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(月彦の視点) 穴場スポットと切っ掛けの場所(最終話)
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STEOP特定開発研究所の周辺は意外と穴場かもと思い付いた。周りは森だし鳥の声も聞こえてきそう。
新ヶ木島に住む切っ掛けの場所だし、「撮りに行ってみようかな」程度には思い立った。
ガーリーな坊ちゃん風の長ズボンにカーディガンの呼夢と、ボーイッシュなお嬢様風のスキニーなズボンとカットソーの上着の僕とで、朝のバスに乗った。
服飾・手芸部に交じって向かった時をも思い出した。あそこにはこれで三度目。
僕は聞いてみたくなった。
「二年でも三年でもここに来るんだよね? ファッションショーをしに。催しで」
「うん」
「楽しませるため」
「そうだね。あ、ねえ、中には入らないの?」
「……中はいいかなって思ってた。中からの外の景色もいいかもね」
「おお、なるほど」
進んで二階、三階……五階まで上がった。
廊下で、
「おお、久しぶり」
と言われた。所員の男性。あまり覚えてない。多分…手続きがどうなっているかをよく話してくれた人。
「元気?」
「元気です」
「そっちは?」
「彼女です」
「というかアレだ、そっちの子、アレだ、楽しませ大会のショーの。キミらは、そういえばそうだよな、ほかの人よりは全然会うし」
「ですね」
「そういう部に? こっちの類まれな男の子も」
「僕は写真部……でもないんですよ、意外でしょ」
「ふうん? まあそんなこともあるわな。なあ、俺のコト撮ってくか?」
「……はい」
自分でも不思議だった。でも僕は風景を――そう言いそうになっていた。『この直前までそう思ってたのに』って、自分で思いながら、カメラを向けた。
撮ってから、すぐに男性所員は去っていった。名前も知らない、笑顔で去った男性。だけど撮れた。撮る気になれた。
「よかったね」
「うん。何だろ……受け入れられるようになってきたのかな、色々と」
「だったらいいね」
「うん。でも」
「ん?」
横を見た。それからすぐ、廊下の先の窓の方に目を向けた。
「一番特別なのは、やっぱり、呼夢がいい」
「えふぉ! ふぁ!」
「……何その変な声っ。ふふ、ほら」
少しだけ歩き出していた僕は、振り返って手を差し出して――
だから手を繋いで、連れて窓へと近付いた。
そこから見える風景を、ふたりじめする。
眼下に森。赤と黄の葉と青の空との色の変化。雲がひとつもない。
何度も写真を撮った。
「よし」
「もういいの?」
「うん、あとは……――」
それから引き返して階段を下りて、裏手に行った。
坂を下りた所に、はぐれたように立つ木が数本あって、一番手前のそれに背を向けて立った。草地の坂と建物が、目の前に大きく映える。
「ここで分かったんだよ。そこを戻ろうとして、ちょっと疲れてたのかな……それで」
「ふうん」
隣から声がする。
「呼夢はどうやって知ったの? 自分の力」
たまに目を合わせながら。
「小さい頃……窓に座ってる人がいたの」
呼夢は研究所の左の方に視線をやることが多かった。
「外に足を投げ出した感じで、森を見てたのかな……。バランスを崩したその人が落ち始めて……危ない! って思ったら、いつの間にかそこだけ時間が戻ってた。それで声を掛けようとしたんだけど、でもすぐ同じように落ち始めて。高い階だった。さっきの五階よりは下だったかも。でね。それを、ちょうどそこの庭から見てて……。私、何度も念じた。何度も戻って……何度も落ち始めて……。で、そこに人が来たの」
「……それでやっと」
「うん。落ちなくてよかった。だから私、人を助けられたらいいなぁって……この力で……っていうのは滅多にないけど……だからね、服に興味があったから、これを作るのを人よりうまくやり直せて、ずっとずっと上達して、そうしたら、それで……その服で、人を救えたらな、とは思ったんだっ」
「そっか……」
僕は、恋に落ちてよかったと思った。
こんな呼夢だから。今もその笑顔が僕を癒す。きっと多くの人をも癒す。
だからこそ僕は、
「ちょっとさ、そこにいて」
