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◇420 肩までゆっくり浸かりましょ
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天孤に誘われ、アキラたちはのんびりと天然温泉に浸かっていた。
雪景色の中肩まで浸かると気持ちがいい。
日々の気苦労が何処へやら、サラサラと心の淀みが流されていく気になった。
「気持ちいいね」
「ほんとほんとー」
「やはり冬にこそ、温泉とは素晴らしいですよね」
温泉の効能が全身に効くのか、肌がすべすべになった気分だ。
湯も鮮明で両手のひらに乗せると流れていく。
今日は湯気は立っているが明るいおかげで全員の肌がまじまじと見える。
そんな中、端の方で小さくなっている影があった。
「どうして私まで」
「まあまあ、減るもんと違うやん」
クロユリも天狐に無理やり誘われてしまった。
完全に被害者の立場で、服を全部脱がされ、温泉の湯に浸かっていた。
隣では大胆な天狐が両足を広げてくつろいでいる。
その姿を観る度にクロユリは残念そうな顔をした。
「どうして貴女はいつもいつもマイペースでいられるんですかね。私は腐れ縁として心配しますよ」
「そないな減らへんよー」
「まあいいじゃないですか。天狐もクロユリも疲れているんです」
「そういう貴女が一番疲れているみたいよ、椿」
「そう見える? ふふっ」
椿姫は何故か笑っていた。
その姿を一目見たアキラたちは頃合いと見てクロユリに近付く。
「あの、クロユリさん。訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「訊きたいことですか? はい、構いませんよ」
「ありがとうございます。実は私たち、雪将軍のことが知りたくて」
「雪将軍ですか?」
クロユリは神妙な顔をした。
何か思いだそうとしている表情で、眉間に皺が寄り、空を見つめている。
ポロポロ降り頻る細かな雪を嗜みながら、記憶の底と会話をする。
「確かに聞き覚えはありますが、これと言って引っかかりもありませんね」
「そうですか……」
「残念だな」
隣でNightが落胆するアキラを励ます。
正直モミジヤ説は結構有力視していた。
なにせ将軍だ。これ以上適した地域もない。
だけどクロユリを始めとした妖帖の雅でも情報が仕入れられないとなれば全部振出しに戻る。期待していた水が心の容器を超えてしまった。
「残念やったな」
「はい。でもいいんです。正直私たちは戦えなくても良い派だったんです」
「そうなんですか? てっきり是が非でもかと」
「まさか、ただ最近雷斬の調子と頑張りが凄くてつい……」
クロユリに意外な顔をされてしまった。
しかし本当に嘘偽りの無い事実で、アキラとNightは反対側で休んでいる雷斬に視線が行った。
ここ最近いつも以上に頑張ってくれている。ハゴ・イーターの時から何故かイベントに必死で、定期的にギルド会館にも足を運んでいた。
何か意図があるのかもしれないが、そんなことは如何だっていい。
何もしないで淡々と駄弁っている普段の日常を裂いてくれる雷斬に少しは貢献してあげたくなった。
「なるほど。そういう裏が……」
クロユリはそこまで言うと黙ってしまった。
何か思うところが伝播したらしく、目を閉じて考えに耽る。
記憶の底も底。覚えていないラインにまで手を伸ばし始めた。
「アレは違います。コレは違います。一体どれ……あっ!」
クロユリは珍しい声を上げた。
アキラとNightの視線が集中する。
「なにか分かったんですか?」
「はい。少し思い出しましたよ」
この顔のクロユリは間違いない。隣の椿姫がそう確信する。
するとクロユリはまだアキラたちが訊いてこないのに思い出したことを話し始めた。
「雪将軍でしたよね。少しですが聞き覚えがありました」
「本当ですか!」
「はい。どうやらこのモミジヤの周囲エリア、おそらくですが古い武家屋敷だと思いますが、そこに現れるモンスター。確か雪将軍だった気がします」
ここに来て急展開だった。流石もクロユリの情報網。
アキラたちは呆気に取られる中、得られた情報を検索に掛けるNightの姿が隣にあった。
高速でキーボードを打ち込み、あり得ない動体視力でネットの海から信じられる情報を引き出した。
「確かにこの近くのエリアには武家屋敷が設定されているな。随分と古いのか、探索に訪れるプレイヤーも多いらしい。そこなら雰囲気も相まって雪将軍には打って付けだろう」
「凄い。クロユリさんとNightがいたらこんなに早く情報が固まるなんて……」
もはや目にも留まらぬ早さだった。
情報が引き出されるまでの時間よりも情報が出てから固まるまでの時間が異質。
ここまでの茶番は何だったのかと思えるレベルだった。
「良かったなぁ、アキラ」
「はい。ありがとうございました、妖帖の雅の皆さん」
アキラはギルドを代表して頭を下げた。
やっぱりモミジヤに詳しいプレイヤーに訊いて良かったと、アキラたちは自分たちの選択が間違っていなかったと確かめられた。にもかかわらずNightは隣で忙しない。更にネットの海を潜航し続けていた姿がアキラの意識を掻き立てた。
