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第一章:異能力者、異世界に降り立つ
第9話 ゴブリン
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「せーのっ!」
ドスン!
荒音を立てて地面を叩きつけたのはミアのガントレットだった。
打ち付けられた地面は多少だが抉れていた。何と言う破壊力と言いたいが、結局当たらなければ意味がない。
「あれ?」
「せやっ!」
唖然とするミアの後を私が刀凱を抜刀して斬りかかる。
するとミアが狙いを外した魔物、ゴブリンの体を私の刀はサッと捉え、スパッと斬り裂いた。
「グギャァァァ!」
発狂が森の中に轟く。
あまり気持ちの良いものではない。多少なりとも命の重さを再確認した。
「ふぅー。何とかなったね」
刀凱を納刀し、私は息を吐いた。
ここはアルムカイムの南東にある森、リヒュド森林だ。
魔物が多いことで有名な森で、葉の間から木漏れ日が差し込む。それだけ聞くと良い雰囲気なのだが、魔物が多いと言うことで殺伐としていた。
「ごめんね、私足引っ張っちゃって」
「気にしなくていいよ。私だって勝手にしちゃう時あるから」
「ううっ。私いっつもこうなんだ。戦いになると、直情的って言うのか?突っ込んで行っちゃって……」
「おまけに攻撃が威力重視の大振りが基本だから攻撃が当たらないと。しかも癖になっちゃってるから、なかなか治らない……致命的だよね」
「本当ごめんね」
ミアはかなり落ち込んでいた。
如何やらこれまでもこのスタンスだったために他のパーティーとの間に亀裂が生じて仲間割れし、結局追い出されたようだ。
何と言うか可哀想だった。
「まあ私達はゆっくりやっていこうよ。それにミアの戦闘スタイルは欠点だけじゃないし」
「本当!」
耳をピクッと立たせ、尻尾が愉快に踊りだす。
たったそれだけの一言で態度が激変するのはチョロすぎやしませんか。と、友子なら言いそうだった。
「うん。見ててわかったけど、ミアって足速いよね。と言うかかなり体幹が強いみたいだったし」
「そうかな?えへへ」
頭を自分で撫でる。
喜んでいて何よりだったが、これは事実だった。
ゴブリンを見つけた時のことーー
「あっいたよ、ゴブリン!」
「あれがゴブリン?」
そこにいたのは緑色の対比を持った小さな小人だった。
鬼のような顔つきと白い牙を持っていてちょっと猫背。ゲームとかで見かけるゴブリンのそれと同じだった。
(あれがゴブリン……)
ミアからの前情報で、聞いていた通りの姿形だ。
ゴブリンとは下級の魔物のようだが、集団で行動する類のものも多いらしい。
特に問題なのは、家畜や農作物を襲う点。それだけでなく、女性を交戦的に襲い酷いことをするらしい。それだけで何となく察し、それと同時に敵意を抱いた。
年間でそう言った被害は1%を占めている。これは由々しき事態だった。
(酷い。でもいざとなれば、性転換の異能を使えばいっか)
そんな軽い気持ちでいたのもまた事実だ。
変貌は使えなかったけど、こっちは使えたから。私の異能はそんな異能だった。
「でも一匹しかいないみたいだけど」
「群れを作らない奴か、それとも群れから追い出された奴かも。とにかくやっちゃお!」
「うん」
今回の依頼と言うかクエストはゴブリン十匹の討伐だった。
報酬は1000ベイル。二人で分けたら500ベイルが私の取り分だ。命懸けの仕事がたったの五百円なのは割に合わないが、それでもこうして稼げているのならよしとしよう。
「じゃあ早速!」
「あっ待って、ミア!」
私が刀を抜刀するよりも早く、声も相談もなくミアは飛び出した。
ゴブリンの背後を不意を突くようにして襲いかかるが、それに反応したゴブリンは窮地を脱し、後方に飛ぶ。
「えっ!?」
「ミア!」
ミアは今度はそのままの勢いに乗って、木々の間をすり抜けるように樹皮に靴裏を合わせてそのまま三角跳び。
ゴブリンの真上を取ってそのまま装備した両腕のガントレットを叩き込む。
それが先程までの流れだったーー
「ってことで、ミアは不意をつく動きとか、奇襲性に特化してると思うんだ。だから正面から突っ込んだ後のことを考えながら動くといいと思うよ」
「凄い。司は凄いね。そんなことまで考えてたんだ!」
「えっ、いや普通に見てたら気づいただけだけど」
「それが凄いんだよ!」
何か褒められているっぽい。
別に私は大したことはしていないし、結論的に述べただけで何の解決策にもなっていない。アドバイス程度に据えただけの言葉文句だった。
「まあ私、あんまり意識しながら戦うのって苦手だから……」
