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第一章:異能力者、異世界に降り立つ
第10話 ゴブリンキング
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そこに現れたのはゴブリンキングと呼ばれる魔物だった。
森の奥地から現れたそれは凶悪な気配をしていた。
それが強さを表す指標だとするならば、かなり強く厄介な相手であることは確実だ。
「強そうだね」
「うん。でも周りに取り巻きはいなそうだよ」
「取り巻き?」
キング名のを冠しているのだからか、ミアは聞き耳を立てて周囲を索敵する。
キングだから仲間を引き連れている可能性があるのだろう。それを危惧していたのだ。
「それで仲間は?」
「いないみたい。でもやばいよ。急いで逃げなくちゃ」
「えっ!?」
ミアはかなり後衛的、と言うか奥手だ。
顔は引き攣っていて、目は動揺の色を隠せていない。つまりそれが本気でやばい相手だと言うことを示唆していた。
「ゴブリンキングは滅多に姿を現さない強敵だよ。その強さは噂だとCランク相当だって!」
「Cランクってことは、冒険者で言うところの二級ってこと?それは強そうだね」
「何呑気なこと言ってるの司!今逃げれば間に合うよ!」
かなりびびっていた。
確かに私だって逃げ出したいが、既に奴は私達を捉えていた。今逃げたところで、逆に敵の思惑に乗ってその思惑を逆撫でしてメッタメタにされる気が少なからずしていた。
(まあ私はそんなことされないように立ち回るけど……ミアを守りながらはちょっとしんどいかな)
だからこそか、私は刀凱を抜刀した。
深く構え、ゴブリンキングを迎え撃つ。
「何やってる司!早く逃げないと!」
「逃げても無駄だよ。もう敵の間合いに入ってる」
私がそう答えると同時に、ゴブリンキングは左手に持った折れた棍棒を振るった。
その瞬間放たれたのは凄まじい威圧的な気迫と態度。その上での衝撃波だ。
「うわっ!」
私の体勢が乱れる。
異能を真っ向から受けた時のような衝撃が重たく刀の刃に乗っかった。
「くっ、せい!」
気合と技とで衝撃波を払い除け、私は敵の姿を睨んだ。
「如何やら向こうは本気みたいだよ」
「そうだよ!だから逃げないと」
「逃げてもいいよミアは。私はここに残って戦う」
「えっ!?」
それは本気で驚いたか弱い声だった。
「何で戦うの!」
「私だって戦わないで済むんだったら、逃げちゃいたいよ。でもわかるんだ。今は逃げられないって。だから戦う」
「訳わかんないよ!」
「そうだよね。私もだよ。でもだからこそ、私はここでアイツを斬る。これは命を賭けた戦いなんだもん。私だって死にたくない。期限を最初っから回避できるんだったらそうしたい。けどできないんだったら、後は食らいつくだけ!私を守るために、皆んなを守るために!」
「何それ。司ちゃんは勇者様なの?」
「そんな知らないよ。でもここで逃げるようなことはしないかな」
私は今一度深く刀の柄を握った。
敵の姿を正眼に定め、深く睨みつける。
週刊漫画の王道ヒーローものみたいな発言。嫌いじゃないけど、気恥ずかしかった。ああまた暴走してるなと心底恥ずかしかったが、そんなこと構っている暇はない。
敵はもはや本気モードだ。
「こっちも全力で相手しないと(皆んなの異能を借りよう)ね」
私は自身の異能を解放した。
今更だが私の異能の一つは複写。つまりはコピーだ。
後天的に開花した異能で、私の家は武術とか剣術とかをしている家系だった。故に小さい頃からそう言った経験を積んできたので目が慣れ、自然と動きとかを覚えるようになっていた。
模倣、つまりはトレース能力ではない。
私の異能、複写はその名の通り目や体で感じた動きや感覚をそのまま自分のものにできると言う力だ。ただ慣れるまでの期間があるので、すぐに使えるわけではないし私の実力が伴っていなければ使えない場合だってほとんどだ。
更にこの異能の真価は他の異能力者の異能力までコピーできる点だ。
ただこちらも条件付きで、結局は本物の劣化品。そっくりそのままコピーしても使い方によってはその効力は半減してしまいかねない。
葉隠先輩の『言葉』も速水先輩の『神速』も可能だ。
ただ誠駒先輩の『透過捕縛』とかは如何やら使えなさそうだった。
(誠駒先輩の異能が使えたら、もう少し楽に戦えたんだろうけど……無い物ねだりしても仕方ないか。よし、やるぞ!)
