼んでちょうだいね。経費で落ちるから」
 注文のタブレットを二人の前に置く。

 彼女たちはなぜか硬い表情をしていた。
 自分から連絡してきて、緊張しているのか。人の情報を売ることに罪悪感を覚えているのかもしれない。

「あの、謝礼ってもらえるんですか」
 奥村智香が、意を決したように目に力を込めて尋ねてくる。
 いきなり謝礼の確認。
 前回渡したことで、味をしめて連絡してきたのだろう。

「もちろん用意していますよ」
 芙季子がにこやかに言うと、二人は表情をやや緩めた。が嬉しそうではない。ほっとしているような顔に見えた。
 そんな顔も、芙季子が「ただし」と付け足すと、また硬くなった。

「情報によります。信憑性が感じられたらです。大袈裟に盛ったり、嘘をついたり、小出しで金銭を何度も要求する場合はお断りします」
 毅然とした態度で芙季子が言うと、奥村智香の目に反抗的な色が宿る。きっと気の強いタイプだろう。
 隣の女子は、不安そうにしている。

「そちらが喜びそうな情報でもですか」
「情報源はいくらでもあります。弊社で動いているのはわたしだけではないし」

 芙季子が態度を変えずに言うと、奥村智香の袖が引っ張られた。二人は目を合わせる。

「わかりました。本当の話しかしません」
 二人の肩から力が抜けた。芙季子も内心でほっとしていた。

「そうしてくれると、こちらも助かります」
 取引は成立した。
 音声のみ録音する旨を了承してもらい、ICレコーダーのスイッチを押した。

 二人は奥村智香ちか、花井愛莉あいりと名乗った。
 花井愛莉は山岸由依と小学校の3・4年生、中学1年生が同じクラスだった。

「山岸さんは、純粋っていうか天然って感じです。授業中にいきなり立ち上がって歩き出して、先生に注意されてました。何度もです」

「そうそう。全然反省しないんだよね」
 奥村智香がうんうんと頷いた。

「他に覚えていることはある?」
 花井愛莉は記憶にある山岸由依の話をしてくれた。

 友達はおらず、校庭の隅に一人でいる姿を見かけたことがある。
 泥遊びをして汚れた手で教室に戻り、先生に呆れられた。
 チャイムを聞き逃し、授業に遅刻することは日常茶飯事。
 四年生の時ペーパーのない個室トイレに入ってしまい泣き叫んでいた。
 小学校の卒業式で、開始から号泣し途中で連れ出された。

 中学生になって挙動はやや落ち着いたが、音楽室など移動教室のときは慣れるまで何度も遅刻していた。
 休み時間でも授業に遅刻しないようにするためか、自分の席から離れなかった。
 三年生の時に一緒に登下校する友達ができていた。相手は宮前亜澄だった。

「宮前亜澄とは中3で知り合ったのね。奥村さんは知らなかった?」
「知らない。あたしテニス部で朝早くて、夜遅かったから」
 奥村智香の話し方がフランクになっている。こちらが本来の彼女なのだろう。

「宮前亜澄はどんな子だった?」
「あ、それはあたしが知ってる」

 奥村智香が右手をはいっと挙げた。
 宮前亜澄とは現在同じクラスで、中学2年生の時も同じだったらしい。

「すっごいおとなしい子。教室でほとんど話さなくて、話しかけても声が小さくて会話にならないって言われてた。授業で発言しないといけないときも、先生から何度も聞き返されてた。そんな子がグラドルやり始めたって話題になって、超びっくりした」

「それはいつ頃?」

「中2の秋ぐらい。でも巨乳なのは水泳の授業後から噂になってて、他の学年の男子が覗きにきたこともあった。あ、そうだ、2年の3学期全部来なかったんだ」

「仕事が忙しくなって?」

「ううん。いじめられたから。だってそんなエッチな仕事、フツーする? まだ中学生だよ。好きな男子と話すだけでもどきどきして、目が合っただけでキャーキャー騒いでるようなガキが男に媚びうるような仕事。女子から嫌われて当たり前じゃん」

 あけすけな物言いに、花井愛莉が「智香ちゃん言い過ぎ」と止めに入る。

「夢があるのかもしれないじゃない。モデルや女優さん、アイドルに憧れているとか聞いたことない?」

「あいつが? そんな風には見えないけどなあ。だって男子が雑誌持ってきても、無視だよ。ありがとうも言わないんだよ。そこは買ってくれてありがとうって笑顔じゃない? あんな無愛想な子がやっていける仕事じゃないでしょ」

「心配してあげてるの?」
「バカ言わないでよ」

「じゃあ嫉妬?」
「しっ……嫉妬するわけないでしょ。どうしてあたしが、あんな胸だけの子に」

「好きな男の子が彼女のファンなの?」
「そんな奴いないよ」

「あなたが芸能界に憧れてるとか?」
「え……ちが、違うよ。あたしなんかが入れるような世界じゃないでしょ」

「智香ちゃんそうなの? モデルさん? 女優さん? 私、応援するよ」
「愛莉、やめてよ。そんなんじゃないから」
 奥村智香は否定しつつも顔を赤らめている。

 なかなかわかりやすいタイプだ。
 密かに自分が憧れていた世界に同級生が挑戦した。おそらくはスクールカーストの最下層にいただろう生徒が、一気に注目をされて階段を駆け上がった。しかも自分にはない武器で。

 テニスをしていたという奥村智香には、宮前亜澄とは違う魅力がある。
 日焼けをした健康的な肌は、艶があり、血行が良さそう。
 感情が表にだだ洩れになってしまうのは、可愛らしくもある。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...