「ああ……私も言えた口じゃないけど」
「そうなの?司は私の動きに合わせてくれてるように見えたけど?」
「今はね。今は」
含みのある言い回し。
意識のストッパーが作動してそんな動きをしているわけではない。戦闘が苛烈したり不意な判断に対しては私の方が先手になることが多かった。
(いつもは舞姫や真白が私をサポートしてくれてたっけ)
そんなことを思い出した。
「じゃあ次からは私も前に出て戦うよ」
「うん!じゃあ次行こっか!」
私とミアは次の獲物、と言うかゴブリンを探して歩き回った。
しかしなかなか見つからない。
如何してだろうか。
「おっかしいなー。すぐに見つかると思ったのに」
「ゴブリンって滅多にいないの?」
「ううん。スライムとかと一緒で沢山いるはずだよ。だから殲滅が難しいんだー」
「へぇー」
この世界の事情がまた一つわかった気がした。
しかしそんな強い繁殖力を持つはずのゴブリンの姿が見当たらないのは異常だと言えよう。
「そう言えばさっきのゴブリンも警戒心が妙に強かったっけ」
「そうなんだ」
「うん。いつもはもっとやりやすいんだけどね。今日は何だか違ったかなー」
「うーん」
何だか嫌な予感がした。
それだけ聞いていて何となく察する。
(もしかして、この森で何かあったのかな)
そんなことを思いつく。
「でもでも、きっとすぐに見つかるよ!」
「うん。楽観的なのはいいよね!」
私もミアに同調し、今を良く考えようとした。
しかしそんな静寂を切り裂いたのはもっと単純な威圧感だった。
森の中を駆け巡る不穏な気配。
私とミアは一瞬にしてそれを肌で感じ取ると、パッと後ろに飛び下がった。
ギューン!
私とミアの間を透明な何かが通り抜ける。
物体ではない。威圧的な激しい衝撃波だ。
私は不意に森の奥を凝視する。そこには何かしらの気配を感じた。しかもさっきのゴブリンと同種。だが強い。
「ミア」
「あわわわわ」
「ミア!?」
ミアはパニックになっていた。
森の奥。そこには3メートル程の高さの太々しい体の何かが二足歩行で前進する。
その左手には硬い何か。鋭く斜めに折られた棍棒が握られていた。
「あれは……ゴブリン?」
「ううん。ただのゴブリンじゃないよ。あれって、ゴブリンキングだよ!」
「何それ」
不気味に告げるミアの言葉。
私はその意味がさほども理解できなかったが、一つだけわかった。
アレは強い。そしてやばそうだった。
ドスン!
荒音を立てて地面を叩きつけたのはミアのガントレットだった。
打ち付けられた地面は多少だが抉れていた。何と言う破壊力と言いたいが、結局当たらなければ意味がない。
「あれ?」
「せやっ!」
唖然とするミアの後を私が刀凱を抜刀して斬りかかる。
するとミアが狙いを外した魔物、ゴブリンの体を私の刀はサッと捉え、スパッと斬り裂いた。
「グギャァァァ!」
発狂が森の中に轟く。
あまり気持ちの良いものではない。多少なりとも命の重さを再確認した。
「ふぅー。何とかなったね」
刀凱を納刀し、私は息を吐いた。
ここはアルムカイムの南東にある森、リヒュド森林だ。
魔物が多いことで有名な森で、葉の間から木漏れ日が差し込む。それだけ聞くと良い雰囲気なのだが、魔物が多いと言うことで殺伐としていた。
「ごめんね、私足引っ張っちゃって」
「気にしなくていいよ。私だって勝手にしちゃう時あるから」
「ううっ。私いっつもこうなんだ。戦いになると、直情的って言うのか?突っ込んで行っちゃって……」
「おまけに攻撃が威力重視の大振りが基本だから攻撃が当たらないと。しかも癖になっちゃってるから、なかなか治らない……致命的だよね」
「本当ごめんね」
ミアはかなり落ち込んでいた。
如何やらこれまでもこのスタンスだったために他のパーティーとの間に亀裂が生じて仲間割れし、結局追い出されたようだ。
何と言うか可哀想だった。
「まあ私達はゆっくりやっていこうよ。それにミアの戦闘スタイルは欠点だけじゃないし」
「本当!」
耳をピクッと立たせ、尻尾が愉快に踊りだす。
たったそれだけの一言で態度が激変するのはチョロすぎやしませんか。と、友子なら言いそうだった。
「うん。見ててわかったけど、ミアって足速いよね。と言うかかなり体幹が強いみたいだったし」
「そうかな?えへへ」
頭を自分で撫でる。
喜んでいて何よりだったが、これは事実だった。
ゴブリンを見つけた時のことーー
「あっいたよ、ゴブリン!」
「あれがゴブリン?」
そこにいたのは緑色の対比を持った小さな小人だった。
鬼のような顔つきと白い牙を持っていてちょっと猫背。ゲームとかで見かけるゴブリンのそれと同じだった。
(あれがゴブリン……)