私はそう身構える。
「わ、わかったよ!私も残る!」
「ミア」
「仲間を置いていけないよ。それにそこまで言い切るってことは何か作戦があるんでしょ?」
「ないよ」
「えっ!?」
「だからないよ。とにかくアイツを倒す。それじゃダメかな?」
「うーん。ダメじゃないけど。その方がシンプルでわかりやすい。乗った!」
ミアは親指を立てて了承。
それをしっかりと目に焼き付けてから、私は刀を構える。そしてゴブリンキングに向かってミアが突撃していった。
「よーし、行くぞー!」
ミアは全速力ダッシュでゴブリンキングの顔面を殴りつけた。
しかしそれを見越してか、棍棒で受け止める。
そのまま振り払われる瞬間、ミアは近くに生えた木の枝に掴まりそのまま蹴り上げた。
「よいっしょ」
ゴブリンキングの頭を蹴り上げ、そのまま後ろを取るとガントレットで背中周りを畳み掛ける。
「グキュァァァ!」
それにイラついたのかミアを振り払おうとするが、その隙を狙って私が一気に間合いを詰め寄ると刀凱で横っ腹を一閃。
ゴブリンキングの肉を傷つけたかと思うと、硬く強靭に発達した筋肉で刀の切り口は軽傷だった。
「あれ?思ったより硬い」
頑強なゴブリンキングの性質に呆気に取られていると、そのまま私の体を蹴り上げるように右足で薙ぎ払われる。
私はすぐにその攻撃を見切り、後ろに飛ぶと今度は隙が生まれた右足周りから左足に飛び移るように下から斬り上げる。
「グギャァァァ!」
体内から赤い血が溢れ出る。
魔物と言っても生物に変わりないのだ。罪悪感が溢れ出したが、私は続け様に右腕を狙う。
「グガァァォ!」
しかしそれは阻まれてしまった。
おまけに敵意を私に剥き出し、そのまま刀を払い落とした。
「やば!」
刀を振り払われ、回収しようとするが間合いが近すぎる。
攻撃手段の一つを振り落とされた私をカバーするために背後に回っていたミアが攻め入る。
「はぁー!」
「ミア!」
ミアは後ろからゴブリンキングの首を絞め殺そうとした。
しかしそれを予見してか、あるいは迫り来る敵意に本能的に対処したのか、右手の拳でミアの体を吹き飛ばした。
「うわっ!」
ミアの体が木々にぶつかり地面に転がる。
奇襲を仕掛け攻撃を食らって倒れ込んだミアの体はピクピクと痙攣していた。
「ぐはっ!」
口から血混じりの唾を吐き、何とか立ち上がろうとするが足がおぼついて立てない。
「うわっ。これってやばいよね」
「ミア!」
「司、今だよ!」
ミアは逆にこれを好機に転じようとしている。
しかもそれを私に委ねているではないか。自分の命を軽はずみで差し出すような子ではない。たった数時間の付き合いの私のことを信じてくれているんだ。
後ろはガラ空き。今なら叩き込める。
利き手は痺れて動かないが、左の拳で十分だった。
「『神速』!」
私は一気に近づいた。
そして背後目掛けて、ゴブリンキングの心臓を狙って拳を叩き込む。
「『鉄拳』!」
直、力を借りるよ!