雪景色の中肩まで浸かると気持ちがいい。
日々の気苦労が何処へやら、サラサラと心の淀みが流されていく気になった。
「気持ちいいね」
「ほんとほんとー」
「やはり冬にこそ、温泉とは素晴らしいですよね」
温泉の効能が全身に効くのか、肌がすべすべになった気分だ。
湯も鮮明で両手のひらに乗せると流れていく。
今日は湯気は立っているが明るいおかげで全員の肌がまじまじと見える。
そんな中、端の方で小さくなっている影があった。
「どうして私まで」
「まあまあ、減るもんと違うやん」
クロユリも天狐に無理やり誘われてしまった。
完全に被害者の立場で、服を全部脱がされ、温泉の湯に浸かっていた。
隣では大胆な天狐が両足を広げてくつろいでいる。
その姿を観る度にクロユリは残念そうな顔をした。
「どうして貴女はいつもいつもマイペースでいられるんですかね。私は腐れ縁として心配しますよ」
「そないな減らへんよー」
「まあいいじゃないですか。天狐もクロユリも疲れているんです」
「そういう貴女が一番疲れているみたいよ、椿」
「そう見える? ふふっ」
椿姫は何故か笑っていた。
その姿を一目見たアキラたちは頃合いと見てクロユリに近付く。
「あの、クロユリさん。訊きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「訊きたいことですか? はい、構いませんよ」
「ありがとうございます。実は私たち、雪将軍のことが知りたくて」
「雪将軍ですか?」
クロユリは神妙な顔をした。
何か思いだそうとしている表情で、眉間に皺が寄り、空を見つめている。
ポロポロ降り頻る細かな雪を嗜みながら、記憶の底と会話をする。
「確かに聞き覚えはありますが、これと言って引っかかりもありませんね」
「そうですか……」
「残念だな」
隣でNightが落胆するアキラを励ます。
正直モミジヤ説は結構有力視していた。
なにせ将軍だ。これ以上適した地域もない。
だけどクロユリを始めとした妖帖の雅でも情報が仕入れられないとなれば全部振出しに戻る。期待していた水が心の容器を超えてしまった。
「残念やったな」
「はい。でもいいんです。正直私たちは戦えなくても良い派だったんです」
「そうなんですか? てっきり是が非でもかと」
「まさか、ただ最近雷斬の調子と頑張りが凄くてつい……」
クロユリに意外な顔をされてしまった。
しかし本当に嘘偽りの無い事実で、アキラとNightは反対側で休んでいる雷斬に視線が行った。
ここ最近いつも以上に頑張ってくれている。ハゴ・イーターの時から何故かイベントに必死で、定期的にギルド会館にも足を運んでいた。
何か意図があるのかもしれないが、そんなことは如何だっていい。
何もしないで淡々と駄弁っている普段の日常を裂いてくれる雷斬に少しは貢献してあげたくなった。
「なるほど。そういう裏が……」
クロユリはそこまで言うと黙ってしまった。
何か思うところが伝播したらしく、目を閉じて考えに耽る。
記憶の底も底。覚えていないラインにまで手を伸ばし始めた。
「アレは違います。コレは違います。一体どれ……あっ!」
クロユリは珍しい声を上げた。
アキラとNightの視線が集中する。
「なにか分かったんですか?」
「はい。少し思い出しましたよ」
この顔のクロユリは間違いない。隣の椿姫がそう確信する。
するとクロユリはまだアキラたちが訊いてこないのに思い出したことを話し始めた。
「雪将軍でしたよね。少しですが聞き覚えがありました」
「本当ですか!」
「はい。どうやらこのモミジヤの周囲エリア、おそらくですが古い武家屋敷だと思いますが、そこに現れるモンスター。確か雪将軍だった気がします」
ここに来て急展開だった。流石もクロユリの情報網。
アキラたちは呆気に取られる中、得られた情報を検索に掛けるNightの姿が隣にあった。
高速でキーボードを打ち込み、あり得ない動体視力でネットの海から信じられる情報を引き出した。
「確かにこの近くのエリアには武家屋敷が設定されているな。随分と古いのか、探索に訪れるプレイヤーも多いらしい。そこなら雰囲気も相まって雪将軍には打って付けだろう」
「凄い。クロユリさんとNightがいたらこんなに早く情報が固まるなんて……」
もはや目にも留まらぬ早さだった。
情報が引き出されるまでの時間よりも情報が出てから固まるまでの時間が異質。
ここまでの茶番は何だったのかと思えるレベルだった。
「良かったなぁ、アキラ」
「はい。ありがとうございました、妖帖の雅の皆さん」
アキラはギルドを代表して頭を下げた。
やっぱりモミジヤに詳しいプレイヤーに訊いて良かったと、アキラたちは自分たちの選択が間違っていなかったと確かめられた。にもかかわらずNightは隣で忙しない。更にネットの海を潜航し続けていた姿がアキラの意識を掻き立てた。
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