ミアからの前情報で、聞いていた通りの姿形だ。
ゴブリンとは下級の魔物のようだが、集団で行動する類のものも多いらしい。
特に問題なのは、家畜や農作物を襲う点。それだけでなく、女性を交戦的に襲い酷いことをするらしい。それだけで何となく察し、それと同時に敵意を抱いた。
年間でそう言った被害は1%を占めている。これは由々しき事態だった。
(酷い。でもいざとなれば、性転換の異能を使えばいっか)
そんな軽い気持ちでいたのもまた事実だ。
変貌は使えなかったけど、こっちは使えたから。私の異能はそんな異能だった。
「でも一匹しかいないみたいだけど」
「群れを作らない奴か、それとも群れから追い出された奴かも。とにかくやっちゃお!」
「うん」
今回の依頼と言うかクエストはゴブリン十匹の討伐だった。
報酬は1000ベイル。二人で分けたら500ベイルが私の取り分だ。命懸けの仕事がたったの五百円なのは割に合わないが、それでもこうして稼げているのならよしとしよう。
「じゃあ早速!」
「あっ待って、ミア!」
私が刀を抜刀するよりも早く、声も相談もなくミアは飛び出した。
ゴブリンの背後を不意を突くようにして襲いかかるが、それに反応したゴブリンは窮地を脱し、後方に飛ぶ。
「えっ!?」
「ミア!」
ミアは今度はそのままの勢いに乗って、木々の間をすり抜けるように樹皮に靴裏を合わせてそのまま三角跳び。
ゴブリンの真上を取ってそのまま装備した両腕のガントレットを叩き込む。
それが先程までの流れだったーー
「ってことで、ミアは不意をつく動きとか、奇襲性に特化してると思うんだ。だから正面から突っ込んだ後のことを考えながら動くといいと思うよ」
「凄い。司は凄いね。そんなことまで考えてたんだ!」
「えっ、いや普通に見てたら気づいただけだけど」
「それが凄いんだよ!」
何か褒められているっぽい。
別に私は大したことはしていないし、結論的に述べただけで何の解決策にもなっていない。アドバイス程度に据えただけの言葉文句だった。
「まあ私、あんまり意識しながら戦うのって苦手だから……」
「ああ……私も言えた口じゃないけど」
「そうなの?司は私の動きに合わせてくれてるように見えたけど?」
「今はね。今は」
含みのある言い回し。
意識のストッパーが作動してそんな動きをしているわけではない。戦闘が苛烈したり不意な判断に対しては私の方が先手になることが多かった。
(いつもは舞姫や真白が私をサポートしてくれてたっけ)
そんなことを思い出した。
「じゃあ次からは私も前に出て戦うよ」
「うん!じゃあ次行こっか!」
私とミアは次の獲物、と言うかゴブリンを探して歩き回った。
しかしなかなか見つからない。
如何してだろうか。
「おっかしいなー。すぐに見つかると思ったのに」
「ゴブリンって滅多にいないの?」
「ううん。スライムとかと一緒で沢山いるはずだよ。だから殲滅が難しいんだー」
「へぇー」
この世界の事情がまた一つわかった気がした。
しかしそんな強い繁殖力を持つはずのゴブリンの姿が見当たらないのは異常だと言えよう。
「そう言えばさっきのゴブリンも警戒心が妙に強かったっけ」
「そうなんだ」
「うん。いつもはもっとやりやすいんだけどね。今日は何だか違ったかなー」
「うーん」
何だか嫌な予感がした。
それだけ聞いていて何となく察する。
(もしかして、この森で何かあったのかな)
そんなことを思いつく。
「でもでも、きっとすぐに見つかるよ!」
「うん。楽観的なのはいいよね!」
私もミアに同調し、今を良く考えようとした。
しかしそんな静寂を切り裂いたのはもっと単純な威圧感だった。
森の中を駆け巡る不穏な気配。
私とミアは一瞬にしてそれを肌で感じ取ると、パッと後ろに飛び下がった。
ギューン!
私とミアの間を透明な何かが通り抜ける。
物体ではない。威圧的な激しい衝撃波だ。
私は不意に森の奥を凝視する。そこには何かしらの気配を感じた。しかもさっきのゴブリンと同種。だが強い。
「ミア」
「あわわわわ」
「ミア!?」
ミアはパニックになっていた。
森の奥。そこには3メートル程の高さの太々しい体の何かが二足歩行で前進する。
その左手には硬い何か。鋭く斜めに折られた棍棒が握られていた。
「あれは……ゴブリン?」
「ううん。ただのゴブリンじゃないよ。あれって、ゴブリンキングだよ!」
「何それ」
不気味に告げるミアの言葉。
私はその意味がさほども理解できなかったが、一つだけわかった。
アレは強い。そしてやばそうだった。
応援ありがとうございます!
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