上 下
163 / 555

◇162 ドクモグラ

しおりを挟む
 Nightはアキラの声に反応して、背後を振り返った。
 しかし時すでに遅く、紫色をした液体が吐き出された後だった。

「くっ!」
「Night、避けて」

 Nightはマントを使って華麗に攻撃を受け流す。
 黒いマントは紫色の液体を浴びてしまい、ドロドロになっていた。
 けれどおかげでNight自身は守られる。

 一方ベルは弓を構えていた。
 たゆまない弦を目いっぱい引き寄せ、鏃を地面に向ける。
 そこには確かにモンスターの姿があった。
 しかしあまりに小さい上にすばしっこくて、矢を射抜くのが間に合わない。

「逃げられちゃったね」
「いいやまだだ。向こうはこっちが油断していたことを良いことに、必ず仕掛けて来る」
「そんなモンスターは生き物なんだから、深追いなんてしないはずでしょ!」
「それは向こうがこちらを敵だと認識している場合だ。油断していた。まさかモンスターに先手を打たれるなんて……」

 湿地帯と言う馴染みのない悪環境下でNightは注意を怠っていた。
 地面のぬかるみに気を取られ、周りを見ようとしていなかったことに深くしょぼくれる。

「大丈夫よ。まだ敵はそう遠くには行っていないと思うから」
「どうしてそんなことが言えるの?」
「風よ。私はシルフィード。風の流れを読むのは得意なの」

 《シルフィード》は風の精霊だ。
 今までまともに使っているところを見たことがなかったが、ベルはアキラたちの前の初めてスキルを披露する。
 固有スキルによる一撃必殺に加えて種族スキルはベルに合っていた。

「……風は30メートル圏内」
「風?」
「それは使い方が間違っていないか?」

 ベルの口にした「30メートル圏内」と言う言葉に首を捻る。
 惑わされているのだろうか。いいやそんなことはない。
 ベルは確かに敵の位置取りを完璧に済ましていた。

「私の種族スキルは【風呼び】です」
「【風呼び】? もしかして風を呼び寄せることができるの?」
「ええ、厳密には違いますが風を呼び寄せることもできますね。でも、今回は呼ぶんじゃなくて……」
「読んだんだな。地面の中……さっきのモンスターが空けた穴から」

 まさに異次元のレベルだった。こんな真似、現実の世界だとまず不可能だ。
 しかしそこは流石ファンタジー世界。アキラは考えることを止めた。

「凄い、凄いよベル! どうして今まで使っていなかったの?」
「そうだ。その能力を使えばもっと楽に……うっ!」

 急にNightは髪を抑えた。若干だが、微風が吹いている。
 さっきまで風なんて一切吹いていなかったのに変だと、アキラもNightも口をそろえて思っていた。

「なるほど、そういうことか」
「そういうことかって何? 私まだわからないんだけど」
「よく思い出してみろ。ベルは命中精度も高く、速射性もまずまず。何より風なんて関係なく射抜けるが、自分から言っていただろ」
「言っていた? ……えーっと、無風状態の方がいい?」
「それは普通だ。コイツは風があった方が飛距離が出る。だがそれは諸刃の剣でもあると私は考えていた」
「諸刃の剣? 何で、弓矢だよ」
「物の例えだ。飛距離を犠牲にして接近されたらどうする。距離を詰められれば狙撃手スナイパーは終わりだぞ」

 アキラに辛辣な言葉を浴びせるNight。
 だけどNightが言っていることは本当で、ベルの奇妙なジンクスも相まってアキラは信じ込まされてしまった。
 風が出ることいいことでも、敵を景気づける可能性もある。
 そのことを念頭に入れていなかった。……って必要かな?

「ベルは風があった方が撃ちやすいんだよね?」
「そうね。結局今までそうだったかも」
「じゃあ風が出ている方がいいんじゃないのかな? 微風でも」
「それは確かのそうだが……そうなんだが……ん?」
「ほら、黙っちゃった」

 Nightの口が止まる。その瞬間、背後から怪しい気配を感じ取った。
 また考え事をしているNightの背後を取ったらしい。
 だが今回はベルが付いていた。
 スキルを合わせたベルの弓矢が放たれる。

「2人ともしゃがんで」
「「うわぁ!」」

 急に矢が飛んできた。
 鏃が向けられ、間一髪のところでしゃがんで回避すると、視界が開けた瞬間に動揺したモンスターに命中した。
 人の壁のせいで見えていなかった矢の存在に敗北したらしい。