私は拳を叩き込んで、そのままゴブリンキングの体を貫いた。
「グガァァァァァァァァァ!!」
断末魔が轟く。
ゴブリンキングはうつ伏せで倒れ込むと、そのまま動かなくなる。
ーーーーーー
静寂と沈黙が流れる。
包み込むのはそんな後味の悪さだった。
けどーー
「倒したー!」
達成感は尋常じゃなかった。
私は仰向けで倒れ、空を見る。木漏れ日が優しく体を包む。
「うっ、うわぁーん!怖かったよー!」
「ミア」
ミアは唐突に泣き出した。
感動と恐怖が入り混じり、一気に放出されたからだ。
「帰ろ」
「でも、まだ依頼が……」
「明日に持ち越せばいいよ。それに今回の依頼はそんな日にちの規約は載ってなかったよ」
私はそう教える。
するとホッとしたのか大きく頷いたミア。ゴブリンキングから素材をもぎ取り、転がっていた刀凱を回収した。
こうして私とミアは死闘を勝ち抜き、帰るのだった。
何度か結果はあっさりしているが、こんな感じで終わるのが普通だった。
森の奥地から現れたそれは凶悪な気配をしていた。
それが強さを表す指標だとするならば、かなり強く厄介な相手であることは確実だ。
「強そうだね」
「うん。でも周りに取り巻きはいなそうだよ」
「取り巻き?」
キング名のを冠しているのだからか、ミアは聞き耳を立てて周囲を索敵する。
キングだから仲間を引き連れている可能性があるのだろう。それを危惧していたのだ。
「それで仲間は?」
「いないみたい。でもやばいよ。急いで逃げなくちゃ」
「えっ!?」
ミアはかなり後衛的、と言うか奥手だ。
顔は引き攣っていて、目は動揺の色を隠せていない。つまりそれが本気でやばい相手だと言うことを示唆していた。
「ゴブリンキングは滅多に姿を現さない強敵だよ。その強さは噂だとCランク相当だって!」
「Cランクってことは、冒険者で言うところの二級ってこと?それは強そうだね」
「何呑気なこと言ってるの司!今逃げれば間に合うよ!」
かなりびびっていた。
確かに私だって逃げ出したいが、既に奴は私達を捉えていた。今逃げたところで、逆に敵の思惑に乗ってその思惑を逆撫でしてメッタメタにされる気が少なからずしていた。
(まあ私はそんなことされないように立ち回るけど……ミアを守りながらはちょっとしんどいかな)
だからこそか、私は刀凱を抜刀した。
深く構え、ゴブリンキングを迎え撃つ。
「何やってる司!早く逃げないと!」
「逃げても無駄だよ。もう敵の間合いに入ってる」
私がそう答えると同時に、ゴブリンキングは左手に持った折れた棍棒を振るった。
その瞬間放たれたのは凄まじい威圧的な気迫と態度。その上での衝撃波だ。
「うわっ!」
私の体勢が乱れる。
異能を真っ向から受けた時のような衝撃が重たく刀の刃に乗っかった。
「くっ、せい!」
気合と技とで衝撃波を払い除け、私は敵の姿を睨んだ。
「如何やら向こうは本気みたいだよ」
「そうだよ!だから逃げないと」
「逃げてもいいよミアは。私はここに残って戦う」
「えっ!?」
それは本気で驚いたか弱い声だった。
「何で戦うの!」
「私だって戦わないで済むんだったら、逃げちゃいたいよ。でもわかるんだ。今は逃げられないって。だから戦う」
「訳わかんないよ!」
「そうだよね。私もだよ。でもだからこそ、私はここでアイツを斬る。これは命を賭けた戦いなんだもん。私だって死にたくない。期限を最初っから回避できるんだったらそうしたい。けどできないんだったら、後は食らいつくだけ!私を守るために、皆んなを守るために!」
「何それ。司ちゃんは勇者様なの?」
「そんな知らないよ。でもここで逃げるようなことはしないかな」
私は今一度深く刀の柄を握った。
敵の姿を正眼に定め、深く睨みつける。
週刊漫画の王道ヒーローものみたいな発言。嫌いじゃないけど、気恥ずかしかった。ああまた暴走してるなと心底恥ずかしかったが、そんなこと構っている暇はない。
敵はもはや本気モードだ。
「こっちも全力で相手しないと(皆んなの異能を借りよう)ね」
私は自身の異能を解放した。
今更だが私の異能の一つは複写。つまりはコピーだ。
後天的に開花した異能で、私の家は武術とか剣術とかをしている家系だった。故に小さい頃からそう言った経験を積んできたので目が慣れ、自然と動きとかを覚えるようになっていた。
模倣、つまりはトレース能力ではない。
私の異能、複写はその名の通り目や体で感じた動きや感覚をそのまま自分のものにできると言う力だ。ただ慣れるまでの期間があるので、すぐに使えるわけではないし私の実力が伴っていなければ使えない場合だってほとんどだ。
更にこの異能の真価は他の異能力者の異能力までコピーできる点だ。
ただこちらも条件付きで、結局は本物の劣化品。そっくりそのままコピーしても使い方によってはその効力は半減してしまいかねない。
葉隠先輩の『言葉』も速水先輩の『神速』も可能だ。
ただ誠駒先輩の『透過捕縛』とかは如何やら使えなさそうだった。
(誠駒先輩の異能が使えたら、もう少し楽に戦えたんだろうけど……無い物ねだりしても仕方ないか。よし、やるぞ!)
