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(呼夢の視点) 方言講座と山と炭火の香り
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ある土日。文化祭まであと十数日という日に、私のお父さんが食卓で提案した。
「山に行かないか。いい炭火焼きの店があるんだ」
今は山にいる。お父さんの運転する車の中。
くすんだ薄紫の、首の開きが広いポンチョ風シャツと、水色ロングジーンズパンツで身を包んだ、大きく編む形にしたフィッシュボーンの髪型の月ちゃんが、後部座席の左手にいる。
その右隣にいる私は、薄若葉色みたいなスカートと水色系のストライプ柄ゆるシャツ。
車内から外を見ることばかりだった。なんだか話し辛い。
「そういえば、文化祭」つい私は外を見たまま。
「ああもうすぐだよね」
やっぱり向こうを見辛い。
「そ、そうだね。今度、私、ゼリーの販売を屋台でやるんだよ」
すると、助手席のお母さんが。
「美味しそう、食べに行くよ、ちゃんとやるのよ?」
「分かってるよ、当然」
「月彦くんは何するんだっけ?」
と、お母さんが聞いた。
「あ、僕は……異性装フルーツ餅喫茶っていうのを……男子の給仕役はウェイトレス衣装、女子の給仕役はウェイター衣装で、僕は給仕役で」
「じゃあウェイトレス?」とお母さんが。
「はい」
「月ちゃんはあんまり違わないって言われそう!」
つい言った私の声は、なぜかかなり大きくなってしまった。ドキドキしてしまう。
「そんなことないよ、スカートなんて初めてだし」
そこで、お母さんが、
「違和感はないわよね」
と言ったからか、お父さんも。
「見にいこうか」
「食べに来てくださいね」
月ちゃんがそう言うと、ふふと笑いが起こった。
一旦、空気がよくなったけど、それでも目を合わせ辛い。目を合わせたらきっと私の中で気持ちが大爆発してしまう。うーん……と思っていて、ふと思い付いた。
――「月ちゃんの方言講座!」みたいなのを受けてみたいんだけどな。
私がそれを言うと、本人が、
「いいよ」
と、言ってくれた。
「じゃあ……今山に行こうとしているんだけど……っていうのはどう言うの?」
「今山に行こうとしとうっちゃけど……かな」
破壊力はまだそこまでじゃないな、と思ってから、また私は。
「じゃあ、今駅前にいるよ、みたいなのは……」
「今駅前におるよ? かな」
破壊力が上がってきた。自滅しないように気を付けよう、と思いながらも、興味もあって――つい聞いてしまう。
「じゃあ、その服の感想を、方言で」
親は親同士で会話している。
じゃあそっちは気にしなくていいな、と個人的に思う。
月ちゃんは私に気を遣ってか、丁寧に返してくれる。
「それなら――首がきつくないし、上下どっちも軟らかい質感やけんさ、着やすくてストレスもないよね、これ。こんなの着れて嬉しか~って思う。肌触りも触れ加減もよかよ? ふふ……やけんね、いつもありがとう~って思っとうとよ? 言わんけどさ」
なんだかずっとくすぐられてる感じだった。なんて破壊力……。
そんなこんなで到着した店では、お父さんの願った炭火焼きを楽しんだ。
「おいひーね」
はふはふとほおばる月ちゃんは、今日で一番の破壊力を私に見せた。
「山に行かないか。いい炭火焼きの店があるんだ」
今は山にいる。お父さんの運転する車の中。
くすんだ薄紫の、首の開きが広いポンチョ風シャツと、水色ロングジーンズパンツで身を包んだ、大きく編む形にしたフィッシュボーンの髪型の月ちゃんが、後部座席の左手にいる。
その右隣にいる私は、薄若葉色みたいなスカートと水色系のストライプ柄ゆるシャツ。
車内から外を見ることばかりだった。なんだか話し辛い。
「そういえば、文化祭」つい私は外を見たまま。
「ああもうすぐだよね」
やっぱり向こうを見辛い。
「そ、そうだね。今度、私、ゼリーの販売を屋台でやるんだよ」
すると、助手席のお母さんが。
「美味しそう、食べに行くよ、ちゃんとやるのよ?」
「分かってるよ、当然」
「月彦くんは何するんだっけ?」
と、お母さんが聞いた。
「あ、僕は……異性装フルーツ餅喫茶っていうのを……男子の給仕役はウェイトレス衣装、女子の給仕役はウェイター衣装で、僕は給仕役で」
「じゃあウェイトレス?」とお母さんが。
「はい」
「月ちゃんはあんまり違わないって言われそう!」
つい言った私の声は、なぜかかなり大きくなってしまった。ドキドキしてしまう。
「そんなことないよ、スカートなんて初めてだし」
そこで、お母さんが、
「違和感はないわよね」
と言ったからか、お父さんも。
「見にいこうか」
「食べに来てくださいね」
月ちゃんがそう言うと、ふふと笑いが起こった。
一旦、空気がよくなったけど、それでも目を合わせ辛い。目を合わせたらきっと私の中で気持ちが大爆発してしまう。うーん……と思っていて、ふと思い付いた。
――「月ちゃんの方言講座!」みたいなのを受けてみたいんだけどな。
私がそれを言うと、本人が、
「いいよ」
と、言ってくれた。
「じゃあ……今山に行こうとしているんだけど……っていうのはどう言うの?」
「今山に行こうとしとうっちゃけど……かな」
破壊力はまだそこまでじゃないな、と思ってから、また私は。
「じゃあ、今駅前にいるよ、みたいなのは……」
「今駅前におるよ? かな」
破壊力が上がってきた。自滅しないように気を付けよう、と思いながらも、興味もあって――つい聞いてしまう。
「じゃあ、その服の感想を、方言で」
親は親同士で会話している。
じゃあそっちは気にしなくていいな、と個人的に思う。
月ちゃんは私に気を遣ってか、丁寧に返してくれる。
「それなら――首がきつくないし、上下どっちも軟らかい質感やけんさ、着やすくてストレスもないよね、これ。こんなの着れて嬉しか~って思う。肌触りも触れ加減もよかよ? ふふ……やけんね、いつもありがとう~って思っとうとよ? 言わんけどさ」
なんだかずっとくすぐられてる感じだった。なんて破壊力……。
そんなこんなで到着した店では、お父さんの願った炭火焼きを楽しんだ。
「おいひーね」
はふはふとほおばる月ちゃんは、今日で一番の破壊力を私に見せた。
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