「ふぅ。こんなものよね」
「凄いベル。今のも作戦だったんだ!」
「そうよ。でも見えなかったけどね」
「見えなかったのか! どうして当てられた」
「長年の勘。多分ここに来る。私ならそうするって敵の動きを呼んだの。風はね、時に怖い動きをしてイレギュラーを起こすからあんまり使えないんだ。それに縛りをかけていた方が遊んでいて楽しいわよ」

 ベルは何故か微笑んでいた。
 私が合いの手を入れている間、Nightは倒したモンスターを観察している。
 もう作業に戻っていて、神経を疑いたかった。
 けれどNightはこうでなくちゃいけないと、心の何処かで安心している。冷静さを取り戻したことで、頭も回転する。

「ドクモグラだな。コイツのせいで」
「ドクモグラって何? 私普通のモグラなら見たことあるけど。ちょっと形違うね」

 アキラも近づいて観察する。
 紫色をしていてサツマイモのようだった。しかし頭のどころに奇妙な穴が何個も空いている。
 サツマイモを吹かした時に刺す割り箸みたいな感じだ。
 だけどそこから紫色をした液体が垂れていた。血だろうか?

「これは毒液だ。触るなよ」
「えっ!?」
「ドクモグラは敵に毒を吹きかけるモンスターだ。この辺りには似たような種がゴロゴロいるだろうから気を付けろよ」
「「えっ!?」」

 流石は毒沼。気を引き締めないと即死しそうだ。
 アキラたちは肩に力を入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

Beyond the soul 最強に挑む者たち

Keitetsu003
SF
 西暦2016年。  アノア研究所が発見した新元素『ソウル』が全世界に発表された。  ソウルとは魂を形成する元素であり、謎に包まれていた第六感にも関わる物質であると公表されている。  アノア研究所は魂と第六感の関連性のデータをとる為、あるゲームを開発した。  『アルカナ・ボンヤード』。  ソウルで構成された魂の仮想世界に、人の魂をソウルメイト(アバター)にリンクさせ、ソウルメイトを通して視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、そして第六感を再現を試みたシミュレーションゲームである。  アルカナ・ボンヤードは現存のVR技術をはるかに超えた代物で、次世代のMMORPG、SRMMORPG(Soul Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)として期待されているだけでなく、軍事、医療等の様々な分野でも注目されていた。  しかし、魂の仮想世界にソウルイン(ログイン)するには膨大なデータを処理できる装置と通信施設が必要となるため、一部の大企業と国家だけがアルカナ・ボンヤードを体験出来た。  アノア研究所は多くのサンプルデータを集めるため、PVP形式のゲーム大会『ソウル杯』を企画した。  その目的はアノア研究所が用意した施設に参加者を集め、アルカナ・ボンヤードを体験してもらい、より多くのデータを収集する事にある。  ゲームのルールは、ゲーム内でプレイヤー同士を戦わせて、最後に生き残った者が勝者となる。優勝賞金は300万ドルという高額から、全世界のゲーマーだけでなく、格闘家、軍隊からも注目される大会となった。  各界のプロが競い合うことから、ネットではある噂が囁かれていた。それは……。 『この大会で優勝した人物はネトゲ―最強のプレイヤーの称号を得ることができる』  あるものは富と名声を、あるものは魂の世界の邂逅を夢見て……参加者は様々な思いを胸に、戦いへと身を投じていくのであった。 *お話の都合上、会話が長文になることがあります。  その場合、読みやすさを重視するため、改行や一行開けた文体にしていますので、ご容赦ください。   投稿日は不定期です

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

現実逃避のために逃げ込んだVRMMOの世界で、私はかわいいテイムモンスターたちに囲まれてゲームの世界を堪能する

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
この作品は 旧題:金運に恵まれたが人運に恵まれなかった俺は、現実逃避するためにフルダイブVRゲームの世界に逃げ込んだ の内容を一部変更し修正加筆したものになります。  宝くじにより大金を手に入れた主人公だったが、それを皮切りに周囲の人間関係が悪化し、色々あった結果、現実の生活に見切りを付け、溜まっていた鬱憤をVRゲームの世界で好き勝手やって晴らすことを決めた。  そして、課金したりかわいいテイムモンスターといちゃいちゃしたり、なんて事をしている内にダンジョンを手に入れたりする主人公の物語。  ※ 異世界転移や転生、ログアウト不可物の話ではありません ※  ※修正前から主人公の性別が変わっているので注意。  ※男主人公バージョンはカクヨムにあります

処理中です...