私はそう身構える。
「わ、わかったよ!私も残る!」
「ミア」
「仲間を置いていけないよ。それにそこまで言い切るってことは何か作戦があるんでしょ?」
「ないよ」
「えっ!?」
「だからないよ。とにかくアイツを倒す。それじゃダメかな?」
「うーん。ダメじゃないけど。その方がシンプルでわかりやすい。乗った!」
ミアは親指を立てて了承。
それをしっかりと目に焼き付けてから、私は刀を構える。そしてゴブリンキングに向かってミアが突撃していった。
「よーし、行くぞー!」
ミアは全速力ダッシュでゴブリンキングの顔面を殴りつけた。
しかしそれを見越してか、棍棒で受け止める。
そのまま振り払われる瞬間、ミアは近くに生えた木の枝に掴まりそのまま蹴り上げた。
「よいっしょ」
ゴブリンキングの頭を蹴り上げ、そのまま後ろを取るとガントレットで背中周りを畳み掛ける。
「グキュァァァ!」
それにイラついたのかミアを振り払おうとするが、その隙を狙って私が一気に間合いを詰め寄ると刀凱で横っ腹を一閃。
ゴブリンキングの肉を傷つけたかと思うと、硬く強靭に発達した筋肉で刀の切り口は軽傷だった。
「あれ?思ったより硬い」
頑強なゴブリンキングの性質に呆気に取られていると、そのまま私の体を蹴り上げるように右足で薙ぎ払われる。
私はすぐにその攻撃を見切り、後ろに飛ぶと今度は隙が生まれた右足周りから左足に飛び移るように下から斬り上げる。
「グギャァァァ!」
体内から赤い血が溢れ出る。
魔物と言っても生物に変わりないのだ。罪悪感が溢れ出したが、私は続け様に右腕を狙う。
「グガァァォ!」
しかしそれは阻まれてしまった。
おまけに敵意を私に剥き出し、そのまま刀を払い落とした。
「やば!」
刀を振り払われ、回収しようとするが間合いが近すぎる。
攻撃手段の一つを振り落とされた私をカバーするために背後に回っていたミアが攻め入る。
「はぁー!」
「ミア!」
ミアは後ろからゴブリンキングの首を絞め殺そうとした。
しかしそれを予見してか、あるいは迫り来る敵意に本能的に対処したのか、右手の拳でミアの体を吹き飛ばした。
「うわっ!」
ミアの体が木々にぶつかり地面に転がる。
奇襲を仕掛け攻撃を食らって倒れ込んだミアの体はピクピクと痙攣していた。
「ぐはっ!」
口から血混じりの唾を吐き、何とか立ち上がろうとするが足がおぼついて立てない。
「うわっ。これってやばいよね」
「ミア!」
「司、今だよ!」
ミアは逆にこれを好機に転じようとしている。
しかもそれを私に委ねているではないか。自分の命を軽はずみで差し出すような子ではない。たった数時間の付き合いの私のことを信じてくれているんだ。
後ろはガラ空き。今なら叩き込める。
利き手は痺れて動かないが、左の拳で十分だった。
「『神速』!」
私は一気に近づいた。
そして背後目掛けて、ゴブリンキングの心臓を狙って拳を叩き込む。
「『鉄拳』!」
直、力を借りるよ!
私は拳を叩き込んで、そのままゴブリンキングの体を貫いた。
「グガァァァァァァァァァ!!」
断末魔が轟く。
ゴブリンキングはうつ伏せで倒れ込むと、そのまま動かなくなる。
ーーーーーー
静寂と沈黙が流れる。
包み込むのはそんな後味の悪さだった。
けどーー
「倒したー!」
達成感は尋常じゃなかった。
私は仰向けで倒れ、空を見る。木漏れ日が優しく体を包む。
「うっ、うわぁーん!怖かったよー!」
「ミア」
ミアは唐突に泣き出した。
感動と恐怖が入り混じり、一気に放出されたからだ。
「帰ろ」
「でも、まだ依頼が……」
「明日に持ち越せばいいよ。それに今回の依頼はそんな日にちの規約は載ってなかったよ」
私はそう教える。
するとホッとしたのか大きく頷いたミア。ゴブリンキングから素材をもぎ取り、転がっていた刀凱を回収した。
こうして私とミアは死闘を勝ち抜き、帰るのだった。
何度か結果はあっさりしているが、こんな感じで終わるのが普通だった。
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