と言って、
「うん?」
と不思議がる呼夢よりも数歩前へと進み出て、振り返ると、目の前の笑った太陽を大きく切り撮った。
新ヶ木島に住む切っ掛けの場所だし、「撮りに行ってみようかな」程度には思い立った。
ガーリーな坊ちゃん風の長ズボンにカーディガンの呼夢と、ボーイッシュなお嬢様風のスキニーなズボンとカットソーの上着の僕とで、朝のバスに乗った。
服飾・手芸部に交じって向かった時をも思い出した。あそこにはこれで三度目。
僕は聞いてみたくなった。
「二年でも三年でもここに来るんだよね? ファッションショーをしに。催しで」
「うん」
「楽しませるため」
「そうだね。あ、ねえ、中には入らないの?」
「……中はいいかなって思ってた。中からの外の景色もいいかもね」
「おお、なるほど」
進んで二階、三階……五階まで上がった。
廊下で、
「おお、久しぶり」
と言われた。所員の男性。あまり覚えてない。多分…手続きがどうなっているかをよく話してくれた人。
「元気?」
「元気です」
「そっちは?」
「彼女です」
「というかアレだ、そっちの子、アレだ、楽しませ大会のショーの。キミらは、そういえばそうだよな、ほかの人よりは全然会うし」
「ですね」
「そういう部に? こっちの類まれな男の子も」
「僕は写真部……でもないんですよ、意外でしょ」
「ふうん? まあそんなこともあるわな。なあ、俺のコト撮ってくか?」
「……はい」
自分でも不思議だった。でも僕は風景を――そう言いそうになっていた。『この直前までそう思ってたのに』って、自分で思いながら、カメラを向けた。
撮ってから、すぐに男性所員は去っていった。名前も知らない、笑顔で去った男性。だけど撮れた。撮る気になれた。
「よかったね」
「うん。何だろ……受け入れられるようになってきたのかな、色々と」
「だったらいいね」
「うん。でも」
「ん?」
横を見た。それからすぐ、廊下の先の窓の方に目を向けた。
「一番特別なのは、やっぱり、呼夢がいい」
「えふぉ! ふぁ!」
「……何その変な声っ。ふふ、ほら」
少しだけ歩き出していた僕は、振り返って手を差し出して――
だから手を繋いで、連れて窓へと近付いた。
そこから見える風景を、ふたりじめする。
眼下に森。赤と黄の葉と青の空との色の変化。雲がひとつもない。
何度も写真を撮った。
「よし」
「もういいの?」
「うん、あとは……――」
それから引き返して階段を下りて、裏手に行った。
坂を下りた所に、はぐれたように立つ木が数本あって、一番手前のそれに背を向けて立った。草地の坂と建物が、目の前に大きく映える。
「ここで分かったんだよ。そこを戻ろうとして、ちょっと疲れてたのかな……それで」
「ふうん」
隣から声がする。
「呼夢はどうやって知ったの? 自分の力」
たまに目を合わせながら。
「小さい頃……窓に座ってる人がいたの」
呼夢は研究所の左の方に視線をやることが多かった。
「外に足を投げ出した感じで、森を見てたのかな……。バランスを崩したその人が落ち始めて……危ない! って思ったら、いつの間にかそこだけ時間が戻ってた。それで声を掛けようとしたんだけど、でもすぐ同じように落ち始めて。高い階だった。さっきの五階よりは下だったかも。でね。それを、ちょうどそこの庭から見てて……。私、何度も念じた。何度も戻って……何度も落ち始めて……。で、そこに人が来たの」
「……それでやっと」
「うん。落ちなくてよかった。だから私、人を助けられたらいいなぁって……この力で……っていうのは滅多にないけど……だからね、服に興味があったから、これを作るのを人よりうまくやり直せて、ずっとずっと上達して、そうしたら、それで……その服で、人を救えたらな、とは思ったんだっ」
「そっか……」
僕は、恋に落ちてよかったと思った。
こんな呼夢だから。今もその笑顔が僕を癒す。きっと多くの人をも癒す。
だからこそ僕は、
「ちょっとさ、そこにいて」
と言って、
「うん?」
と不思議がる呼夢よりも数歩前へと進み出て、振り返ると、目の前の笑った太陽を大きく切り撮った。
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